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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科75巻11号

2003年10月発行

雑誌目次

特集 耳鼻咽喉科・頭頸部外科におけるナビゲーション手術

1.耳鼻咽喉科・頭頸部外科におけるナビゲーション手術の現状

著者: 友田幸一

ページ範囲:P.781 - P.786

I.はじめに

 ナビゲーションシステムは,手術部位の確認をリアルタイムに行いながら,安全で確実な手術ができることから,技術と経験に頼っていた外科手術に変革を与えようとしている。特に耳鼻咽喉科・頭頸部領域は,眼窩,頭蓋底などの危険部位が隣接し,また重要な神経,血管が走行するなど解剖学的に複雑で個人差が多く,そのため副損傷があとを絶たない。また構造的に骨組織で囲まれ,臓器変形が少ないためナビゲーション手術に適している。歴史的に手術用ナビゲーションの概念がHorsley-Clarkにより提唱されてから約100年,日本ではニューロナビゲーターが開発されて約18年が経過する。一方耳鼻咽喉科・頭頸部領域では,1993年にZinreichら1)が副鼻腔の手術に初めて使用し,その後欧米で盛んに使われるようになり,多くの報告もみられる。国内では1995年に西﨑ら2)が外耳道奇形手術に,黄川田ら3)が鼻内副鼻腔手術に使用した。現在国内の耳鼻咽喉科医療施設のうち,約40施設でナビゲーションシステムが使用されている。筆者らの施設でも1997年から導入し,現在までに270例の症例に応用してきた(表1)。

 今日,その適応は拡大され鼻・副鼻腔手術以外に耳科・側頭骨手術,頭頸部・頭蓋底手術,顎・顔面外傷のほかに生検,手術教育,トレーニング,遠隔医療にまで応用されてきている。

 本稿では,ナビゲーションシステムおよび周辺機器の現状,手術の現状,課題と将来展望などについて述べる。

2.鼻手術におけるナビゲーションとその将来

著者: 鴻信義

ページ範囲:P.787 - P.792

I.はじめに

 鼻・副鼻腔手術は,耳鼻咽喉科領域の手術ではナビゲーションシステムの応用が最も早く,1993年のZinreichら1)の報告に始まる。本邦では1998年頃より内視鏡下鼻内手術(以下,ESSと略)における有用性が報告されてきた2~4)。鼻・副鼻腔は元来,解剖学的に複雑な構造を有し,個体差も大きい5)。また眼窩,前頭蓋,視神経などの重要な周辺臓器と副鼻腔を隔てているのは薄い骨壁のみであり,髄液鼻漏や視器損傷といった手術時副損傷の報告があとを絶たない6,7)。しかし,硬性内視鏡が描出する鮮明な術野の画像に,ナビゲーションシステムが表示する3次元的な術野のオリエンテーションが加わることで,より安全で的確な手術操作が可能となる。

 本稿では,鼻科領域におけるナビゲーション手術の現状と今後の展望について述べる。

3.側頭骨におけるナビゲーション手術とその将来

著者: 福田諭

ページ範囲:P.795 - P.798

I.はじめに

 近年の医療の最新のキーワードの1つとして,robotics,ロボット手術,低侵襲内視鏡下手術,コンピューター(支援)外科,tele-medicine(surgery),画像誘導手術(image guided surgery),ナビゲーション手術,オープンMRIなどの分野が挙げられ,まさに急速な進歩とその臨床応用がなされてきている。

 わが国における耳鼻咽喉科領域でのナビゲーション手術は,鼻・副鼻腔領域での報告が圧倒的に多く1),欧米の報告2,3)を除き側頭骨領域の手術ナビゲーションの報告は現在まで極めて少ない。

 われわれは,1999年7月から側頭骨領域の手術において,光学式ナビゲーションシステムを使用して4~7)既に46例を経験している。本稿では耳・側頭骨手術における具体的方法,結果,有用性,問題点,適応などについて述べていきたい。

4.頭頸部外科におけるナビゲーション手術とその将来

著者: 伊藤卓 ,   岸本誠司

ページ範囲:P.799 - P.803

I.はじめに

 脳神経外科領域において,以前から使用されていたナビゲーションシステムが,約10年前より耳鼻咽喉科領域においても用いられるようになってきた。しかし,その応用は主に耳や鼻・副鼻腔領域に限られており,頭頸部領域,特に頭蓋底手術における報告はまだ少ない。頭頸部領域には眼窩・頭蓋底など解剖学的に複雑な領域が多く,多くの重要な神経・血管が走行し,しかも個人差が大きい。また,手術を行う際に複数科にまたがって行われる場合も多く,それぞれの医師個人の解剖学的イメージをリアルタイムに共有することは難しい。このような特殊な領域において安全で確実な手術を行うために,ナビゲーションシステムは重要な手術支援機器となり得ると考えられる。

 われわれは,2000年12月より頭頸部・頭蓋底領域において光学式ナビゲーションシステムを14例に応用し,その有用性を確認することができた(図1)。対象症例は全て頭蓋底進展腫瘍であり,術式別の内訳は,前頭蓋底手術5例,中頭蓋底手術1例,側頭骨手術3例,側頭下窩手術3例,Le Fort I 型骨切り手術2例で,ほとんどの症例が再発例であった。これらの経験と文献的考察から本システムの有用性,問題点,将来性などについて解説する。

目でみる耳鼻咽喉科

頸部より発生した悪性孤立性線維性腫瘍

著者: 上田祥久 ,   豊住康夫 ,   中島格

ページ範囲:P.762 - P.763

 孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor:SFT)は従来胸膜中皮由来とされ,限局性胸膜中皮腫と呼ばれた。近年,結合組織由来の間葉系腫瘍として報告され,そのほとんどが胸膜発生である。SFTは耳鼻咽喉科・頭頸部領域でも鼻腔1,2),副鼻腔3,4),上咽頭5),眼窩6,7)の報告例が散見される。

 今回われわれは,頸部より発生したmalignant SFT(MSFT)の1例を経験したので報告する。

Current Article

末梢性顔面神経麻痺における水痘帯状疱疹ウイルス再活性化動態の解析と治療への応用

著者: 古田康

ページ範囲:P.766 - P.779

I.はじめに

 Ramsay Hunt症候群(以下,Hunt症候群)は水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の再活性化により発症し,耳介や口腔咽頭の帯状疱疹,末梢性顔面神経麻痺,難聴や耳鳴およびめまいなどの第8脳神経症状を3主徴とする“古典的”疾患である。典型的なHunt症候群は病因が明らかで診断も容易であり,治療もさほど工夫を要さない疾患と考える向きもあると思われる。しかし,Hunt症候群の発症パターンおよび随伴症状の発現には様々なパターンがみられること,またBell麻痺と比べて麻痺の回復が不良であることから,その病態の解析およびそれに基づいた新たな治療法の開発が望まれている。また,VZV再活性化が原因の顔面神経麻痺でありながら帯状疱疹を欠き,臨床所見からはBell麻痺との鑑別が困難であるzoster sine herpeteもHunt症候群の一亜型とみなすことができ,その早期診断法の確立が重要である。近年,human immunodeficiency virusや種々の肝炎ウイルスなど新たなるウイルス疾患の蔓延化に伴い,ウイルス感染動態の解析方法に目を見張る進歩がもたらされてきた。特に,real-time PCR法を用いてウイルス量を簡便に定量することができるようになり,病状の解析,抗ウイルス剤による治療効果のモニタリングなどに臨床応用されつつある1)。筆者らは,Hunt症候群およびzoster sine herpete症例におけるVZV再活性化動態の解析に本法を応用し,その病態を解明すべく研究を行ってきた。

 本稿では,筆者らのこれまでの研究成果について述べるとともに,将来的な課題としての治療への応用についても言及した。

原著

外耳道に寄生したフタトゲチマダニの1症例

著者: 中山貴子 ,   川口博史 ,   斎藤一三 ,   石井豊太 ,   新田光邦 ,   栗原里佳 ,   岡本牧人

ページ範囲:P.809 - P.811

I.はじめに

 外耳道異物は,日常診療において時々遭遇する疾患であり,異物の種類は有生異物と無生異物に分けられる1)。有生異物の中でもマダニ類は異物としての存在のみでなく,リケッチア感染症の日本紅斑熱やスピロヘータ感染症であるライム病などを発症する可能性があり注意すべきであるとされている2~6)

 今回われわれは,外耳道に寄生したフタトゲチマダニの1症例を経験したので報告する。

小児ベル麻痺症例に対するステロイド療法の臨床的評価

著者: 水町貴諭 ,   川原弘匡 ,   古沢純 ,   飯塚桂司

ページ範囲:P.813 - P.816

I.はじめに

 ベル麻痺とは,急性に発症した顔面神経麻痺のうち,麻痺原因となり得る急性や慢性の中耳炎,頭蓋や側頭骨外傷,中枢性や末梢性神経疾患,自己免疫疾患,帯状疱疹性麻痺(Ramsy Hunt syndrome)のような誘因が除外でき,かつはっきりとした病因が同定できないものを称する1)

 小児においては小児科を優先的に受診し,ステロイドを処方されることが多いが,小児症例の予後は成人症例に比較して良好であり,ステロイドの有効性は疑問視されている2~4)

 小児顔面神経麻痺症例に対するステロイド使用の臨床効果の比較報告は少なく,小児ベル麻痺症例のみで厳密に行われた報告では,生後24~74か月までの小児42例を対象としたUnivarら3)の報告の1編のみである。

 今回われわれは,当院を受診した小児ベル麻痺症例に対して治療法別の予後を臨床的に検討し,ステロイド投与が治癒率や改善期間に及ぼした影響とその有用性について検討したので報告する。

アブミ骨手術後ピストンの脱落を繰り返した1症例

著者: 藤本千里 ,   伊藤健 ,   斉藤祐毅 ,   石本晋一 ,   山岨達也 ,   奥野妙子

ページ範囲:P.817 - P.822

I.はじめに

 アブミ骨手術は耳硬化症や中耳奇形に対して聴力改善目的に施行されるが,術後経過中に聴力低下をきたした症例も少数ながら認められる。そのような症例は,再手術の際に原因が発見される場合が多い。その1つとしてピストンなどのプロテーゼの偏位や脱落がある。

 今回われわれは,アブミ骨手術後ピストンの脱落を右2回,左1回繰り返した1症例を経験した。この症例について,われわれが行った脱落予防の対策を紹介する。

舌根部小唾液腺由来低悪性腺癌症例―正中下口唇下顎骨舌切断法によるアプローチ

著者: 李昊哲 ,   河田了 ,   西川周治 ,   林歩 ,   竹中洋 ,   辻求

ページ範囲:P.823 - P.827

I.はじめに

 舌根部腫瘍は,手術のアプローチが難しく,その選択に難渋することがある。広い術野を得ることに越したことはないが,整容上の問題も考慮しなければならない。悪性度の高い腫瘍では,ある程度の侵襲もやむを得ないが,良性腫瘍や悪性度の低い腫瘍では,術野の確保とともに,低侵襲な手術が望まれる。舌根部へのアプローチ法としては口内法,下顎正中離断を用いる方法,舌骨上咽頭切開もしくは咽頭側切開を用いる方法などがあるが1,2),それぞれに利点,欠点がありその選択には症例ごとの十分な検討が必要である。

 今回われわれは,舌根部低悪性腺癌に対して正中下口唇下顎骨舌切断法(median labiomandibular glossotomy)によるアプローチを用いて腫瘍を摘出した症例を経験したので報告する。

連載 シリーズ/耳鼻咽喉科診療に必要な他科の知識

⑩耳鼻咽喉科的治療を要する頸椎疾患

著者: 松本守雄 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.831 - P.835

I.はじめに

 頸椎は咽頭から上部食道のすぐ後方に位置するため,頸椎疾患あるいは外傷に伴う咽頭・食道の障害を生じる場合がある。その診断,治療に際しては耳鼻咽喉科医の協力が不可欠であることが多い。

 本稿では頸椎の解剖や加齢変化について概説し,さらに耳鼻咽喉科的治療が必要となる代表的な頸椎疾患や病態,手術による合併症などについて症例を呈示しつつ言及する。

鏡下咡語

考え方の違い

著者: 神崎仁

ページ範囲:P.806 - P.808

 物事を議論する際に考え方の違いはあるのが当然とされているが,医療においてはあまりいろいろの考え方があると説明を受ける患者は当惑しセカンドオピニオンが必要と感じるであろう。このようなことがあると医事紛争の裁判でも困ることが知られている。たとえば,鑑定書が書かれる場合にも経験やそれに基づく考え方による場合にはかなり見解が分かれることがある。結論的には難しいことはわかるが,標準的な治療ガイドラインがないことが問題となる。昨年2月に行われた日耳鼻の医事問題ワークショップで取り上げられた急性喉頭蓋炎による訴訟例の討議の中でも,救急医の書いた鑑定書が耳鼻咽喉科医のものより被告にとって厳しいものとなっていることが指摘された(森山寛教授)。呼吸困難に対する治療の標準的ガイドラインの作成が困難なこともあるが,実際に作られていないことが判断の違いを生んでいると感じた。どの時点で,どのような方法(気管切開か挿管かなど)で気道を確保するかは,その患者が置かれている状況,医師の技術レベル,設備などによっても異なるので,標準的なものを作ることは難しいであろう。しかし,このようなものがないため,特に裁判経験の少ない専門家は彼らのレベルを基準に考えて医療水準を高めてしまうことがあり得る。医療水準についての判断も流動的であるが,専門家ほどそれを高くしてしまう傾向があるかもしれない。ある弁護士によると,厚生労働省の研究班で発表されたもの,学会の教育セミナーで講演されたものは医療水準にされ得るという。そういうことであれば,全員参加はあり得ない学会で行うセミナーには,頭に「教育」というのをつけるのを避けて臨床セミナーとしておくほうが無難である。このように,考え方の違いはいろいろなところで感じられるが,ここでは診断,治療についての考え方の違いについて述べてみたい。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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