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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科75巻9号

2003年08月発行

雑誌目次

特集 いびきの治療

1.いびき(睡眠時呼吸障害)の病態

著者: 石塚洋一

ページ範囲:P.601 - P.609

I.はじめに

 いびきは昔からあった現象で,戦国時代には,戦場での決戦の前夜,武将のいびきによって明日の勝利を占ったともいわれている。いびきは古くから一種の生理的現象として捉えられ,酒豪がよくかくいびきが,いかにも男性の健康のシンボルのように考える傾向さえみられた。しかし,睡眠時無呼吸症候群(SAS)1)が提唱されて以来,いびきと睡眠時無呼吸との関連性が明らかになり,現在ではいびきは睡眠時呼吸障害の典型的な症状であるという認識に変わってきた。

 通常はいびきをかかない人でも,疲労時,飲酒時などにはいびきをかくことが多い。したがって,いびきは全て病的な現象とはいえないが,上気道狭窄を起こしているための睡眠中のサインと考える必要がある。SASの中でも臨床上最も問題になるのは閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)で,常習的ないびきがその主症状でもある。

 上気道を専門としている耳鼻咽喉科医は,いびきと密接に関連している上気道狭窄を的確に診断し,OSASやOSASの予備軍に対しても積極的に診断と治療に関わっていく必要がある。

 本稿ではいびき(睡眠時呼吸障害)の病態について言及する。

2.UPPP―われわれの方法

著者: 竹田昌彦 ,   西山耕一郎 ,   岡本牧人

ページ範囲:P.611 - P.615

I.はじめに

 UPPPはuvulopalatopharyngoplastyの略称であり,口蓋垂軟口蓋咽頭形成術と呼称されている。Fujitaら1)が命名した術式で,成人の中咽頭,特に軟口蓋部の狭窄による閉塞性睡眠時呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome:以下,OSASと略)に対する代表的手術法である。手術方法は施設により,あるいは術者によりその手技が異なる。その後も多くの人々から追試,改変の報告がみられる。

3.レーザーによる口蓋垂口蓋形成術(LAUP)

著者: 池田勝久 ,   鈴木雅明

ページ範囲:P.617 - P.620

I.はじめに

 無呼吸を伴わない“いびき”や睡眠時無呼吸症候群に対する局所麻酔下の口蓋垂口蓋形成術(laser-assisted uvulopalatoplasty:LAUP)が1990年前半より欧米で行われてきた1~6)。手術手技が簡単で,手術時間が短く,危険性が少なく,外来手術が可能などの利点がある。

 一方,その後の多くの研究によりLAUPの効果はいびきだけであり,しかも長期間の経過によって有効率が低下することが報告され7),睡眠時無呼吸には無効であることが明らかとなった8)。LAUPの適応には慎重な配慮が必要であり,術後の合併症を回避するための繊細な手術手技も重要である。さらに,最近試みているハーモニックスカルペルを用いた口蓋垂口蓋形成術に関しても言及する。

4.舌根正中切除術あるいは舌扁桃切除術

著者: 鈴木賢二

ページ範囲:P.621 - P.625

I.はじめに

 睡眠時無呼吸症候群で手術療法の適応となるのは閉塞型あるいは一部の混合型の睡眠呼吸障害症例である。それらのうち,その閉塞部位が舌根部にあるものに対しては,舌前方移動術,舌扁桃切除術あるいはレーザー舌根正中切除術(laser midline glossectomy:LMG,midline glossectomy:MLG)が用いられている。

 本稿では,いわゆるレーザー舌根正中切除術の適応と有用性につき,これまでにわれわれが経験した症例と文献的に報告されている成績を検討し,さらに最近われわれが先端ブレードの形状を改善し,汎用している超音波凝固切開装置を用いた舌扁桃切除術についてその詳細を述べる。

5.CPAP

著者: 宮崎総一郎

ページ範囲:P.627 - P.631

I.はじめに

 いびきや無呼吸(睡眠呼吸障害)の主な原因・要因として,肥満,加齢,鼻閉,アデノイド増殖,口蓋扁桃肥大,舌扁桃肥大,軟口蓋形態異常,反回神経麻痺,顎・小顎症,下顎後退,巨舌ならびに甲状腺機能低下症などがある。さらに睡眠時の仰臥位,過度のアルコール摂取が増悪因子となる。治療に当たっては,症例ごとに無呼吸をきたす病態や原因が異なることを十分に把握し,個々の病態や原因に応じた治療を選択することが大切である。

 経鼻持続陽圧呼吸nasal CPAP(continuous positive airway pressure:以下,CPAP)は1981年,Sullivanら1)によって睡眠時無呼吸患者への有効性が報告された治療法である。CPAPは鼻マスクを通し,ブロワー(空気供給器)からチューブ,鼻マスクを介して一定圧を生み出す量の空気を送り込むと,閉塞した咽頭が開大して(pneumatic splint)呼吸できるようになる(図1)。図2のように,重症の睡眠時無呼吸症例で,閉塞性無呼吸のため睡眠時の動脈血酸素飽和度が50%近くまで,一晩で300回以上低下していたものが,CPAP使用により無呼吸は消失し,酸素飽和度低下も改善,熟睡が得られるため睡眠時間の短縮を認めた。基本的には対症療法であるが有効性が確立され,適用が容易であること,副作用や合併症が少ないことから,睡眠時無呼吸の初期治療として広く使用されている。

目でみる耳鼻咽喉科

自然寛解を認めたランゲルハンス細胞組織球症(LCH)の1症例

著者: 原浩貴 ,   山下裕司 ,   村上直子 ,   今手祐二

ページ範囲:P.598 - P.599

 ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis:LCH)は,組織球増殖性疾患の1つであり,ランゲルハンス細胞の反応性増殖が病因とされる疾患である。小児に好発し,主な病変部位は骨,皮膚,中枢神経,肺,骨髄,肝,リンパ節などであるが,耳鼻咽喉科領域では側頭骨病変の報告が多い1)

 今回われわれは,右側頭部に発症し自然寛解がみられたLCHの1例を経験したので報告する。

原著

Osler病による鼻出血の2症例―粘膜そう爬術の経験

著者: 干谷安彦 ,   中川貴博 ,   石田春彦 ,   天津睦郎

ページ範囲:P.639 - P.643

I.はじめに

 遺伝性出血性血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia)は,1)皮膚および粘膜の多発性毛細血管拡張,2)反復する鼻出血,3)常染色体優性遺伝による家族内発症を3主徴としている。塩谷ら1)によると,本邦での報告例数は1989年までに文献上68家系255症例報告されていると述べている。実際に日常臨床上遭遇することは少ないと思われるが,鼻出血を主訴とすることが多く,治療に難渋することが多い耳鼻咽喉科とは関連の深い疾患である。1901年のWilliam Osler2)による報告以来,一般にOsler病,あるいはその後Rendu-Osler-Weber病(ROW病)と呼ばれるようになった3)

 今回,鼻出血を主訴として来院しOsler病と考えられた2症例に対し粘膜そう爬術を施行した結果,良好な治療成果が得られたので報告する。

乳児舌根囊胞の1例

著者: 瀧正勝 ,   小泉直人 ,   山道至 ,   和田志乃 ,   西澤嘉四郎 ,   長谷川達央

ページ範囲:P.646 - P.649

I.はじめに

 乳児の舌根囊胞は気道の閉塞により呼吸困難をきたし重篤な状態に陥り,死に至ることもある。

 今回われわれは,囊胞摘出後も呼吸状態の改善に苦慮した1例を経験したので報告する。

生後2か月で発症した咽後膿瘍の1症例

著者: 東野正明 ,   伊藤尚 ,   高巻京子

ページ範囲:P.651 - P.654

I.はじめに

 咽後膿瘍は,上気道閉塞を伴い重篤な経過をとることがある。的確な診断のうえ,早急に適切な治療が必要な疾患である。乳幼児に多いとされてきた本疾患も中高年に増加している傾向にある1)。乳幼児では抗生剤の発達によって比較的稀な深頸部感染症となった。しかし,耐性菌が増加してきており,発生原因や原因菌に変化が起きているため1),時に重篤化することもあり,十分な注意が必要である。

 今回われわれは,生後2か月で発症した咽後膿瘍の1症例を経験したので報告する。

医療ガイドライン

話題の感染症up-to-date

著者: 山口惠三 ,   松本哲哉 ,   古谷信彦

ページ範囲:P.658 - P.663

I.はじめに

 感染症の出現と伝播は,宿主と病原菌,そして環境の相互関係に大きく影響される。したがって,社会環境の変化は必然的に感染症の変貌に深く関わってきた。近年の爆発的な人口の増加とそれに伴うヒトの移動や大規模な森林開発は,ヒトと動物の生態系コントロールを大きく乱しつつある。自然の破壊は,それまで密林の奥深くに潜んでいた未知の病原体やその保菌動物あるいは昆虫などにヒトが直接あるいは間接的に接触する機会を増大ならしめた。エボラウイルス,エイズウイルスなど人類がかつて遭遇したことのない新たな病原体による感染症の出現もそのことと関係があるように思われる。また,コレラ,デング熱,黄熱病などのように古くから存在していたものの一部の地域に限られていた感染症の世界的再流行は,国際交流の活性化に伴う輸入感染症の増加として捉えることができる。わが国においても,通常は経験することがないような感染症がしばしば国外から持ち込まれ,診断の遅れが原因で不幸な転帰をとった例もかなり報告されている。

連載 シリーズ/耳鼻咽喉科診療に必要な他科の知識

⑧眼科

著者: 藤本尚也

ページ範囲:P.665 - P.667

I.はじめに

 眼と副鼻腔はその解剖学的位置から様々な疾患を引き起こし,常に眼主訴,眼疾患の原因として副鼻腔疾患を考えなくてはならない。視力障害,視野障害,複視,眼痛,眼球偏位,眼球突出,眼瞼腫脹,眼瞼下垂などの主訴,鼻性視神経症,眼球運動障害,眼窩蜂窩織炎などの疾患が考えられる。また,眼窩疾患の副鼻腔への影響として眼窩底骨折がある。唾液腺分泌障害と涙液分泌障害を伴うSjögren症候群がある。

鏡下咡語

頭頸部がん治療の40年

著者: 髙橋廣臣

ページ範囲:P.634 - P.635

 医者になって約40年間,頭頸部の腫瘍の診療ばかりをやってきて,そろそろ終わりに近づきました。丁度,鏡下咡語を書いてみないかと勧められましたので,この期に整理してみようと考えました。

 頭頸部がんの発生頻度は,筆者らの調査では全悪性腫瘍の約10%です。また諸家の報告を加えて勘案すると,疾患別では甲状腺癌,喉頭癌,口腔癌が多く,下咽頭癌,中咽頭癌,悪性リンパ腫,上顎洞癌,上咽頭癌,唾液腺癌などがこれに続きます。がんセンターが中心になって行っている全国レベルの調査では,口腔癌が一番多いようになっていますが,全国に80もある医科大学の耳鼻咽喉科の大半が調査に参加していないのに,がんをよくやっている歯科大学のほとんどが参加しているという事情によっていると思います。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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