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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科76巻2号

2004年02月発行

雑誌目次

特集 人工聴覚手術の現況

1.埋め込み型骨導補聴器

著者: 戸叶尚史 ,   喜多村健

ページ範囲:P.88 - P.93

I.はじめに

 生体組織が埋込まれたチタンに融け込むという能力はスウェーデンのBranemarkらによって報告され1),「Osseointegration」として提唱された。それによると,「Osseointegration」は生体骨と荷重を伴っている移植片表面間の構造的かつ機能的な分子レベルの接続であるという。そして,現在のところチタンは,経皮的に骨に埋め込む素材として,最も安全性が確立されている。

 埋め込み型骨導補聴器(bone-anchored hearing aid:BAHA)はチタンのこのような性質を利用した半埋め込み型の骨導補聴器で(図1,2),1977年にスウェーデンにおいて最初の骨導端子の埋め込みが行われて以来,現在までに10か国以上で10,000例以上の手術が施行されている。特に,米国において1996年にメディケアによる保険償還コードが付与され,事実上の保険適用になってからその数は加速度的に増加している。

2.人工中耳

著者: 齋藤武久

ページ範囲:P.94 - P.99

I.はじめに

 人工中耳(middle ear implant)は世界に先駆けて1983年に日本で開発された。人工中耳は埋め込み型補聴器(implantable hearing aid)と同義語であるが,日本で臨床応用されたものは,中耳機能を代行するという意味で「人工中耳」と命名されたため,現在でも国内では人工中耳と呼ばれることが多い。国産の人工中耳の出力には限界があるため,埋め込みの適応は鼓室形成術によって聴力改善が期待できない混合性難聴で骨導域値が50dB以内の症例に限定されている。

 しかし欧米各国ではその後,中等度から高度の感音性難聴の患者を対象とした高出力型の埋め込み型補聴器が数種類,開発,臨床応用されており,国際的にはこれら全てがimplantable hearing aidとして統一されている。これらは使用するトランスデューサーの種類によって,圧電式と電磁式に大別され,埋め込みの方式によって半埋め込み式と全埋め込み式に分けられる1~3)

 本稿では,本邦で開発されたリオン型人工中耳について解説する。

3.人工内耳手術の現況

著者: 東野哲也

ページ範囲:P.102 - P.107

I.はじめに

 人工内耳は高度感音難聴者に対する医療として既に確立された感があるが,ハード面,ソフト面ともに毎年のようにversion upする人工臓器医療特有の問題点を抱えていることも事実である。

 本稿では,わが国の人工内耳医療の現況について,主に外科的な立場から論じる。

4.脳幹インプラント

著者: 熊川孝三 ,   高橋優宏 ,   関要次郎 ,   小松崎篤

ページ範囲:P.109 - P.113

I.はじめに

 内耳よりさらに中枢の聴神経由来の高度感音難聴については人工内耳も効果がなく,これまで外科的治療は困難であった。このような難聴の外科的治療法として,聴神経よりも脳の聴覚中枢に近い蝸牛神経核(延髄での聴覚ニューロンの中継核)の表面に電極を置いて固定し,直接に電気刺激して聴覚を取り戻す人工臓器がある。これを,われわれは聴性脳幹インプラント(auditory brainstem implant:以下ABIと略)と呼んでいる。

目でみる耳鼻咽喉科

嫌気性菌による鼻中隔・眼瞼膿瘍

著者: 石川敏夫 ,   金沢英哲 ,   市村恵一

ページ範囲:P.84 - P.85

 鼻中隔膿瘍は抗生物質の進歩と,普及により最近では極く稀な疾患となりつつある1)。また眼瞼膿瘍は乳幼児,高齢者,compromised hostで発症しやすい2)

 今回,健康な成人男性に発症した嫌気性菌による鼻中隔および眼瞼膿瘍を経験したので報告する。

原著

拍動性耳鳴を主訴とした頸動脈海綿静脈洞瘻の1症例

著者: 小見山彩子 ,   生井明浩 ,   大塚健司 ,   中村裕子 ,   大木光義 ,   山内由紀 ,   伊藤勇 ,   鴫原俊太郎 ,   木田亮紀

ページ範囲:P.119 - P.122

I.はじめに

 日常の診療における耳鳴はそのほとんどが自覚的耳鳴であり,その治療に難渋する場合が多い1)。しかし,音源が聴取できる他覚的耳鳴では適切な治療法により改善し得るのもある1)

 今回われわれは,拍動性耳鳴を主訴とする症例に対して脳血管造影を行い,音源を同定し血管内手術によって耳鳴が消失した1例を経験したので報告する。

喉頭蓋多形腺腫の1例

著者: 松本理恵 ,   假谷伸 ,   青地克也 ,   笠井紀夫 ,   西﨑和則

ページ範囲:P.124 - P.127

I.はじめに

 多形腺腫は,頭頸部領域においては耳下腺や顎下腺などの大唾液腺に好発する。大唾液腺以外では口腔,咽頭,口唇などの小唾液腺に由来すると思われる報告がみられるが,喉頭原発の報告は極めて稀で,本邦において本症例を含め18例報告されているのみである1~17)(表1)。

 今回われわれは,喉頭蓋に発生した多形腺腫を直達鏡下に摘出し良好な結果を得たので,文献的考察を含め報告する。

逆生歯牙を核とする鼻石の1症例

著者: 渡邊弘子 ,   竹内直信 ,   近藤健二 ,   前田陽一郎

ページ範囲:P.130 - P.133

I.はじめに

 鼻石症は日常臨床では比較的稀な疾患である。鼻石は鼻腔内にとどまった異物などが核となりその周囲に分泌物中のリン酸カルシウム,炭酸カルシウム,またはマグネシウムなどが沈着し形成されると考えられている1)

 今回われわれは,鼻腔内に逆生歯牙を核として鼻石を形成したと考えられる症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

突発性難聴に対するPGE1の有効性―ステロイド無効例への使用―

著者: 平位知久 ,   木村信次 ,   野田礼彰 ,   森直樹 ,   藤井守

ページ範囲:P.137 - P.141

I.はじめに

 突発性難聴に対して,これまでに確立された治療法はなく,ステロイド,循環改善剤,高圧酸素療法,星状神経節ブロック,ビタミン剤など種々の治療が各施設ごとに行われているのが現状である。この中でも,ステロイドが治療の主体となっている施設は多い。しかし,症例によってはステロイドで十分な効果が得られないことがある。PGE1は内耳の血流を改善する目的で突発性難聴の治療に使用されてきた1~3)。これまでにも,ステロイド無効例に対してPGE1を投与したという報告はあるが4,5),これらはステロイドを7日間以上投与したのちに,PGE1の投与を開始している。

 今回,ステロイドによる治療開始3日目と,より早期の段階でステロイドの効果判定を行い,無効例に対してPGE1の併用投与を開始した。その結果,良好な聴力成績を得ることができた。突発性難聴に対する新しい治療法の1つとして提案したい。

内耳障害が先行した再発性多発軟骨炎の1症例

著者: 樋口仁美 ,   坂田俊文 ,   菅村真由美 ,   加藤寿彦

ページ範囲:P.143 - P.147

I.はじめに

 再発性多発性軟骨炎(relapsing polychondritis:以下RPと略)は,全身の軟骨組織および軟骨と共通した成分を含む組織が系統的に侵される原因不明の疾患である。軟骨組織にはコラーゲンが多く含まれているが,RPでは抗コラーゲン抗体が検出される例があること1,2),炎症部位に抗体,補体の沈着がみられること3),膠原病を合併する例があること4),一般に副腎皮質ホルモン剤が有用であることなどから,自己免疫性疾患という考えが支持されている5)

 再発性多発軟骨炎は,耳介軟骨,鼻軟骨,気道軟骨の炎症と変形,眼症状などを代表とする多彩な臨床症状を呈し,再発,寛解を繰り返し進行する。また,それぞれの症状発現時期が不定なので,本症の存在が念頭になければ診断に苦慮することも多い。

 われわれは,初発症状としては比較的少ない内耳障害が先行した再発性多発軟骨炎の1症例を経験したので報告する。

シリーズ 耳鼻咽喉科における日帰り手術・短期入院手術

②内視鏡による鼻内手術

著者: 早野嘉晃 ,   鈴木賢二

ページ範囲:P.149 - P.151

I.はじめに

 日帰り手術・短期入院手術は,医療技術の発達と社会的・経済的要請から今後ますます増えていくものと予想される。

 耳鼻咽喉科疾患の多くは全身的には問題がなくリスクも低いことから,他科と比較しても日帰り手術・短期入院手術を行いやすいと思われる1~3)

 本稿は日帰り,もしくは短期入院で行える鼻内手術として,内視鏡を使用した副鼻腔手術と下鼻甲介粘膜手術について述べる。

 現在,慢性副鼻腔炎の手術治療は内視鏡による鼻内手術(endoscopic sinus surgery:以下,ESSと略)が主流となっており,従来の経上顎洞的副鼻腔手術(Caldwell-Luc手術)と比較して手術侵襲も小さく,日帰り手術や短期入院手術のよい適応となる。しかし,重篤な全身性疾患がある例,術後の出血が心配される例,日帰り手術・短期入院手術では患者が不安をいだく例,退院後に担当医と患者の連携が保てない例などでは,その対象から除外する必要がある。

鏡下咡語

高円宮さまと「1000人のチェロ」

著者: 髙坂知節

ページ範囲:P.116 - P.118

1.プロローグ

 未曾有の大震災となった阪神淡路大地震の復興を支援し,犠牲となった大勢のひとびとを追悼するとともに,世界の平和を願うチェロだけのオーケストラによる演奏会が被災地神戸市で開催されたのは丁度6年前のことである。

 この会は全世界のチェリストに集合を呼びかけて1,000人のチェロ愛好家を集めてオーケストラを編成して演奏しようというもので,世界的にみても大変に珍しい企画といえる。演奏会は3,000人の聴衆を前に1,013人のチェリストが数々の名曲を披露して大成功の裡に終了したが,この時に高円宮憲仁親王殿下が3人の皇女さまとともに演奏者の輪に加わり,ひとびとの注目を集めるとともに大変な感動を呼び起こされた。高円宮さまはチェロ奏者としても卓越した才能を示されたが,この演奏会を契機に設立されたNPO「国際チェロアンサンブル協会」の名誉総裁に就任され,「このような愛と平和を奏でる素晴らしい音楽会が都市から地方に向けて,さらに海を越えて世界に向けて大きく広がっていくことを心から念願している」と挨拶された。

 真に残念なことに,その後高円宮さまは激しいスポーツの最中に突然のアクシデントにみまわれて急逝されたが,「国際チェロアンサンブル協会」が宮さまのご遺志を継いで同様の演奏会を続けることになり,今回初めて東北地方へとチェロオーケストラによる演奏の輪が広げられた。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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