目でみる耳鼻咽喉科
進行した頰粘膜癌症例
著者:
村下秀和
,
和田哲郎
,
辻茂希
,
田渕経司
,
米納昌恵
,
高橋和彦
,
原晃
ページ範囲:P.170 - P.171
頰粘膜癌は口腔癌の約10%とその発生率は比較的低いとされるが,初診時に既に進行癌であることも少なくない1)。今回,初診時に巨大な口腔皮膚瘻を認めた頬粘膜癌進行例を経験したので報告する。
症例:52歳男性。
主訴:右頬部腫脹,右頸部リンパ節腫大。
既往歴:特記すべきことなし。
家族歴:特記すべきことなし。
現病歴:2003年8月頃より右頬粘膜に腫瘤を認めたが放置していた。2004年3月上旬より頬部が自潰し,経口摂取が困難となったため,3月16日に筑波記念病院を受診した。悪性腫瘍を疑われ,3月18日に当科を紹介され受診した。
初診時現症:右頬部に径10cmの皮膚硬結と壊死,中央に巨大な瘻孔形成を認めた。触診上右頸部に多発性リンパ節腫脹を認めた(図1)。
画像所見:CT,MRIでは右頬部に径9cmの腫瘍を認めた。右上~下深頸リンパ節,鎖骨上窩リンパ節,副神経リンパ節の腫脹を認めた(図2,3)。また,CTで第2頸椎に溶骨性の骨病巣を認め,骨転移と考えられた(図2)。
病理診断:3月18日に頬部腫瘍より生検を行い,中分化型扁平上皮癌と診断された(図4)。
診断:以上の結果より頬粘膜癌T4aN2bM1,stageⅣcと診断した。
入院後経過:入院後本人,家族に根治的治療が困難なことを説明し,緩和ケアのみを行うとのインフォームド・コンセントを得,3月31日筑波記念病院へ転院した。その後腫瘍は徐々に増大し,5月1日に原病死した。経過中,出血のエピソードはなかった。
口腔癌の原発部位と進行度との関係で,舌ではstageⅠ,Ⅱが多い一方で,舌以外の口腔癌ではstageⅢ,Ⅳが多いという報告がある1,2)。進行症例に対する治療としても化学療法の有用性3),超選択的動注化学療法の有用性4)などが報告されているが,高度の進行例では根治の可能性は極めて低い。頬粘膜癌の5年累積生存率は44.5~75.5%であるが1,5),口腔癌全体での病期別5年生存率でstageⅣcでは0%との報告もあり6),今回の症例では本人,家族と相談の結果,緩和ケアを選択した。今日,医療情報の公開と国民への関心が深まり,初診時に巨大な口腔腫瘍をみる機会は減っているものと思われるが,いまだに本症例のような高度進行例が存在する。したがって,今後も口腔癌の早期発見,早期治療のために,さらなる啓蒙を図る必要性が感じられた。