目でみる耳鼻咽喉科
耳限局型Wegener肉芽腫症の1症例
著者:
伊藤茂彦
,
飯野ゆき子
,
余田敬子
,
松浦栄作
ページ範囲:P.90 - P.91
Wegener肉芽腫症は上気道と肺の壊死性肉芽腫性病変,全身性壊死性血管炎,巣状壊死性糸球体腎炎を3主徴とする全身性疾患である。しかし,このほかにも腎病変を伴わず,副鼻腔,中耳などに病変が限局する症例も認められる1,2)。限局型Wegener肉芽腫症は特徴的な症状や所見に乏しいため,難治性の急性または滲出性中耳炎,慢性副鼻腔炎として長期にわたり治療されている場合が多い3)。
最近われわれは,耳症状を初発とし診断に苦慮した限局型Wegener肉芽腫症を経験したので報告する。
症例:44歳女性。
主訴:両側難聴,左顔面神経麻痺。
既往歴:特記事項なし。
現病歴:2003年3月頃より両側の難聴が出現し,滲出性中耳炎の診断で鼓膜切開,内服治療を受けたが症状は改善しなかった。やがて耳漏,耳痛が出現し,混合難聴が進行したため,プレドニゾロンの漸減投与を受けた。右耳聴力は徐々に改善したが,プレドニゾロンを中止すると再び悪化した。左耳は反応なく悪化した。7月25日頃から左顔面神経麻痺,歩行時のふらつきも出現したため精査,加療目的で当科を紹介され受診した。
初診時所見:耳鏡所見では鼓膜は両側とも発赤・腫脹し可動性の低下を認め,左は膨隆が著明であった。(図1)。聴力は左スケールアウト,右平均聴力47.5dBの混合難聴であった(図2)。左顔面神経麻痺(顔面神経のスコアは柳原法で10点)を認めた。電気味覚検査は正常。CCDフレンツェル眼鏡下で眼振は認められなかった。
検査所見:側頭骨CTにて右乳突蜂巣には含気を認めた。右中鼓室,左鼓室内から乳突蜂巣内にかけてび漫性の陰影が認められた(図3)。胸・腹部CTでは異常を認めなかった。白血球12,800/mm3,CRP 2.82mg/dlと軽度炎症所見を認めた。抗酸菌検査,c-ANCAともに陰性であった。
経過:聴力の悪化が進行したため確定診断を急ぎ,入院のうえ2003年10月22日,左試験的鼓室開放術を施行した。手術時に採取した鼓室内肉芽組織の病理検査では,高度の線維化と炎症細胞浸潤を示し,特に血管周囲に好中球とその核破壊産物が目立った。また軽度の壊死もみられ,血管内腔は狭窄していた(図4)。ここで中耳限局型Wegener肉芽腫症と確定した。
診断確定後,2003年10月29日より,プレドニゾロン40mg/日から2週間で5mgずつの漸減した。シクロホスファミド50mg/日,ST合剤2g/日で週3日,それぞれ経口投与を開始したところ,左耳は依然スケールアウトであったが,右耳は治療開始前の平均聴力81.2dBが,約3週間後の退院前には平均聴力45.0dBまで改善した。治療開始より7か月経過した現在,シクロホスファミド,ST合剤は同量,プレドニゾロン10mg/日まで減量し,再燃なく右耳聴力25.0dBで安定している(図5)。