(3)寄生虫とアレルギー
著者:
遠藤朝彦
,
今井透
,
渡辺直煕
,
名和行文
,
本田靖
,
新田裕史
ページ範囲:P.213 - P.220
I.はじめに
耳鼻咽喉科臨床の現場でアレルギー疾患患者の増加がいわれて久しい。今日では,耳鼻咽喉科の多くの施設で外来患者の第1位を占めるといわれている。つい30~40年前,「日本にはアレルギー性鼻炎や花粉症患者は少ない」といわれていたことを考えると隔世の感がある。しかし,われわれの診療圏では,現在もアレルギー性鼻炎や花粉症が増え続けているかというと,かなり以前から微増ないし横ばい状態にあり,急激な増加傾向はみられていない。つまり,少なくとも当地では,過去のある時点において発症者数が急増したことを意味している。事実,東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科(以下,慈恵医大耳鼻科と略)の疫学調査によれば,「昭和40年代から50年代にかけてアレルギー性鼻炎や花粉症が急増した」との調査結果がある1)。では,なぜそれ以前はアレルギー性鼻炎や花粉症が少なかったのか,なぜある時点で急増したのか,その後なぜ増加傾向が鈍化したのか。その理由は今日でも明確にされておらず,素因のほかに大気汚染,住環境,栄養,気候など種々取りざたされている。
その理由の1つに寄生虫感染の問題がある。
われわれは,文部科学省の科学技術振興調整費による「スギ花粉症克服に向けた総合研究」において,研究の一環としてスギ花粉症と寄生虫の問題を取り上げ,既にその一部を報告した2)。本稿では,その後の調査結果を加え,若干の知見も得られたので報告する。