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文献詳細

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科75巻10号

2003年09月発行

Current Article

内耳におけるグルタミン酸神経伝達と神経障害

著者: 松原篤1

所属機関: 1弘前大学医学部耳鼻咽喉科学教室

ページ範囲:P.682 - P.691

文献概要

I.はじめに

 内耳には聴覚を司るコルチ器と平衡覚を司る末梢前庭器が存在するが,これらの感覚器で受容された情報は,グルタミン酸を神経伝達物質として感覚細胞から求心性神経に伝えられると考えられている1~4)。このようにグルタミン酸は内耳における神経情報伝達に不可欠な物質である一方で,興奮性アミノ酸などの特性から,過剰なグルタミン酸の曝露が内耳の神経障害に関与することも明らかになってきた5,6)。内耳におけるグルタミン酸神経伝達およびグルタミン酸神経障害の解明は,難聴やめまいの病態と結びつく可能性があり臨床的にも興味深いことである。

 グルタミン酸作動性神経が豊富に存在する中枢神経系では,グルタミン酸が豊富なニューロンと,グルタミンが豊富なグリア細胞とでグルタミン酸-グルタミンサイクルが形成される。すなわち,グルタミン酸はグルタミンを前駆物質としてニューロンで合成され,興奮性神経伝達物質としてシナプス間隙に放出され情報伝達を司る。シナプス間隙のグルタミン酸は,グリア細胞のグルタミン酸トランスポーターで取り込まれグルタミンに変換される。最近の研究によって,内耳においては感覚細胞と支持細胞から構成されるグルタミン酸-グルタミンサイクルの存在が明らかになった3,7)。この考え方はグルタミン酸神経伝達を理解するうえで非常に重要であり,このサイクルに関連する種々の物質(グルタミン酸,グルタミン酸受容体,グルタミン酸トランスポーター)はグルタミン酸神経障害と密接な関係にある。われわれは,グルタミン酸神経伝達に関連する種々の物質の内耳における局在を,金コロイドを用いた後包埋法による免疫電子顕微鏡学的手法(イムノゴールド法)を用いて検討してきた。この方法は細胞内小器官レベルにおける物質の局在を明らかにできるだけではなく,光顕レベルでは困難であった定量的な解析も可能であるという特色がある8)

 本稿では,この方法を用いて内耳におけるグルタミン酸-グルタミンサイクルについて述べるとともに,グルタミン酸神経障害のモデルである内耳虚血動物を用いた研究から,内耳の神経系に与えるグルタミン酸の影響についても言及する。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1316

印刷版ISSN:0914-3491

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