文献詳細
原著
純音聴力が正常なauditory neuropathyの小児例
著者: 谷口昌史1 渡辺太志2 佐伯忠彦3 暁清文1
所属機関: 1愛媛大学医学部耳鼻咽喉科学教室 2興生総合病院耳鼻咽喉科 3新日鐵広畑病院耳鼻咽喉科
ページ範囲:P.307 - P.310
文献概要
感音難聴の中には,純音聴力に比べて語音聴力が著しく低下している例がある。これは後迷路性難聴の特徴の1つであり,聴神経腫瘍や髄膜腫などの小脳橋角部腫瘍の場合にみられることが多い。しかし極めて稀に,両側性にこのような特徴的な難聴を示す原因不明の疾患があり,従来,本態性後迷路性難聴1)あるいは特発性後迷路性難聴2)などと呼ばれてきた。近年,聴性脳幹反応(auditory brainstem response:以下,ABRと略す)や耳音響放射(otoacoustic emissions:以下,OAEと略す)などの神経耳科学検査法の進歩により,内耳機能が保たれているにもかかわらず蝸牛神経レベルの障害で感音難聴をきたす疾患の病態が明らかとなってきた。このような症例では「ABRは無反応,OAEは正常」と後迷路性難聴の特徴を示すことから,新しい疾患概念として1996年にKagaら3)はauditory nerve disease,Starrら4)はauditory neuropathyという名称を提唱した。本症は純音聴力検査で軽度~中等度の難聴を示すのが特徴とされている。
今回,初診時の純音聴力検査で両耳とも正常聴力であるにもかかわらず,本疾患概念に該当すると思われた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。
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