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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科77巻7号

2005年06月発行

雑誌目次

特集 補聴器に関する最近の変化

1.補聴器適合検査施設基準とその認可

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.441 - P.445

Ⅰ.はじめに

 2000年4月1日から実施された診療報酬の改定に際して,補聴器適合検査が厚生大臣(現 厚生労働大臣)の定める検査として収載されたことは,すでに周知のことと思われる。この収載は,今まである意味で野放し状態にあった補聴器適合検査が,医療行為であることが承認されたわけで,われわれ耳鼻咽喉科医にとってきわめて重大な意義を持つものである。

 本検査は,厚生労働大臣の定める施設基準に適合した保険医療機関においてだけ実施され得るものであり,それには「特掲診療科の施設基準等及びその届出に関する手続き」を必要とする。また,その認定作業を日本耳鼻咽喉科学会が行うという,今までにない学会の医療保険制度への関与があり,その意味では画期的な試みといえる。

2.近年の補聴器の種類と特徴の検討

著者: 廣田栄子

ページ範囲:P.447 - P.453

Ⅰ.はじめに

 近年では多様な機能を備えた補聴器が開発され,信号処理・信号制御のデジタル化など高度技術化が進められている。そこで,補聴器の適合では,難聴者の多様なニーズに応じて必要な補聴器の機能を検討し,適切な補聴器を選択することが要請されている。本稿では補聴器の種類と,選択の際に検討すべき主要な特徴について概説する。

3.補聴器適合のための検査

著者: 西村忠己 ,   細井裕司

ページ範囲:P.455 - P.459

Ⅰ.はじめに

 補聴器の適合(フィッティング)とは,難聴者に最も適した補聴器を選択,調整することである。補聴器適合のための検査には,フィッティングの過程で施行される多くの聴覚検査と補聴器の電気音響的特性測定がある。本稿では,フィッティングの流れのなかで必要な検査について解説する。

4.補聴器と人工内耳の関係

著者: 牛迫泰明 ,   東野哲也

ページ範囲:P.461 - P.465

Ⅰ.はじめに

 補聴器も人工内耳も難聴者の聞こえを回復する機器である。しかし,仕組みと働きは大きく異なり,前者は音声の拡声器として,後者は聴神経の電気刺激装置として働く。特に体外部に装用するだけの補聴器と違って,人工内耳は手術で内部装置を耳内に埋め込む必要がある。そのため,残念なことに難聴者は一時的に人工内耳による聞こえを体験することはできない。内部装置の埋め込みにより内耳が傷害され,元の聞こえを失う可能性が高いからである。補聴効果がすでに少ない難聴者のみが人工内耳の適応となるゆえんである。

 わが国では,1998年に日本耳鼻咽喉科学会により人工内耳の適応基準が見直され,新たに制定されている(表1)。この基準では,人工内耳の適応者は聴力および補聴器の装用効果について,純音聴力は両耳とも90dB以上の高度難聴者で,かつ補聴器の装用効果の少ないものと示されている。これは両耳の聴力が90dB以上の高度難聴者から人工内耳と補聴器のいずれかを選択できることを意味している。わが国においては,ここに補聴器と人工内耳の間の一線がある。

5.補聴器入手の方法とその管理

著者: 佐野肇 ,   岡本牧人

ページ範囲:P.467 - P.472

Ⅰ.はじめに

 現時点において難聴者の多くは治療によって改善を得ることが困難であり,補聴器が聴覚コミュニケーションを改善する最も有効な手段であることが多い。それにもかかわらず,難聴者が補聴器を手に入れて,それを正しく使っていくシステムがわが国では確立されていない。まず補聴器の入手方法の現状と,最近行われたいくつかの制度の変化について説明したい。次に補聴器の入手と管理に関連する事項について,耳鼻咽喉科医の立場から重要と思われる点を説明したい。

目でみる耳鼻咽喉科

上咽頭に発生した横紋筋肉腫の1症例

著者: 今井隆之 ,   森川敬之 ,   篠昭男 ,   吉原俊雄

ページ範囲:P.426 - P.427

横紋筋肉腫は全悪性腫瘍のうち約0.1%の比率で比較的稀な疾患であるが,転移,浸潤が速く,きわめて悪性度の高い軟部組織腫瘍の1つである。全身のあらゆる部位より発生しうるが,頭頸部領域は四肢,軀幹とともに好発部位の1つである1)。今回われわれは,成人の上咽頭より発生した胎児型横紋筋肉腫を経験したので報告する。

 症例:29歳,男性

 主訴:両側鼻出血,両側鼻閉,右側耳閉感,咽頭痛

 現病歴:2002年12月頃より右側耳閉感が出現した。2003年1月中旬になり咽頭痛,両側鼻出血,鼻閉が出現した。1月21日,上咽頭腫瘍の疑いで近医より当科を紹介され受診した。

Current Article

聴覚障害と補聴機器の選択―将来展望を含めて

著者: 岩崎聡

ページ範囲:P.429 - P.439

Ⅰ はじめに

 慢性中耳炎,滲出性中耳炎などの伝音性難聴は鼓室形成術や鼓膜切開術・中耳チューブ留置術による外科的手術により改善でき,すでに日常臨床で行われている。しかし,癒着性中耳炎,鼓室硬化症,中耳根本術後耳,真珠腫性中耳炎の一部など鼓室形成術により必ずしも聴力改善が得られず,しかも両耳に同疾患がみられ,骨導閾値の上昇を伴い混合性難聴に至る症例も多く経験する。このような両側伝音性・混合性難聴の場合や両側感音性難聴に対して補聴器が適応となる。

 補聴器は外耳道を通して増幅した音響エネルギーを出力する機器であり,中耳伝音系を介して内耳へ音響信号が伝達されるものである。一般的に使用されているこのような気導補聴器に対し,側頭部の骨に振動を与え中耳伝音系を介さず直接振動による音響信号を蝸牛に伝達する補聴器を骨導補聴器と呼ぶ。気導補聴器は最近デジタル化が進み,高性能・小型化と進化し,補聴器による補聴効果の向上が得られるなか,補聴器の欠点を補うimplantable hearing deviceの進歩もみられてきた。いわゆる補聴機器を体内に埋め込み,補聴効果を得るものである。最も成功したものが人工内耳であり,重度感音難聴に対する代表的な治療法となった。補聴器に比べ,明らかに高い補聴効果が得られるようになり,さらに補聴器と人工内耳の併用により,より高い補聴効果が認められている。

 最近,伝音性難聴,混合性難聴や中等度・高度感音難聴に対してimplantable middle ear hearing device(aid)(埋め込み型補聴器または人工中耳)という新たな治療方法ができた。柳原尚明,鈴木純一,Ball, Dumont, Fredrickson, Doode, Hough, Maniglia, Kartush&Tos, Tjellstrom, Welling&Barner, Spindel, Huttenbrinkらによって数種類のimplantable middle ear hearing deviceが開発され,欧米ではすでに臨床応用されているものもある。

 このように聴覚障害に対しては,鼓室形成術による聴力改善手術か補聴器の選択以外に人工内耳,埋め込み型補聴器,埋め込み型骨導補聴器,リオン型人工中耳などの新たな選択肢ができてきた。本稿では,それぞれの補聴機器の説明とその適応について概説する。

原著

多発脳神経麻痺をきたした副鼻腔由来深部真菌感染の1症例

著者: 藤城芳徳 ,   千原康裕 ,   中西わか子 ,   深谷卓

ページ範囲:P.479 - P.483

I.はじめに

 近年,副鼻腔真菌症の報告例は増加傾向にある。その原因としてステロイドや抗菌薬の頻用,基礎疾患による免疫力の低下などが指摘されている1,2)。その菌種としてはアスペルギルスが最も多く,ほとんどの症例では鼻腔・副鼻腔に限局する寄生型に分類されるが3),稀に破壊性に進展する侵襲型の経過をたどることがある。

 今回われわれは,副鼻腔から頭蓋底に広範囲に浸潤し多発脳神経麻痺をきたし,(1-3)-β-D-glucan測定が診断に有用であった侵襲型アスペルギルス症例を経験したので報告する。

喉頭軟骨肉腫の1例

著者: 谷口昌史 ,   佐伯忠彦 ,   縄手彩子 ,   川上美由紀

ページ範囲:P.485 - P.489

I.はじめに

 喉頭に発生する腫瘍のうち非上皮性腫瘍の占める割合は少なく,軟骨肉腫は喉頭原発悪性腫瘍の1%以下である1)。今回われわれは,輪状軟骨に発生した軟骨肉腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

喉頭癌に対する放射線治療後に下咽頭壊死および降下性壊死性縦隔炎を生じた1例

著者: 中平光彦 ,   中谷宏章 ,   福島慶 ,   竹田泰三

ページ範囲:P.491 - P.495

I.はじめに

 早期喉頭癌の放射線治療は,喉頭温存目的の第一選択とされる治療方法である。今回われわれは,喉頭癌に対して行った放射線治療後に,下咽頭壊死および降下性壊死性縦隔炎を生じた症例を経験した。降下性壊死性縦隔炎は,早期に適切な治療が施されないと致命的となる疾患である1)。外科的治療により救命し,その後,下咽頭の再建を要した症例の治療経験を報告する。

医療ガイドライン

重心動揺検査を用いたバランス健診の薦め

著者: 時田喬

ページ範囲:P.497 - P.499

1.バランス健診の必要性

 健康の維持を図り,病気をしない質の高い社会生活を送るためには,身体の健康の確認と疾病リスクを早期に発見し適切な措置により疾病の発生を予防することが必要である。この目的で,各種の健康診断,健康測定が行われている。

 しかし,平衡機能の検査を目的とした健診は,特定の施設で,限られた目的で行われており,一般には普及しているとは言い難い。

 青少年の身体機能低下,勤労者の過重労働,高齢者の転倒などが問題となっている現況において,身体平衡の検査を目的とした健康診断(バランス健診)が必要である。

シリーズ 難治性疾患への対応

⑤鼻出血

著者: 三橋敏雄

ページ範囲:P.501 - P.506

Ⅰ はじめに

 鼻出血は耳鼻咽喉科臨床医の遭遇する最もポピュラーな症状の1つである。しかも一般的には,患者や救急医療に携わる方々の見方からすると緊急性を要する症状の1つと考えられている。

 しかし,実際にそのほとんどが初歩的な処置により対応できることは,多くの経験ある耳鼻咽喉科臨床医の方はご存知であろう。その理由は後述するが,耳鼻咽喉科当直を担当していると,よく「鼻出血があり止まらない。かかってもよいか?」という問い合わせがあり,夜中に遠くより,しかも時には救急車を利用して来院されるが到着時にはもう止血していたということも少なからず経験する。人間は血を見ると慌ててしまうのは仕方がないことであり,本人の気が動転してしまうことは無理もないことかもしれない。しかし,周りの人や一次救急に携わる方々にはもう少し冷静に対応していただきたい。私たち耳鼻咽喉科専門医は,鼻出血の多くは初歩的な処置により,その多くが対処できるということをもっと一般の人にわかりやすいように説明すべきである。

 統計をとったことはないが,医療経済学的にみても初歩的な処置により対応可能な鼻出血患者が,医療機関を受診する(しかも時間外診療で,時には救急車を利用して)医療費は年間で換算するとかなりのものになると推測される。

 筆者が当直の場合,鼻出血を主訴とする患者からの問い合わせに対してはまず,本人かご家族に電話口に出ていただき,「鼻出血ですぐに致命的になることはほとんどないのでまず落ち着く」ことと,「簡単な処置の仕方」をお話し約10分間は様子をみていただき,それでも無効な場合は受診していただくことにしている。これだけで多くの場合,救急隊などの出動機会を抑えることができる。おそらく血を見て興奮して上がった血圧も下降し,止血効果を上げているのであろう。正しい応急処置を施しても止まらないものはもちろん救急対応する必要があるが,一度は止血しても繰り返すような場合に限り,諸検査の可能な日中に耳鼻咽喉科専門医を受診していただき精査を進めることになろう。ちなみに,死因別死亡数の統計を調べても鼻出血が死因のものは見つからない。

 鼻出血については多くの成書,文献があり,いずれにもその原因1),解剖学的特質2),代表的止血法3)などについて詳しく記載してある。ここでは,それらを簡潔に整理する程度にとどめたい。細かい点については詳書を参考にしていただきたい。難治性疾患への対応ということであるが,当科で実際に行っている処置の具体的方法や止血困難な症例に対して効を奏した止血法などについて紹介する。

鏡下咡語

イタリア医学の歴史を概観する

著者: 西村忠郎

ページ範囲:P.474 - P.476

1.はじめに

 2005年6月25~30日にイタリアのローマで第18回世界耳鼻咽喉科会議(会長:シエナ大学 パッサーリ教授)が開催される。この機会にルネッサンス期以降の近世から19世紀頃までのイタリア医学の歴史を概観してみたい。

 筆者は1969~1970年にかけて1年半にわたり,北イタリアのパビア(Pavia)大学耳鼻咽喉科(マリオ ケルビーノ教授)に留学していたので,当時からイタリアの医学史に関心を抱いていた。今回,原稿の依頼を受けた機会に,由緒ある北イタリアのボローニア(Bologna)大学,パドゥア(Padua)大学,およびパビア大学を中心に医学の歴史を辿る。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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