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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科76巻9号

2004年08月発行

雑誌目次

特集 頭頸部癌の治療指針―私たちはこうしている― 6.甲状腺癌頸部リンパ節転移症例の治療指針―郭清をどこまで行うか―

1)内視鏡下手術の適応と郭清の有無

著者: 北野博也

ページ範囲:P.603 - P.607

I.はじめに

 頸部内視鏡外科手術は,従来の頸部手術と全く異なる手技で行われる新しい術式である。本術式は,従来の頸部手術に伴う瘢痕による美容的苦痛,ならびに筋拘縮による不快感から患者を解放することができる。高度先進医療として認可されて以来,多くの施設で腹腔鏡を応用した頸部手術が実施されるようになった。

 頸部内視鏡外科手術には大別して2つの方法がある。全ての手術行程を腹腔鏡下に頸部より離れた位置から,腹腔鏡用の手術器具を用いて行う完全内視鏡下頸部手術(total-video endoscopic neck surgery)と,鎖骨付近の被覆される部位でかつ指が到達する範囲を切開し,従来の手術器具を用い内視鏡補助下に行う内視鏡補助下頸部手術(video-assisted endoscopic neck surgery)がある。

 本稿では,完全内視鏡下に甲状腺癌ないしは甲状腺癌を疑う手術を行う際に問題となる手術適応と郭清の有無について述べる。

2)新鮮例について

著者: 鹿野真人 ,   鈴木政博

ページ範囲:P.609 - P.613

I.はじめに

 甲状腺癌は他の固形悪性腫瘍に比べ比較的予後がよい一方で,早期からリンパ節転移をきたすため,従来,頸部に対しては積極的に頸部郭清術が施行されてきた1,2)。しかし,近年の臨床的検討により,リンパ節郭清により得られる治療予後に大きな変わりがないことから,リンパ節郭清の適応やその郭清範囲についての議論があり,その結果,様々な考えのもとにリンパ節転移に対する治療が行われている。

 本稿では甲状腺癌のおよそ95%を占めるといわれる分化癌,特に乳頭癌について甲状腺のリンパ流とリンパ節転移の実態,さらに最近の話題のセンチネルリンパ節の結果や稀な部位へのリンパ節転移の報告から,新鮮例での至適な郭清範囲やその術式について述べる。

3)再発例からの検討

著者: 平野滋 ,   永原國彦 ,   北村守正 ,   森谷季吉

ページ範囲:P.615 - P.619

I.はじめに

 甲状腺癌の多くは分化癌であり,そのほとんどは乳頭癌である。その予後は極めて良好であり,10年累積生存率は90%を超える1)。甲状腺癌における頸部リンパ節転移の頻度は約40%(若年では60~90%との報告もある)と高率であるが,必ずしも予後を左右する因子とはならない1,2)。また,頸部リンパ節再発をきたしてもsalvage手術は可能なため,初回手術で徹底的な,あるいは予防的なリンパ節郭清は必要としないことが多い。しかし一方では,甲状腺分化癌では約30%が再発をきたし,そのうちの約10%は死亡するといわれている3,4)。したがって,頸部再発は間違いなく予後を悪くする兆候と考えられる。初回手術においては少なくとも郭清範囲内の頸部に再発をきたさないようにリンパ節郭清を行う必要があるし,頸部リンパ節再発をきたした場合には,適切なsalvageが必要である。

 本稿では,当科における甲状腺癌リンパ節再発症例を振り返り,初回手術時に留意すべき点,および再発した場合の対処について述べる。

目でみる耳鼻咽喉科

鼻腔血管外皮細胞腫

著者: 石島健 ,   佐藤宏昭 ,   黒瀬顕

ページ範囲:P.586 - P.587

 血管外皮細胞腫(hemangiopericytoma)は血管周皮細胞腫,血管周皮腫などとも呼ばれる血管由来の稀な腫瘍で,そのうち頭頸部に生じるものはさらに少ない。

 今回われわれは,鼻腔に発生した血管外皮細胞腫を外科的に治療する機会を得たため,症例を呈示するとともに若干の文献的考察を行った。

Current Article

咽喉頭異常感への取り組み

著者: 大越俊夫

ページ範囲:P.590 - P.601

I.はじめに

 咽喉頭異常感とは,患者の咽喉頭における様々な不定愁訴である。呼吸路,食物通過路に当たる咽頭・喉頭部は外界の刺激に曝されやすいため,いったん異常感を感じると訴えは執拗となる。現代社会ではストレスの増加が多く,ストレスにより引き起こされる自律神経機能異常が咽喉頭部の異常感を引き起こすともいわれている1,2)

 本疾患は三宅3)のいうように,「こころ」と「からだ」の要因が複雑に絡み合っており,単一の成因で説明できないことも多く,耳鼻咽喉科における心身症の代表的疾患とされている(図1)。

 本疾患に対し最も注意すべき点は咽喉頭部の悪性腫瘍の存在であり,これを見落としてはならない。しかし,局所所見がない場合,患者は「気のせい,神経質」と放置されている場合も多く,本疾患に対する耳鼻咽喉科医の取り組み方には不十分なものも多い。

 本稿ではまず咽喉頭異常感全体について述べ,その後われわれの施設で研究を行ってきた「下気道由来の咽喉頭異常感」と「咽喉頭異常感患者の心理的要因」について述べる。

原著

咽頭痛,嚥下困難にて耳鼻咽喉科を受診した破傷風の1例

著者: 糸数哲郎 ,   喜友名朝則 ,   小田口尚幸 ,   宮城裕二

ページ範囲:P.627 - P.630

I.はじめに

 破傷風は,土壌に広く分布する破傷風菌(Clostridium tetani)の産生する毒素により,運動神経系の興奮,腱反射亢進から全身の痙攣発作をきたす疾患である。3種混合ワクチンやトキソイドなどの普及により,その発生数は減少しているものの,発症した場合には経過が急速で,適切な処置を行わないと死亡する場合もある。一般に本症は,外傷の既往とそれに引き続いて起こる開口障害,頸部硬直などの典型的な症状が出現すれば,診断は比較的容易である。しかし,その前駆症状である咽頭痛,嚥下障害などで耳鼻咽喉科を受診することがあり1,2),初期症状を見逃さないためにも注意が必要である。

 今回われわれは,咽頭痛,嚥下困難で耳鼻咽喉科を受診し,その後の経過観察中に開口障害,頸部硬直が出現して破傷風と診断した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

診断に難渋した下咽頭梨状窩瘻の2症例

著者: 木村美和子 ,   中嶋正人 ,   田山二朗 ,   菅澤正

ページ範囲:P.633 - P.638

I.はじめに

 下咽頭梨状窩瘻は発生の異常で梨状窩に瘻管が遺残して感染経路となり,瘻管や周囲組織に細菌感染が生ずる疾患である。若年より同部位に頸部膿瘍を繰り返している場合や急性化膿性甲状腺炎が存在する場合には,本症が存在する可能性が高い。

 今回われわれは頸部膿瘍を繰り返し診断に苦慮した症例と,症状が多彩で様々な科を受診した急性化膿性甲状腺炎が存在した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

舌根部異所性甲状腺の1症例

著者: 都築建三 ,   沖田純

ページ範囲:P.639 - P.642

I.はじめに

 異所性甲状腺は胎生期の発生学的異常により生じると考えられている1)。その発生機序として,甲状舌管における甲状腺原基の下降障害説,あるいは下降路とは異なった部位への迷入説が挙げられている。舌盲孔部に甲状腺組織が残存した舌根部に発生する報告が最も多いことから1,2),下降障害説が唱えられている。迷入説を裏づけるものとしては,前側頸部3,4),心臓5),肝門部6),胆囊7)などに発生を認めた報告が散見される。

 われわれが経験した舌根部異所性甲状腺の1症例を報告する。

胃癌原発の転移性甲状腺癌例

著者: 渡邉一正 ,   若島純一 ,   小澤貴行

ページ範囲:P.645 - P.648

I.はじめに

 転移性甲状腺癌は剖検により発見されることが多く,臨床症状を呈することは稀とされている1)。臨床症状を呈した例として報告されている例では腎癌を原発とするものが多く,胃癌原発の転移性甲状腺癌は少ない2)

 今回われわれは,胃癌治療6年後に甲状腺転移をきたした例を経験したので報告する。

手術・手技

鼻内視鏡手術と同時に行う口腔上顎洞瘻閉鎖手術の術式について

著者: 由良晋也 ,   山本環 ,   河合晃充 ,   奥田泰生

ページ範囲:P.650 - P.654

I.はじめに

 歯性上顎洞炎に対しては,原因歯と上顎洞炎を改善させる治療が行われる。上顎洞根本手術における歯頸部切開のアプローチは,同一術野で原因歯の抜歯と口腔上顎洞瘻の閉鎖が可能な手術法として報告されている1)。また,鼻内視鏡手術が普及しその有用性が確立した昨今では,まず鼻内視鏡手術のみを行い,原因歯の治療は必要に応じ二次的に行う方法などが報告されている2,3)。歯性上顎洞炎に対する手術療法では,手術侵襲や患者負担の軽減を考慮すると,鼻内視鏡手術と原因歯に対する手術を同時に行うことが望ましい。

 そこで今回,原因歯の抜歯が必要な歯性上顎洞炎患者に対する鼻内視鏡と口腔上顎洞瘻閉鎖の同時手術について報告する。

シリーズ 耳鼻咽喉科における日帰り手術・短期入院手術

⑧頸部囊胞性疾患手術

著者: 今手祐二

ページ範囲:P.657 - P.664

I.はじめに

 頸部の囊胞性疾患としては,先天性の鰓性囊胞をはじめとしてリンパ管腫やガマ腫,リンパ節炎,囊胞状を呈した腫瘍などがある。

 本稿ではこれらの囊胞性疾患の中で代表的と考えられる先天性囊胞について述べる。先天性囊胞は診断も比較的容易であり,治療は手術による摘出が第1選択となる。囊胞の摘出自体はそれほど困難ではないが,頸部は神経・血管をはじめとした重要臓器が存在するため,いかに安全確実に囊胞を摘出するかが問題となる。先天性囊胞は頸部の広い範囲に発生の可能性があり,それぞれの発生部位により手技や注意点が異なる。本稿では,摘出手術に際して特に注意が必要である甲状舌管囊胞(図1- ①),第1鰓裂囊胞(図1-②),第2鰓裂囊胞図1-③)について述べる。

鏡下咡語

ブロー液の不思議

著者: 寺山吉彦

ページ範囲:P.622 - P.623

 私は16年前に北大を定年退職してからも,引き続き耳鼻科臨床に従事しているが,そろそろ10年,20年と通ってくるお馴染みの患者さんを治して引退したいと思っていた。その多くは耳漏が出たり止まったりを繰り返し,いろいろな治療法を試みても治らない頑固な感染症であった。それがあるとき雑誌でブロー液を知り,この悩みの大半を解消することができた。その優れた効果について,これまで雑誌や学会で報告したので多くの耳鼻科医がブロー液(Burow's solution)とは何かご存じと思うが一応説明する。ブロー液は,19世紀のドイツのKarl August von Burow(1809~1874)が考案した点耳薬である。13%酢酸アルミニュウム(以下,アルミと略)を主成分とし,強力な殺菌作用と収斂作用がある一方,耳毒性がないので感染性耳疾患のほとんどに使いやすく,かつ著効を示す。カナダのThorpら1)は1998~2000年にかけてブロー液の細菌学的臨床的研究をJ Laryngol Otolに発表した。それによると条件を決めて選んだ56耳の難治性の慢性穿孔性化膿性中耳炎に点耳として使用し,81%が乾燥し90%に有効であったという。われわれはこの成績に驚いて,2000年から液を薬剤部の矢萩君に各国の薬局方を参考にして作ってもらい追試した。私はどうせ19世紀から存在し,薬局方にもあるからと軽い気持ちで長年通っている慢性のお馴染みの患者さんに,暮れ,正月の休みはお宅でこれを自分で点耳してくださいと渡した。新年になり外来で患者さんに会うと,点耳したら痛いのでやめたという人がいる。次に耳の中をみると何と全員ほとんど治っているではないか。これには驚いて,改めて取り組むことにした。これが私のブロー液との最初の出会いである。Thorpらは慢性穿孔性中耳炎だけにしか使ってないが,われわれはその他の感染性耳疾患に使ってさらに著明な効果を得た。しかし,独断に陥ってはならないと考え,わが国の耳科学の大家とされている親しい先生方に送って試して貰うことにした。その結果も優秀な成績であり,中にはさすが慎重に塗布のみで使う方もいて,なるほどと反省した。その後,症例を重ねて日耳鼻会報に投稿したり2),日耳鼻総会(東京)や専門医講習会3)などで報告し,全国からの求めに応じて見本を差し上げたり,作り方や使い方をお知らせし4),その耳鼻科医や施設は約70に達した。

 これらの大半は劇的な効果があったとの感想で,魔法の薬とか最もexcitingな点耳薬であるとか,この次の受診が楽しみだなどの評価を頂いた。ついでに適応として,1)慢性中耳炎,2)中耳手術術後症,3)慢性外耳道炎,4)外耳道湿疹,5)外耳道真菌症,6)慢性肉芽性鼓膜炎に試み,1),2)は約80%,3)~6)はほぼ100%治癒し,MRSA,緑膿菌,真菌にも効果がある。

 これからが本題であるが,ブロー液について調べてみると次々と不思議なことや疑問が浮かんでくる。これを紹介して皆さんの興味を引き,かつご存じのことがあれば教えて頂きたいと思う。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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