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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科76巻7号

2004年06月発行

雑誌目次

特集 頭頸部癌の治療指針―私たちはこうしている― 2.舌癌T2N0M0症例の治療指針―予防郭清の是非と機能障害への配慮―

1)腫瘍の大きさと予防郭清

著者: 朝蔭孝宏

ページ範囲:P.421 - P.423

I.はじめに

 これまで舌癌T2N0症例の頸部の取り扱いについては様々な議論が交わされてきた。積極的に予防郭清を推奨するもの1)からwait and seeを推奨するもの2,3)まで見解の幅は広く,いまだコンセンサスが得られていないのが実情である。

 本稿では腫瘍の大きさと予防郭清という与えられたテーマに沿って見解を述べる。

 予防郭清の是非については前述のように見解が分かれており,舌癌T2N0症例全例に対して一律に論じることは避けるべきと考える。厚生省がん研究「頭頸部がんの頸部リンパ節転移に対する標準的治療法に関する研究」舌がんに対する標準的頸部郭清術(プロトコール)においては,舌癌earlyT2N0症例では頸部郭清は行わず,舌癌lateT2N0症例では上頸部郭清を行うと定めている。しかし,earlyT2症例とlateT2症例の定義が定められていない。そこで腫瘍の長径と腫瘍の厚みの2つの因子について,頸部潜在転移との相関を検討し,予防郭清の適応について考察した。

2)上頸部郭清(SOHND)の適応

著者: 河田了

ページ範囲:P.425 - P.430

I.はじめに

 多数の舌癌症例を有しているがんセンター系病院の,そのステージ別生存率はほぼ一定している1)。これは,舌癌に対して概して同様な治療が施行されていることを意味している。しかし逆にいえば,治療法に何らかの工夫を加えなければこれ以上の成績の向上が望めないともいえる。舌癌の予後に頸部リンパ節の制御が大きく関わっていることはよく知られた事実であり,N0症例に対する予防的頸部郭清術が予後を改善する重要なポイントである。

 本稿では,舌癌に対する予防的頸部郭清術の是非,問題点,さらに機能障害に対する配慮などについて述べる。

3)センチネルリンパ節の同定と郭清範囲

著者: 鎌田英男

ページ範囲:P.433 - P.436

I.はじめに

 頭頸部領域の癌の組織型は扁平上皮癌であり,転移様式はリンパ行性が多いと考えられている。すなわち原発巣摘出の際,リンパ節転移の有無を判断することが重要となる。頭頸部癌では摘出後に再建手術が必要な例も多いことから,原発巣の状態からN0症例でも既に微小なリンパ節転移をきたしている可能性が高い症例では,予防的な所属リンパ節郭清術を施行することも多い。しかし,この結果頸部の疼痛や顔面の浮腫,頸部の絞扼感などが生ずる。

 舌癌は,口腔癌の中で最も頻度が高く半数を占めるとされる。舌癌T2N0M0で深部浸潤のある例では,予防的郭清術が行われることも多い。舌癌では比較的早期から頸部リンパ節転移をきたすこと(約20%の症例に潜在的転移が発見されるとされる)が知られていることと,原発巣の深達度が頸部リンパ節転移に関係があるとされるためである。1990年,Shah1)は頸部リンパ節郭清でのリンパ節転移を検索し,口腔癌ではレベルⅠ58%,レベルⅡ51%,レベルⅢ26%,レベルⅣ9%,レベルⅤ2%と報告している。平成8年度厚生省がん研究助成金真島班での舌癌頸部郭清術252例での解析では,潜在的転移陽性率は37%で,T2例では40%であった2)。転移が認められた部位は,レベルⅠ13%,Ⅱ19%,Ⅲ14%,Ⅳ6%であった。以上から,舌癌N0例で予防的郭清を行う場合には上頸部郭清術が推奨されている。しかしT1,T2の早期舌癌に対する頸部リンパ節の取り扱いは,施設間で差があるのが現状である。Fukanoら3)は,原発巣の深達度が5mm未満の症例では頸部リンパ節転移は6%に過ぎなかったが,5mmを超える症例では転移が65%にみられたと報告している。上述のごとく頸部リンパ節転移の制御は舌癌治療成功の鍵として重要な因子である。

 しかし,実際には頭頸部領域でのリンパ流の流れは複雑で,原発部や組織型によっても転移様式は異なり,郭清が必要か必要でないかを術前に判定することは困難であった。最近この解決法として,センチネルリンパ節の概念による術中診断法が試みられている。

3.ルビエールリンパ節転移の治療方針―下咽頭癌を中心に―

1)術後再発の治療

著者: 横島一彦 ,   中溝宗永 ,   宮下次廣

ページ範囲:P.438 - P.442

I.はじめに

 下咽頭癌の予後を左右する因子として,咽頭後リンパ節転移の有無が重要であることは知られており1~3),咽頭後リンパ節に転移を認める症例や転移の可能性が高い症例に対して,多くの施設で同部の郭清が行われている4)。しかし,その対処法には施設間で相違があるように思われる。それは,咽頭後リンパ節郭清の有用性や郭清後の合併症の頻度,また咽頭後リンパ節非郭清例の同部再発が予後にどの程度重要で,再発に対する救済治療が可能であるかが明らかになっていない5)からであると思われる。

 本稿では,術前に咽頭後リンパ節転移を認めず,下咽頭癌再建手術時に咽頭後リンパ節郭清を行わなかった症例で,経過観察中に同部再発を認めた症例を対象に,われわれの救済治療の経験を述べ,下咽頭癌治療における咽頭後リンパ節の取り扱いについて考察する。

2)ルビエールリンパ節(咽頭後リンパ節)郭清の適応

著者: 岸本誠司

ページ範囲:P.443 - P.449

I.はじめに

 下咽頭癌をはじめとする咽頭癌では,咽頭後リンパ節,とりわけ外側咽頭後リンパ節(ルビエールリンパ節)が一次リンパ節として転移の好発部位であることが古くから指摘されていた1)。頭頸部癌取扱い規約2)によれば,この咽頭後リンパ節群は頭頸部癌の所属リンパ節の中の咽頭周囲リンパ節として分類されている。しかし,このリンパ節群は頸部の主要なリンパ経路である深頸リンパ節群から離れているため,通常は一連の系統的な頸部郭清術の中に組み込まれることはない。そのため,この部位のリンパ節郭清は一般的な手技としてまだ確立されておらず,またその適応も明確となっていない。

 しかし近年になり,外科的治療の対象となる下咽頭癌におけるルビエールリンパ節転移について関心が高まり,その病態について各施設から多くの臨床データが集まるようになってきた。

 本稿では,本邦を中心とした下咽頭癌のルビエールリンパ節転移に関する報告をまとめて,この領域の郭清の適応について検討する。

3)ルビエールリンパ節転移と予後

著者: 千々和秀記

ページ範囲:P.451 - P.455

I.はじめに

 咽頭後リンパ節,特に外側咽頭後リンパ節はルビエールリンパ節として知られている。頭頸部悪性腫瘍の中で特に咽頭癌はしばしばルビエールリンパ節転移をきたすことが述べられているにもかかわらず,ルビエールリンパ節転移と予後についての報告は少ない。

 咽頭癌の中で,上咽頭癌は解剖学的位置から転移をきたしやすく,中咽頭癌,下咽頭癌は粘膜下リンパ流が上方へ向かうことから転移をきたしやすい。特に下咽頭癌では,ルビエール転移の頻度は高く,頸静脈リンパ節群とともに予後を左右する因子とし臨床的にも重要と考えられている。

 本稿では,当院で治療を行った下咽頭癌症例におけるルビエールリンパ節転移について臨床的に検討した結果を報告し,主に予後について考察する。なお,本論文ではルビエールは所属リンパ節として取り扱った。

目でみる耳鼻咽喉科

上咽頭を貫通した顔面銃創の1例

著者: 金子功 ,   宮下元明 ,   近松一朗 ,   安岡義人 ,   古屋信彦

ページ範囲:P.418 - P.419

 わが国では銃所有に対する規制が厳しいため,欧米に比し銃による外傷ははるかに少ないといわれている。

 今回われわれは,散弾銃弾を顔面に被弾し,散弾が上咽頭を貫通したが幸運にも一命をとりとめた症例を経験したので報告する。

原著

Michel型内耳奇形症例

著者: 東野正明 ,   伊藤尚 ,   高巻京子 ,   三好昌子

ページ範囲:P.462 - P.466

I.はじめに

 内耳奇形は,日常診療ではあまり遭遇しない稀な疾患である1)。内耳奇形の中でもMichel型内耳奇形は極めて少ないとされており2),その症例報告も極めて少ない。本症は形成不全の程度が高度で,発生初期の聴小囊の形成前後の段階でその後の発達が停止したものと考えられている3)

 今回われわれは,一側性のMichel型内耳奇形と考えられる症例を経験したので報告する。

口蓋扁桃に転移した大腸癌の1例

著者: 熊切健一 ,   峯田周幸 ,   武林悟 ,   荒木圭介 ,   宝積健 ,   森聖哲

ページ範囲:P.468 - P.471

I.はじめに

 口蓋扁桃に発生する悪性腫瘍の多くは原発性であり,転移性腫瘍は稀である1)

 今回われわれは,左口蓋扁桃に転移をきたした大腸粘液癌の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

診断に苦慮した喉頭verrucous carcinomaの1例

著者: 山崎愛語 ,   原浩貴 ,   三浦正子 ,   池田卓生 ,   橋本智子 ,   山下裕司

ページ範囲:P.473 - P.478

I.はじめに

 Verrucous carcinomaは極めて高分化な,扁平上皮癌の稀な亜型とされている。耳鼻咽喉科領域では口腔内に好発するが,喉頭で発生することは少なく,その発生頻度は喉頭癌の約1~2%に過ぎないとされている1)

 今回われわれは,声門間隙をほぼ閉塞する巨大な腫瘍のため呼吸困難をきたし来院したverrucous carcinomaの1例を経験した。本例では病理学的確定診断に苦慮した。

頸部交感神経鞘腫の1例

著者: 平木信明 ,   宇高毅 ,   北村拓朗 ,   藤吉達也 ,   吉田雅文 ,   鈴木秀明

ページ範囲:P.481 - P.485

I.はじめに

 副咽頭間隙に発生する腫瘍のうち神経鞘腫は稀な腫瘍ではないが,特徴的な臨床症状に乏しいことが多いため,神経脱落症状を伴っていない症例では術前に診断を確定することは非常に困難である。しかし神経鞘腫であった場合,手術により神経の脱落症状を余儀なくされることも想定されるため,術前に組織型や由来神経を含めた診断を推測することは,十分なインフォームド・コンセントを行ううえで重要と考えられる。

 今回われわれは,術前に画像診断によって由来神経まで推測し得た交感神経鞘腫を経験したので本症例の病態について考察するとともに,神経鞘腫における画像診断の意義について検討し報告する。

シリーズ 耳鼻咽喉科における日帰り手術・短期入院手術

⑥音声外科手術

著者: 三枝英人

ページ範囲:P.487 - P.492

I.はじめに

 音声外科手術の目的は,単に例えば腫瘍や腫瘤を切除するとか,感染巣を除去するというような,いわゆる“病気を治す”治療ではない。種々の疾患により声が出ない,大声が出せない,高い声が出ない,声が続かないなどといった音声に対する要求や“障害”そのものを直接改善させることを目的とする。したがって,治療によって,さらに音声が劣化したり,その他の障害が出現するといった状況は許されない。また,当然,治療効果の確実性,治療の安全性,低侵襲性が要求される。このため,音声外科手術を行うに当たっては,患者の音声障害の病態生理をよく把握し,それについての治療の妥当性について,よく検討する必要がある。また,音声の改善を第1の目的とはするが,喉頭のもつより根源的な機能である気道としての機能や嚥下機能が障害されてはならないし,またこれらとの調和が十分保たれなくてはならない。日帰りや短期入院での手術治療においては,特に上記のことについて配慮がなされている必要がある。

 本稿では音声外科手術を,主に喉頭内腔から声帯にアプローチする方法(喉頭微細手術など)と,外切開により喉頭の外方からアプローチする方法(喉頭枠組み手術など),注入術の3つに大きく分類して概説する。

鏡下咡語

大いなる流れ

著者: 神山五郎

ページ範囲:P.458 - P.460

1.どもりからのスタート

 東京都千代田区立麹町尋常小学校で元気もよいほうであった私,その頭の中にいつでも渦巻いていたのは,話したいときに限って邪魔をする悪魔,「どもり」であった。歯科医師で子煩悩な父,熱心に兄と私を愛する母,この亡き父母はじめ優しい兄の3名は私のこの問題を知り,ともに悩んでくれていた。その証拠には,昭和初期にはまだ珍しかった耳鼻咽喉科における特殊外来,音声・言語外来を東京大学や慶應義塾大学の付属病院の中に見つけてくれていた。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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