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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科78巻8号

2006年07月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

蝶形骨洞内に進展した(蝶形骨洞縁原発)髄膜腫症例

著者: 岡野晋 ,   鴻信義 ,   加藤孝邦 ,   柳清

ページ範囲:P.534 - P.535

 髄膜腫は脳・脊髄腫瘍としては比較的頻度の高い腫瘍である。しかし硬膜外に発生したり進展をすることは稀である。今回われわれは蝶形骨縁に原発した髄膜腫が蝶形骨洞内に進展した1例を経験したので報告する。

Current Article

低線量放射線の生体影響と適応応答

著者: 家根旦有

ページ範囲:P.537 - P.545

Ⅰ X線診断の低線量放射線は危険か?

 2004年にBerringtonら1)がLancetで,英国を含む15か国を調査対象として医療用のX線検査の頻度,放射線被曝線量と発癌の危険性について調査したところ「日本の放射線診断の利用回数は他の欧米諸国と比べて3倍ほど多く,癌患者全体の3.2%が診断用のX線の被曝によるものである」という衝撃的なデータを発表した。これは他国の0.6~1.8%に比べると日本が突出して高く,メディアに取り上げられたことによって大きな社会問題にまで拡がった。その反響の大きさから,論文内容の妥当性が問われ,多くの専門家によってデータが詳細に検討されることになった。その結果,今回の論文に用いた各国のX線検査や癌罹患率の基礎データは不確かで,特に発癌リスクの計算に広島・長崎原爆の高線量被曝のデータが用いられたことが大きな問題であると指摘された。それは高線量被曝のリスク係数をそのまま低線量被曝に用いたからで,低線量被曝に「直線しきい値なし仮説,linear-nonthreshold仮説」を適用することは妥当でないと多くの研究者が考えたからである。従来の放射線生物学では「放射線はすべて,どんな低い線量でも生物に対して障害作用をもつ」と考えられていたが,最近では低線量・低線量率の放射線は生物学的にほとんど影響しないという考え方がある2,3)

 それでは低線量・低線量率の放射線とはどの程度の線量を受容し,どのようなメカニズムで生体は放射線に応答し,さらに適応するのであろうか。本稿では低線量放射線被曝を正しく理解することを目的として,生体のもつ放射線適応応答のメカニズムについて考察したい(表1)。

原著

上顎洞粘液腫の1例

著者: 山村幸江 ,   須納瀬弘 ,   吉原俊雄

ページ範囲:P.547 - P.550

I.はじめに

 粘液腫(myxoma)は,割面が特有の粘液質様の所見を呈する良性腫瘍であり,組織学的には,酸性ムコ多糖類とコラーゲンを主とする基質中に小型の紡錘形および星茫状の細胞の散在を特徴とする。基質中の線維成分の多いものは粘液線維腫(fibromyxoma)とも呼ばれる。腫瘍細胞の起源についての統一された見解はないが,胎生期の間葉系組織に由来する粘液芽細胞が主体との説1,2)と,近年有力な線維腫あるいは線維性病変の粘液変性3,4)との説に大別されている。

 粘液腫は身体各部に発生し,特に左心房に好発することが知られるが,顎骨に発生する腫瘍としては稀である。今回上顎洞に生じた1例を経験したので報告する。

歯ブラシによる小児の口腔・咽頭外傷

著者: 工藤典代 ,   有本友季子

ページ範囲:P.551 - P.553

I.はじめに

 咽頭外傷の要因にはさまざまなものがあるが,小児では歯ブラシも口腔・咽頭外傷の一因となる。一方,歯の衛生概念が普及し,近年乳児にも歯ブラシによる歯磨きが普及してきている。乳幼児が歯ブラシをくわえたまま転倒することは十分に予想の範囲内である。当科では乳幼児の歯ブラシにより口腔あるいは咽頭に外傷を生じた例を4例経験した。口腔・咽頭外傷の予防と啓蒙に役立てたいと考え,その4例に学童例を加え,5例について受傷の機転や経過などを報告する。

声帯後部腫瘤性病変の臨床統計

著者: 鈴木政美 ,   西嶌渡 ,   神山亮介 ,   有泉陽介 ,   出雲俊之

ページ範囲:P.555 - P.557

I.はじめに

 声帯後部(声帯軟骨部)は喉頭肉芽腫の好発部位であるが,同部位には扁平上皮癌などの肉芽腫以外の腫瘤性病変も生じる。しかし,これまで声帯後部に生じる腫瘤性病変の病理組織別の頻度に関しては詳しい報告が少ない。今回,臨床統計からその頻度を報告するとともに代表的な症例を呈示し,声帯後部に生じる扁平上皮癌についても考察を加えた。

Nasogastric tube syndromeが疑われた両側声帯麻痺の1症例

著者: 渡辺由季 ,   肥後隆三郎

ページ範囲:P.559 - P.561

I.はじめに

 Nasogastric tube syndromeは経鼻胃管留置による合併症として比較的稀ではあるが,両側声帯麻痺を生じるため,時に致死的となる注意しなければならない疾患である。その病態は経鼻胃管によって直接後輪状被裂筋が圧迫され,感染および壊死を起こすことで両側の声帯麻痺をきたすとされている1)。今回われわれは,突然両側声帯麻痺を発症し,その発症および経過からnasogastric tube syndromeが最も疑われた1症例を経験したので若干の文献考察を加えて報告する。

放射線治療後10年を経て喉頭に発生した紡錘細胞癌例

著者: 大河由佳 ,   小田島葉子 ,   石島健 ,   佐藤宏昭 ,   上杉憲幸 ,   菅井有 ,   中村眞一

ページ範囲:P.563 - P.567

I.はじめに

 喉頭に発生する悪性腫瘍の組織型としては扁平上皮癌が大多数を占め,紡錘細胞癌は約1%と少ない。今回われわれは,左声門上喉頭扁平上皮癌に対して放射線治療を受けた後10年を経過して同じく喉頭に発生した紡錘細胞癌の1例を経験したので報告する。

頰部放線菌症の1例

著者: 盛実勲 ,   羽藤直人 ,   藤田健介 ,   暁清文

ページ範囲:P.569 - P.572

I.はじめに

 放線菌症は口腔内や消化管に常在する放線菌による化膿性感染症であり,典型例では板状硬結,多発性小膿瘍,開口障害など特徴的な臨床症状を呈する疾患である。1990年代前半までは本症の多数例に対する報告が数多くみられるが1~3),その後は1例報告が散見される程度である。1990年代に抗菌薬の使用頻度が増し典型例が減少していること,放線菌症の治療経験をもつ医師が減少し非特異的炎症として扱われていることなどが原因として考えられる。今回われわれは,頰部に発症した放線菌症の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

Hibernomaの1例

著者: 深谷和正 ,   大久保啓介 ,   齋藤友雄 ,   細村泰夫 ,   川﨑泰士 ,   塩谷彰浩 ,   小川郁

ページ範囲:P.573 - P.575

I.はじめに

 褐色脂肪は主に冬眠動物に認められる組織で,これに類似した組織より構成される腫瘍が褐色脂肪腫と呼ばれるhibernomaである。一般の脂肪組織に比べ豊富な毛細血管と交感神経を受け肉眼的にも褐色調を帯びる傾向があり,組織学的に細胞が血管を囲む配列を示して内分泌腺に類似することより冬眠腺腫とも呼ばれてきた1,2)

 今回われわれは,左胸鎖乳突筋内にCT,MRI,FDG-PETなど種々の検査にて悪性を疑わせた腫瘍を認め,手術的摘出にてhibernomaと診断された1症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。

感染を契機に発見された良性対称性脂肪腫症の1例

著者: 田中弘一 ,   中山明峰 ,   谷川徹 ,   三藤泰史 ,   佐藤弘盟 ,   佐々木弘和 ,   田口欣秀 ,   稲福繁

ページ範囲:P.577 - P.580

I.はじめに

 良性対称性脂肪腫症(benign symmetrical lipomatosis:以下,BSL)は1888年,Madelung1)によって総括して報告された巨大な脂肪腫が頸部,背部,体幹などにびまん性,対称性に生じ独特な外観を示す疾患である。今回われわれは,左頸部腫脹を呈し,感染を契機に発見されたBSLの1例を経験したので文献的考察を加え報告する。

当科における中央手術室手術症例の検討―過去4年間の症例から

著者: 海山智九 ,   古矢彩子 ,   菊地仁 ,   杉内智子 ,   渡辺尚彦 ,   調所廣之 ,   奥野敬一郎

ページ範囲:P.581 - P.585

I.はじめに

 当院は1957年6月に開院した,川崎市南西部に位置する定床660床(2005年1月より定床610床)の基幹病院である。耳鼻咽喉科は医師6名(専門医5名)で,30床を定床としている(2005年1月より26床)。耳鼻咽喉科医にとって,手術加療は主な治療法の一つであるが,統計的な検討は少ない。今回,われわれは過去4年間の中央手術室における手術症例を検討をしたので報告する。

シリーズ DPCに対応したクリニカルパスの実際

⑤扁桃周囲膿瘍のクリニカルパス

著者: 鈴木正志 ,   渡辺哲生 ,   吉田和秀

ページ範囲:P.593 - P.598

I.はじめに

 近年,チーム医療の推進,医療の標準化,在院期間の短縮とコストの削減,患者満足度向上,質の高い医療などを目標としてクリニカルパス(以下,パスと略す)が積極的に導入されている。当科においても各種疾患の入院治療の際にパスを作成して使用している。ここでは当科における扁桃周囲膿瘍治療のパスを紹介し,その作成の経緯について述べる。

 国内では通常,扁桃周囲膿瘍については穿刺あるいは切開排膿に加えて抗菌薬の投与を行うのが標準的な治療となっているが,当科では扁桃周囲膿瘍の急性期に扁桃摘出術(扁摘)を行う即時扁摘を治療の基本方針としている1)。これは,治療期間の短縮,再発がない,両側性や扁桃下極に存在する膿瘍にも対応可能といった理由からである。このため,当科におけるパスはもともと口蓋扁桃摘出術とほぼ同じ構成であったものを変更したものとなっている。

⑤扁桃周囲膿瘍のクリニカルパス

著者: 金泉悦子 ,   氷見徹夫

ページ範囲:P.599 - P.602

I.はじめに

 クリニカルパスはチーム医療の推進,医療の質の向上を目的とし,その利点として医療の教育・標準化,在院日数の短縮,医療費の削減などが挙げられる。また患者側からも,診療内容の理解が容易であること,主体的に診療に参加できること,治療の目的が明確にされることなどの利点がある。よって今日の医療にとって必須の手段であり,発生しうるバリアンスに対応することでさらなる標準化の指標となる1,2)

 これまでに当科においても,各種疾患の入院治療の際にクリニカルパスを導入し使用している。今回は扁桃周囲膿瘍に対するパスを呈示し解説を行う。

鏡下咡語

産業保健と耳鼻咽喉科

著者: 田口喜一郎

ページ範囲:P.589 - P.591

 産業保健とは,労働者の健康保持のために,労働者が,合理的な労働手段と労働管理の下に,安全な職場環境において,的確な健康管理(健康診断と事後措置)を受けられるために必要不可欠な,一連の活動を意味し,その法的根拠は労働安全衛生法である。

 私の産業保健とのかかわりは,1995年,長野産業保健推進センター開設と同時に,産業保健相談員に任じられたことに始まり,1999年4月から5年間にわたる,同センター所長時代に活動のピークを迎え,産業保健関係の調査研究や日本産業衛生学会における研究発表などを活発に行った。2004年4月以降は,「産業保健特別相談員」として,ときどき講習会や研修会の講師や相談業務に関与している(図1~3)。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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