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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科77巻6号

2005年05月発行

雑誌目次

特集 囊胞性疾患

1.上顎囊胞

著者: 小林一女 ,   松本学

ページ範囲:P.359 - P.362

Ⅰ.はじめに

 副鼻腔囊胞は,自然口が何らかの原因で閉鎖,狭窄することにより,副鼻腔に分泌物が貯留し形成される。原発性と続発性のものがある。続発性の囊胞は手術,外傷後のものが多い。分泌物の性状で粘液囊胞(mucocele),膿囊胞(pyocele)に分けられるが,両者の混在したものもある。発生部位では上顎洞が最も多く,特に術後性の上顎囊胞が多い。

 本稿では上顎囊胞について解説する。

2.上顎洞以外の副鼻腔囊胞

著者: 春名眞一

ページ範囲:P.364 - P.369

Ⅰ.はじめに

 上顎洞以外の副鼻腔囊胞として,篩骨洞囊胞,蝶形骨洞囊胞,前頭洞囊胞が挙げられる。副鼻腔囊胞の中では上顎洞囊胞の発生頻度が最も高く,上記の3つの囊胞の発生頻度はかなり低い。しかしながら,ひとたび発症した場合には,囊胞壁が視神経および頭蓋底に接しており,合併症の発生する危険性が高い1)。眼症状を呈することが多く,当初は眼科を受診することが多い。眼科医がCT画像を撮影して囊胞を確認し,早く耳鼻咽喉科に依頼すれば治療も早く開始できる2)

 以下,鼻・副鼻腔の前部副鼻腔(前篩骨洞と前頭洞)囊胞と後部副鼻腔(後部篩骨洞と蝶形骨洞)囊胞に分けて述べる。

3.正中頸囊胞

著者: 山村幸江 ,   今井隆之 ,   吉原俊雄

ページ範囲:P.371 - P.374

Ⅰ.発生原因

 正中頸囊胞(甲状舌管囊胞)は甲状腺の発生と深くかかわる。胎生2週ごろに甲状腺組織が舌根部の舌盲孔に相当する部に出現し,頸正中を下降して生下時の位置に達する。下降の際に甲状舌管と呼ばれる細い索状の管腔を通じて舌盲孔と連結する。甲状舌管は通常は胎生10週までには退縮する。しかし,人口の約7%では出生後も残存組織となる1)。特に管腔構造と上皮組織が残存している場合には,感染などをきっかけとして囊胞が形成され得る。

4.側頸囊胞

著者: 河田了

ページ範囲:P.377 - P.380

Ⅰ.発生・成因

 頭頸部を形成する原基である鰓性器官(branchial apparatus)の発生は,胎生第2週で始まり,分化して胎生第6~第7週で完成する。鰓性器官は,外胚葉由来で将来体表面へと分化する4対の鰓溝(branchial cleft)とそれに対応する内胚葉由来の鰓囊(branchial pouch),およびそれらにより分けられる中胚葉由来の5つの鰓弓(branchial arch)から構成されている。1対の鰓溝と鰓囊を鰓裂と呼んでいる。本疾患は胎生期の鰓溝が遺残することにより発生するといわれている。そのため,発生学的見地から立てば,鰓囊胞(branchial cyst)という名称が妥当であるが,多くは側頸部に発生することから,側頸囊胞(lateral cervical cyst)という名称は臨床的に理にかなっている。また,発生原因として,鰓囊起源ではなくリンパ節内に上皮が封入されることによって発生するという説1)もあることからも,側頸囊胞という名称のほうがよいのかもしれない。

 本疾患は発生学上,閉鎖腔(囊胞)のほかに体表あるいは体腔(咽頭腔)に瘻を伴うことがある(側頸瘻)。体表と体腔の両者に開口を有するものを完全瘻,一方のみに開口しているものを不完全瘻という。

 側頸囊胞は第2鰓裂由来のものが最も多い。これは第2鰓弓の発育が早く,第5鰓弓へ覆いかぶさるように発育するため,第2鰓溝が閉鎖腔になるためである。次に多いのは,第1鰓裂由来のものである。第1鰓裂由来と第2鰓裂由来の側頸囊胞の割合は,ほとんどが第2鰓裂由来という報告もあるが2),約25%が第1鰓裂由来という報告もある3)

5.ラヌラ

著者: 市村恵一

ページ範囲:P.381 - P.384

Ⅰ.定義

 ラヌラ(ranula)はラテン語のrana=蛙(frog)に由来し,小さな蛙という意味になる。日本語では「がま腫」ともいうが,がまはfrogではなくtoadに属するものなので,正確には訳語が正しくないことになるが,それを問題とする必要はない。ラヌラは唾液腺から唾液が漏れ,それが貯留した結果起こる偽性囊胞である。したがって,真性の囊胞と異なり,囊胞壁を有しないが,それを取り囲む結合織があたかも壁であるようにみえる。口腔底の腫脹が主症状となるが,前頸部の腫脹を合併したり,あるいはそれが単独症状であったりする。

目でみる耳鼻咽喉科

喉頭非定型カルチノイド腫瘍の1例

著者: 福田洋一郎 ,   近松一朗 ,   二宮洋 ,   安岡義人 ,   古屋信彦

ページ範囲:P.344 - P.345

カルチノイド腫瘍は,消化管や気管支などの原腸由来の臓器から発生する腫瘍であり,頭頸部領域では喉頭や下咽頭の報告が散見されるものの,稀な疾患である1~4)

 今回われわれは,右披裂部に発生した喉頭カルチノイド腫瘍の症例を経験したので報告する。

Current Article

反回神経麻痺に対する機能的電気刺激の効果

著者: 野中聡

ページ範囲:P.347 - P.357

Ⅰ はじめに

 喉頭は呼吸,気道反射,嚥下,発声などの多彩な機能に関係する。呼吸,気道反射,嚥下は生命維持に直接関与する重要な機能である。また,発声機能はヒトが音声をコミュニケーションの主要な方法として用いるので,反回神経麻痺に伴う発声機能障害は患者のQOLを大きく損う要因と考えられる。反回神経麻痺による発声機能障害の根本的な原因には,支配神経の障害による声帯内転運動障害と内喉頭筋萎縮による声帯ボリュームの縮小が関係する。これまでも,反回神経麻痺による発声障害の治療には,甲状軟骨形成術に代表される喉頭の枠組みを操作して声帯を他動的に内転させる方法や,声帯のボリュームを増加させるためにコラーゲンや脂肪を注入する方法など静的喉頭機能再建術が主に施行されてきた。一方,動的な喉頭機能再建術としては反回神経縫合術などが検討され,良好な治療結果の報告1)もみられるが,本治療法によって発生することの多い声門閉鎖筋と開大筋の過誤支配の問題については依然として完全な解決には至っていない。また,内喉頭筋への神経筋移植も考案されているが2),いまだに一般的には臨床応用されていない。

 近年の医用工学の急速な進歩に伴い,脱神経によって麻痺した筋(群)に微小電気刺激を加え正常に近い様式で筋収縮を引き起こし,失われた運動機能を回復させる機能的電気刺激(functional electrical stimulation:FES)が注目されている。本治療法は脳梗塞や脊髄損傷後の複雑な運動機能回復にも応用されつつある。耳鼻咽喉科領域では,人工内耳に代表される感覚機能を補助する機能的電気刺激が広く臨床の場で普及している。一方,喉頭領域における運動機能に対する機能的電気刺激としては,喉頭ペーシングに関する研究3~5)がいくつかこれまでに報告されているが,広く応用される状況には至っていない。

 本稿では,反回神経麻痺の治療として機能的電気刺激による声帯運動障害への効果と脱神経後の内喉頭筋に生じる筋萎縮に対する効果について,主に動物実験で得られた研究成果を概説したい。さらに,反回神経麻痺の治療法としての機能的電気刺激法の今後の発展性についても言及したい。

原著

帯状疱疹ウイルスによる声帯麻痺の1例

著者: 加藤智史 ,   矢野一彦 ,   畑中章生 ,   喜多村健

ページ範囲:P.389 - P.391

I.はじめに

 帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus:VZV)による脳神経障害では顔面神経や内耳神経障害を伴うことが多く,下位脳神経障害は比較的稀である1)。われわれは,下咽頭粘膜に水疱を形成し,迷走神経単麻痺が認められた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

急性副鼻腔炎から発生した眼窩骨膜下膿瘍の1例

著者: 小林大輔 ,   生井明浩 ,   増田毅 ,   渡辺直人 ,   中村裕子 ,   大塚健司 ,   木田亮紀

ページ範囲:P.393 - P.397

I.はじめに

 小児期における眼窩内合併症の原因の多くは急性副鼻腔炎由来であり,それは幼小児期の副鼻腔の形態的特徴によるものであるといわれている1)。今回われわれは,急性副鼻腔炎から発生した右眼窩骨膜下膿瘍の1例を経験した。術前に抗菌薬とステロイド薬を十分に使用し,早期の手術療法が効果的であった。また,術後の効果判定に金属線入りのガーゼを用い有用であったので,文献的考察を加え報告する。

耳下腺唾石症の1例

著者: 鎌倉武史 ,   北原糺 ,   赤埴詩朗 ,   久保武

ページ範囲:P.399 - P.401

I.はじめに

 唾石症の大半は顎下腺に発生し,耳下腺は全唾石の0.5~10%と比較的少ない1)。当科で,1994年1月~2004年7月までに摘出術を行った唾石症は45例あり,そのうち耳下腺唾石症は今回の1例のみであった(2.2%)。

 今回われわれは,耳下腺に発生した単発性唾石症を経験し,耳前部S字状切開による唾石摘出を行い良好な結果を得たので報告する。

手術・手技

1本の長針で行う経皮的声帯外方移動術

著者: 西平茂樹 ,   田中俊彦

ページ範囲:P.403 - P.407

Ⅰ.はじめに

 両側声帯正中固定症に対する声帯外方移動術式の中で,Ejnell法1)は他の術式と比較して手技が比較的簡便で組織損傷が少なく,術後発声機能も比較的良好であり,1本のナイロン糸で長期間効果が保てることから広く普及している。

 今回われわれは,先端を工夫した1本の長針を用いて1本の2-0ナイロン糸を経皮的に声帯にかけ外方移動させる方法を考案した。特発性両側反回神経麻痺で呼吸状態が悪化した症例に適用して良好な結果を得た。症例を呈示し,手術方法に関して報告する。

シリーズ 難治性疾患への対応

④アレルギー性鼻炎

著者: 馬場廣太郎

ページ範囲:P.409 - P.416

Ⅰ はじめに

 アレルギー性鼻炎の有症率が上昇しているのは紛れもない事実とされてきたが,最近ややプラトーに達した観もある。これは臨床医としての推測であるが,正しい方法による同一地域,できれば全国的な疫学調査が定期的に行われることを望むものである。われわれが行った1998年の全国調査によれば,通年性アレルギー性鼻炎18.7%,スギ花粉症16.2%,スギ以外の花粉症10.9%であり,何らかのアレルギー性鼻炎をもつ割合は30%を超えていた。この数値がさらに大きくなっているかどうかは別にして,全国民の30%が罹患している疾患に対しては,国を挙げての対処が必要であろう。

 厚生労働省は,evidence-based medicine(EBM)を臨床の現場で容易に適応し得ることを目的とした,各種疾患のガイドライン作成のための研究会を設置した。作成する疾患の優先順位を,治療ガイドラインの有効性,患者数,費用対効果比の改善,治療の標準化などの面から疾患ごとに検討し,アレルギー性鼻炎は11番目の順位となった。高い有病率と花粉症だけでも年間コスト2,860億円と試算される疾患は,何らかの対処が必要と考えるのは当然であろう。

 アレルギー性鼻炎は生命予後に関係する疾患ではないが,quality of life(QOL)を低下させ,生産性,学習能率,社会活動などに影響を与えることから,患者満足度を高める方向での治療法選択が重要視されようになりつつある。一方,治療薬の進歩はEBMに則した治療が行われれば,症状の軽減は確実に得られるところまできていると考えられる。しかし,コンプライアンスの問題,さらにはアドヒアランス,すなわち患者自身がどれほど意欲をもって自身の病気と取り組めるかについては軽視されている傾向にある。一人一人の症例に対する説明や教育と同時に,社会に向けての啓蒙活動もアレルギー性鼻炎に対する医師の対処法の1つと考えなければならない。

 本稿では,鼻アレルギー診療ガイドライン1)を中心に述べることとするが,治療法はアレルギー性鼻炎の発症機序と薬物などの作用機序との接点において選択されるべきであると考えている。したがって,発症のメカニズムを確認しておくことが,病気への対応の第一歩であろう。

鏡下咡語

Barany教授とBarany学会について

著者: 水越鉄理

ページ範囲:P.386 - P.388

1.はじめに

 耳鼻咽喉科医として初めてのノーベル生理医学賞受賞者はオーストリア出身のRobert Barany教授である。1960年,彼の前庭生理病理学に対する偉大なる業績を記念して,C. S. Hallpike教授(ロンドン大)とC. O. Nylen教授(ウプサラ大)が提案して,めまい,平衡医学の国際的集会としてBarany Societyがウプサラ(スウェーデン)に創設された。その後,1963年以来,国際的な会員制学会として,Barany学会がほぼ2年ごとに開催されている。

 私自身,1975年,森本正紀教授(京都大)が日本で初めて主催された第7回Barany学会に出席して以来,ほぼ毎回出席してきた。また,Barany教授がノーベル賞受賞後,赴任したウプサラ大学に,1976年3月より4か月余,文部省在外研究員として留学した関係上,数々の思い出も深く,その一端を紹介してみたい。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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