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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科77巻2号

2005年02月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

耳限局型Wegener肉芽腫症の1症例

著者: 伊藤茂彦 ,   飯野ゆき子 ,   余田敬子 ,   松浦栄作

ページ範囲:P.90 - P.91

Wegener肉芽腫症は上気道と肺の壊死性肉芽腫性病変,全身性壊死性血管炎,巣状壊死性糸球体腎炎を3主徴とする全身性疾患である。しかし,このほかにも腎病変を伴わず,副鼻腔,中耳などに病変が限局する症例も認められる1,2)。限局型Wegener肉芽腫症は特徴的な症状や所見に乏しいため,難治性の急性または滲出性中耳炎,慢性副鼻腔炎として長期にわたり治療されている場合が多い3)

 最近われわれは,耳症状を初発とし診断に苦慮した限局型Wegener肉芽腫症を経験したので報告する。

 症例:44歳女性。

 主訴:両側難聴,左顔面神経麻痺。

 既往歴:特記事項なし。

 現病歴:2003年3月頃より両側の難聴が出現し,滲出性中耳炎の診断で鼓膜切開,内服治療を受けたが症状は改善しなかった。やがて耳漏,耳痛が出現し,混合難聴が進行したため,プレドニゾロンの漸減投与を受けた。右耳聴力は徐々に改善したが,プレドニゾロンを中止すると再び悪化した。左耳は反応なく悪化した。7月25日頃から左顔面神経麻痺,歩行時のふらつきも出現したため精査,加療目的で当科を紹介され受診した。

 初診時所見:耳鏡所見では鼓膜は両側とも発赤・腫脹し可動性の低下を認め,左は膨隆が著明であった。(図1)。聴力は左スケールアウト,右平均聴力47.5dBの混合難聴であった(図2)。左顔面神経麻痺(顔面神経のスコアは柳原法で10点)を認めた。電気味覚検査は正常。CCDフレンツェル眼鏡下で眼振は認められなかった。

 検査所見:側頭骨CTにて右乳突蜂巣には含気を認めた。右中鼓室,左鼓室内から乳突蜂巣内にかけてび漫性の陰影が認められた(図3)。胸・腹部CTでは異常を認めなかった。白血球12,800/mm3,CRP 2.82mg/dlと軽度炎症所見を認めた。抗酸菌検査,c-ANCAともに陰性であった。

 経過:聴力の悪化が進行したため確定診断を急ぎ,入院のうえ2003年10月22日,左試験的鼓室開放術を施行した。手術時に採取した鼓室内肉芽組織の病理検査では,高度の線維化と炎症細胞浸潤を示し,特に血管周囲に好中球とその核破壊産物が目立った。また軽度の壊死もみられ,血管内腔は狭窄していた(図4)。ここで中耳限局型Wegener肉芽腫症と確定した。

 診断確定後,2003年10月29日より,プレドニゾロン40mg/日から2週間で5mgずつの漸減した。シクロホスファミド50mg/日,ST合剤2g/日で週3日,それぞれ経口投与を開始したところ,左耳は依然スケールアウトであったが,右耳は治療開始前の平均聴力81.2dBが,約3週間後の退院前には平均聴力45.0dBまで改善した。治療開始より7か月経過した現在,シクロホスファミド,ST合剤は同量,プレドニゾロン10mg/日まで減量し,再燃なく右耳聴力25.0dBで安定している(図5)。

原著

蝸牛骨化を認めた好酸球性中耳炎の1例

著者: 岩崎聡 ,   今井篤志 ,   細川誠二 ,   橋本泰幸 ,   名倉三津佳 ,   武林悟 ,   水田邦博 ,   峯田周幸

ページ範囲:P.93 - P.97

I.はじめに

 好酸球性中耳炎は,膠状の耳漏と耳漏・中耳粘膜への多数の好酸球浸潤を特徴とする難治性の中耳炎である1)。気管支,鼻・副鼻腔にも著しい好酸球の浸潤を伴い,成人発症型の気管支喘息,慢性副鼻腔炎を高率に合併する特徴をもつ。伝音性難聴から骨導閾値の悪化を伴い,聾に至る場合もある2~4)

 今回われわれは,気管支喘息と慢性副鼻腔炎の既往があり,両側好酸球性中耳炎に罹患し,両側聾となった症例に対して人工内耳手術を施行し,現在8年8か月経過した症例を経験したので報告する。

先天性内耳道狭窄の1症例

著者: 佐野真幸 ,   山岨達也 ,   渡邊弘子

ページ範囲:P.99 - P.101

I.はじめに

 先天性内耳道狭窄は一側性感音難聴,耳鳴,めまい,顔面神経麻痺など多彩な症状をきたす稀な疾患である1)。特に内耳奇形を合併しない先天性内耳道狭窄の報告は非常に少ない2)

 今回われわれは就学時検診で一側難聴を指摘され,当院での精査の結果,一側の内耳道狭窄が判明した1例を経験したので,文献的考察を加え報告する。

顔面神経・外転神経麻痺を呈した悪性外耳道炎の1例

著者: 熊切健一 ,   荒木圭介 ,   寶積健 ,   峯田周幸 ,   武林悟

ページ範囲:P.103 - P.107

I.はじめに

 悪性外耳道炎は,高齢の糖尿病を有する患者に発症する壊死性外耳道炎である1)。本疾患は緑膿菌感染により生じ,難治性で頑固な耳痛が持続する。外耳道の炎症は骨破壊を伴い周囲組織に広がり,頭蓋底に浸潤して脳神経障害や髄膜炎などの重篤な病態を呈することがある。

 今回われわれは,慢性腎不全による血液透析患者において顔面神経麻痺,外転神経麻痺を生じた悪性外耳道炎の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

放線菌による鼻石症の1例

著者: 中島逸男 ,   金谷洋明 ,   今野渉 ,   後藤一貴 ,   平林秀樹 ,   谷垣内由之 ,   馬場廣太郎

ページ範囲:P.109 - P.112

I.はじめに

 鼻石は耳鼻咽喉科領域の結石として1602年Marthia de Grandiによって初めて報告1)された。本邦では1896年(明治29年)西2)の報告以来,報告例は百数十例を数える。

 今回病理組織検査の結果,放線菌による鼻石症の1例を経験したので,その概要を記載するとともに,文献的検討も行った。

上顎洞異物症例

著者: 高崎賢治 ,   江夏薫 ,   髙橋晴雄

ページ範囲:P.114 - P.116

I.はじめに

 日常診療において上顎洞内異物症例は比較的稀である。しかし近年,歯科材料を中心とした医原性異物の報告が散見される1~5)

 今回われわれは,歯科材料による上顎洞内異物の症例を経験したので報告する。

喉頭アミロイドーシスの2症例

著者: 兵頭政光 ,   白馬伸洋 ,   竹田将一郎 ,   田口亜紀

ページ範囲:P.119 - P.123

I.はじめに

 アミロイドーシスは,線維構造をもつ特異な蛋白であるアミロイド線維(amyloid fibril)を主とするアミロイド物質が,全身の諸臓器の細胞外に沈着することにより機能障害を引き起こす疾患群である。本疾患は全身性と限局性に分けられるが1),全身性が多いとされている2)。耳鼻咽喉科領域では喉頭や気管などでの報告例が散見されるものの,喉頭アミロイドーシスは喉頭良性腫瘤性病変に占める割合が1%以下の稀な疾患である3)。しかし,腫瘍性疾患との鑑別の観点からも本症に対する認識をもっておく必要がある。

 今回われわれは,喉頭限局型アミロイドーシスの2例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

顎下部に発生した脂肪肉腫の1例

著者: 原聡 ,   伊集院隆宏 ,   志水賢一郎 ,   石田春彦 ,   丹生健一

ページ範囲:P.133 - P.137

I.はじめに

 脂肪肉腫は全軟部肉腫の10~12%を占め,線維肉腫と並んで頻度が高い。臀部,後腹膜,近位四肢深部に好発する。頸部発生は0.6~5.6%と少なく1,2),顎下部に発生した脂肪肉腫の報告は,われわれが渉猟した限りでは本症例が本邦で26例目となる。男性にやや多くみられ,好発年齢は40~60歳であるが,頭頸部領域は他の領域に比べてやや低いと報告されている3~5)

 今回われわれは,顎下部に発生した粘液型脂肪肉腫の1例を経験したので報告する。

顎下腺基底細胞腺腫の1例

著者: 藤多晶 ,   今井隆之 ,   西嶋文美 ,   吉原俊雄 ,   伊藤光子

ページ範囲:P.139 - P.142

I.はじめに

 唾液腺に発生する良性腫瘍は多形腺腫が最も多くみられ1),基底細胞腺腫(basal cell adenoma)は比較的稀な腫瘍である2)。唾液腺腫瘍の病理組織分類において,基底細胞腺腫は以前単形腺腫の亜型に分類されていたが,1991年に改正され,現在は多形腺腫と同様の独立した組織像として分類されている3)

 今回われわれは,左顎下腺に発生した1例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

若年に発症し,大きな囊胞を形成したワルチン腫瘍症例

著者: 山口宗一 ,   末野康平 ,   山口威 ,   田中真琴

ページ範囲:P.145 - P.147

I.はじめに

 ワルチン腫瘍は,唾液腺の良性腫瘍では多形腺腫に次いで多く,主に高齢者に発症する1)。その診断は臨床所見や画像検査,針生検の結果などから多くの症例で術前に診断可能であるが,ときに囊胞性変化を呈し,術前診断ができなかった例が散見される2,3)

 今回われわれは,若年者に発症し比較的大きな囊胞を形成したワルチン腫瘍症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

手術・手技

鼻出血止血処置における硬性内視鏡の使用経験

著者: 坂口正範

ページ範囲:P.149 - P.152

Ⅰ.はじめに

 鼻出血は,出血部位によって前鼻出血,上鼻出血,後鼻出血に分類される。これらのうち前鼻出血は出血点の確認,止血処置が比較的容易であるが,後鼻出血は出血点の確認が困難であり,止血に難渋することが多い。これらの症例に対し,硬性内視鏡を用いることにより良好な成績が得られたので,その有用性を報告する。

書評

How to Make クリニカル・エビデンス

著者: 小野崎耕平

ページ範囲:P.153 - P.153

「本書の出版を心待ちにしていた」書評の決まり文句だ。それは賛辞や励ましだけではなく,ときには,著者への気遣いや愛情だったりもする。単なる慣例で添えられている場合もあるだろう。一方,いくら心の底からそれを伝えても,三割くらいは割り引いてみられるのが,この手の書評と結婚式のスピーチである。いずれも,事実上「誉める」意外の選択肢はないからだ。しかし,それを承知の上でも,敢えて最大限の賛辞と推薦の言葉を贈りたい稀有な著作,それが本書「How to Make クリニカル・エビデンス」だ。

 「エビデンスを患者さんにどう使うか,というエビデンス・ベイスド・メディスン(EBM)は臨床家として当たり前,これからの日本の医療界に求められるものは,“エビデンスを構築すること”すなわち,クリニカル・エビデンス・メイキング(CEM)ではないでしょうか?」冒頭で著者はこう説く。

米国SWOGに学ぶがん臨床試験の実践―臨床医と統計家の協調をめざして

著者: 垣添忠生

ページ範囲:P.159 - P.159

このたび医学書院より「米国SWOGに学ぶ がん臨床試験の実践」が刊行された。本書は,Stephanie Green(SG),Jacqueline Benedetti(JB),John Crowley(JC)三統計家による名著「Clinical Trials in Oncology, 2nd ed.」の訳書である。待望久しかった訳書が,それも2nd ed.が出版されてすぐに刊行されたことを喜びたい。

 わが国の医学研究のレベルは高く,疾病の本態解明や新しい現象の記述,その解明などで世界の医学に多くの貢献をしてきた。ところが,薬物の効果や医療機器の評価など,患者を対象にした医学研究,いわゆる臨床試験の面では,従来大きく立ち遅れていた。その理由としては,大学に腫瘍学の講座がない,生物統計学者の絶対数が足りない,臨床試験を支える基盤が欠如していた……などいろいろあるだろう。しかし,世界的にもevidenceに基づいた医学,医療の展開の重要性が日々強まっているとき,わが国のこれまでの事情がこのままであってよいはずはない。

鏡下咡語

Norman CousinsとLinus Pauling

著者: 森田守

ページ範囲:P.126 - P.128

長寿県といわれていた沖縄県の平均寿命が,2000年の統計では26位に「転落」した。これは男性の場合であるが,女性でも,この伸び率が下から数えて2番目となっているので,次回(2005年)の統計では首位を明け渡す可能性がある。食の欧米化,肥満・糖尿病の増加,高い飲酒・喫煙率,運動をしない,検診の受診率も低いなどの問題が指摘されている。逆に徐々に順位を上げ,1990年以降男性で1位を保っているのが長野県で,食生活の改善,疾病予防に住民・医療機関が一体となって取り組んできた努力の成果としている。

 世界一の長寿国である日本も,沖縄県と同じような運命を辿るのではないか。現在平均寿命に達している人たちは1926~1927(昭和1~2)年〔女性は1919~1920(大正8~9)年〕に生まれ,昭和の激動期を生き抜いてきた「つわもの」である。今後,平均寿命の動向を左右する70歳前後の年輩者は,育ち盛りを戦中・戦後の食糧難の最中に過ごしており,働き盛りの現役世代は,戦後の20~30年間に急激に欧米化した食生活により,動物性脂肪の摂り過ぎの中で生まれ育ち,車社会で運動不足になり,その上にアルコールの飲み過ぎも加わって,糖尿病など生活習慣病が急増している。次世代を担う小児では,肥満傾向の男児が最近30年で3倍に増加しているのも見過ごせない。基礎体力・運動能力の低下も指摘されている。女性では肥満傾向は男性ほどではないが,若い女性層で飲酒・喫煙率が増加しているのも問題である。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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