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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科78巻10号

2006年09月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

下咽頭梨状窩瘻の診断

著者: 関伸彦 ,   氷見徹夫

ページ範囲:P.734 - P.735

 下咽頭梨状窩瘻は反復する急性化膿性甲状腺炎や頸部蜂窩織炎として発症する先天性瘻孔で,診断には主として頸部食道造影検査による瘻管の確認が必要である。今回われわれは術前に確定診断できず,組織学的に下咽頭梨状窩瘻と診断された症例を経験したので,典型例とともに報告する。

症例

 患者1:4歳女児(典型例)

 主 訴:発熱,左前頸部の疼痛と腫脹

 現病歴:2002年5月,39~40℃の発熱と左前頸部の疼痛と腫脹を主訴に近医小児科を受診し,抗菌薬内服により症状は改善した。2003年1月に再び左頸部の疼痛と腫脹を認め,精査・加療目的に当科を紹介された。

Current Article

顔面神経麻痺の電気生理学的検査―誘発筋電図検査からみたベル麻痺患者の経過を中心にして

著者: 稲村博雄

ページ範囲:P.737 - P.747

Ⅰ はじめに

 特発性顔面神経麻痺,いわゆるBell麻痺(ベル麻痺)の病因については,近年の分子生物学的検査法の進歩により,主に膝神経節に潜伏感染する単純ヘルペスウイルスⅠ型(herpes simplex virus typeⅠ:HSV-Ⅰ)の再活性化が大きな役割を果たしていることが有力視されるようになったことは周知のことである1)。水痘帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus:VZV)の再活性化が関与するRamsay Hunt症候群(ハント症候群)とともに,末梢性顔面神経麻痺の代表的なこの2疾患はウイルス性の顔面神経麻痺として呼称される疾患ともなっている。一方,この2疾患をはじめとする種々の末梢性顔面神経麻痺の病態については,顔面神経が内耳道底部から茎乳突孔までは,側頭骨内の顔面神経管と呼ばれる骨性の狭いトンネル内を走行するという解剖学的特徴が深く関与する。

 誘発筋電図検査をはじめとする電気生理検査は,種々の神経筋疾患の診断あるいは病態の評価,解明に必須の検査である。顔面神経麻痺患者の診断は,①原因疾患の診断,②障害部位の診断,③障害程度の診断(麻痺の転帰・予後の診断,回復の判定など)の各項目からなる。これら各種診断に用いられる電気生理学的検査法には,表1に挙げた種々の検査法が臨床にて用いられているが,これら電気生理学的検査は主に障害部位診断あるいは重症度を判定する予後診断法として利用されてきた。またベル麻痺やハント症候群の発症早期の病態が側頭骨内の圧上昇に伴うentrapment neuropathyであること2)が電気生理学的に明らかとなり,従来経験的に行われることも多かったベル麻痺,ハント症候群の合理的な治療のための理論的裏づけとして大きな役割を果たすようになった。

 一方,急性期のみならず,回復過程や陳旧性麻痺患者における電気生理学的検査から,神経障害の回復,再生線維に関する知見が得られるようになり,合理的なリハビリテーション治療や神経移植の根拠となっている。これら神経生理検査は,病因検査としての分子生物学的検討とともに,顔面神経疾患の診断,治療のいわば車の両輪の役割を果たしているものであるが,近年は画像検査などの陰に隠れ,かつ実際の検査施行の煩雑さ,あるいは検査結果の解釈の難しさなどから,一般臨床の場においてはともすれば敬遠されがちな面もあるものと思われる。また麻痺急性期の病態の解明に比べ,不快な後遺症が残存する非治癒例における長期経過後の病態理解はいまだに一般的ではないように思われる。

 本稿ではベル麻痺の診断に用いられる主な電気診断法としての誘発筋電図検査,特にelectroneurography(ENoG)やnerve excitability test(NET),瞬目反射(blink reflex test)などの測定方法や予後診断的価値などの臨床的意義を解説する。さらに発症後長期間を経過した後の検査所見の推移について示し,顔面神経麻痺後の回復や神経再生について概説する。

原著

中耳カルチノイド腫瘍の1例

著者: 鈴川佳吾 ,   鈴木光也

ページ範囲:P.749 - P.753

I.はじめに

 カルチノイド腫瘍は主に消化管などに発生する神経内分泌腫瘍であり,頭頸部領域,特に中耳に発生することは極めて稀であり,過去35例の報告があるのみである1~9)

 今回われわれは,中鼓室より発生したカルチノイド腫瘍症例に対して耳後法による腫瘍摘出と鼓室形成術Ⅲ型による伝音再建を行い,若干の知見を得たのでここに報告するとともに,中耳カルチノイドに対する治療方針について文献的考察を加える。

Cogan症候群が疑われた1症例

著者: 伊賀奈穂子 ,   小川晃弘 ,   松岡寿子 ,   中希久子 ,   松本亮典 ,   福岡佐知子 ,   小林由佳

ページ範囲:P.755 - P.759

I.はじめに

 Cogan症候群は非梅毒性角膜実質炎,前庭機能障害,両側性感音難聴を3主徴とする稀な症候群である1)

 今回われわれは,45歳の男性で両側の眼症状と両側の前庭機能障害および感音難聴を認め,最終的にCogan症候群と考えられた1症例を経験した。鑑別すべき疾患,臨床的問題点などについて若干の文献的考察を含めて報告する。

歯齦部切開にて摘出した鼻口蓋管嚢胞の1例

著者: 齊藤祐毅 ,   岡田和也 ,   渡辺健太 ,   田中利善 ,   石本晋一

ページ範囲:P.761 - P.763

I.はじめに

 鼻口蓋管嚢胞は胎生期に存在し,生後1年以内に消退するとされる鼻口蓋管(切歯管)の残存上皮により形成される顎骨内嚢胞であり,顎骨嚢胞の約2%と比較的少ない疾患とされている1,2)。今回われわれは49歳の男性で硬口蓋および鼻前庭に膨隆をきたし,口蓋に切開を加えず,歯齦部切開により嚢胞摘出した1症例を経験したので文献的報告を交え報告する。

咽頭梅毒の1症例

著者: 西屋圭子 ,   海山智九 ,   奥野敬一郎

ページ範囲:P.765 - P.768

I.はじめに

 梅毒は梅毒トレポネーマによる性感染症であるが,患者数は戦後ペニシリンによる治療により減少している。最近は,性風俗の多様化により咽頭感染症例の報告が散見され,耳鼻咽喉科医が日常診療で遭遇する可能性が示唆されている1~4)

 今回,われわれは咽頭梅毒の1症例を経験したので報告する。

上咽頭に発生した髄外性形質細胞腫の1例

著者: 馬場信太郎 ,   熊谷譲 ,   佐々木拓雄 ,   北野睦三 ,   横山智一 ,   弓削忠 ,   福岡久代 ,   中井淳仁 ,   田山二朗

ページ範囲:P.769 - P.772

I.はじめに

 形質細胞腫は形質細胞が腫瘍性増殖をきたす疾患であり,そのほとんどが多発性骨髄腫の形で発症するが,骨髄以外に発生した場合に髄外性形質細胞腫と呼ばれる。髄外性形質細胞腫は形質細胞腫全体の4~5%にすぎず,その約80%が頭頸部領域に発生し,多くは鼻副鼻腔領域のもので占められる1,2)。今回,上咽頭に発生した髄外性形質細胞腫の症例を経験したので報告する。

齲歯が原因で巨舌症を呈したと考えられた小児舌リンパ管腫の1例

著者: 折田左枝子 ,   岡野光博 ,   折田頼尚 ,   菅田祐士 ,   野宮重信 ,   福島邦博 ,   西﨑和則

ページ範囲:P.773 - P.776

I.はじめに

 リンパ管腫はリンパ管の増殖からなる腫瘍性新生物であり,大部分は先天的な組織異常(過誤腫)として生ずると考えられており,乳幼児期に発生することが多い1,2)。舌リンパ管腫のなかでびまん性のものはしばしば巨舌症を呈し,咀嚼障害や構音障害など口腔機能へ障害を及ぼすことがあるため,その治療を行う際には慎重な対応が望まれる2)。今回われわれは齲歯が原因で巨舌症を呈したと考えられる小児舌リンパ管腫の症例を経験したので報告する。

耳下腺ワルチン腫瘍54症例の臨床的検討

著者: 辻雄一郎 ,   河田了 ,   吉村勝弘 ,   李昊哲 ,   寺田哲也 ,   竹中洋

ページ範囲:P.777 - P.781

I.はじめに

 ワルチン腫瘍(Warthin tumor)はpapillary cystadenoma lymphomatosumあるいはadenolymphomaとも呼ばれ,耳下腺腫瘍では多形腺腫に次いで頻度の高い良性腫瘍である1)。多形腺腫とワルチン腫瘍で耳下腺良性腫瘍の約90%を占める2,3)。これまで多形腺腫とワルチン腫瘍の比率は5:1といわれてきたが2),最近の報告ではワルチン腫瘍は増加傾向にある4~6)。耳下腺内には顔面神経が走行しているが,良性であるワルチン腫瘍の場合,顔面神経の確実な温存が望まれる。今回われわれは,最近当科で経験したワルチン腫瘍手術症例54例を対象に,術前診断および術後合併症,特に術後顔面神経麻痺に対する検討を行ったので報告する。

巨大な頸動脈小体腫瘍の1例

著者: 郎軍添 ,   石川和夫 ,   木村洋元 ,   伊藤永子 ,   本田耕平 ,   鈴木真輔

ページ範囲:P.783 - P.786

I.はじめに

 頸動脈小体腫瘍(CBT)は比較的稀な疾患で,わが国ではこれまで150例の報告があり1),ヨーロッパでは外科病理標本のなかで0.01%の発生率であると報告されている2)。腫瘍は頸動脈分岐部から起こり,徐々に増大し側頸部の無痛性腫瘤として偶然に発見されることが多い。およそ10%は悪性化するとされ3),外科的切除は標準的な治療法である。画像診断と外科的技術の進歩にもかかわらず,脳神経麻痺,脳梗塞や手術死亡は,手術切除を受ける患者のなかで10~40%に達するといわれている4)。今回われわれは,巨大なCBTにより頸動脈合併切除を行った症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

シリーズ DPCに対応したクリニカルパスの実際

⑦鼓膜チューブ挿入術におけるクリニカルパス

著者: 泰地秀信

ページ範囲:P.793 - P.797

Ⅰ はじめに

 Diagnosis procedure combination(DPC)は,わが国独自の急性期入院医療費の包括払い方式であり,平成15(2003)年度から特定機能病院に,平成16(2004)年度からは一定の基準を満たす民間病院に導入されている。平成18(2006)年度には数百施設が参加するようになった。DPCは,以前に試行されていたDRG(diagnosis related groups)と基本的には同じであるが,違いはDRGが1入院払いであるのに対し,DPCは1日払いとなっていることである。DPCを効率的に行うためには,①正確な診断・分類(ICD分類)と退院時サマリーの作成,②個別患者の診療を的確に行うクリニカルパスの作成・運用が必要となる。当院(国立成育医療センター)では多くの疾患でクリニカルパスが導入されているが,DPCはこれから試行調査を開始する段階である。当院は小児医療を中心に行っている病院であり,小児についてはDPCの基礎的データがほとんど得られていないため,これから予定されている調査は小児のマネージドケアを考える意味でも有意義なものと考えている。

⑦鼓膜チューブ挿入術におけるクリニカルパス

著者: 橋本晋一郎 ,   岡本牧人

ページ範囲:P.798 - P.805

Ⅰ はじめに

 北里大学病院では1999年から院内クリティカルパス推進委員会が発足し,クリニカルパス作成の指導や運用に当たってきた。耳鼻咽喉科でも現在までに成人では口蓋扁桃摘出術,鼻手術(鼻中隔彎曲症,下甲介切除,汎副鼻腔根本術,鼻内内視鏡手術),喉頭微細手術,喉頭亜全摘術,頸部腫瘍手術の各クリニカルパスを作成し,小児では口蓋扁桃摘出術,アデノイド切除と口蓋扁桃摘出術,アデノイド切除と口蓋扁桃摘出術と鼓膜チューブ挿入術,鼓膜チューブ挿入術の計4種類を作成して運用している。病院のコンピュータシステムの変更に伴い,クリニカルパスの電子化も計画されてはいるが,現在のところは紙ベースで行われている現状である。

鏡下咡語

はなのはなし

著者: 坂倉康夫

ページ範囲:P.789 - P.792

 夢野久作がいうように―鼻ってものはどうしてこんなに高くなっているのかしらん―何故こんな格好をしているのであろう―ものを嗅いだり呼吸をしたりするほかに何の役にも立たないのか知らん。口はものをいい,目は口ほどにものをいい,額は皺を寄せ,眉は顰め,頰はせばめる,膨らますなど,顔の他の部分はそれぞれ豊かな動的表現をすることができる。しかし,鼻についての動的表現はきわめて少ない。一方,鼻が高い,鼻であしらう,鼻につくなど,鼻の表現には人の人格や性情などの表現が多く,特に嫌悪,反感,軽蔑の意味の表現が目立つ。日本の歴史上高い鼻をもった支配階級に対する庶民の反感が込められているのであろう。鼻にはこのような動的表現があるので,容貌の決定的因子となる。

 鼻を重視し鼻で容貌の美しさを表現したのが有名なパスカルのパンセ中の,クレオパトラの鼻がもう少し低かったら歴史は変わっていただろう,である。英文訳では“Cleopatra's nose:had it been shorter, the whole aspect of the world would have been altered. ”とある。この鼻が低い,世界の歴史という名訳とは異なって,英訳ではあるが原文ではクレオパトラの鼻は低くなく,短かったらとある。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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