icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科74巻5号

2002年04月発行

雑誌目次

特集 耳鼻咽喉科・頭頸部外科における手術の危険度 耳

1.先天性耳瘻孔(管)摘出術

著者: 東尊秀 ,   星野知之

ページ範囲:P.7 - P.10

 はじめに
 先天性耳瘻孔は1864年Heusingerにより報告されたとされる比較的高頻度にみられる先天性疾患である。白色人種で0.9%,有色人種で5.2%の頻度で,本邦の報告では1〜14%となっている。両側性に認めることも多い。先天性耳瘻孔は耳介またはその周辺に存在するが,部位別発生頻度については前耳輸部に最も多く,次いで耳輪脚基部,耳前部の順であり,この3部位で大半を占めその他の部位では稀である(図1)1)
 その成因は胎生期に耳介の原基を形成する第1鰓弓,第2鰓弓にそれぞれ生じる6個の小丘の融合不令の結果であるといわれており,どの小丘が融合不全を起こすかにより,本症の発生部位が決定されるといわれている。この奇形は外耳道,鼓膜の原基となる第1鰓溝の深さまで影響しないため,これらの器官や顔面神経を侵すことはない2)。組織学的に瘻管は重層扁平上皮に覆われ,周囲の結合織には毛嚢,汗腺,皮脂腺が存在する。

2.耳介・外耳道形成術

著者: 西﨑和則

ページ範囲:P.11 - P.14

 はじめに
 小耳症と外耳道閉鎖症は合併することが多く,小耳症に対して耳介形成術が,外耳道閉鎖症に対して外耳道形成術と鼓室形成術(以下,外耳道・鼓室形成術と略)が,それぞれ独立して行われる。最近では耳介形成術は形成外科で行われることが多く,この疾患に対する治療計画は形成外科医と耳鼻咽喉科医が協力して立案する必要がある。この連携が円滑でないと不要なトラブルの原因となる。何歳で行うか,どちらの手術を優先するか,片側性の場合に外耳道・鼓室形成術を施行するかなどを形成外科医との間で十分に意思統一しておく。
 耳介形成術は形成手術の中で,外耳道・鼓室形成術は耳科手術の中で,それぞれ最も難易度の高い手術の1つである。耳介形成術の結果は本人,家族に一目瞭然であり,また外耳道閉鎖症に対する外耳道・鼓室形成術の結果が必ずしも期待どおりにならないことがある。平均的な術後聴力の改善は約20 dBであるが,なお20〜30 dBの気導骨導差が残る1)。医学の発達に必要以上の期待感をもたれている場合があり,十分なインフォームドコンセントが術前に行われることがリスクマネージメントのうえで最も重要である。

3.鼓膜切開・中耳換気チューブ留置術

著者: 青木和博

ページ範囲:P.15 - P.19

 はじめに
 一般的に鼓膜切開処置は,急性中耳炎に伴う耳痛などを主訴とした中耳の急性化膿性病態を改善する目的で行われるが,最近では滲出性中耳炎に代表される非穿孔性中耳貯留液性中耳炎の病態改善を目的にして行われる例が増加している。非穿孔性中耳炎は中耳腔内の炎症病態に伴って正常な中耳含気腔を維持することが困難な症例で,原因として耳管の換気・排泄障害や,中耳腔を被覆している粘膜障害に伴う粘液産生細胞の増生,血管の透過性亢進,粘膜内血流量の変化などが相互に関与し,中耳貯留液性の病態を形成すると考えられる。このような病態を改善するためには,鼓膜切開で一時的に中耳腔内の貯留液を排泄し,耳管機能や中耳粘膜機能の改善を促して腔の再形成を期待するが,一時的な処置のみで改善しない例では,中耳換気チューブを留置して長期的に耳管機能や中耳粘膜機能の改善を図り,正常な中耳含気腔形成を促進する必要がある。鼓膜切開や中耳換気チューブ留置は,切開部位の鼓膜裏面に重要構造物がないことを十分に確認してから行うべきで,合併症を防ぐうえでも中耳腔内の解剖学的位置関係を理解することが最も重要な点である。

4.鼓膜形成術(接着法)

著者: 湯浅涼

ページ範囲:P.20 - P.24

 はじめに
 接着法が開発されてから10余年が経過し,術式の簡素化にもかかわらず術後成績が従来の方法に遜色ないことが実証され1),また,海外の手術書にも掲載されている2)。現在,本法は「日帰り」もしくは「短期入院」による鼓膜形成術として全国的に定着し,minimally invasive surgeryの普及を促進させてきた。一方,術式の簡素化により,手軽に鼓膜形成術が行われるようになった反面,術によるリスクも当然散見されるようになってきた。本法の全国規模の普及に対して,40年前,鼓室形成術がわが国に導入された頃の中耳手術に対する不信感の再現を危惧する意見も否定できない。
 このような観点から本稿では手想される術中,術後におけるリスクならびにそれらの対処法について記述する。

5.鼓室形成術

著者: 山本裕 ,   髙橋姿

ページ範囲:P.25 - P.29

 はじめに
 中耳腔の病変除去と再建を目的とする鼓室形成術は側頭骨という硬組織を術野にするが,そこには内耳,顔面神経,中・後頭蓋窩,S状静脈洞などの重要な軟部組織が存在する。病変により骨欠損が生じ,これらが露出している場合や術中のオリエンテーションを失ったまま骨削開操作や病変除去を行った場合,これらの副損傷を生じて種々の合併症が出現する危険性がある。
 本稿では,鼓室形成術で起こり得る合併症を回避する方法と,術中,術後に合併症が起こった場合の対応について述べる。

6.中耳奇形手術

著者: 小田恂

ページ範囲:P.31 - P.34

 はじめに
 中耳奇形は小耳症や外耳道閉鎖症(鎖耳)などの高度な外耳奇形に合併するものと,身体の他の部分には異常がみられず中耳だけに奇形がみられるものとがある。中耳だけに奇形がみられるものでは,耳小骨の奇形が圧倒的に多い。
 外耳の奇形は項を別にして記載されているので詳細は避けるが,外耳道閉鎖症(鎖耳)などの外耳奇形に伴う中耳奇形では,症例ごとに奇形の程度が異なり,手術に伴う副損傷の可能性も高くなる。
 したがって,本稿で述べる内容は,先天性外耳道閉鎖症(鎖耳)を伴う中耳奇形と中耳奇形単独の場合の2つに分けて記述する。

7.耳硬化症の手術

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.35 - P.38

 I.手術方法
 鼓室への到達には,耳内法と耳後法がある。また,耳内法には切開を完全に耳内のみに行うものと,耳前部に補助切開を加えるものがある。諸外国では,完全に耳内にのみ切開を加えるのが主流であるが,本邦で補助切開や耳後法を用いるのは外耳道が極端に狭い場合が多いためである。キヌタ・アブミ関節やアブミ骨底板などの構造物は鼓室後部にあるので,耳内からのアプローチのほうが耳後からのアプローチよりそこへ到達する方法としては優っている。また,切開創の大きさやその治癒時間も耳内法が勧められる。しかし,外耳道の狭さや手術方法の慣れなどから耳後法も用いられる。

8.内リンパ嚢手術

著者: 矢沢代四郎

ページ範囲:P.39 - P.42

 はじめに
 内リンパ嚢手術は機能改善を目的とする手術であるので,その適応を安易に拡大してむやみに行うと期待した結果を得ることは困難である。その結果として,術後に患者との間に思わぬトラブルを引き起こすことも考えられるので,手術適応についても慎重であるべきである。
 内リンパ嚢手術は,炎症のない乳突洞を削開することから始まるので,側頭骨解剖が理解できている術者にとっては困難な手術ではない。しかし,後頭蓋窩硬膜を露出させる作業や内リンパ嚢の同定,内リンパ嚢内腔の確認など特有の問題点もある。
 さらに,術直後に予想される症状などについても術前に上分に説明しておくことも大切な事項である。これらの項目について順に述べる。

9.外リンパ瘻手術

著者: 深谷卓

ページ範囲:P.43 - P.46

 はじめに
 外リンパ瘻は,外リンパ腔と中耳との間に本来あり得ない交通が生じ,外リンパが漏出し,聴覚,バランスに障害を生ずる病態である。その成因としては,古くから先天奇形,梅毒,アブミ骨手術,中耳炎,頭部外傷などが知られているが,原因が不明なものを特発性外リンパ瘻(perilymph fis-tula:PLF)と呼ぶ。
 本稿では特発性外リンパ瘻の手術を扱う。

10.顔面神経減荷術

著者: 村上信五 ,   渡邉暢浩

ページ範囲:P.47 - P.50

 はじめに
 側頭骨内を走行する顔面神経の長さは28〜30mmであるが,炎症や外傷により顔面神経が傷害されると浮腫をきたし,骨性の顔面神経管内で絞扼され,神経内圧の上昇と圧迫による循環不全により神経障害が助長される。顔面神経管開放術(減荷術)は骨性の顔面神経管を開放し,厚い神経鞘を切開することにより,神経内圧を減少させ,神経の変性防止と再生促進を目的としている。しかし,顔面神経は側頭骨内で三半規管や蝸牛など内耳に近接しているため,手術時にこれらの器官を損傷したり,乳突蜂巣の削開の際にS状静脈洞や天蓋の脳硬膜を損傷する危険性がある。
 本稿では,経乳突的顔面神経減荷術1)における術中,術後の合併症とその予防,対処について述べる。

11.聴神経腫瘍手術におけるリスクマネージメント

著者: 神崎仁

ページ範囲:P.51 - P.55

 はじめに
 本誌では既に1969年に「耳鼻咽喉科手術の危険度」(耳鼻咽喉科41巻10号)という特集号が企画されている。この特集号は筆者が留学していたミュンヘン大学のヘルマン教授の著書に触発されて企画されたものであると序文に述べられている。当時はもちろんリスクマネージメントなどという言葉はなかったが,ヘルマン教授の著書は永年の経験に基づいて医療の質を念頭におき書かれたものである。この特集号にも聴神経腫瘍手術は取り上げられていないことでもわかるように,この手術は本邦ではようやく近年一部の耳鼻咽喉科医によって行われるようになったものである。この手術は,正に危険度については耳科手術の見本のようなものである。
 ここでいうリスクマネージメントについては,「医療の質を改善するためにどのように計画を立て多くのプロセスをチェックし,各プロセスでの変化をどのように確認しその変化に対応していくか」という意味に解釈している。聴神経腫瘍(以下,ANと略)の手術死亡率,後遺症の発生率は近年飛躍的に減少している。しかし,腫瘍と脳神経,血管,脳との関係は症例により多様であることに加えて,術者の経験にも影響されるため,死亡率や後遺症は20世紀後半より著しく減少しているがゼロにはなりにくい点が問題である。この間題を解決するためには,①医師の本疾患の早期診断に対する関心を高め小腫瘍のうちに診断すること,②手術を含めた対応とその得失を説明し,患者の自己決定権を尊重すること,③医師の技術とQOLに対する判断力を向上させることである。

12.人工内耳手術のリスクマネージメント

著者: 久保武

ページ範囲:P.56 - P.60

 はじめに
 1.人工内耳について
 人工内耳がわが国に導入されて以来4〜5年ごとに機種の改良が加えられてきており,その都度成績も向上してきた。それに伴い人工内耳の適応も拡大され,完全に聴覚をなくした聾から残聴のある重度難聴者へ,先天聾児,言語習得前失聴者小児へと適応が変わってきている。また,1994年の保険適用以降は患者の経済的負担はほとんどなくなり,その普及には目をみはるものがある。
 近年の人工内耳の適応は,以下の通りである。

13.鼻出血止血術・鼻骨骨折整復術の危険度

著者: 竹中洋

ページ範囲:P.61 - P.64

 はじめに
 鼻出血止血術ならびに鼻骨骨折整復術は,耳鼻咽喉科救急において最も頻用される術式といえる。特に鼻出血止血術の緊急度は高く,また術式が多様であり,専門性が要求される。一方,鼻骨骨折の新鮮例では外来診療で処理されることが多く,手術器具の使用に練達している必要がある。いずれにしても,多くの症例が予定されたものではなく,確定診断および手術適応と麻酔法を短時間に選択しなければならない。また本人,家族への説明と同意などにも留意するべき点が多い。コメディカルも含めて常日頃の準備とシミュレーションを重ね対応すべきものと考える。
 しかし,鼻出血と鼻骨骨折に同時に対応することは極めて稀であり,本稿では術式に伴う危険度は鼻出血止血術と鼻骨骨折整復術に分けて扱い,全身管理や共通の危険性についてはまとめて述べる。

14.顔面骨骨折整復術

著者: 夜陣紘治 ,   平川勝洋

ページ範囲:P.66 - P.70

 はじめに
 顔面骨骨折の原因は交通事故,労災事故,転落,スポーツ損傷などによるものが多い。特に交通事故によるものは,各交通機関のスピード化により重症化かつ複雑化している。顔面骨と他の重要臓器損傷との合併例では救急医が関与し,気道の確保,出血の制御,循環のコントロールが優先され,顔面骨骨折については受傷後かなりの時間を経過して初めて,その骨折状況や整復の必要性の有無に関しての問い合わせ,あるいは整復の依頼がされる場合も少なくない。そのため,常に受傷から整復までの時間を考慮して対応する必要がある。
 顔面骨骨折の分類については,高橋ら1)が表1のように分類している。このうち最も多いのは鼻骨骨折で顔面骨骨折全体の30〜40%を占め,次いで頬骨骨折が約20%,眼窩骨骨折は約9%である。顔面正中の骨折では,前頭蓋底に及ぶ骨折が約12%ある。

15.鼻中隔矯正術

著者: 長舩宏隆

ページ範囲:P.72 - P.75

 はじめに
 鼻腔生理において,呼吸道としての鼻腔の機能は最も重要である。したがって,それを阻害するような鼻腔の矢状面にある鼻中隔の彎曲や変形そして鼻甲介,特に下鼻甲介の肥大の影響は大きい。鼻呼吸の障害は,全身的には睡眠時無呼吸症候群などの要因となるし,局所的には呼吸性嗅覚障害,自然口の排泄障害による副鼻腔炎の惹起,中耳疾患への影響などがあり,さらに頭痛を主症状とする反射性神経症などの原因となり得る。このような場合には鼻中隔矯正術が必要となる。
 筆者らの経験では,この手術が比較的容易な手術と考えられていたためか,耳鼻咽喉科医として経験の少ない比較的早い時期から指導を受け手術を施行していたが,実際的には繊細な手技を要するかなり難しい手術である。この手術を誤りなく行える者は一人前,それ以上の耳鼻咽喉科医と評価ができるとの話もあるほどである。

16.上顎洞篩骨洞蝶形骨洞根本手術・前頭洞根本手術

著者: 洲崎春海

ページ範囲:P.77 - P.81

 はじめに
 副鼻腔の隣接臓器としては眼窩や頭蓋腔などがあり,上顎洞篩骨洞蝶形骨洞根本手術や前頭洞根本手術の際にはこれらの臓器の副損傷が生じる危険性がある。副損傷は手術を行う限り常にその危険性に直面するが,術者はこの危険性を最小限にとどめるように細心の注意を払わなければならない。術中に副損傷に気づき,その対処を行っておけば重篤な合併症が生じないですむ例も多い。
 本稿では,上顎洞篩骨洞蝶形骨洞根本手術・前頭洞根本手術に際して生じ得る合併症とその予防および対応について述べる。

17.鼻内篩骨洞手術のリスクマネージメント

著者: 市村恵一

ページ範囲:P.82 - P.86

 はじめに
 副鼻腔の臨床解剖に熟知し,術前に画像により解剖学的変位を検討し,患者の術中状態が安定し,出血が制御され,常に危険部位に注意を払うという条件が重なればほとんどの合併症は防ぎ得るであろう。しかし,どんなに熟達した術者でも,古典的な方法,最新の方法にかかわらず,副鼻腔手術には合併症の危険性がつきまとうことはよく指摘されるところである。合併症をメジャー(重度)なものとマイナー(軽度)なものに分けることが欧米では行われているが,その分類は曖昧であり,論者により微妙に異なる。Mayら1)は合併症を自然軽快するもの,治療により軽快するもの,永久に残るものに分類し,後の2者を重度としているので,ここではそれを採用する(表1)。また,合併症は障害を受ける部位別に,すなわち中枢神経系,視器,その他に分類して検討するとわかりやすい。

18.副鼻腔嚢胞(術後性頬部嚢胞)手術の合併症—その実際と対処法

著者: 大久保公裕

ページ範囲:P.87 - P.90

 はじめに
 かつて慢性副鼻腔炎に対してCaldwell Luc1)の手術や経上顎洞的副鼻腔根本術が盛んに行われていた。これは抗生剤が普及していないことや医療環境の整備されていないことが原因であり,徹底的な病変粘膜の除去が行われていた。また,前鼻孔からみて行う鼻内手術に比べて,比較的大きな上顎洞からの手術は細かい解剖知識を必要とする副鼻腔手術にとっては,やりやすいものだったと想像できる。しかし,安易にこの手術を施行するようになった後に,術後性頬部嚢胞が多く出現している。1978年にMesserklinger2)が鼻内手術へ初めて内視鏡を応用し,ここに医療機器の進歩に伴い小型CCDカメラが開発されて,内視鏡下鼻・副鼻腔手術が慢性副鼻腔炎に対し施行できるようになった。この手術の基本は病的粘膜のみの除去であり,なるべく副鼻腔の骨の露出を避けるものである。この方法では粘膜除去をしないため,以前ほど術後性頬部嚢胞の発症は多くないと考えられる。また,手術既往の関係なしに生じる副鼻腔嚢胞は,欧米では慢性感染やアレルギーによって生じるとされるが,日本では少ない。
 本稿では,この術後性頬部嚢胞を含む副鼻腔嚢胞の現在の手術手技のポイントと,周術期に起こり得るトラブルについて説明を行う。

19.経蝶形骨下垂体腫瘍摘出術

著者: 寺本明

ページ範囲:P.91 - P.94

 はじめに
 経蝶形骨下垂体腫瘍摘出術(以下,本手術と略)は,脳神経外科領域では安全かつ低侵襲な手術として知られている。しかし,軽症の合併症はしばしば経験されるとともに,様々な種類の重症合併症の存在も知られている。また,稀ではあるが死亡例の発生を仄聞することもある。
 その理由の1つは,術野が狭くかつ深いことにある。周知のごとく,下垂体は頭蓋のほぼ中心に局在するため,頭部の手術としては最も深い部分を操作することになる。用いる鼻鏡の入口部の開きは,上口唇下法で3cm,直接鼻腔法で最大2cm,長さは前者が9cm,後者が7 cm,奥の開きは両者とも1〜1.5cmである。実際の手術は,さらに鼻鏡先端の2〜3cm奥で行うことになるため,本手術法の道具は全て有効長(バイオネットの先端部)が15cm以上と長い。手術用顕微鏡では視角が制限されるため立体感覚が不十分であるうえ,不慣れな術者の場合,2種の手術道具を術野で的確に用いることができない。
 これらは本来,熟練により克服されていくものであるが,下垂体腫瘍の年間発生率が人口10万人当たり1〜2例という頻度から考えると脳神経外科医一般の基本的手技になり得ないことがわかる。事実,大学病院を除く都会の大病院での本手術の件数は年間3〜5例である。いずれの手術も同じではあるが,本手術法では後述するごとく,手術経験数が増加するほど有意に合併症や死亡の比率が減少する。

20.内視鏡的鼻・副鼻腔手術

著者: 春名眞一

ページ範囲:P.95 - P.99

 はじめに
 慢性副鼻腔炎の病態の軽症化と内視鏡を中心とした光学器械の発展に伴って,内視鏡下鼻内副鼻腔手術(endoscopic endonasal sinus surgery:ESS)は世界的な標準術式になっている。その目的は,中鼻道自然口ルート(ostiomeatal complex)を開放し各副鼻腔自然口を可及的に開大し,換気と排泄機能を促し,洞内の粘膜を正常化させることにある1〜5)。ESSの手術操作において鼻・副鼻腔の解剖は個体差を有し,かつ眼窩,前頭蓋底などの重要な臓器に接しており,多くの危険部位が存在する(図1)。したがって,ESSが多くの施設で施行されるとともに,手術中に重要な血管,神経を損傷し,重大な合併症に至る報告も増加していると思われる。内視鏡が鼻内手術に導入されて局所を拡大視できるようになっても,正しい局所解剖と多くの経験が必要であることは何ら変化はない。
 本稿では,手術前,中,後の予想される合併症とその回避および対応について述べる。

21.視神経管開放術

著者: 鴻信義 ,   森山寛

ページ範囲:P.101 - P.104

 はじめに
 交通事故や副鼻腔手術時副損傷などの外傷により引き起こされた高度視力障害が,ステロイドやマンニトールなどの薬物治療で軽快しない場合,視神経管開放術が行われる。外傷性視力障害は,視神経そのものの損傷,切断が原因ではなく,視神経管内の血腫や視神経自体の浮腫により,視神経が二次的に虚血や循環障害を起こすことが原因であると考えられており,手術による管内の減圧が必要となる1〜4)
 本術式は,日頃行っている内視鏡下鼻内手術の手技の延長である。しかし通常は,視神経管およびその周囲構造は,解剖学的危険部位の1つとして直接手術操作を加えることはないが,視神経管開放術では視神経管,視神経鞘自体を鉗子で直接触れるため,細心の注意を払わないと,却って思わぬ合併症を引き起こすことになる。

22.鼻・副鼻腔腫瘍手術におけるリスクマネージメント

著者: 窪田哲昭

ページ範囲:P.105 - P.107

 はじめに
 リスクマネージメントは治療経過中に起こ得りるトラブルをいかに回避するかにある。鼻・副鼻腔腫瘍の手術においては腫瘍は本来その部位に存在しないもので,手術を行うとなると通常腫瘍の完全摘出を第1の目標とし,ときに破壊手術となる。その結果,リスクの面からみると常に問題が起こり得る状況と背中合わせにあるわけである。
 トラブルの発生は,手術側のミスと患者側からみて手術後の予想外の結果も包括されるものである。インフォームドコンセントが重視されている今日の医療では,術者は手術内容を十分吟味し計画を立てると同時に,患者側に詳しく説明し,理解を得ておくことが鼻・副鼻腔腫瘍の治療上最も大切なことと思われる。

口腔咽頭

23.咽後膿瘍切開術・扁桃周囲膿瘍切開術

著者: 山崎徳和 ,   氷見徹夫

ページ範囲:P.108 - P.112

 はじめに
 咽後膿瘍は咽頭後間隙に膿汁が貯留したものであり(図1),化学療法の発達に伴って激減し,現在では比較的稀な疾患となっている。咽頭後リンパ節が発達している3歳未満の小児に好発するが,異物,挿管,内視鏡などによる咽頭後壁粘膜の損傷による例や,糖尿病や結核などが誘因となった成人例も散見される。
 一方,扁桃周囲膿瘍は扁桃被膜と咽頭収縮筋膜の間に膿瘍を形成したものであり(図2),日常診療でしばしば遭遇する疾患で,その大部分が急性扁桃炎に続発し,成人に多く小児には少ない。成因として,扁桃前上方にある粘液腺の感染が関与してるとの説もある1)。元来,頭頸部領域には筋膜と筋膜の間に疎な結合織を人れる間隙が複数存在しており,隣接する間隙内にこれらの膿瘍が波及すると急激に進展する。
 両疾患ともに迅速かつ適切な治療を怠ると,生命に関わる重篤な合併症や続発症を引き起こすことも稀ではなく,その診断,治療には上分な注意が必要である。

24.口蓋扁桃摘出術・アデノイド切除術

著者: 原渕保明 ,   今田正信

ページ範囲:P.113 - P.118

 はじめに
 口蓋扁桃摘出術,アデノイド切除術は,耳鼻咽喉科領域の手術の中で最も頻繁に行われる手術の1つである。一般に小手術と思われがちであり,合併症に対する心構えもおろそかになる傾向がある。しかし,実際には手術侵襲は意外と高く,かつて局所麻酔下で行われていた時代には,耳鼻咽喉科領域の診療事故死の1/3を占めていた。最近,全身麻酔下に行う施設が多くなるにつれてその頻度は減少してきたが,本手術の特殊性,すなわち開放創のまま終えること,気道と密接に関係している部位であること,また幼小児に対して施行することが多いことなどを考慮すると,決して安易に考えてはならない手術である。合併症に対する処置,対応を迅速に行わなければ致死的な結果となることもある。
 本稿では,口蓋扁桃摘出術とアデノイド切除術における術中合併症および術後合併症とその予防,処置について述べる。

25.咽頭腫瘍摘出術におけるリスクマネージメント

著者: 君塚幸喜 ,   岸本誠司

ページ範囲:P.119 - P.122

 はじめに
 咽頭は上咽頭,中咽頭,下咽頭に分類され,それぞれの領域に対する手術法は異なる。
 本稿では,各領域別に手術に対するリスクマネージメントについて述べる。

26.舌腫瘍摘出術(良性・悪性)

著者: 川内秀之 ,   岩元純一

ページ範囲:P.123 - P.127

 はじめに
 舌の手術を行うに当たっては舌の構造や働きを十分理解して臨む必要があり,生じ得る術中・術後の合併症や機能障害を考慮しなければならない。舌に発生する良性腫瘍としては血管腫,乳頭腫,線維腫,神経鞘腫,脂肪腫などがある。当科では,これら良性腫瘍については主にKTPレーザーによる腫瘍切除を行っている。舌癌については,動注化学療法を併用した術前放射線療法を行ってから手術を施行する方法を基本としている。舌癌T1NOもしくはT2NOで深部浸潤傾向のないものは舌部分切除術(主にKTP-YAGレーザー使用)を行っている。T2NOで深部浸潤のあるもの,T3NO, T4NOについては舌半側切除術以上の切除を行い,同時に患側の保存的頸部郭清術を施行している。N (+)症例では患側の根治的頸部郭清術と,必要に応じて健側の顎下部まで郭清術を行っている。再建材料については,欠損部の大きさ,年齢,基礎疾患の有無を考慮し皮弁を選択しているが,主に遊離前腕皮弁,遊離腹直筋皮弁,大胸筋皮弁などを用いている。

27.鼻咽腔線維腫摘出術

著者: 加藤壽彦

ページ範囲:P.129 - P.132

 はじめに
 鼻咽腔線維腫は,鼻咽腔血管線維腫または若年性鼻咽腔血管線維腫などと呼ばれ,その名の通り主として思春期の男性に発生する非常に血流に富んだ腫瘍である。この腫瘍は良性腫瘍であるが近接部位に増殖し,特に側頭下窩,眼窩,前頭蓋底などに進展した症例は治療に苦慮することが多い。また,その臨床像から再発の可能性が高く,臨床的には悪性腫瘍として取り扱われている。この疾患の基本的な治療法は手術であるが,血管に富み易出血性で術中大量の出血をみること,術野が上咽頭を中心とした深部であり,上分な視野の確保が困難であることなど,手術を行ううえで留意する点が多い。
 この特集では手術の危険度を術中・術後の合併症を避けるために企画されたものであるが,鼻咽腔線維腫の手術は視野の確保,出血に対する対応を十分に立てておくことが,術中・術後の合併症に対処する最も重要なことである。

28.睡眠時無呼吸症候群の手術

著者: 西村忠郎

ページ範囲:P.133 - P.136

 はじめに
 睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)のうち,一般的に手術の対象となるのは閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apneasyndrome:OSAS)であり,SASの80%以上を占める。OSASの患者は肥満傾向の人が多い点や,高血圧があったり,既に循環器系の障害を有していたり,小顎症や巨舌症があり上気道狭窄を起こしやすい傾向があるなど,手術に際して術前・術中・術後にわたって注意を要する点が多い。
 当科では手術決定の前にもOSASがあるか否か,存在するとすれば重症,中等症あるいは軽症であるかを睡眠中モニター検査(当科ではAliceIIIというヘルスダイン社製のポリソムノグラフを使用)したうえで,OSASの原因部位診断に対して超高速MRIおよび,上気道内視鏡検査を行っている。その検査結果から,どの部位に対してどのような手術をすべきかを決定している。それが手術のリスクマネージメント,および手術成績向上のために極めて重要と考えている。

29.目腔底腫瘍手術の合併症とリスクマネージメント

著者: 浅井昌大

ページ範囲:P.137 - P.140

 はじめに
 口腔底の腫瘍には,良性のものとしてがま腫,皮様嚢腫などの嚢胞性疾患や舌下腺腫瘍,小唾液腺腫瘍,血管腫などがあり,悪性腫瘍としては扁平上皮癌,唾液腺原発癌などがある。がま腫や血管腫は最近は硬化療法などが用いられることもあり手術適応が減っているが,そのほかは外科的切除が第1選択である。
 本稿では,これらの疾患の手術の際に必要な注意点について述べる。

30.口内法による唾石手術のリスクマネージメント

著者: 暁清文

ページ範囲:P.141 - P.144

 はじめに
 唾石症は唾液腺やその導管内に結石が生じ,有痛性あるいは無痛性の唾液腺腫脹をきたす疾患であり,典型例では食事ごとに疝痛と唾液腺腫脹を繰り返す。しばしば感染を伴い開口部からの膿排出をきたす。本症の80〜90%は解剖学的構造や唾液粘度の関係から顎下腺に生じ(図1,2),舌下腺や耳下腺に生ずる例は少ない。一般に結石の存在部位により,管内唾石,移行部唾石,腺内唾石に分類されるが,結石は必ずしも1つとは限らず,多数の結石が腺体や導管の様々な部位に生じている場合もある。
 治療は唾石の存在部位や大きさ,個数,臨床症状により異なる。開口部付近の小さな管内唾石は指で押し出すことにより,あるいは鑷子を用いることにより摘出可能な場合があるので,まず試みる。これらが不可能な場合は観血的に摘出する。感染を伴っているときは抗菌剤を投与して消炎を図り,炎症が落ち着いてから手術を行う。導管からの排膿を認めても唾石周囲の炎症1がひどくなければ手術を行っても差し支えない。

咽頭

31.喉頭微細手術

著者: 福田宏之

ページ範囲:P.145 - P.149

 はじめに
 手術用顕微鏡を用い,直達喉頭鏡下に喉頭を拡大視して喉頭の手術を行う方法を喉頭顕微鏡下手術または喉頭微細手術という。この方法は1960年代後半から盛んに行われるようになり,平野1),斉藤2)によりその基礎研究の成果とともにより普遍化された。この手術法の対象は声帯ポリープに代表される声帯の腫瘤の除去,声門閉鎖不全に対する声帯注入による声帯正中固定もしくは声帯増量,痙攣性発声障害や男性化音声などの機能性音声障害の手術的治療,早期声帯癌のレーザー手術など広範囲にわたる。しかし,普通一般的に応用されるのは声帯ポリープなどの腫瘤摘出である。この場合,声帯の発声時の動態から声帯粘膜の可及的維持ということが極めて重要であるとされる3,4)。これらのことが理解されていれば手術中における術操作のリスクの大部分は回避される。また,この手術の基本は直達喉頭鏡による喉頭展開が必須であって,この場面でのリスクも多い。次に考慮すべきは,麻酔法として気管内挿管による全身麻酔を選んだ場合で,麻酔チューブの気管への導入によるリスクもある。
 術後の合併症は仮に手術そのものが完壁であっても起こり得ることであって,その大部分の原因は過剰創傷治癒による肉芽形成である。さらには予期できない瘢痕形成もある。また,一般人と異なる声の職業性の強い症例に対するリスクも考慮しなくてはならない。長期的合併症では再発があるが,これらに対しては声の衛生概念の強調が挙げられる5)。いずれにしてもこの手術は高度な機能をもつ声帯に対するものであって,単に余計なものを除去するといった単純な考え方では様々なリスクを招く危険性があることを銘記すべきである。

32.喉頭截開術・ステント留置術

著者: 久育男

ページ範囲:P.153 - P.156

 はじめに
 喉頭截開術(laryngofissure)は,甲状軟骨と輪状軟骨を縦切開して喉頭内腔に至る手術術式であり,甲状軟骨のみを切開する場合は甲状軟骨切開術(thyrotomy)と呼ばれる。喉頭微細手術の進歩(特にレーザー手術の導入)に伴い,喉頭截開術の適応は明らかに減少しているが,その重要性がなくなったわけではない。適応となる主な疾患は,喉頭微細手術では対応不能な巨大腫瘍,厚い横隔膜,そして瘢痕狭窄などである。手術件数が減少しているため,実際に手術を執刀あるいは見学した経験はないかも知れないが,本手術は決して難しいものではない。
 ステント留置術は,喉頭狭窄に対する治療法の代表的なものであるが,治療にあたっては,ステントの種類やその留置期間など,頭を悩ませる問題が多い。
 本稿では,上記2つの手術の術中・術後に起こり得ると考えられる,あるいは想像される合併症について述べる(表1)。ただ幸いなことに,筆者が経験したことのない合併症(実際には起こり得ないもの?)が多く含まれる。

33.気管切開術

著者: 福田諭

ページ範囲:P.159 - P.162

 はじめに
 主として緊急気道確保を目的とした気管切開術は耳鼻咽喉科・頭頸部外科医が習得,習熟すべき手技である。
 救急のABCは,古くからいわれているとおりairway, breathing, circulationであり,最も急を要するairway確保のための1つとして重要な方法が気管切開術である。
 本稿では,まず一般的術式を述べ注意点,危険度についても概説する。

34.乳幼児に対する気管切開術

著者: 川城信子

ページ範囲:P.165 - P.168

 はじめに
 乳幼児は身体的に発達段階にある。成人と比較し気管径は細く,頸部も短く,成人の気管切開のリスクに加えて,さらに種々の問題がある。また,手術後の管理の困難さとリスクもある。気管切開カニューレの管理は乳幼児においては長期になるので,術後管理が手術そのものより重要であると考える。リスクをふまえて,手術の前から家族によく説明し指導していくことが重要である。

35.気管・気管支異物,食道異物摘出術

著者: 北原哲

ページ範囲:P.170 - P.171

 はじめに
 気道・食道異物には,多種多様なものがあり,動物性,植物性,鉱物性などに分類されている。文献的に多くみられるものは気管・気管支異物として豆類,種,玩具,針,石,医原性異物(歯科用リーマなど),食道異物としてコイン,魚骨,義歯,PTP,ボタン型電池,玩具,肉片などがある(図1〜3)。異物にはまた時代的背景も反映され,屋根職人の釘や主婦の縫い針の気道異物などはほとんどみかけなくなった反面,PTPや電子機器の発達によってボタン型電池の食道異物などが出現した。一方,摘出に使用する器具も硬性気管支鏡,硬性食道鏡よりもフレキシブルファイバースコープが使用される頻度が高くなり,さらに麻酔学の進歩は,摘出術と術後管理をより安全にしているのが現状である。
 気道・食道異物の診断がつけば,原則として緊急な対処が必要になるが,緊急度の極めて高いものとしてボタン型電池がある。ステンレスの電池ケースが腐食し,電池の内溶液が漏れることはないが,正極から負極に電流が流れ,これによって発生するアルカリが強い腐食作用を示す。食道内の停滞時間が長いほど組織の障害は大きくなる。新しい知見であろう。
 日常臨床では,小児と成人で対処の仕方に差があり,高齢者を除くと年齢が若いほど取り扱いに気を使う。

36.喉頭摘出術(全摘,部分切除)

著者: 梅野博仁 ,   中島格

ページ範囲:P.173 - P.176

 はじめに
 喉頭全摘出術,喉頭部分切除術は既に確立された術式であり1,2),この手術手技が直接生命に危険を及ぼす可能性はほとんどない。しかし,術中の手術操作次第では術中,術後にトラブルに発展する恐れがある。
 本稿では,術中,術後の代表的なトラブルとその予防方法,さらにトラブルが発生した場合の対処方法について述べる。

頸部

37.がま腫摘出術

著者: 桜井一生

ページ範囲:P.177 - P.179

 はじめに
 がま腫は,舌下腺管の閉塞により唾液が舌下腺管,舌下腺から漏出して生ずる偽?胞である。多くは口腔底に限局する舌下型であるが,顎舌骨筋を超え舌下部に進展する顎下型や,両方にまたがる舌下・顎下型も認められる。その治療は,一般的には手術療法が選択されているが,最近ではOK−432の注入療法を試みた報告もなされている。手術療法は嚢胞の存在部位や大きさにより,嚢胞開窓術,嚢胞全摘術,舌下腺全摘術,顎下腺全摘術などが口内法や頸部外切開法により,それぞれ単独あるいは組み合わせて行われている。また,がま腫では術後再発の報告も少なくなく,近年ではその成因から考え舌下腺全摘術が再発が少なくよい方法であるとする報告が多く認められる1〜3)
 本稿では,がま腫における各手術法に伴う危険度と再発について述べることとする。

38.顎下腺腫瘍摘出術(良性・悪性)

著者: 岩井大 ,   山下敏夫

ページ範囲:P.181 - P.185

 はじめに
 顎下腺は,ワルトン管を排泄管とする大唾液腺であり,下顎骨下縁と顎二腹筋前・後腹,茎突舌骨筋,中咽頭収縮筋によって構成される顎下三角内に存在する。顎下腺腫瘍摘出術は,腫瘍を顎下腺とともにen blocに摘出する手術であり,たとえ腫瘍が良性でも核出術はされない。また,顎下腺腫瘍の半数近くが悪性とされ,周囲への癒着や浸潤が問題となりやすい。したがって,顎下腺とその周囲の解剖を熟知し,また,術中・術後の合併症を念頭に入れ手術することが重要となる。
 なお,顎下腺悪性腫瘍に対して行われる頸部郭清術については他稿に譲りたい。

39.耳下腺腫瘍摘出術(良性・悪性)

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.186 - P.189

 はじめに
 耳下腺腫瘍の手術を行う場合,良性・悪性いずれにしても正確な臨床解剖を把握することはいうまでもない。基本的には耳下腺良性腫瘍の手術における術式と注意点を理解したうえで悪性腫瘍症例にも対応していくこととなる。特に顔面神経に関する合併症が大切であり,良性例,良性再発例,悪性例と各々症例に応じて顔面神経の扱いに留意する。
 本稿では,良性腫瘍において起こり得る術中・術後合併症を中心に述べ,さらに悪性例について付記したい。

40.正中頸嚢胞,側頸嚢胞の手術

著者: 岡本牧人

ページ範囲:P.191 - P.193

 はじめに
 正中頸嚢胞は甲状舌管の遺残組織から発生する。舌盲孔から甲状腺峡部の間のどこにでも発生し得る1)(図1)。側頸嚢胞は第2鰓裂の遺残組織で,胸鎖乳突筋前縁部から頸動脈分岐を経て口蓋扁桃の上極までのいずれかの部位に嚢胞性腫瘤,またはダクトを遺残する2,3)(図2)。いずれも先天性疾患であり,部位や腫瘤の性状が特徴的であるので,慣れれば診断ミスをすることは少ない。
 診断において特に注意すべき点は,先天性であるが成人にもみられる(年配になって発症することもある)こと4),上気道炎に伴って消長するなどリンパ節のような臨床症状を呈することがあるなどのポイントを押さえておくことである。

41.頸部郭清術

著者: 米川博之 ,   鎌田信悦

ページ範囲:P.195 - P.199

 はじめに
 癌に対する熟練した手術手技は,術中・術後の合併症を減らし,癌の根治性を高め,計画的な術後治療を可能にする。ひいては生存率やQOLに貢献し得る。一方,術後合併症は全身疾患の罹患率を上げ,創傷治癒を遅らせ,入院期間の延長や頻回の手術操作を余儀なくさせる場合がある。
 頸部郭清における危険性を最小限にするには,腫瘍の評価,手術適応,手術野の解剖を知ることが大切であることはいうまでもない。また,高齢者を対象にすることが多いことから,患者の併存疾患や全身合併症の危険度を無視するわけにはいかない。しかし誌面の都合上,本稿ではそれらは成書に任せ,一般に行われる頸部郭清術の特に重要と思われる頸部郭清術野に関する周術期の合併症の危険度について言及する。

42.甲状腺腫摘出術

著者: 中溝宗永

ページ範囲:P.201 - P.204

 はじめに
 甲状腺腫摘出術における手術の危険度を考えるとき,手術合併症(表1)としての術後出血と反回神経麻痺,上皮小体機能低下症が思い浮かぶ。しかし,手術合併症だけがトラブルではなく,術前評価や術式の策定の段階でも問題点は存在する。また,術前から対応を考慮しておくことは,リスクマネージメントとも考えられる。そこで本稿では,甲状腺腫摘出術の術前評価を含めた危険性と対応を考えることにする。なお,甲状腺癌では頸部郭清術も行われ得るが,ここでは良性結節性腫瘤での片側腺葉切除と,悪性腫瘍での気管前傍郭清を含めた葉峡部以上の切除手術を念頭において述べる。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

95巻13号(2023年12月発行)

特集 めざせ! 一歩進んだ周術期管理

95巻12号(2023年11月発行)

特集 嚥下障害の手術を極める! プロに学ぶコツとトラブルシューティング〔特別付録Web動画〕

95巻11号(2023年10月発行)

特集 必見! エキスパートの頸部郭清術〔特別付録Web動画〕

95巻10号(2023年9月発行)

特集 達人にきく! 厄介なめまいへの対応法

95巻9号(2023年8月発行)

特集 小児の耳鼻咽喉・頭頸部手術—保護者への説明のコツから術中・術後の注意点まで〔特別付録Web動画〕

95巻8号(2023年7月発行)

特集 真菌症—知っておきたい診療のポイント

95巻7号(2023年6月発行)

特集 最新版 見てわかる! 喉頭・咽頭に対する経口手術〔特別付録Web動画〕

95巻6号(2023年5月発行)

特集 神経の扱い方をマスターする—術中の確実な温存と再建

95巻5号(2023年4月発行)

増刊号 豊富な処方例でポイント解説! 耳鼻咽喉科・頭頸部外科処方マニュアル

95巻4号(2023年4月発行)

特集 睡眠時無呼吸症候群の診療エッセンシャル

95巻3号(2023年3月発行)

特集 内視鏡所見カラーアトラス—見極めポイントはここだ!

95巻2号(2023年2月発行)

特集 アレルギー疾患を広く深く診る

95巻1号(2023年1月発行)

特集 どこまで読める? MRI典型所見アトラス

94巻13号(2022年12月発行)

特集 見逃すな!緊急手術症例—いつ・どのように手術適応を見極めるか

94巻12号(2022年11月発行)

特集 この1冊でわかる遺伝学的検査—基礎知識と臨床応用

94巻11号(2022年10月発行)

特集 ここが変わった! 頭頸部癌診療ガイドライン2022

94巻10号(2022年9月発行)

特集 真珠腫まるわかり! あなたの疑問にお答えします

94巻9号(2022年8月発行)

特集 帰しちゃいけない! 外来診療のピットフォール

94巻8号(2022年7月発行)

特集 ウイルス感染症に強くなる!—予防・診断・治療のポイント

94巻7号(2022年6月発行)

特集 この1冊ですべてがわかる 頭頸部がんの支持療法と緩和ケア

94巻6号(2022年5月発行)

特集 外来診療のテクニック—匠に学ぶプロのコツ

94巻5号(2022年4月発行)

増刊号 結果の読み方がよくわかる! 耳鼻咽喉科検査ガイド

94巻4号(2022年4月発行)

特集 CT典型所見アトラス—まずはここを診る!

94巻3号(2022年3月発行)

特集 中耳・側頭骨手術のスキルアップ—耳科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻2号(2022年2月発行)

特集 鼻副鼻腔・頭蓋底手術のスキルアップ—鼻科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻1号(2022年1月発行)

特集 新たに薬事承認・保険収載された薬剤・医療資材・治療法ガイド

icon up
あなたは医療従事者ですか?