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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科78巻4号

2006年04月発行

雑誌目次

特集 甲状腺疾患の診断と治療

1.非腫瘍性甲状腺腫脹

著者: 野村馨 ,   広原台

ページ範囲:P.281 - P.285

Ⅰ.はじめに

 甲状腺は露出した体表部位(頸部)にある。そのため,腫脹していることが自覚的にも他覚的にも触診でも容易に感知される。そのわりには,医療者でなければ正確な甲状腺の位置は知られていない。また医師,看護師でも必ずしも正確な甲状腺触診法が行えない実態がある。本誌では読者が専門医療者であり,対象患者は前頸部の異常が主訴としたものが多数であると考えられる。甲状腺の異常であることをはっきりさせて,それに伴う臨床像,病態を明らかにすることがまず求められる。本稿では,そのなかで非腫瘍性腫脹をきたす代表的疾患について解説する。バセドウ病,亜急性甲状腺炎,慢性甲状腺炎などについて解説する。システマチックレビュー,メタ分析があるものを優先的に紹介する。

2.甲状腺腫瘍の診断

著者: 橋本省

ページ範囲:P.287 - P.292

Ⅰ.はじめに

 甲状腺が腫大した状態を甲状腺腫というが,そのなかにはさまざまな病態が含まれる。びまん性甲状腺腫にはバセドウ病,橋本病や単純性甲状腺腫があるが,いずれも非腫瘍性病変である。一方,結節性甲状腺腫には新生物が多く,甲状腺腫瘍といえばこちらを指す。甲状腺腫瘍はほとんどの場合,頸部腫瘤以外に症状を示さず,その初期には自覚症状はほとんどない。したがって,患者が前頸部腫瘤を訴えて受診したときは,腫瘍はある程度の大きさがあることが多く,触診で甲状腺腫瘍との予測がつくことがほとんどである。ここで最も重要なのは,それが良性病変なのか悪性なのかということであるが,悪性の場合,その組織形によって治療方針がかなり異なるため,術前に組織形まで診断することが望ましいのはいうまでもない。本稿では本疾患の診断法につき解説する。

3.甲状腺良性腫瘍の手術

著者: 久保田彰

ページ範囲:P.293 - P.297

Ⅰ.はじめに

 良性腫瘍が多数を占める甲状腺結節は女性に多く,ヨード不足や加齢,あるいは放射線被曝の既往で発症率は高くなる。4~7%の人に甲状腺結節を触知し,病理解剖では半数に甲状腺結節を認めたとの報告がある1,2)。甲状腺結節を触れるもの,あるいは偶然に甲状腺結節が発見された症例をすべて手術術適応にすると,手術件数は無尽蔵に増えてしまう。甲状腺結節を経過観察することで癌を見のがしてしまうことを心配して,診断を確定するために手術が行われる場合もあるが,癌の確率は5%以下であるとされており2),手術適応規準を的確に設定することは患者の肉体的,精神的負担を軽減するだけでなく,医療経済の面からも重要となる。今回は甲状腺結節の手術適応を決定するための検査,および手術に代わる代替治療について文献的考察を加えた。

4.甲状腺悪性腫瘍の手術

著者: 小川徹也 ,   長谷川泰久

ページ範囲:P.299 - P.303

Ⅰ.はじめに

 甲状腺悪性腫瘍は高分化型癌乳頭癌や濾胞癌の頻度が高く,なかでも乳頭癌が大部分を占める。高分化癌の予後はきわめてよい。治療方法としては,手術治療が第1選択である。

 われわれの施設では,低リスクの甲状腺分化癌症例で,腫瘍が片側葉にのみ存在し頸部リンパ節転移がみられない症例に対しては,以下に述べる甲状腺葉峡切除術,気管周囲郭清術を基本術式としている。しかし腫瘍が両葉に存在する症例や,遠隔転移などがみられ術後131I内照射治療を予定している症例などでは,甲状腺全摘術,両側気管周囲郭清術を施行している。

 今回,甲状腺悪性腫瘍の手術治療について述べるが,頻度の高い甲状腺分化癌の手術方法について基本術式である甲状腺葉峡切除術,気管周囲郭清術を中心に述べる。

5.甲状腺微小癌への対応

著者: 白倉聡 ,   岸本誠司

ページ範囲:P.305 - P.308

Ⅰ.定義と病理組織学的特徴

 甲状腺微小癌の定義は,甲状腺癌取扱い規約によれば,癌の最大径が1.0cm以下のものをいう1)。組織型としては乳頭癌がほとんどを占め,濾胞癌,髄様癌の頻度は低い。

目でみる耳鼻咽喉科

Wegener肉芽腫症にみられた喉頭病変

著者: 高田大輔 ,   渡嘉敷亮二 ,   鈴木衞

ページ範囲:P.266 - P.267

Wegener肉芽腫症は,耳鼻咽喉科領域に初発することが多く,その発症部位は鼻,次いで耳の順で,咽喉頭症状の頻度は低い1)。最近われわれは,経過中に喉頭所見が出現し治療により速やかに消失したWegener肉芽腫症例を経験したので報告する。

Current Article

眼振検査ABC

著者: 國弘幸伸

ページ範囲:P.269 - P.279

Ⅰ はじめに

 眼振の観察はめまいの診断に欠かすことができない重要な検査であり,眼振所見のとりかたやその解釈についてはすでに多くの専門書がある。本稿では,これらの成書では詳しく記述されておらず読者が漠然と疑問を抱いているのではないかと思われる事項をとりあげて,できるかぎりわかりやすく述べようと思う。紙面の都合上,下眼瞼向き眼振や上眼瞼向き眼振などの中枢性眼振については触れない。また,個々の末梢・中枢疾患とそれらの疾患で出現する眼振やその発現機序についても原則として記載していない。これらについては機会を改めて述べたい。

 本稿の記載内容はやや厳密さを欠くかもしれないが,研修医などの若い医師や第一線の臨床に携わる先生方が眼振検査に興味を持ってくださるきっかけとなれば筆者として幸いである。

原著

好酸球性中耳炎の2症例

著者: 阿美貴久 ,   湯川久美子 ,   中村珠理 ,   飯村陽一 ,   鈴木衞

ページ範囲:P.313 - P.316

I.はじめに

 好酸球性中耳炎は,1995年松谷ら1)によって最初に提唱され,膠状の耳漏と耳漏中の多数の好酸球浸潤を特徴とする。多くは気管支喘息や副鼻腔炎を合併する難治性の中耳炎である。ステロイド以外には有効な治療がなく,発症機序も不明であることから近年注目を集めている。今回われわれは,経過の異なる2例の好酸球性中耳炎を経験したので報告する。

篩骨洞結石の1例

著者: 吉村勝弘 ,   林伊吹 ,   林歩 ,   川上理郎 ,   牟田弘

ページ範囲:P.317 - P.319

I.はじめに

 鼻・副鼻腔結石は,本邦での報告は約170例と比較的少ない。発生部位のほとんどを鼻腔や上顎洞が占めており,われわれの渉猟し得る限り篩骨洞結石は本例を含め17例であった2~11)。今回われわれは,篩骨洞結石の1例を経験したので報告する。

舌根部神経鞘腫の3例

著者: 王子佳澄 ,   一戸学 ,   阿部尚央 ,   井上卓 ,   木谷令 ,   新川秀一 ,   太田修司

ページ範囲:P.321 - P.325

I.はじめに

 神経鞘腫はシュワン細胞に由来する良性腫瘍であり,視神経,嗅神経を除く頭頸部領域の神経にも比較的多く認められる。口腔・咽頭領域での発生は比較的稀であるとされているが,そのなかでは舌に好発し,その発生率は口腔・咽頭領域の神経鞘腫のうち35~45%と高い3~5)

 今回われわれは中咽頭に発生した神経鞘腫3例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

シリーズ DPCに対応したクリニカルパスの実際

②特発性顔面神経麻痺

著者: 渡邉暢浩 ,   村上信五

ページ範囲:P.331 - P.335

Ⅰ はじめに

 わが国では2003年から特定機能病院の入院診療においてDPC(diagnosis procedure combination)が導入され,その後,一部の公私病院に広がりつつある。こうした包括医療には大きく2つの意味合いがあり,1つは高齢化社会を反映し1人の患者が多くの疾患を抱えるようになって総合的に医療を施す必要性を指し,もう1つは支払い方式が出来高ではなくいわゆる丸めとされ,疾患ごとに診療報酬が固定されることを意味する1)。今日的には後者の意味合いが特に強く,すでに多くの国公立大学が独立法人化しており,大学病院も費用対効果を常に念頭に置いた診療を求められている。こうした背景もあり,クリニカルパス(clinical path:以下,パス)が導入されている施設も多くなっている。大学病院は比較的若い医療従事者が多いこと,組織が大きく複雑であること,医師に関していえば勤務交代が多いことなどからパスを導入することの意義は大きいとされている2,3)

 特発性末梢性顔面神経麻痺(Bell麻痺)に対する治療は,原則ステロイド薬や抗ウイルス薬による保存的治療でありHunt症候群に比べると治癒することが多いため,当科では外来治療を中心に行っている4)。ただし,Bell麻痺といっても皮疹が出現しないzoster sine herpeteが含まれていることがあり,重症例もみられ対象となる症例は少ないが顔面神経減荷術を行うこともある5)。こうした症例に対する顔面神経減荷術は,術後比較的一定の経過が予測されるため全例パスの適応として導入可能である6)

 以下に筆者らの特発性顔面神経麻痺に対する治療方針と,顔面神経減荷術に作成・導入しているパスの一部を紹介し概略を述べるとともに,有用性や問題点などを挙げる。

②特発性顔面神経麻痺

著者: 稲村博雄 ,   青柳優

ページ範囲:P.337 - P.344

Ⅰ はじめに

 クリニカルパス(以下,CP)は,医療の質の向上を目的とした「医療の介入内容を計画化,書式化し,医療の評価と改善を行うためのシステム」とされる1)。医療をそれに携わるチーム全体での討議のうえで計画,立案し,さらには患者自身もこの実践に参加するシステムである。これら医療計画の立案,実施,評価,改善という一連のシステムが,医療の質の向上,効率化,安全性の確保,ひいては在院日数の短縮や医療費の効率的使用に有用であることは,近年わが国でも広く認識されるようになっており,各医療機関において多くの疾患の治療にCPが導入され,実施されるようになってきた。特発性顔面神経麻痺(以下,Bell麻痺)やRamsay Hunt症候群(以下,Hunt症候群)などの末梢性顔面神経麻痺の治療に関しても,これらの病因,病態に関する研究の進歩によりその標準化が進み,CPの立案,運用は比較的スムーズに導入が可能となってきている。

 本稿では,当科におけるBell麻痺,およびHunt症候群の治療方針につき述べた後に,当科にて実際に治療に用いているCPを紹介し,運用に当たっての留意点などについても言及する。

鏡下咡語

死海文書と中東和平

著者: 小田恂

ページ範囲:P.309 - P.312

 昨年(2005年)2月9日の新聞各紙はイスラエル・パレスチナ両国首脳が停戦に合意したことを大々的に報じた。その6か月後にはガザ(Gaza)地区からのユダヤ人入植者の撤退も実現した。ガーゼの語源ともいわれているガザからのユダヤ人の撤退により,ようやく中東の和平問題に新しい局面が生まれようとしている。このガザ地区同様に,難民が入植しているのがヨルダン川西岸地区である。ヨルダン川はガリラヤ湖から死海に注いでいるが,この川を境に西岸一帯は政治的統治者が時代とともに代わり,統治国が定まらないところであった(図1)。その死海の北西部沿岸一帯にクムランと呼ばれる,ところどころに洞穴のある荒涼とした丘陵地帯が広がっている(図2)。20世紀の半ばごろ,偶然にこれらの洞穴群から多くの古代文書が発見された。それは今から2000年以上も前に書かれたもので,古代ヘブライ文字で書かれた旧約聖書の最古の写本と古代ユダヤ教の教義などが記された文書であることがわかり,宗教界を巻き込んで世界中に一大センセーションを巻き起こした。

 発見当時,死海一帯はヨルダン領であり,この地で発見された文書が発見者や仲介の古物商などアラブ系の人々の手から宗教の異なるユダヤ人の手にわたった日と,国連でパレスチナ分割案が決議されユダヤ民族の国家であるイスラエルの建国が決定したのが偶然にも同じ日であったという因縁めいた偶然が重なった日であった。死海文書はこのような文書である。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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