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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科76巻6号

2004年05月発行

雑誌目次

特集 頭頸部癌の治療指針―私たちはこうしている― 1.頭頸部癌は増えているか

1)頭頸部癌の疫学

著者: 吉野邦俊

ページ範囲:P.345 - P.350

I.はじめに

 わが国で初めて癌(悪性新生物)が死因の第1位を占めるようになったのは1981年であるが,それ以降死因のトップを続けており,第2位の心疾患,第3位の脳血管疾患を大きく引き離しつつある(図1)。最新の「人口動態統計」によると,2001年の全癌死亡数は300,658人で,男性181,393人,女性119,265人であり,それぞれ総死亡数の34.3%,27.0%を占めている。すなわち3人に1人は癌のために命を落とす時代になっており,その対策が目下の急務となっている。それでは,果たして頭頸部癌についてはどうなっているのであろうか。癌専門施設の現場では,喉頭癌よりも口腔,咽頭癌(特に下咽頭癌)が最近目立つような印象があるが,本当にそうなのか。上顎癌は減少しているが,最近の傾向はどうなのか。

 本稿では,最近の頭頸部癌の動向について疫学のデータを基に,臨床の立場から述べたい。

2)癌のリスクファクター

著者: 吉見逸郎 ,   祖父江友孝

ページ範囲:P.353 - P.359

I.はじめに

 頭頸部癌の主要なリスクファクターとして喫煙と飲酒は古くから知られている。特に喫煙に関しては,今日では紙巻たばこ(cigarette)の大量生産・消費に伴い肺癌との関連が代表的となっているが,パイプたばこや葉巻など紙巻たばこ以外のたばこの使用が主だった時代には,例えば19世紀のフランスでは口腔をはじめとした頭頸部の癌が「喫煙者のがん」と呼ばれていた1)ことなどからも,喫煙と癌との関連の強さだけでなく,関心をもたれていた歴史の長さが窺える。

3)癌予防の原則

著者: 西野輔翼

ページ範囲:P.361 - P.366

I.はじめに

 癌予防のための対策としてはいろいろな方法があり,一般に一次予防(癌が発生しないようにするための予防)と二次予防(癌が発生してもその癌で死ぬことがないようにするための予防。早期発見・早期治療を目標とした癌検診はその1例である)に分類されている。当然,頭頸部癌の予防に関しても,これらの方法を状況に応じて総合的に活用して対応するということが原則である。

 一次予防において特に重要な点は,生活習慣の適正化ということに集約される。多くの疫学的研究の結果から,緑黄色野菜および果物を多く摂取することにより頭頸部癌のリスクが低減する可能性のあることは確実であり,生活習慣に定着させることが積極的に推奨される1)。なお,ビタミンCやβ-カロテンの摂取量と頭頸部癌の発生率の間に負の相関があることも報告されているので,これらの成分を豊富に含有している緑黄色野菜や果物を摂取することの意義は大きいといえる1)。一方,喫煙が頭頸部癌のリスクファクターとして確定的であることが示されており,特に飲酒を伴う喫煙習慣の場合には極めて危険性が高くなることが見出されていることは,本特集の別の項目にも記載されているとおりであり,これらの生活習慣を改善することが重要である1)

目でみる耳鼻咽喉科

孤立性線維性腫瘍の1例

著者: 中島恭子 ,   金子功 ,   豊田実 ,   近松一朗 ,   二宮洋 ,   鎌田英男 ,   古屋信彦

ページ範囲:P.330 - P.331

 孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor)は間葉系細胞由来の良性腫瘍で,耳鼻咽喉科領域では比較的稀な疾患である1,2)。今回眼窩に発生した孤立性線維性腫瘍の1例を経験したので報告する。

Current Article

ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)の頭頸部癌への関与について

著者: 峯田周幸

ページ範囲:P.333 - P.333

I.はじめに

 今では癌は遺伝子の疾患であることを疑う人はいない。遺伝子の異常が積み重なり,およそ5~10個になると悪性転化してくる1)といわれている。遺伝子に異常を引き起こすものには,放射線や紫外線の被曝,発癌物質の曝露,ウイルス感染などが挙げられる。近年の分子生物学の進歩により,それらの発癌機構が少しずつ解明されている。

 頭頸部癌では飲酒,喫煙,ウイルス感染が3大発癌因子である。そして,喉頭癌と喫煙,上咽頭癌とEpstein-Barrウイルス(EBV)感染,下咽頭癌と飲酒といったように,それぞれの部位によって発癌因子の依存程度が変化する。ヒト乳頭腫ウイルス(human papillomavirus:HPV)は子宮頸癌の発癌ウイルスとして知られているが,子宮頸癌だけでなく種々の癌への関与が認められる。そして全癌の15%がHPV感染に起因する2)といわれている。

 本稿ではHPVの頭頸部癌への関与について述べる。

原著

頸部腫脹を主訴とした混合性結合組織病(MCTD)の2症例

著者: 水足邦雄 ,   長西秀樹 ,   斉藤秀行

ページ範囲:P.373 - P.376

I.はじめに

 頸部腫瘤,特に頸部リンパ節腫脹は耳鼻咽喉科において高頻度に遭遇する徴候であり,代表的な鑑別疾患として,急性および慢性炎症に伴う頸部リンパ節炎や悪性リンパ腫,頭頸部悪性腫瘍の転移などの腫瘍性疾患が挙げられる。しかし,自己免疫疾患など耳鼻咽喉科医にとってなじみの薄い疾患の1徴候として頸部リンパ節腫脹がみられた場合,診断は困難なものになる。

 今回われわれは,頸部腫脹を主訴とした混合性結合組織病(mixed connective tissue disease:以下,MCTDと略)の症例を2例経験したので,これらの経過を報告するとともに,類似疾患との鑑別に注目し文献的考察を行った。

側頭骨線維性骨異形成症例

著者: 竹内彩子 ,   武田靖志 ,   赤木成子 ,   小川晃弘 ,   西﨑和則 ,   田中義人 ,   橋村伸二 ,   國友忠義

ページ範囲:P.377 - P.380

I.はじめに

 線維性骨異形成症(fibrous dysplasia:FDと略)は原因不明の疾患で,一般に下肢の長管骨に単発性に発生する。耳鼻咽喉科領域では上顎骨,下顎骨に発生することが多く1),側頭骨に限局する例は稀とされている2)

 今回われわれは,左側頭骨に発生したFDの1例を経験したので報告する。

耳垢腺癌の1例

著者: 山田浩二 ,   愛場庸雅 ,   久保武志 ,   中野友明 ,   和田匡史 ,   鵜山太一 ,   福家智仁 ,   八川公爾

ページ範囲:P.381 - P.384

I.はじめに

 外耳道に発生する癌は比較的少なく1),病理組織学的には扁平上皮癌が最も多く,腺癌は稀である1)

 今回われわれは,外耳道に発生し乳突洞にまで進展した耳垢腺癌の1例を経験したので報告する。

新生児口腔底類皮囊胞症例

著者: 佐藤尚志 ,   吉本公一郎 ,   任書晃 ,   安田誠 ,   宇野敏行 ,   久育男

ページ範囲:P.387 - P.389

 類皮囊胞は胎生期に外胚葉成分の中胚葉への迷入または外傷,炎症,手術などにより深部に扁平上皮が迷入することにより形成されるとされている1)。顎口腔領域の囊胞性疾患のうち,6~7%が類皮囊胞であり,平均年齢は28歳で,小児には稀である2)。最近当科において新生児口腔底類皮囊胞の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。 類皮囊胞は胎生期に外胚葉成分の中胚葉への迷入または外傷,炎症,手術などにより深部に扁平上皮が迷入することにより形成されるとされている1)。顎口腔領域の囊胞性疾患のうち,6~7%が類皮囊胞であり,平均年齢は28歳で,小児には稀である2)。最近当科において新生児口腔底類皮囊胞の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

原発性喉頭NK/T細胞リンパ腫の1例

著者: 平杉嘉平太 ,   西尾健志 ,   岡野博之 ,   板東秀樹 ,   豊田健一郎 ,   廣田隆一 ,   馬場均 ,   宇野敏行 ,   久育男

ページ範囲:P.392 - P.396

I.はじめに

 喉頭に発生する悪性リンパ腫は稀であり,全喉頭悪性腫瘍の1%未満といわれている1)。その中でもNK/T細胞リンパ腫は,鼻・副鼻腔に生じた報告例は散見できるが2),喉頭領域における報告は非常に少ない。

 今回われわれは,診断に苦慮した原発性喉頭NK/T細胞リンパ腫の1例を経験したので報告する。

手術・手技

当科において耳介composite graftによる鼻翼再建を行った症例の検討

著者: 藤原貴史 ,   前田求 ,   桑江克樹 ,   飯沼義博 ,   後藤龍学

ページ範囲:P.397 - P.401

I.はじめに

 2つ以上の異なる組織を一塊として移植することを複合組織移植(composite graft)というが,耳介から採取したcomposite graftによる鼻翼欠損の修復は,局面の形状や皮膚軟骨の構造が類似している点や,手技の簡便さからよく行われる方法である1~3)

 今回われわれは,当科で鼻翼部への耳介composite graftを行った症例について,その手術手技を中心に検討を行ったので報告する。

シリーズ 耳鼻咽喉科における日帰り手術・短期入院手術

⑤扁桃摘出術

著者: 野中聡

ページ範囲:P.403 - P.407

I.はじめに

 近年,欧米諸国においては財政的あるいは医学的な理由から手術入院期間を短縮させる動きが盛んとなり,多くの予定手術が日帰り手術として計画されるようになってきている。わが国でも,医療費の削減と患者の日常生活からの逸脱をできる限り軽減させようとする目的から平均在院日数を減らす動きは本格化し,日帰り手術あるいは短期手術入院の実地臨床への導入が考慮されてきている。しかし,日帰り手術の実現については患者側および医療者側からいくつかの問題点が指摘されている。患者側からの問題点としては,帰宅後の合併症に対する患者の不安増加や術後ケアなど家族の負担増加などである。また,医療者側の観点からは,合併症を警戒して手術操作が消極的になり得る点や,若手医師への定型的手術の教育機会が減少する点などの問題がある。このような日帰り手術に関する問題点の多くは短期入院手術を実施することで解決されるため,短期入院手術の導入はわが国では,比較的スムーズに進行するであろうことは容易に予測される。このよう社会的状況の中,扁桃摘出術に対しても短期入院手術を導入しようとする動きが盛んである。

 本稿では,口蓋扁桃摘出術の手術方法を概説するとともに,短期入院にするための要点も述べたい。

鏡下咡語

オンディーヌの呪い

著者: 野村恭也

ページ範囲:P.370 - P.371

 Ondine's curseという演題がはじめて医学会で発表されたのは,1962年1月26日のこと,学会はWestern Society for Clinical Research(Carmel, California),発表者はSeveringhausとMichellであろう。彼らは覚醒時に長時間にわたって無呼吸となるが,意識すると呼吸ができる3例を報告し,これは延髄のCO2化学受容体の障害によるものであろうとした。演者は,この症状をはじめて記載したのはドイツの伝説で,水の精オンディーヌが夫から呼吸の自律機能を奪い,意識しないと呼吸ができないようにしたと述べている。睡眠時無呼吸症候群の中枢型である。

 そのオンディーヌの呪いとはそもそも如何なるものであったのか。拙著「聴脳力」を書くときに調べた資料では次のようなストーリーであった。すなわち,オンディーヌは湖水の近くで見かけた美男の若い騎士ローレンス卿と結婚するが,ローレンス卿は結婚に際して自ら,「目覚めているあいだ,息をするたびにあなたへの愛と忠節を誓いましょう」とオンディーヌに言った。しかし年が経ち,オンディーヌとの間に子供ができ,彼女の美貌が衰えてきた頃ローレンス卿は彼女を裏切ったのである。オンディーヌは夫に向かって「あなたは目覚めているあいだ,息をするたびに私への忠節を誓うと約束しました。しかしその誓いを破りましたから目覚めているあいだは息ができるが,一度でも眠ったら息は止まり死ぬでしょう」と呪いの言葉を浴びせたのである。彼女にはまだこれを実行するだけの魔力が残っていたのである。もとはといえば卿が自分で誓った言葉であり,オンディーヌはそれを忠実に実行したということになる。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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