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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科77巻8号

2005年07月発行

雑誌目次

特集 頸部リンパ節腫脹

1.頸部リンパ節の臨床解剖

著者: 齊藤孝夫 ,   加藤孝邦

ページ範囲:P.535 - P.539

Ⅰ.はじめに

 頸部ではリンパ系が発達しており,各種炎症性疾患,悪性腫瘍の転移,悪性リンパ腫などの腫瘍性疾患に関連して腫脹をきたす。リンパ管は主として頭部・顔面・口腔・咽頭からのリンパを集め,頸部上方から下方へと流れ,左右の内頸静脈と鎖骨下静脈との合流点である静脈角に達する。臨床的には,治療方針を決定する際に,どの部位のリンパ節に病変が存在しているかを評価することが重要となる。

 下行するリンパ節鎖は,従来2つの視点から系統解剖学的に分類1)されてきた。(1)分類①:前群と外側群に分ける。リンパ節が前正中部の内臓,ならびにその外側を走る太い血管に沿って発達することを重視した分類である。(2)分類②:浅群と深群に分ける。これは,舌骨下筋を含む頸筋膜の気管前葉(中頸筋膜)の層を境として,浅深2群に分ける分類である。

 これら分類①および分類②の組み合わせにより,4群に分類している(表1)。筋・筋膜層を隔てたリンパ管の間に交通が生じにくいこと,筋膜がCTの断層像により描出されやすいことを考慮した分類となっている。

2.頸部リンパ節腫脹の鑑別診断

著者: 井上博之 ,   丹生健一

ページ範囲:P.541 - P.544

Ⅰ.はじめに

 頸部リンパ節腫脹は耳鼻咽喉科診療において遭遇する機会が多いが,ほかの臨床症状が乏しい症例では診断に苦慮する。頸部の解剖,臨床症状,頸部リンパ節腫脹をきたす疾患に熟知し,転移性リンパ節や悪性リンパ腫などの悪性疾患の可能性を常に念頭に置いて,早期診断,早期治療が望まれる。頸部リンパ節腫脹をきたす代表的疾患の診断に至る流れを示した(図1)。

3.頸部リンパ節炎,伝染性単核球症

著者: 高橋光明 ,   小林祐希

ページ範囲:P.545 - P.550

Ⅰ.はじめに

 人体には1mmから1~2cm大のリンパ節が600個はあるといわれ,その1/3の200個が比較的小さな領域である頸部に存在する。このことは,常に細菌やウイルスなどの病原菌にさらされている鼻腔,口腔咽頭の二次防御システムとしての頸部リンパ節の重要性を物語っている。健常状態では,頸部リンパ節は小さく軟らかいため触知できない。しかしながら頸部のリンパ節に炎症が起こり,1cm大以上に腫脹すると触知するようになる。頸部リンパ節炎は,リンパ節に炎症が起こり痛みや腫脹がみられる場合をいう。経過から急性,亜急性,慢性に分けられる。原因はウイルス,細菌などによる急性感染性リンパ節炎が最も多くみられる1)。稀に膠原病や原因不明などの反応性リンパ節肥大,あるいは肉芽腫を形成するリンパ節腫脹がある(表1)。特に結核をはじめとする肉芽腫性リンパ節炎(別項参照)は重要である。

 本稿では,まず急性の感染性リンパ節炎について述べ,代表的なウイルス性リンパ節炎をきたす伝染性単核球症についても症例を呈示しながら説明する。

4.結核性リンパ節炎

著者: 岩井大

ページ範囲:P.551 - P.555

Ⅰ.はじめに

 結核菌は長さ1~4μm,幅0.3~0.5μmの桿菌で,色素にいったん染まると酸で処理しても脱色しにくいところから抗酸菌と呼ばれている。感染経路として,耳鼻咽喉科領域では結核菌で汚染された点耳液,および点耳スポイドで耳から耳へ直接感染した例があるが1),一般的には排菌している患者を介した飛沫・空気感染である2)

 日本人の結核罹患率は戦後徐々に減少したが,院内感染や集団感染の頻発により1996年から上昇に転じ,1999年に厚生省が「結核緊急事態宣言」を出すに至った。その後,罹患率は漸減したものの,人口10万人対26(2002年)という率は,先進国のなかでもいまだ飛び抜けて高い2)。日本人の15~20%が結核既感染であり,感染者の約30%が発病するが,一生涯のうちの発病時期は不定とされる2)。結核を疑うべき結核ハイリスク者は表1のとおりである。問診の時点で既往歴のある患者は当然本疾患を疑うとして,2週間以上の咳,痰,発熱が続く患者に注意を払うべきである。さらに,われわれ医療従事者が結核ハイリスク者であることを忘れてはならない。

 結核のうち結核性リンパ節炎は肺外結核の約30%とされ,その70%が頸部に出現するとされる1,3)。また,頸部リンパ節炎の5%が結核性であり4),結核菌が咽喉頭からのリンパの流れに入って,頸部リンパ節に至ったものとされる。本稿では,頸部結核性リンパ節炎について述べる。

5.転移性リンパ節,悪性リンパ腫

著者: 坂本菊男 ,   中島格

ページ範囲:P.557 - P.562

Ⅰ.はじめに

 頸部腫脹を主訴に耳鼻咽喉科を受診する患者は少なくない。多くは口腔咽頭などの炎症に続発する頸部リンパ節炎などの炎症性疾患であるが,悪性リンパ腫や頭頸部悪性腫瘍の頸部リンパ節転移による初発症状として認められることもある。さらに,検査により悪性腫瘍の転移が疑われ,全身的な原発巣検索を十分に行ったにもかかわらず原発巣が不明の転移性頸部癌もある。リンパ節腫脹の場合,炎症性のものか,転移リンパ節かを考慮することは,癌治療の第一歩ともいえるものである。

 本稿では,癌の転移によるリンパ節腫脹を疑った場合の原発臓器精査と悪性リンパ腫に焦点を当てて述べる。

6.特殊な頸部リンパ節腫脹

著者: 秋田泰孝 ,   鈴木賢二

ページ範囲:P.563 - P.567

Ⅰ.亜急性壊死性リンパ節炎

 亜急性壊死性リンパ節炎は1972年に菊地1),藤本ら2)により好中球浸潤を伴わないリンパ節の壊死病巣を特徴とする疾患として初めて報告されたが,現在も原因は不明である。わが国における報告は諸外国に比べ多い。

 典型例は20~30歳代の若い女性であるが,男性にも多く,10~30歳代で90%以上を占め,男女比は1:3ぐらいである。

目でみる耳鼻咽喉科

自然排出した大きなワルトン管唾石

著者: 西平茂樹 ,   田中俊彦

ページ範囲:P.520 - P.521

小さな唾石がワルトン管から自然排出されることはしばしば経験される。今回,全長28mm,最大径5.5mmの大きな唾石が自然排出された症例を経験したので報告する。

 症例:51歳,男性

 家族歴・既往歴:特記すべきことなし。

 現病歴:3日前から舌下部痛と右側頸部腫脹があり受診した。

Current Article

睡眠時無呼吸症候群に対する外科的治療―耳鼻咽喉科医としての取り組み方

著者: 中山明峰 ,   稲福繁

ページ範囲:P.523 - P.534

Ⅰ はじめに

 睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:以下,SAS)に対して,Fujitaら1)が初めて外科治療として口蓋垂口蓋咽頭形成術(uvulopalatopharyngoplasty:以下,UPPP)を報告し,その有効性を述べた。この方法は瞬く間に全世界に広がり,頻繁に行われるようになった。しかしながら,時間が経過するにつれ,その有効性に対し多くの疑問が投げかけられた。実際の手術効果は決して好ましいものではないとの報告が増加し2,3),UPPPはSASに対してなす術もないときに行う最後の手段とまでいわれた4)。耳鼻科医にとってさらなる厳しい現状として,近来,UPPPに対する訴訟が増加し,公表されたもののみでも医師側の敗訴が決定した例を散見する。

 SASは,耳鼻科のみならず呼吸器内科,循環器内科,精神科,小児科,歯科などとさまざまな科が携わる疾患である。そのため診断,治療方針が科によって多少相違することがある。本稿は,耳鼻科医としてSASをどう認識するべきか,どのように治療にかかわっていくかを中心に述べる。

 なお,執筆中は日本口腔・咽頭科学会がガイドラインを作成している時期と偶然重なったが,これまでに報告されたガイドライン5)の概略を参考にしながら,筆者ら独自の一思案を述べる。

原著

自然消退した小児側頭骨Langerhans' cell histiocytosisの1例

著者: 井上亜希 ,   鈴川佳吾 ,   戸島均 ,   渡邊周永 ,   菊地正広 ,   下釜達朗

ページ範囲:P.573 - P.576

I.はじめに

 Langerhans' cell histiocytosis(LCH)は表皮ランゲルハンス細胞様の異常組織球が反応性増殖した疾患とされる。1953年にLichtensteinが,Letterer-Siwe病,Hand-Schuller-Christian病,好酸球性肉芽腫をhistiocytosis Xと総称した1)が,1987年にHistiocyte Society Writing GroupがLCHと改名した2)。罹患部位により多彩な症状を示し,側頭骨に発生した場合においては耳漏や外耳道ポリープなど,鑑別を要するほかの疾患と極めて類似する症状を呈する。

 今回われわれは,小児の左側頭骨に発症し自然経過にて消退したLCHの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

鼻腔悪性腫瘍手術後に涙囊転移した1症例

著者: 大嶋章裕 ,   永尾光 ,   安田繁伸 ,   濵雄光 ,   浦崎晃司 ,   西野健一 ,   久育男

ページ範囲:P.577 - P.580

I.はじめに

 転移性も含めて涙囊腫瘍についての症例報告は少ない。初期症状としては眼瞼内下方の腫瘤や血性流涙,鼻出血があるが,涙囊炎症状と類似しており,診断および治療が遅れることがある。今回われわれは,鼻腔悪性腫瘍手術後の経過観察中に,涙囊転移が発見された1症例を経験したので報告する。

前頭洞真菌症の1症例

著者: 山下安彦 ,   米田孝明 ,   岡野光博 ,   妹尾一範 ,   園部宏

ページ範囲:P.581 - P.583

I.はじめに

 副鼻腔真菌症はしばしばみられる疾患である。その多くは上顎洞に認められるが,前頭洞にみられるものは少なく,前頭洞のみにみられるのは1.8%2),6.8%3),6.8%4)と報告されている。今回われわれは,前頭洞のみに発生した副鼻腔真菌症の1例を経験したので報告する。

Enterobacter cloacaeが起炎菌と考えられた高齢者再発深頸部膿瘍の1例

著者: 得居直公 ,   宇高毅 ,   塩盛輝夫 ,   大淵豊明 ,   坂部亜希子 ,   平木信明 ,   鈴木秀明

ページ範囲:P.585 - P.588

I.はじめに

 近年の抗菌薬の普及と発達により感染症が重症化する頻度は減少傾向にあるものの,逆に新しいタイプの難治性感染症の発生はあとをたたないのが現状である。感染症難治化の要因として,宿主側では易感染者の増加が挙げられ,細菌側としては,細菌の変異,菌交代現象などが挙げられる。なかでも加齢化に伴って発生する日和見感染症は,今後さらに増加の一途をたどることが予想されるため注意を要する。

 今回われわれは,日和見感染症の原因菌の一菌種であるEnterobacter cloacae(E. cloacae)が起炎菌と考えられた高齢者再発深頸部膿瘍を経験したので,本症例の病態について考察するとともに,若干の文献的考察を加え検討したので報告する。

シリーズ 難治性疾患への対応

⑥慢性副鼻腔炎

著者: 間島雄一

ページ範囲:P.591 - P.595

慢性副鼻腔炎は過去には難治であるといわれた。それは保存的療法に反応しづらく,また手術療法においても,術後の予後が術前に確実に予測できないことが大きく関与していたと考えられる。しかし,近年その様相は大きく変化してきた。その理由の1つは,14印環マクロライド抗生物質と内視鏡下鼻内副鼻腔手術(endoscopic sinus surgery:以下,ESS)の本症の治療への導入である。前者は症例によりかなりの効果が期待でき,また後者は手術治療による限界を明らかにしたからである。後者についは,手術により効果が期待できる症例と,そうでない症例を術前にある程度予測できるようになったと言い換えることができる。

 したがって,慢性副鼻腔炎で難治なのは現時点では手術に抵抗する例であるといえるが,本稿では慢性副鼻腔炎について述べ,その難治例にも言及したい。

鏡下咡語

ベートーベンの難聴

著者: 立木孝

ページ範囲:P.570 - P.572

ベートーベン(Ludwig van Beethoven)は若くして難聴になり,その難聴はあらゆる治療に逆らって進行を続け,50歳を超える頃にはほとんど聾になっていたという。1824年5月7日,ウイーンで行われた「第九交響曲」初演の際,指揮者の1人として聴衆に背を向けていたベートーベンは,演奏が終わったときの熱狂的な拍手に気がつかず,歌手の一人に促されて振り返り,初めてその成功を知ったといわれている。このベートーベンの難聴の原因が何であったかについては,少なからざる論文や記述があるが,定説は得られていないようである。

 1964年,ドイツ留学中であった私は,1日,ボンのベートーベン・ハウスを訪れた。ベートーベンの生まれた家が記念館となって,デスマスクやピアノ,そのほか数々の遺品や記念品を展示していたのである(図1,2)。ベートーベンが生まれたのは,3階屋根裏の小さな部屋で,そこにはベートーベンの胸像が1つ,ポツンと置かれていた(図3)。数々の展示物のなかには,メトロノームの発明者Mälzelがベートーベンのためにつくったといわれる4個の補聴器もあった(図2,4)。若い女性のガイドがいて,いろいろと説明してくれていたが,補聴器については,難聴が進行するにしたがって大きなものに変えなければならなかったと説明した。私はそのガイドに,ベートーベンの難聴の原因は何だったのかと訊ねてみた。若い女性のガイドは,一言,“Otosklerose”と答えた。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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