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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科78巻1号

2006年01月発行

雑誌目次

特集 耳鼻咽喉科とウイルス

1.耳鼻咽喉科診療とウイルス

著者: 古川仭

ページ範囲:P.19 - P.23

Ⅰ.はじめに

 細菌よりも小さく,細菌濾過器を通過して感染する生き物の発見を契機としてウイルスが発見されてから,すでに100余年を経過した。この間,基礎的研究が先行して発展してきた基礎医学では,応用ウイルス学,臨床ウイルス学の展開を経て,ウイルス感染症の診断,治療,予防法を確立するまでに至った。それは,近年の分子生物学の急速な進歩によるところが大で,免疫学の進歩・発展と相俟って,これまで困難をきわめていたウイルス感染細胞の同定,局在の検出,病原性の確定などが容易になったことに基づく。その結果,そこから得られた知見の集積は,未知のウイルスの発見や腫瘍ウイルス学の飛躍的展開をもたらしたばかりでなく,宿主の免疫機構の解明,特異的免疫と抗原認識機構の解明,生態防御機構の解明などめざましい結果をもたらした。

 ところで,ヒトに感染するウイルスは多種多様であり,上気道,粘膜病変を取り扱う耳鼻咽喉科医は,そのぶんウイルス感染症を取り扱う機会や,自分自身が感染するリスクも高くなる。病原体の侵入経路と感染様式,ウイルスと臓器の親和性など,情報をきちんと整理しておくことがウイルス感染症を予防し,自らの身を守ることになる。本特集では,ウイルス感染と耳鼻咽喉科領域の疾患について,最近の知見が各論的に特集されるので,ここでは耳鼻咽喉科とウイルス感染について,耳鼻咽喉科医として日常診療に求められる基礎的事項について紹介し,特にバイオハザードについて強調したい。

2.難聴とウイルス

著者: 福田諭

ページ範囲:P.25 - P.30

Ⅰ.はじめに

 ムンプスウイルスなどによる全身ウイルス感染の際に内耳炎が引き起こされ感音難聴が生じることは,古くよりよく知られている事実である。一方,難聴という立場からみても,感音難聴の原因の1つとしてのウイルス感染は重要なものであり,難聴の原因となるウイルス,臨床像,病理所見,ワクチンによる予防などについて述べていきたい1~7)。従来,ウイルスの内耳への感染経路としては(1)経中耳感染,(2)経脳脊髄液感染,(3)血行性感染,(4)神経行性(顔面神経を逆行性に)と神経節に潜伏感染したウイルスの再活性化が考えられており,各々のウイルスによっても異なる。

3.ウイルス性顔面神経麻痺

著者: 村上信五 ,   江崎伸一

ページ範囲:P.31 - P.37

Ⅰ.はじめに

 顔面神経麻痺は種々の原因で生じるが,ウイルスにより発症する頻度は高い。なかでもヘルペス科ウイルスの関与が大きく,末梢性顔面神経麻痺の約60%を占めるBell麻痺は,これまで原因不明とされてきたが,その主病因が単純ヘルペスウイルスⅠ型(herpes simplex virus typeⅠ:以下,HSV-Ⅰ)であることが明らかになってきている1)。また,Bell麻痺に次いで高頻度(約15%)のRamsay Hunt症候群2)も同じくヘルペス科の水痘-帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus:以下,VZV)により生じ(図1),さらにEBウイルス(Epstein-Barr virus:以下,EBV)3)やサイトメガロウイルス(Cytomegalovirus:以下,CMV)4),human herpes virus 6,74)による麻痺の報告も散見される。ヘルペス科以外のウイルスでは,ムンプスウイルス(mumps virus)5)やヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:以下,HIV)6),ヒトT細胞白血病ウイルスⅠ型(human T-cell leukemia virus typeⅠ:以下,HTLV-Ⅰ)7)などがあり,末梢性顔面神経麻痺におけるウイルスの関与は大きい。本稿では,顔面神経麻痺をきたす代表的なウイルスと疾患について,診断,病態,治療の現状と将来の展望について述べる。

4.耳鼻咽喉科におけるEBウイルス

著者: 荒木倫利

ページ範囲:P.39 - P.44

Ⅰ.はじめに

 EBウイルス(Epstein-Barr virus,以下,EBV)は,1964年にEpsteinとBarrらによりバーキットリンパ腫の培養細胞中に発見された。彼らは,バーキットリンパ腫の器官培養からリンパ芽球様細胞株を樹立,電子顕微鏡によって細胞中にヘルペスウイルスに似たウイルスを発見し,このウイルスはがんウイルスとして注目された1,2)。その後の研究により,バーキットリンパ腫,上咽頭癌,ホジキン病,胃癌,NK/Tリンパ腫といった悪性腫瘍や血球貪食症候群,慢性活動性EBウイルス感染症,自己免疫疾患などとのかかわりが明らかとなってきている3)。本稿では,EBウイルス感染の基本的事項を示すとともに耳鼻咽喉科領域の代表的疾患について述べる。

5.喉頭疾患とウイルス

著者: 石川和宏 ,   阿部弘一 ,   市村恵一

ページ範囲:P.45 - P.48

Ⅰ.はじめに

 喉頭の感染症は細菌感染によるものが主であり,ウイルス感染を主病因とする疾患は比較的少ない。喉頭におけるウイルス疾患の主なものとして(1)急性喉頭炎,(2)急性声門下喉頭炎,(3)水痘・帯状疱疹ウイルス(以下,VZV)による喉頭麻痺,(4)喉頭乳頭腫が挙げられる。本稿では,急性声門下喉頭炎,VZVによる喉頭麻痺と喉頭乳頭腫について述べる。

目でみる耳鼻咽喉科

両側外耳道軟骨腫の1症例

著者: 西平茂樹 ,   田中俊彦

ページ範囲:P.8 - P.9

鼓膜直前部の外耳道前壁からツチ骨へ先端を向けた短角状の軟骨腫が両側に存在した症例を経験した。その症例とともに,その発生に関して若干の考察を加えて報告する。

Current Article

末梢前庭性・垂直性前庭眼反射について

著者: 飯田政弘

ページ範囲:P.11 - P.17

垂直性前庭眼反射(vertical vestibulo-ocular reflex:以下,V・VOR)は,末梢前庭(垂直半規管と耳石器)や小脳片葉など中枢が関係する眼球上下動反射(身体y軸を軸とした眼球の回転運動)である1~3)。中枢性V・VORに関する報告は多いが4,5),垂直半規管や耳石器が関係する末梢性V・VORについての検討は少ない。本稿では,末梢性V・VORのうち垂直半規管性V・VORについて,その神経機構と臨床的意義を述べる。

原著

舌の化膿性肉芽腫の1例

著者: 松浦徹 ,   森倉義成 ,   浜浦健 ,   間島雄一

ページ範囲:P.55 - P.58

化膿性肉芽腫は,膿原性肉芽腫と呼ばれ皮膚や粘膜に生じる隆起性病変であり,口腔領域も好発部位の1つとされている1)。妊娠中に発生すると妊娠性腫瘍とも呼ばれる1)。臨床的には,急速に発育し易出血性の肉芽腫を形成する疾患といわれている2)。今回われわれは,舌に発生した化膿性肉芽腫の1例を経験したので,臨床経過に文献的考察を加えて報告する。

最近経験した梅毒の2症例

著者: 望月幸子 ,   望月高行 ,   米田律子 ,   廣瀬肇 ,   佃守 ,   国村利明

ページ範囲:P.59 - P.62

梅毒の届出症例数は1980年代に比べて激減しているが,最近の性風俗の多様化により性器病変を伴わない口腔咽頭梅毒がしばしば報告されるようになった1)。1999年より性病予防法が改正され,梅毒は診断より7日以内に知事に届け出る疾患となった。われわれ耳鼻咽喉科医も日常診療において遭遇する疾患であり注意を要する。今回われわれは,梅毒に特有な咽頭所見を呈した症例と無症候性頸部リンパ節腫脹症例を経験したので若干の考察を加えて報告する。

耳下腺基底細胞腺癌の1例

著者: 田中秀峰 ,   田渕経司 ,   小塙理佳 ,   星野朝文 ,   及川慶子 ,   大久保英樹 ,   池部大 ,   野口雅之 ,   原晃

ページ範囲:P.63 - P.67

基底細胞腺癌は,1991年にWHOの耳下腺腫瘍組織分類第2版で初めて独立して分類された比較的新しい概念の腫瘍である1)。これまで,報告例は少なく唾液腺腫瘍のなかでの発生頻度は約1%前後とされている2)。本腫瘍は良性腫瘍である基底細胞腺腫と組織学的にも類似点が多く3),一般的には低悪性腫瘍と考えられている。腫瘍の増大は通常緩慢で,顔面神経麻痺をきたすことは稀とされている11,12)。今回われわれは,顔面神経麻痺をきたした耳下腺原発の基底細胞腺癌の1例を経験したので報告する。

無自覚の頸部木片異物の1例

著者: 飛田忠道 ,   三上喜久 ,   村下秀和 ,   原晃

ページ範囲:P.69 - P.72

頸部異物症例では,受傷時に自覚しているか,あるいは周囲にいた人によって認識されていることがほとんどである。今回われわれは,診断と治療に難渋した無自覚の頸部木片異物症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

シリーズ 難治性疾患への対応

⑫声門下・気管狭窄

著者: 大前由紀雄 ,   北原哲 ,   田部哲也 ,   唐帆健浩 ,   渕上輝彦

ページ範囲:P.75 - P.79

声門下・気管狭窄に対する治療原則は,狭窄を解除し気道としての管腔を確保すること,確保した管腔の再狭窄を防止することである。しかしながら,こうした原則を満足できる画一的な治療法は確立されていないため,症例に応じて治療法が選択されているのが現状である。従来,声門下・気管狭窄の解除には,局所を開放し狭窄を切除することで管腔を確保する方法が主流であった。一方,レーザー器機を応用した内視鏡下手術の進歩によって,局所を開放することなく狭窄部位にアプローチできる症例が増加し,以前に比べて治療法の選択範囲も広がっている1)

 本稿では,こうした点を踏まえながら,声門下・気管狭窄に対する耳鼻咽喉科としての対応を紹介する。

鏡下咡語

側頭骨組織の写真で考えること

著者: 星野知之

ページ範囲:P.50 - P.52

最近,外耳道の真菌症についての症例報告を書いた。このとき使った白黒写真は,カラースライドをデジタル処理して若い人につくってもらったが,予想を上回るでき栄えであった。コンピュータの知識だけで見事な写真をつくれることに驚き,時代の変化を改めて感じた(組織像が“つくれる”という感じもして,少し怖い気もしているが)。耳の組織や病理に長年関心があり,報告をいくつか書いたが,論文の良し悪しの評価には,添付される組織写真の質が大いに関係する。したがってよい写真をつくることに長年腐心してきたので,そのことを書いて責めを果たしたい。螢光抗体法などでは華麗な色彩の世界が写されるのに,これは白黒写真の話で色気がないが,お許し願いたい。

 耳の組織病理写真の代表的なものは,側頭骨の連続切片の写真だろう。高倍率の写真は,優秀な顕微鏡の進歩で比較的簡単に撮れるが,蝸牛や前庭が全体に入るような低倍率の写真の撮影はかなり難しい。レンズに長い蛇腹をつけ,フィルムを装着して撮るのが一般的で,筆者が帝京大学にいた頃はニコンのマクロ撮影装置を使っていた。金属棒で組んだ頑丈なステージに,レンズ,蛇腹,4×5インチの大判のフィルムを装着する大きな箱が垂直に付けられていた。Harvard大学Massachusetts Eye & Ear InfirmaryのSchuknecht教授のところでは,水平に長く配置された特別の撮影装置をつくり,著書“Pathology of the Ear”(2nd ed, Lea & Febiger, 1993)のなかにその装置の写真が紹介され,Arthur Bowdenという写真技師の名前も挙げられている。写真の作製にかかわる人や器具がいかに重視されていたかがわかる。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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