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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科74巻9号

2002年08月発行

雑誌目次

特集 難治性副鼻腔炎の治療

1.副鼻腔炎の難治化因子

著者: 夜陣紘治 ,   竹野幸夫 ,   石野岳志 ,   古城門恭介

ページ範囲:P.587 - P.590

 はじめに
 通常,“上気道”という言葉を用いるときは固有鼻腔から咽頭,喉頭を経由して気管,気管支へとつながる1本の経路を思い浮かべがちであるが,実際には副鼻腔もその経路の中に深く組み込まれている。“いわゆる”上気道と副鼻腔との密接な関係はわれわれが一般的に思っている以上のものがあり,Gwaltneyらによると,急性感冒(上気道炎)症例の90%近くには副鼻腔にもCT上で何らかの炎症性変化が観察されたと報告している1)。慢性副鼻腔炎はこの中でも最も代表的な疾患であり,その病態成立の中心となるものは従来より,「急性炎症の反復と副鼻腔排泄路の閉塞」による悪循環と考えられている。しかし,その臨床病態は,近年わが国で大きく変貌しつつあることが報告されている。すなわち,従来のいわゆる(細菌性)化膿性副鼻腔炎に変わり,何らかの形で(鼻)アレルギーや好酸球浸潤が病態の遷延化に関与する新たなタイプが増加してきていることである。しかし,この両者間における重複点と相違点,さらには炎症の遷延化や難治化に果たしてどのような因子が関与しているのかなどについては不明な点が多々存在している。
 本稿では,当教室において副鼻腔を構成する細胞の中で,1)骨組織を構築する骨芽細胞と破骨細胞,2)粘膜組織における上皮細胞と炎症浸潤細胞とに着目し,病態の遷延化との関連性や鼻アレルギーとの関係について一連の検討を行ったので紹介する。

2.マクロライド療法の適応

著者: 洲崎春海

ページ範囲:P.592 - P.595

 はじめに
 工藤ら(1984年)によって,難治であった下気道の慢性炎症疾患であるび漫性汎細気管支炎(dif-fuse panbronchiolitis:DPB)に対するエリスロマイシン(EM)少量長期投与療法の有効性が報告された。DPBは非常に高率に慢性副鼻腔炎を併発するが,筆者ら(1990年)はDPBに併発した慢性副鼻腔炎に対する本療法の有効性を明らかにした。これらの報告に基づいて,慢性副鼻腔炎に対してEM,ロキシスロマイシン(RXM),クラリスロマイシン(CAM)といった14員環マクロライドの少量長期投与療法(マクロライド療法)が応用され,この治療法の優れた臨床効果が多くの研究により確認された。今日ではマクロライド療法は慢性副鼻腔炎治療の重要な位置を占めるに至った。
 一方,この治療法があまりにも急速に広まったことで,本来手術的治療が必要な症例や無効症例に対しても,漫然と長期投与が行われる傾向が現れてきたのも事実である。マクロライド療法が慢性副鼻腔炎治療に応用されてから10年以上を経過しており,これまでの臨床効果の報告から本療法の効果が乏しい病態が明らかになってきた。
 本稿では,慢性副鼻腔炎に対するマクロライド療法の適応について述べる。

3.好酸球浸潤を伴う副鼻腔炎の取り扱い

著者: 春名眞一

ページ範囲:P.597 - P.601

 はじめに
 副鼻腔粘膜に著明に活性好酸球が浸潤した副鼻腔炎を好酸球性副鼻腔炎と称し(図1),化膿性慢性副鼻腔炎とは異なる多くの臨床的特徴を有している1)。このような副鼻腔炎では,内視鏡下副鼻腔手術とマクロライド療法を併用しても術後成積が不良を呈することが多く,いわゆる難治性副鼻腔炎の範疇である。したがって,治療前に好酸球浸潤を伴う副鼻腔炎の有無を識別し,従来の副鼻腔炎とは異なった治療上の取り扱いをする必要がある。
 本稿では,副鼻腔粘膜への好酸球浸潤した副鼻腔炎の診断と手術前・後の対処について述べる。

4.内視鏡手術の術後処理

著者: 出島健司

ページ範囲:P.602 - P.606

 はじめに
 慢性副鼻腔炎に対する内視鏡下鼻内手術(endo-scopic sinus surgery:ESS)後の患者の鼻内経過を数多く経験してきたが,その視点から難治性といえば筆者はまず第1にアスピリン喘息(aspirinsensitive asthma:ASA)に伴う副鼻腔炎を想起する。もちろん,難治性副鼻腔炎とはアスピリン喘息に伴う副鼻腔炎と同義という意味ではない。ASA以外のケースでもいろいろと術後難治で苦労した経験もあるし,また,自分の経験はほとんどなくとも嚢胞性線維症(cystic fibrosis)の副鼻腔炎やエイズに伴う副鼻腔炎,原発性線毛機能不全(primary ciliary dyskinesia)なども難治性副鼻腔炎として扱うべきと考える。ESSによる慢性副鼻腔炎の治療成績は,マクロライド療法の確立と相まって近年著しく向上したが,案外未だに難治性副鼻腔炎が示す疾患概念は広範で決して稀ではないように考えている。また,ESSの場合,当初は難治性と考えていなかったケースでも,術後難治といわざるを得ないような状況に遭遇することも時にある。
 本特集は難治性副鼻腔炎の治療であり,特にここでは内視鏡手術の術後処理をテーマとしている。何を取り上げるのが妥当か難しいところだが,難治性と呼んでよいかどうかは別として,筆者が術後「難治」と認識した症例の積み重ねから,難治性と関連深いいくつかの項目をピックアップし解説していくことにする。

5.アスピリン不耐症・喘息合併例の取り扱い

著者: 榊原博樹 ,   内山康裕 ,   姫野一成

ページ範囲:P.609 - P.614

 はじめに
 アスピリン過敏症,喘息,鼻茸は合併することが多く,asthma triad1)あるいはアスピリン喘息(aspirin induced asthma:AIA)と呼ぼれ,そのような症例は一般に重症で難治性である。AIA患者は,アスピリンのみならず,インドメサシン,フェノプロフェン,イブプロフェンなど,アスピリン様の薬効をもつほとんど全ての酸性の非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal antiinflammatorydrugs:NSAID)に反応し,蕁麻疹や喘息発作を起こす2)。これらのNSAIDの共通した薬理作用であるアラキドン酸シクロオキシゲナーゼ阻害作用が過敏反応の引き金になるものと考えられている。すなわち,AIA患者にはアラキドン酸の代謝経路上に何らかの異常があり,それがNSAIDにより顕在化し過敏反応として現われてくるものと考えらている。
 AIAは,NSAID以外に食品や医薬品の添加物として広汎に使用されているタートラジン(食用黄色4号),安息香酸ナトリウム,パラオキシ安息香酸エステル類(パラベン),ベンジルアルコールなどにも過敏性をもつことがある3)。また,気管支喘息の治療に頻用されるコハク酸エステル型の静注用副腎皮質ステロイド薬に対しても高頻度(50〜75%)に過敏反応を起こして喘息症状が悪化する3)。さらに,自然界に広く分布しており,果物などの食物として摂取される機会の多いサリチル酸誘導体や安息香酸誘導体でも過敏反応が起こるという指摘もある。AIAの誘因にはこのような種々の医薬品や添加物などの環境因子の関与が考えられ,単にNSAIDを除外しただけでは症状のコントロールが難しい由縁であろう。
 以下に述べるようにAIAには鼻炎,副鼻腔炎,鼻茸の合併頻度が高いが,その合併機序や因果関係に関しては不明な点が多い。本稿ではAIAに合併する鼻・副鼻腔疾患の特徴を明らかにしたうえでその治療や管理上の注意点について述べる。

目でみる耳鼻咽喉科

ダンベル型耳下腺多形腺腫の1症例

著者: 村井道典 ,   平松隆 ,   山田南星 ,   宮田英雄

ページ範囲:P.584 - P.585

 耳下腺腫瘍の多くは浅葉に存在し,深葉由来のものは約10〜20%とされている1)。その中で,ダンベル型は副咽頭間隙に拡がり摘出が困難なことで知られている。
 今回われわれは,巨大なダンベル型耳下腺腫瘍の1症例を経験したので報告する。

鏡下咡語

ロシア訪問記

著者: 茂木五郎

ページ範囲:P.618 - P.620

 本誌68巻(1996年)13号の海外トピックスに「ロシア鼻科学会」という拙文を掲載させて頂いた。2001年6月に4度目のロシア訪問の機会を得たので,前回(第3回),1998年5月の渡露と合わせてレポートしたい。
 ロシア耳鼻咽喉科学会は既に19世紀末に設立されているが,関連する学会,つまり,耳学会,鼻学会などはなかった。ペレストロイカ以後,ロシアの鼻科学を中心とした人々が,ロシア鼻科学会を1993年に設立,その記念学会がモスクワで開催され,それに招待され特別講演を担当し,以後1996年と1998年のロシア鼻科学会に招かれた。1998年の第3回はKursk市で開催された。この都市の名前は,昨年ロシアの原子力潜水艦がノルウエー沖で沈没,100名近くの乗組員が死亡したことが大きく報道されたが,その艦の名前がKurskである。モスクワから南へ列車で約6時間(300km),何の変哲もない田舎の小都市で,第2次世界大戦の激戦地としてロシアでは知られている。会長が地元大学の教授で,ロシア鼻科学会の重鎮,G.Pisku-nov先生の実兄である。

原著

頸縦隔型脂肪肉腫の1例

著者: 小泉康雄 ,   新藤晋 ,   横島一彦 ,   中溝宗永 ,   八木聰明 ,   笹島耕二 ,   横山宗伯 ,   杉崎祐一

ページ範囲:P.622 - P.626

 はじめに
 脂肪肉腫は軟部組織に発生する肉腫の10〜12%を占め,臀部,後腹膜,近位四肢深部に好発する。頸部,縦隔内に発生する脂肪肉腫の頻度は低く,頸部発生は0.6〜5.6%1〜3),縦隔発生は0.05%4)と報告されている。その中でも頸部から縦隔内に連続する頸縦隔型脂肪肉腫は極めて頻度が低く,国内外合わせて5例が報告されているのみである5〜9)
 今回われわれは,右頸部から上縦隔にかけて発生した頸縦隔型脂肪肉腫の1例を経験したので報告する。

後頸部に認めた成人嚢胞状リンパ管腫の1例

著者: 毛利麻里 ,   柴田裕達 ,   中野香代子 ,   内沼栄樹

ページ範囲:P.630 - P.632

 はじめに
 嚢胞状リンパ管腫はその75%が頸部にみられ,90%以上は2歳までに発症するといわれている1〜3)。成人における発症は稀であり2〜4),また成人の後頸部に発生したとの報告はない。
 今回われわれは,成人の後頸部にみられた嚢胞状リンパ管腫の1例を経験したので報告する。

ツベルクリン反応が陰性であった頸部リンパ節結核の1症例

著者: 我那覇章 ,   糸数哲郎 ,   玉城和則 ,   新垣京子

ページ範囲:P.635 - P.638

 はじめに
 結核は,本邦において新規発生患者数が1997年に38年ぶりに前年を上回り,厚生省より非常事態宣言が発令されるなど,再興感染症として注目を集めている。耳鼻咽喉科領域において,頸部リンパ節結核は頸部腫瘤の鑑別疾患の1つとして常に念頭に置く必要のある疾患である。一般に頸部リンパ節結核が疑われた場合には,ッベルクリン反応が簡便で有用な検査である。
 今回われわれは,ツベルクリン反応が陰性で,最終的には摘出したリンパ節の病理組織学的所見より診断が確定した頸部リンパ節結核の1症例を経験した。本症例の経過およびツベルクリン反応が陰性であった原因も含め,文献的考察を加えて報告する。

手術・手技

側頭骨横骨折に対する顔面神経全減荷術の1例—拡大経迷路法によるアプローチ

著者: 前田学 ,   中川文夫 ,   宮原孝和 ,   斉藤龍介 ,   宇野欽哉

ページ範囲:P.641 - P.644

 はじめに
 側頭骨は聴・平衡覚器官を包含し,顔面神経を初めとする多数の脳神経や内頸動静脈など重要血管の頭蓋内外交通路として重要であり,頭部外傷に伴う頭蓋底骨折に際し高率に障害される部位でもある1)。側頭骨骨折は錐体長軸に対する骨折線の走行により縦骨折と横骨折に分類され,横骨折では縦骨折に比べ顔面神経麻痺を伴う率が高い。外傷性顔面神経麻痺に対する治療方針は障害部位と程度により異なるが,特に側頭骨骨折に伴う麻痺に対しては手術の適応,術式について未だ議論がある2)
 われわれは側頭骨横骨折により顔面神経迷路部が損傷された症例を経験し,積極的治療として拡大経迷路法による顔面神経全減荷術を施行し良好な結果が得られたので,術式について若下の考察を加え報告する。

連載 シリーズ/ここまでわかる画像

⑧頸部・喉頭領域の超音波診断

著者: 古川政樹 ,   古川まどか

ページ範囲:P.647 - P.653

 はじめに
 耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域における超音波医学の発展は,様々な事情から他科領域に比べるとやや遅れ気味ではあったが1),触診と同様の感覚でリアルタイムに断層像を表示することが可能な電子走査型診断装置,頸部領域の使用に適する高周波小型プローブが開発され,実地応用の機会が増加するとともに,非侵襲性,簡便性といった特性をもつ超音波の有用性が広く理解されるようになり,現在では触診を補う極めて有効な補助診断法として認知されている。さらに近年は,デジタル化技術の進展に伴う超音波診断装置の目覚しい進歩によって,Bモード法における分解能の向上だけでなく,全く新しい技術の臨床応用が実現し超音波診断は新たな段階に入った。
 本稿では,超音波診断に関する新手法の解説およびそれらの頸部領域における今後の臨床応用の可能性,従来のBモード法などを中心とした最近の知見を概説する。
 本文中に使用した画像は,特にことわりのない限りGE横河メディカルシステム(※)社製,LOGIQ 700(※※)EXPERT Series,739Lプローブ/5〜10MHzにより撮影した。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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