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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科75巻13号

2003年12月発行

雑誌目次

特集 電子カルテの現在と将来

1.電子カルテの現況

著者: 坂部長正

ページ範囲:P.934 - P.940

I.はじめに

 医療系雑誌やマスコミに「電子カルテ」の用語が登場してから数年が経過し,珍しくなくなってきた。医療機関で診療情報の開示が積極的になされるようになり,電子カルテと情報開示の用語がペアーで使われることもしばしばである。

 筆者は,耳鼻咽喉科の臨床医として勤務しながら大規模オーダシステムを開発稼働した経験をもち,現在は医療情報系の大学で病院情報システム関連の講座の教鞭をとる者として,手書き病歴(以下,カルテと略)の電子化に関して,これまでの経緯,現況,既存の医療情報システムとの関連,将来像などについて解説する。

 なお,JOHNS 18巻8号(2002年)は1),「情報化時代の診療」をテーマに特集を組み,筆者は「診療の情報化時代」というテーマで執筆したが,本稿では,特に「電子カルテ」について焦点を絞り述べることとする。

2.診療所での対応

著者: 加納滋

ページ範囲:P.942 - P.956

I.はじめに

 「電子カルテ」という言葉は一般的に使われるようになっており,社会的にも定着してきている。しかし定義に関しては,2003年に日本医療情報学会の見解や1996年の日本保健医療福祉情報システム工業界の定義などが出ているものの,現時点では公的な定義はない。米国では1991年に米国電子カルテ協会が定義を出しているが,日本では1999年に規制緩和の一環として旧厚生省からの通知とガイドラインがある程度である(表1)。そのため,以前から学会でも対象とする内容が一致しないまま議論されるという問題点が現在も存在する。本稿では一応「電子カルテ」とは「受診の動機となった疾病にかかわらず,診療施設を訪れた人に関係する情報を記録し二次利用も考慮して保存しておくもの」というものとする。

 旧厚生省から1999年に出された通知・ガイドラインには電子カルテという言葉はなく,「診療録等の電子媒体による保存」と表現されている。そこには基準としての3条件(真正性,見読性,保存性)が記載されており,ガイドラインには各項目の説明がなされている:1.真正性(入力者と作成責任者とが異なる場合は,入力者・作成責任者の識別・認証が行われること,入力内容の確定・虚偽入力等の防止など),2.見読性(保存された内容を必要に応じて肉眼で見読可能な状態に容易にできること,そのための情報管理など),3.保存性(法令等で定められた期間にわたって,真正性を保ち,見読可能にできる状態で保存されることなど)。これらを各施設の自己責任のもとに行うことになっている(電子カルテなどを製作したメーカーではない点に注意が必要)。なお,この通知・ガイドラインの全文は,http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1104/h0423-1_10.htmlに掲載されており,短いので電子カルテについて考えたり論議したりするうえで一読するとよい。

3.病院での対応

著者: 阿部和也

ページ範囲:P.959 - P.962

I.はじめに

 2001年12月に,厚生労働省より「保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン(最終提言)」1)が示された。このグランドデザインでは2016年までに400床以上の病院の60%以上に,また診療所の60%以上に電子カルテを普及させることを目標としている。中規模以上の病院に対し,今後ますますIT化への圧力が高まることが予想される。

4.医育機関での対応

著者: 渡辺行雄 ,   中川肇

ページ範囲:P.965 - P.971

I.はじめに

 1999年に厚生省がカルテの電子媒体保存を容認し,これを積極的に推進するようになって以来,総合病院および診療所を中心に電子カルテの導入が進行しつつある。また,日本医師会も「医療におけるITの基本」として電子カルテを位置づけ,独自のシステムの開発を推進している。

 富山医科薬科大学附属病院では,2004年初頭からの電子カルテ導入を目指して現在準備中である。本稿では,本学における電子カルテシミュレーションの状況と,医育機関(以下,大学病院と略)を含めて総合病院,診療所など先行して導入された諸機関の事例から,電子カルテの実際と大学病院における対応について概説する。

目でみる耳鼻咽喉科

摘出口蓋扁桃病理標本における放線菌の存在

著者: 中島成人 ,   藤山大祐 ,   高原耕

ページ範囲:P.930 - P.931

 放線菌(Actinomyces)は嫌気性グラム陽性菌で口腔内の常在菌として知られている扁桃の陰窩内にも1.3~24.6%に存在が認められており1),さらに扁桃実質内にも存在しているとの報告もある2,3)

 今回,当科で摘出した口蓋扁桃の病理標本を再鏡見し,放線菌菌塊の有無を検討したので参考に供したい。

原著

両側難聴を主訴とした神経線維腫症2型の1症例

著者: 渡邊健一 ,   波多野吟哉 ,   深田信久 ,   川崎剛 ,   青木秀治 ,   八木聰明

ページ範囲:P.978 - P.980

I.はじめに

 聴神経腫瘍は聴性脳幹反応検査,MRI検査などの普及に伴い,早期に発見される機会が増えてきている。聴神経腫瘍は頭蓋内腫瘍の5~10%を占め,小脳橋角部腫瘍の60~75%を占めるとされている1)。一方,神経線維腫症は聴神経腫瘍を合併しやすい疾患として知られている。神経線維腫症にはvon Recklinghausen病に代表される皮膚病変を伴い,一側性の聴神経腫瘍をもつ1型と,皮膚病変の合併が少なく両側の聴神経腫瘍を生ずる2型に分類され,2型の発生率は1型の10%未満と比較的少ない2,3)

 今回われわれは,難聴を主訴とした神経線維腫症2型の1症例を経験したので報告する。

鼻腔内に腺癌を伴った鼻性頭蓋内合併症の1例

著者: 山本一博 ,   平山方俊 ,   佐藤賢太郎 ,   井口芳明

ページ範囲:P.983 - P.986

I.はじめに

 鼻性頭蓋内合併症は,近年の抗生物質の進歩に伴い減少の傾向にある。しかし,ひとたび発症すると急速な経過をたどる症例も存在する。

 今回われわれは,鼻腔内に悪性腫瘍を伴った鼻性頭蓋内合併症の1例を経験したので報告する。

重症の糖尿病に併発したGradenigo症候群の1例

著者: 湯浅貴文 ,   大越俊夫 ,   枝松秀雄 ,   久保達彦 ,   川崎主税 ,   鮫島寛次

ページ範囲:P.989 - P.991

I.はじめに

 Gradenigo症候群は外転神経麻痺,三叉神経痛,耳漏を3主徴とし,錐体尖端炎によって生じる症候群であるが,抗生物質の普及した近年ではほとんどみられなくなった。しかし,糖尿病患者の増加や耐性菌の出現,高齢化社会など,感染症に対し抵抗性の弱い宿主の増加で,現在でもなお錐体尖端炎は稀ではあるがみられることに注意しなければならない。

 今回われわれは,重症な糖尿病患者でGradenigo症候群を呈した症例を治療したので報告する。

頸部筋肉内脂肪腫の1例

著者: 干谷安彦 ,   平山裕次 ,   長谷川稔文 ,   雲井一夫

ページ範囲:P.992 - P.995

I.はじめに

 筋肉内脂肪腫は脂肪腫全体の約2%を占める良性軟部組織腫瘍である1)。緩徐に発育し,また無痛性の腫瘤であることから放置されやすく,多くの場合,受診時には比較的大きな腫瘤として認められる。発生部位として大腿四頭筋などの四肢の大きな筋に起こることが多い2,3)。本邦での頭頸部領域における筋肉内脂肪腫の報告は,1987~2003年までの16年間に検索し得た限りでは13例に過ぎない。そのうち10例は舌に発生した筋肉内脂肪腫であった4,5)

 今回われわれは,右頸部の肩甲挙筋に発生した筋肉内脂肪腫を経験したので報告する。

連載 シリーズ/耳鼻咽喉科診療に必要な他科の知識

⑫内科:冠動脈疾患(放散痛)

著者: 原英彦 ,   中村正人

ページ範囲:P.997 - P.1002

I.はじめに

 冠動脈疾患は心筋に酸素を供給する冠動脈の異常に起因する疾患群であり,動脈硬化が主因である。典型的な症状は労作時の胸部圧迫感であるが,胸部だけではなく頸部,歯1),肩,稀には耳痛2)もあるため耳鼻咽喉科や歯科を初診する例がある。多くの冠動脈疾患は病歴のみである程度の診断が可能なため,その病歴聴取には慎重を要し,疑いがあれば循環器医にコンサルトすることが大切である。外来診療において緊急を要する症例も含まれることから,本稿では症状の出現様式,関連痛の出現機序,冠動脈疾患,特に急性冠症候群acute coronary syndrome:ACS(心臓突然死,急性心筋梗塞,不安定狭心症などの冠動脈粥腫(プラーク)の破綻と,それに伴い形成される血栓を基盤として生じる一連の疾患概念)について概説する。

鏡下咡語

喉頭鏡使用150年の歴史余話

著者: 渡辺勈

ページ範囲:P.974 - P.975

 1854年(安政元年),声楽家・音楽学校教授のガルシア(Emanuel Garcia 1805-1906)が,直射日光と2つの鏡の組み合わせによって,自己の喉頭内部の観察に成功して以来,150年が経過しようとしている1~4)

 50周年(1904)および100周年(1954)には,わが国においても記念行事があり,それぞれの記録が残されている5,6)

 筆者はこれらの歴史資料を通覧して,先人の業績や,わが国における耳鼻咽喉科学の成長を偲ぶとともに,日本医事週報などにより当時の内外の情報も調査して,若干の考察を加え,さらにその後の半世紀の喉頭鏡検査の変貌を体験して,間接喉頭鏡の存在意義について考察したことを述べてみたい。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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