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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科75巻10号

2003年09月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

腎性上皮小体機能亢進症の1例

著者: 神野定男 ,   橋本大 ,   谷本均 ,   齋藤幹 ,   大津雅秀 ,   石田春彦 ,   丹生健一

ページ範囲:P.678 - P.679

 近年,透析療法の進歩に伴い慢性腎不全患者の予後が改善する一方で,内科的治療に抵抗し外科的治療を必要とする高度の腎性上皮小体機能亢進症の症例も増加傾向にある1)。今回われわれは,慢性腎不全による血液透析中に保存的治療の困難な腎性上皮小体機能亢進症をきたした症例に対して上皮小体摘出術を行ったので報告する。

 症例:49歳男性。

 主訴:高リン血症。

 現病歴:28歳時に慢性腎不全と診断され,38歳時より血液透析が導入された。47歳時に血清リン高値を指摘され二次性上皮小体機能亢進症と診断された。高PTH値,および高リン血症に対して炭酸カルシウムとビタミンDの投与を行ったが効果がなく,外科的治療を目的に2002年8月8日に当科を紹介され受診した。

Current Article

内耳におけるグルタミン酸神経伝達と神経障害

著者: 松原篤

ページ範囲:P.682 - P.691

I.はじめに

 内耳には聴覚を司るコルチ器と平衡覚を司る末梢前庭器が存在するが,これらの感覚器で受容された情報は,グルタミン酸を神経伝達物質として感覚細胞から求心性神経に伝えられると考えられている1~4)。このようにグルタミン酸は内耳における神経情報伝達に不可欠な物質である一方で,興奮性アミノ酸などの特性から,過剰なグルタミン酸の曝露が内耳の神経障害に関与することも明らかになってきた5,6)。内耳におけるグルタミン酸神経伝達およびグルタミン酸神経障害の解明は,難聴やめまいの病態と結びつく可能性があり臨床的にも興味深いことである。

 グルタミン酸作動性神経が豊富に存在する中枢神経系では,グルタミン酸が豊富なニューロンと,グルタミンが豊富なグリア細胞とでグルタミン酸-グルタミンサイクルが形成される。すなわち,グルタミン酸はグルタミンを前駆物質としてニューロンで合成され,興奮性神経伝達物質としてシナプス間隙に放出され情報伝達を司る。シナプス間隙のグルタミン酸は,グリア細胞のグルタミン酸トランスポーターで取り込まれグルタミンに変換される。最近の研究によって,内耳においては感覚細胞と支持細胞から構成されるグルタミン酸-グルタミンサイクルの存在が明らかになった3,7)。この考え方はグルタミン酸神経伝達を理解するうえで非常に重要であり,このサイクルに関連する種々の物質(グルタミン酸,グルタミン酸受容体,グルタミン酸トランスポーター)はグルタミン酸神経障害と密接な関係にある。われわれは,グルタミン酸神経伝達に関連する種々の物質の内耳における局在を,金コロイドを用いた後包埋法による免疫電子顕微鏡学的手法(イムノゴールド法)を用いて検討してきた。この方法は細胞内小器官レベルにおける物質の局在を明らかにできるだけではなく,光顕レベルでは困難であった定量的な解析も可能であるという特色がある8)

 本稿では,この方法を用いて内耳におけるグルタミン酸-グルタミンサイクルについて述べるとともに,グルタミン酸神経障害のモデルである内耳虚血動物を用いた研究から,内耳の神経系に与えるグルタミン酸の影響についても言及する。

原著

化学療法が著効を示した嗅神経芽細胞腫の1例

著者: 宮里麻鈴 ,   福島典之 ,   川本浩子 ,   森良樹 ,   大久保剛

ページ範囲:P.693 - P.696

I.はじめに

 嗅神経芽細胞腫は嗅神経上皮を発生母地とし,鼻腔嗅部に好発する悪性腫瘍である。その発生頻度は鼻腔腫瘍の約3%である1)。治療法として,一般的には手術と放射線療法の併用が勧められている1)。一方,化学療法については有効であるとの報告も散見される1)

 今回われわれは,化学療法が著効を示した嗅神経芽細胞腫の1例を経験したので報告する。

乳幼児の囊胞状リンパ管腫に対するOK-432による硬化療法―手術を考慮する前に

著者: 工藤典代 ,   留守卓也

ページ範囲:P.699 - P.701

I.はじめに

 囊胞状リンパ管腫は,頭頸部領域に出現することが多い良性の腫瘍性疾患であり,乳児期に増大傾向を示すことが多い1,2)。腫瘍の大きさも様々であり,審美的にも患児とその家族の苦悩は極めて大きい3)。治療はOK-432による硬化療法が一般的であるが4~6),一方でその副作用が強調され外科的切除を第1選択とする記載も散見される7~10)

 今回われわれは,当科で経験した具体例を挙げ,OK-432による硬化療法の効果と副作用につき報告する。

原因の異なる深頸部膿瘍の3症例

著者: 齋藤敦志 ,   馬場均 ,   立本圭吾

ページ範囲:P.703 - P.707

I.はじめに

 深頸部膿瘍は,抗生剤が進歩した現在においても,適切な治療を行わなければ縦隔洞炎など重篤な状態をきたす可能性のある疾患である。

 最近われわれは,原因の異なる深頸部膿瘍の3症例を経験したので報告する。

舌巨大筋肉内血管腫の1例

著者: 吉本公一郎 ,   宇野敏行 ,   廣田隆一 ,   池淵嘉一郎 ,   斉藤敦志 ,   宮﨑信 ,   中井茂 ,   久育男

ページ範囲:P.710 - P.713

I.はじめに

 血管腫は頭頸部において舌,口唇,頰粘膜に一般的にみられる良性腫瘤性病変の1つである。しかし,筋線維間を浸潤性に発育する筋肉内血管腫の報告は稀である。

 今回われわれは,舌に発生した巨大筋肉内血管腫症例を経験したので報告する。

腎細胞癌顎下腺転移の1症例

著者: 宮島千枝 ,   浅沼聡 ,   塩路豪 ,   安田政実 ,   竹内直信

ページ範囲:P.716 - P.719

I.はじめに

 腎細胞癌は全身のあらゆる臓器に転移し得る疾患で,頭頸部では4~15.2%の頻度で認められる1~4)。その中で,稀ではあるが顎下腺転移の症例報告も散見される5~10)

 今回われわれは,腎細胞癌のため腎臓摘出4年後に顎下腺転移をきたした症例を経験したので,文献的考察を加え報告する。

術前に診断し得た囊胞状リンパ節転移を伴った甲状腺乳頭癌の1例

著者: 石田良治 ,   山田弘之 ,   西井真一郎

ページ範囲:P.725 - P.727

I.はじめに

 側頸部の囊胞性病変の鑑別診断としては,側頸囊胞,結核性リンパ節炎,囊胞性リンパ管腫,悪性リンパ腫などが挙げられるが,甲状腺乳頭癌のリンパ節転移が囊胞変性することも稀ではあるが存在することが知られている1~5)

 今回われわれは,両側頸部の囊胞性病変を契機に発見された甲状腺乳頭癌の1例を経験したので報告する。

肺転移をきたした耳下腺多形腺腫例

著者: 松本州司 ,   小桜謙一 ,   宮崎純一 ,   横畠悦子 ,   中谷宏章

ページ範囲:P.729 - P.733

I.はじめに

 多形腺腫は,唾液腺腫瘍の中で発生頻度の最も高い良性腫瘍である。しかし,被膜形成の不十分な腫瘍では再発をきたしやすく,長期間放置された症例では悪性化をきたすことも知られている1)。さらに,極めて稀ではあるが組織学的には良性を示すにもかかわらず,肺や骨に遠隔転移をきたす症例の報告1)もあり,臨床的には低悪性度腫瘍に準じた対応が必要である。

 今回,われわれは耳下腺多形腺腫の治療後に肺転移をきたした症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

低音障害型感音難聴とめまいを呈した特発性低髄液圧症候群の1例

著者: 松村道哉 ,   千田英二 ,   柏村正明 ,   福田諭

ページ範囲:P.735 - P.738

I.はじめに

 何らかの原因で髄液量が減少し,髄液圧の低下と起立性頭痛を特徴とする疾患群が低髄液圧症候群と総称される。特発性と続発性とに分けられ,腰椎穿刺や開頭術後などの誘因がないものを特発性低髄液圧症候群と称する1)。特発性低髄液圧症候群は1938年Schaltenbrandが最初に“spontaneous aliquorrhea”という名称で報告し,髄液の産生低下が原因と考察した2)。しかし,最近になって本症の特徴的なMRI所見が報告され3),その病態は髄液漏出説が有力となり“spontaneous intracranial hypotension”の名称が広く用いられるようになった2)。本症はわが国において低髄液圧症候群,特発性低頭蓋内圧症候群の名称で神経内科領域での報告がしばしばみられる。

 今回われわれは,難聴,耳鳴,めまいの反復を主訴とし,起立性の頭痛を伴った症例で,その特徴的なMRI所見により原因が低髄液圧症候群と考えられた1例を経験したので報告する。

毛ガニの殻の誤嚥による気管支異物の1症例

著者: 篠美紀 ,   仲地紀之 ,   朝比奈紀彦 ,   洲崎春海

ページ範囲:P.740 - P.743

I.はじめに

 気管・気管支異物は,高木ら1)の報告によると幼小児・中高年に多く,その異物の種類としてはピーナッツなどの豆類や歯科関連異物が多いとされている。しかし,時に珍しい異物に遭遇し,その摘出に苦労することがある。

 今回われわれは,毛ガニの殻の気管支異物を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。

連載 シリーズ/耳鼻咽喉科診療に必要な他科の知識

⑨麻酔科・ペインクリニック―最近の麻酔,疼痛の原因と治療

著者: 神山洋一郎 ,   加藤里佳

ページ範囲:P.745 - P.751

I.麻酔薬

1.セボフルラン

 日本で開発されたセボフルランはMAC:1.71,血液/ガス分配係数:0.63とMACがやや高いが,血液/ガス分配係数は亜酸化窒素(笑気)の0.47に近く,麻酔の導入,覚醒が早く,気道刺激作用がないため,また呼吸・循環系の抑制も少ないので最近は好んで用いられている。ハロタンのようにエピネフリンに対する心臓の感受性を強める作用も少ない。筋弛緩作用もあるため,MACより高い濃度を保てば笑気なしでも十分に麻酔深度が保てる。セボフルランは現在使用されている吸入麻酔薬の中で約80%以上を占める。

鏡下咡語

高齢社会の聴覚・コミュニケーション障害対応―日本の耳鼻咽喉科医は対応するのか?

著者: 野田寛

ページ範囲:P.722 - P.723

I.はじめに

 高齢社会が進行し,高齢難聴者が増えてきている。七十歳を超すと約半数の人が補聴器を必要とするほどに聴力が衰えてきており,当地宜野湾市の実態調査においても実証されている。

 しかし,補聴器の評判は頗る悪く,補聴器を必要とする人の20人に1人しか使われていないことも,同実態調査で実証されている。

 年齢が進み,聴えが衰えてきて,補聴器を使用しないでいると,まず社会参加が不能となり,家庭内でも孤立していき,人生を享受できない,人生を全うできなくなり,ひいては“寝たきり”“ボケ”に繋がっていく。このことは,まず当人にとって実に気の毒なことであると同時に,社会的にも大きな損失である。聴こえさえしていれば,その人がなし得たであろう社会貢献が失われてしまうからである。そのうえに“介護”の問題が家族,社会にのしかかってくることに,日本の社会は未だ気づいていない(当地でも報道されたように,「ボケ・寝たきり」高齢者の虐待問題にまで発展することもあるようで,実に悲しいことである)。

 介護保険がスタートして,保険料が全国一高い沖縄県の初年度の赤字が三十億円,これを国と県と市町村で埋めることとなったが,このことから本年度は保険料が平均1.5倍に値上げされることとなった。保険料を払わない,払えない人の増加と相俟って年々保険料は増額されよう。したがって,高齢者に生きがいをもたせ,ボケさせないようにする工夫が全国各地で検討されているが,人間社会に生きていくことの基本的な条件の中で最も重要な,聴こえの問題,コミュニケーション障害の重要性については,聴こえの問題を担当すべき耳鼻咽喉科医ですら感知していないのが現状である。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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