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聴覚障害と補聴機器の選択―将来展望を含めて
著者:
岩崎聡
ページ範囲:P.429 - P.439
Ⅰ はじめに
慢性中耳炎,滲出性中耳炎などの伝音性難聴は鼓室形成術や鼓膜切開術・中耳チューブ留置術による外科的手術により改善でき,すでに日常臨床で行われている。しかし,癒着性中耳炎,鼓室硬化症,中耳根本術後耳,真珠腫性中耳炎の一部など鼓室形成術により必ずしも聴力改善が得られず,しかも両耳に同疾患がみられ,骨導閾値の上昇を伴い混合性難聴に至る症例も多く経験する。このような両側伝音性・混合性難聴の場合や両側感音性難聴に対して補聴器が適応となる。
補聴器は外耳道を通して増幅した音響エネルギーを出力する機器であり,中耳伝音系を介して内耳へ音響信号が伝達されるものである。一般的に使用されているこのような気導補聴器に対し,側頭部の骨に振動を与え中耳伝音系を介さず直接振動による音響信号を蝸牛に伝達する補聴器を骨導補聴器と呼ぶ。気導補聴器は最近デジタル化が進み,高性能・小型化と進化し,補聴器による補聴効果の向上が得られるなか,補聴器の欠点を補うimplantable hearing deviceの進歩もみられてきた。いわゆる補聴機器を体内に埋め込み,補聴効果を得るものである。最も成功したものが人工内耳であり,重度感音難聴に対する代表的な治療法となった。補聴器に比べ,明らかに高い補聴効果が得られるようになり,さらに補聴器と人工内耳の併用により,より高い補聴効果が認められている。
最近,伝音性難聴,混合性難聴や中等度・高度感音難聴に対してimplantable middle ear hearing device(aid)(埋め込み型補聴器または人工中耳)という新たな治療方法ができた。柳原尚明,鈴木純一,Ball, Dumont, Fredrickson, Doode, Hough, Maniglia, Kartush&Tos, Tjellstrom, Welling&Barner, Spindel, Huttenbrinkらによって数種類のimplantable middle ear hearing deviceが開発され,欧米ではすでに臨床応用されているものもある。
このように聴覚障害に対しては,鼓室形成術による聴力改善手術か補聴器の選択以外に人工内耳,埋め込み型補聴器,埋め込み型骨導補聴器,リオン型人工中耳などの新たな選択肢ができてきた。本稿では,それぞれの補聴機器の説明とその適応について概説する。