icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科77巻4号

2005年04月発行

雑誌目次

特集 耳鼻咽喉科領域の異物とその摘出法

1.外耳道異物

著者: 萩森伸一

ページ範囲:P.271 - P.275

Ⅰ.はじめに

 外耳道異物は,日常診療において決して数多く遭遇する疾患ではない。むしろ救急患者として受診することが多く,救急患者のみを扱う大阪市中央急病診療所における平成15年度の統計では,全患者数19,625人中,外耳道異物患者は539人,3%にのぼった1)。また諸家の報告によると,耳鼻咽喉科領域の異物の中で耳の異物が占める割合は10~45%2~8)で,病院に比べ開業医を受診する機会が多いとされる6)。前述の大阪市中央急病診療所では,耳鼻咽喉科領域での異物患者総数1,891人に占める割合は29%であった1)。異物の種類としては,幼児や小児ではBB弾やビーズなどの小玩具類が多いが,成人では綿棒の綿や耳掻きの一部,ティッシュペーパー片など,耳掃除をしようとした際に異物となるものが大半である。また少数ではあるが,蛾やゴキブリなど昆虫の異物が年齢を問わずみられる。性別による差は外耳道異物全体ではみられないが,小児例では約2:1で男児が多いとされる7)

 自らの不注意で外耳道に異物を挿入し摘出が困難になった場合,患者は自分で摘出できない焦りと,難聴や耳閉感など普段とは違う感覚に大いに不安になり,慌てて医療機関を受診することが多い。また昆虫異物症例では,昆虫の大きな羽音や咬傷,肢運動による激痛のため,この場合も救急患者として来院することがほとんどである。患者や家族が摘出を試み,他方,俗説を信じて長時間懐中電灯で外耳道内を照らし続けた結果,病状がますます悪化して来院するケースも少なくない。すなわち,外耳道異物は外来診療の場において,迅速な対応を迫られる疾患といえる。診察医は異物の種類と状態を把握し,年齢や疼痛の度合いを加味したうえで,摘出方法や麻酔方法を速やかに判断しなければならない。これらを誤ると,外耳道からの出血のみならず鼓膜損傷や内耳障害など思わぬ合併症を生ずる危険性が高まる。また外耳道異物の摘出は,異物の種類にもよるが工夫と経験を必要とする。

 以上の点を踏まえて,本稿では外耳道異物症例に対する診療上の注意と摘出方法について述べる。

2.鼻腔・副鼻腔異物

著者: 山田弘之

ページ範囲:P.277 - P.281

Ⅰ.はじめに

 耳鼻咽喉科領域の異物症は,外耳道,咽頭,鼻腔に生じるものがほとんどである。そのうち,鼻腔異物はそのほとんどが幼小児においてであり,救急体制のある施設ではしばしばみられるが,一方で成人における医原性異物も決して少なくない。

 異物はその介在部位によって,大きく固有鼻腔異物と副鼻腔異物に分けられる。

3.口腔・咽頭異物

著者: 石井賢治 ,   松原篤

ページ範囲:P.283 - P.287

Ⅰ.はじめに

 口腔,咽頭異物は日常診療でしばしば遭遇する疾患である。ほとんどが外来で摘出可能であり,重篤な状態に陥る患者は少ない。しかし,箸の口腔内刺入により高位頸髄の障害をきたした症例1)やこんにゃくの喉頭蓋谷への嵌頓により窒息をきたした症例2)なども報告されており,注意を要する疾患である。

 本稿では口腔,咽頭異物の診断と摘出法について述べる。

4.気管・気管支異物

著者: 佐野光仁

ページ範囲:P.289 - P.293

Ⅰ.はじめに

 乳幼児の窒息事故のうち,異物を気道に詰めることによる死亡事故1,2)や長期間,気道異物とはわからずに気管支炎,喘息などと診断された誤診症例が散見される。

 本稿では,当科で経験した気管・気管支異物症例を中心に診断,摘出方法について述べる。

5.食道異物

著者: 山本昌彦

ページ範囲:P.295 - P.300

Ⅰ.はじめに

 食道異物は,昔からから現在までほとんど絶えることなく起こっている疾患である。時代とともに,その異物内容に変化はみられるが,大きく変わってきたのは摘出の手技である。異物とは,元来そこには止まって存在しない物が,存在し続ける物といえる。生体内にとどまって存在し,のちのち悪さをするような異物は摘出が必要になる。その摘出法は,食道硬性直達鏡(硬性鏡)や軟性食道用内視鏡(内視鏡)などを使用して摘出するが,本稿ではその方法について示す。

目でみる耳鼻咽喉科

口腔内腫瘤を形成した結核性頸部リンパ節炎の1例

著者: 福田洋一郎 ,   高橋克昌 ,   近松一朗 ,   古屋信彦

ページ範囲:P.258 - P.259

頸部リンパ節腫脹をきたす疾患は多岐にわたるが,結核性頸部リンパ節炎は肺外結核の中で最も多く,鑑別疾患として忘れてはならない疾患の1つである▲1)▲。しかし,悪性腫瘍のリンパ節転移や壊死性リンパ節炎などとの鑑別に苦慮することも多い。

 今回われわれは,口腔内に腫瘤を形成した結核性頸部リンパ節炎の症例を経験したので報告する。

 症例:58歳女性。

 主訴:右顎下部腫瘤。

 既往歴:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)。

 家族歴:母が肺結核に罹患。

 現病歴:2003年5月下旬頃より,右顎下部の腫瘤を自覚した。近医を受診し,MRI,CT,ガリウムシンチグラフィーを施行した(図1~3)。顎下腺腫瘍を疑われ穿刺吸引細胞診を施行し,adenocarcinoma,classⅢbと診断されたため,6月27日当科を紹介され受診した。

 初診時現症:右顎下部に多発性のリンパ節腫脹と,頬粘膜および下歯肉部粘膜下に隆起性病変を認めた(図4,5)。

 経過:口腔癌の頸部リンパ節転移も考慮し,2003年7月10日,診断確定のため入院した。入院時,胸部X線検査にて異常はなく,血小板4.0万/dlとITPに伴う血小板減少を認める以外に血液検査所見にも異常を認めなかった。ITPのコントロールのため,ガンマグロブリン療法を施行し,8.4万/dlと血小板数の増加傾向を認めたため,7月17日に局所麻酔下に頸部リンパ節と頬粘膜腫瘤に対し生検を施行した。

 病理組織所見:リンパ節では,融合傾向のある大小の類上皮細胞性肉芽腫がリンパ節内から被膜,周囲脂肪組織にかけて多発して認められた。肉芽腫の中央にはところどころで乾酪壊死巣が認められ,類上皮細胞の間には多核巨細胞が散見された。頬粘膜腫瘤においては,粘膜扁平上皮は保たれているが,リンパ節と同様に粘膜固有層内に乾酪壊死を伴う肉芽腫が多発して認められた(図6)。以上より結核症と診断された。Ziehl-Neelsen染色はいずれも陰性であった。

 術後経過:結核性頸部リンパ節炎の診断を得たため,肺結核の診断目的に早朝喀痰,胃液の塗抹,培養およびPCR法を施行したがいずれも陰性であった。ツベルクリン反応は10×10mmと弱陽性であった。胸部CT上も異常を認めなかったが,ITPの加療も含め当院内科へ転科のうえ,イソニアジド(INH),リファンピシン(RFP),ピラジナミド(PZA),エタンブトール(EB)の4剤併用療法を開始したところ,徐々に腫瘤は縮小した。投与開始後1年経過した時点で腫瘤は消失したため,抗結核薬による治療を終了した。1年3か月経過した現在のところ再発を認めていない。

Current Article

聴覚補償の実際―人工内耳

著者: 河野淳

ページ範囲:P.261 - P.268

人工内耳は,治療の対象とならない難聴者の聴覚補償を行うツールであり,内耳性の高度難聴者および聾患者への治療法として既に確立された医療である。一般に軽度難聴から高度難聴まで,まず補聴器で聴覚補償を試みる。高度難聴や聾で補聴器でも十分な聞き取りができない場合に,人工内耳の適応となる。補聴器も人工内耳もここ十数年の機器の発達には目覚ましいものがあり,少なくとも耳鼻咽喉科医は機器の内容と適応に習熟していなければならない。

原著

純音聴力が正常なauditory neuropathyの小児例

著者: 谷口昌史 ,   渡辺太志 ,   佐伯忠彦 ,   暁清文

ページ範囲:P.307 - P.310

I.はじめに

 感音難聴の中には,純音聴力に比べて語音聴力が著しく低下している例がある。これは後迷路性難聴の特徴の1つであり,聴神経腫瘍や髄膜腫などの小脳橋角部腫瘍の場合にみられることが多い。しかし極めて稀に,両側性にこのような特徴的な難聴を示す原因不明の疾患があり,従来,本態性後迷路性難聴1)あるいは特発性後迷路性難聴2)などと呼ばれてきた。近年,聴性脳幹反応(auditory brainstem response:以下,ABRと略す)や耳音響放射(otoacoustic emissions:以下,OAEと略す)などの神経耳科学検査法の進歩により,内耳機能が保たれているにもかかわらず蝸牛神経レベルの障害で感音難聴をきたす疾患の病態が明らかとなってきた。このような症例では「ABRは無反応,OAEは正常」と後迷路性難聴の特徴を示すことから,新しい疾患概念として1996年にKagaら3)はauditory nerve disease,Starrら4)はauditory neuropathyという名称を提唱した。本症は純音聴力検査で軽度~中等度の難聴を示すのが特徴とされている。

 今回,初診時の純音聴力検査で両耳とも正常聴力であるにもかかわらず,本疾患概念に該当すると思われた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

鼻腔軟骨肉腫の1例

著者: 村下秀和 ,   田渕経司 ,   西村文吾 ,   飛田忠道 ,   大久保英樹 ,   瀬成田雅光 ,   原晃

ページ範囲:P.313 - P.315

I.はじめに

 頭頸部領域に発生する悪性腫瘍は癌腫がほとんどであり,肉腫の占める割合は少なく,中でも軟骨肉腫は0.2%と稀である1)

 今回われわれは,鼻腔原発の軟骨肉腫を経験し,手術治療後約5年間にわたり再発なく,良好な経過が得られた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

喉頭蓋より発生した異所性振子様扁桃の1症例

著者: 銅前崇平 ,   折田頼尚 ,   岡野光博 ,   折田左枝子 ,   福島邦博 ,   西﨑和則

ページ範囲:P.317 - P.320

I.はじめに

 異所性扁桃とは,Waldayerの咽頭輪に属する口蓋扁桃,舌扁桃,咽頭扁桃,耳管扁桃以外に認められた扁桃組織のことであり,過去に報告例が散見される1~5)。また,振子様扁桃は扁桃が振子状に発育する形態異常であり,1885年にJurasz6)が初めて報告して以来,本邦でも多数報告されているが,その大多数は口蓋扁桃より発生したものである。

 今回われわれは,喉頭蓋から発生した異所性振子様扁桃の1症例を経験したので報告する。

耳鼻咽喉科領域における周術期抗菌薬投与期間の検討―清潔手術例について

著者: 中尾芳雄 ,   岡崎英登 ,   渡部浩 ,   中川嘉隆

ページ範囲:P.321 - P.324

I.はじめに

 術後の抗菌薬投与は,主として創部の感染予防として用いられるが,抗菌薬をどの程度の期間使用するかの報告は耳鼻咽喉科領域では少ない。

 今回われわれは,頭頸部腫瘍清潔手術において手術当日のみ抗菌薬を投与した群と,一般的な抗菌薬を5日間投与した群を比較検討した。

シリーズ 難治性疾患への対応

③メニエール病

著者: 肥塚泉

ページ範囲:P.327 - P.331

Ⅰ はじめに

 メニエール病は,めまい発作を繰り返し,難聴や耳鳴などの蝸牛症状を反復・消長することを特徴とする疾患である。発作が長期にわたって継続すると聴力低下をきたし,その結果,生活のQOLが著しく損われることがあり,その対応に苦慮することがある。本疾患の病態は,内耳全体に生じた内リンパ水腫と考えられているが,その成因についてはいまだ不明といわざるを得ない。

 本稿ではメニエール病の病態,これに対する具体的な対応法について述べる。

鏡下咡語

なぜ耳鼻咽喉科か,なぜカタツムリ集めか

著者: 瀧本勲

ページ範囲:P.302 - P.304

1.耳鼻咽喉科選択の理由

 私の周囲には医者が多く私も医者になろうと思っていた。一方,花や樹木も好きで園芸家も選択肢の1つだった。旧制高校での理科乙類は医学部と農学部が選べたが,終戦直後の昭和23年頃は専門性,職種としての安定性からみても医師の有利性は明白であった。名古屋大学を卒業し,1年間のインターンも終わりに近づき診療科の選択に入ったが,手術系で夜間起こされずにすみ,また戦後白人をみてからの審美的欲求の花形になった隆鼻術などの組み合わせた美容外科,形成外科がよいのではないかと考えたが,講座,診療科としてまだなかった時代である。それなら基本習得も意義ありとして,母校の後藤教授の門下に入った。即ち,選択の根拠は結構生臭かったともいえる。

 当時の名古屋大学医局は,前年の宿題報告の続きで内耳基礎研究,臨床では日本でのパイオニアとして全国から患者が集まり「聴力増進中耳根治手術」(現,鼓室形成術)が真っ盛りであった。教授から貰った研究テーマは「内耳の核酸」という簡単なもので,エアコンも暖房もない真夏,真冬にも,モルモットの中耳骨胞を開け蝸牛の膜迷路を3倍ルーペで苦労して採取した。論文も漸くできて関連病院に赴任し,大学病院に入院しきれない患者を受けもち耳手術を堪能した。この病院赴任中に学会発表や論文を投稿したのが原因か,数年後に講師として帰局せよとの命令が出た。入局当時の講師は雲上人的存在で,自分もそれになれるのかとにんまりしたのも束の間,医局長も拝命。3年後の名古屋初めての医学会総会の手伝いと耳鼻咽喉科分科会担当の事務局長業務でてんやわんやとなった。これが帰局の本目的だったかと気づいたが後の祭りで,以後はずっと大学生活になったが,振り返ってみれば有り難い経験になったと思う。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

95巻13号(2023年12月発行)

特集 めざせ! 一歩進んだ周術期管理

95巻12号(2023年11月発行)

特集 嚥下障害の手術を極める! プロに学ぶコツとトラブルシューティング〔特別付録Web動画〕

95巻11号(2023年10月発行)

特集 必見! エキスパートの頸部郭清術〔特別付録Web動画〕

95巻10号(2023年9月発行)

特集 達人にきく! 厄介なめまいへの対応法

95巻9号(2023年8月発行)

特集 小児の耳鼻咽喉・頭頸部手術—保護者への説明のコツから術中・術後の注意点まで〔特別付録Web動画〕

95巻8号(2023年7月発行)

特集 真菌症—知っておきたい診療のポイント

95巻7号(2023年6月発行)

特集 最新版 見てわかる! 喉頭・咽頭に対する経口手術〔特別付録Web動画〕

95巻6号(2023年5月発行)

特集 神経の扱い方をマスターする—術中の確実な温存と再建

95巻5号(2023年4月発行)

増刊号 豊富な処方例でポイント解説! 耳鼻咽喉科・頭頸部外科処方マニュアル

95巻4号(2023年4月発行)

特集 睡眠時無呼吸症候群の診療エッセンシャル

95巻3号(2023年3月発行)

特集 内視鏡所見カラーアトラス—見極めポイントはここだ!

95巻2号(2023年2月発行)

特集 アレルギー疾患を広く深く診る

95巻1号(2023年1月発行)

特集 どこまで読める? MRI典型所見アトラス

94巻13号(2022年12月発行)

特集 見逃すな!緊急手術症例—いつ・どのように手術適応を見極めるか

94巻12号(2022年11月発行)

特集 この1冊でわかる遺伝学的検査—基礎知識と臨床応用

94巻11号(2022年10月発行)

特集 ここが変わった! 頭頸部癌診療ガイドライン2022

94巻10号(2022年9月発行)

特集 真珠腫まるわかり! あなたの疑問にお答えします

94巻9号(2022年8月発行)

特集 帰しちゃいけない! 外来診療のピットフォール

94巻8号(2022年7月発行)

特集 ウイルス感染症に強くなる!—予防・診断・治療のポイント

94巻7号(2022年6月発行)

特集 この1冊ですべてがわかる 頭頸部がんの支持療法と緩和ケア

94巻6号(2022年5月発行)

特集 外来診療のテクニック—匠に学ぶプロのコツ

94巻5号(2022年4月発行)

増刊号 結果の読み方がよくわかる! 耳鼻咽喉科検査ガイド

94巻4号(2022年4月発行)

特集 CT典型所見アトラス—まずはここを診る!

94巻3号(2022年3月発行)

特集 中耳・側頭骨手術のスキルアップ—耳科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻2号(2022年2月発行)

特集 鼻副鼻腔・頭蓋底手術のスキルアップ—鼻科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻1号(2022年1月発行)

特集 新たに薬事承認・保険収載された薬剤・医療資材・治療法ガイド

icon up
あなたは医療従事者ですか?