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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科79巻1号

2007年01月発行

雑誌目次

特集 頭頸部領域の温度外傷・化学的腐食の取り扱い

1.口腔・咽頭の温度外傷

著者: 東川雅彦

ページ範囲:P.23 - P.28

Ⅰ.はじめに

 熱傷は,熱の直接作用により細胞レベルで蛋白質の変性と膜脂質の流動性の変化が生じ,その結果,生物学的活性が失われ,細胞機能も傷害されることにより生じる。温度外傷は,原因から分類した熱傷の1つのタイプである。

 熱傷が皮膚に生じた場合の病態については,皮膚科あるいは救急医学の領域でよく整理されている1)。熱傷の深さと臨床像の対比,受傷した面積に深さを考慮した重傷度判定,いくつかの対策の指標などが提唱されている(表1)2)

 一方,口腔・咽頭領域の粘膜に生じる温度外傷は,軽症のものを含めると外傷のうちで最も頻繁に生じるものの1つといえる。それにもかかわらず,病理学的な動態,臨床像,治療の基準となる指標などは定まっていない。

 口腔・咽頭粘膜の温度外傷の多くは自然治癒するため,全体として医療機関にかかることは少ないと考えられるが,重症度の判定を誤ると,思いもよらぬ合併症をきたすことがある。口腔・咽頭領域の温度外傷の患者に接した際には,早急に原因となった物質(状況)を確実にし,損傷の範囲,程度を把握し,対処法を決めるように努める必要がある。

2.口腔・咽頭の化学的腐食

著者: 平林秀樹

ページ範囲:P.29 - P.34

Ⅰ.はじめに

 口腔・咽頭の化学的腐食の原因は,酸,アルカリ,消毒薬,農薬,金属,金属塩類などさまざまな物が知られている。これらの物質が事故や自殺の目的で経口摂取され,摂取量により中毒症状をきたす。

 耳鼻咽喉科医が急性期の中毒症状を訴える症例の治療にかかわることは少ないが,口腔・咽頭に付着しての粘膜損傷や,瘢痕狭窄をきたすと対応を依頼されることがある。

 本稿では,化学物質による口腔・咽頭の腐食例を原因物質別に対応法を紹介する。

3.喉頭・下咽頭

著者: 横山秀二 ,   大森孝一

ページ範囲:P.35 - P.40

Ⅰ.はじめに

 喉頭・下咽頭領域の温度外傷は,火災や爆発に伴う煙や高温水蒸気,有毒ガスを吸入することで生じ,化学的腐食については,酸・アルカリ,金属・非金属およびその化合物などの腐食性物質を故意もしくは誤って服用した場合に生じることが多い。口腔や咽喉頭の障害を伴う場合が多く,時には食道や気管にまで病変が及ぶことも少なくない。いずれの外傷においても症状が急激に増悪することがあり,新鮮例(急性期)の診断・治療が重要とされるが,受傷後しばらく経過した陳旧例に生じる晩期障害もあり,その対応に苦慮することがある。

 本稿では,温度外傷・化学的腐食による病変について,喉頭・下咽頭を中心にその病態と診断・治療法について述べる。

4.顔面(皮膚)

著者: 大場創介 ,   上田晃一

ページ範囲:P.41 - P.48

Ⅰ.はじめに

 顔面は複雑な形態をもつとともに機能的にも重要な器官を多く有している。また露出部であるので,外傷瘢痕による醜形が与える影響は大きい。

 顔面の皮膚の構造は厚く,毛根・脂腺・汗腺が深在性でかつ血行が豊富である。このため多くの熱傷は保存的な治療で上皮化する1)。また豊富な血行から感染も生じにくい特性がある2)

5.耳

著者: 西﨑和則

ページ範囲:P.49 - P.53

Ⅰ.はじめに

 耳の温度外傷・化学的腐食はほとんどが外耳に生じる。外耳の中でも,耳介は体表から突出しているため顔面受傷を外鼻と並んで受けやすい。一方,外耳道は耳介によって防御され,原因となる液体が内部に到達しにくい特異な構造であるため受傷しにくい。外耳道の奥にある鼓膜,中耳にまで受傷が及ぶことは稀である。

 耳介の温度外傷・化学的腐食は,事故や自傷および他傷によって起こるが,外耳道より内側では医原性が多い1)。溶接の火花が経鼓膜的に中耳まで達することがある。

 治療は,耳介受傷では広範な顔面受傷の一部として起こることが多いため救急部で全身的な治療の一環として行われ,その後に耳介変形のため耳鼻咽喉科や形成外科に紹介される(図1)。外耳道や中耳に受傷が限局する場合には最初から耳鼻咽喉科が治療に関与することになる。

目でみる耳鼻咽喉科

Mandibular splitting approachにより摘出した頸椎腫瘍の1例

著者: 今井隆之 ,   吉原俊雄 ,   片山一雄 ,   伊藤達雄

ページ範囲:P.10 - P.12

 軸椎前方腫瘍は解剖学的に腫瘍へのアプローチ方法が複雑であり全摘出はしばしば困難である。今回われわれはmandibular splitting approach(下顎骨縦割法)により良好な視野を得て全摘出できた軸椎脊索腫の1例を経験したので報告する。

Current Article

頭頸部癌に対するTAR(TS-1,ビタミンA,放射線併用)療法の位置づけ

著者: 和田哲郎 ,   原晃

ページ範囲:P.14 - P.22

Ⅰ はじめに

 頭頸部癌の治療において手術は大きな柱となるが,安全域をつけた広範囲切除が容易ではないこと,呼吸・嚥下・発声といった機能が密接に関与すること,整容面にも配慮が必要なことなどが問題として挙げられる。このように手術ついては制約が大きい一方で,頭頸部領域の悪性腫瘍には圧倒的に扁平上皮癌が多く,比較的良好な放射線感受性と化学療法に対する反応性が期待される。放射線治療技術の進歩,あるいは効果の高い抗癌剤が次々に臨床応用できるようになってきたことに伴い,特に進行期の頭頸部癌の症例では手術・放射線・化学療法を組み合わせて集学的に治療が行われている。しかしながら現在のところ,治療成績・機能温存のいずれの面においても必ずしも満足できる結果には至っていない。頭頸部癌は比較的数が少なく,症例によって進展様式がさまざまであることから,個々の治療法についていまだ確立しているとはいいがたく,治療成績向上のために施設によりさまざまな工夫が行われているのが現状と考えられる。

 当施設では,頭頸部扁平上皮癌に対して,根治性を高めるため,および機能温存の可能性を追求するために原則として放射線治療を先行させている。反応が不十分であれば放射線治療を45Gyの術前照射にとどめ,その後粘膜炎などの回復を待って手術を行う。また,放射線に対する反応が良好であれば引き続き根治線量(70Gy程度)まで照射継続するという治療方針をとっている。これにより,たとえ進行癌の症例であっても機能温存が可能か見極めたうえで手術を決めることが理論上は可能である。しかし実際には,上咽頭癌のように放射線感受性がきわめて良好な例は例外としても,ほかの多くの頭頸部進行癌では原発部位の手術回避可能症例は必ずしも多くなく,放射線治療効果を高める補助療法の発展が待ち望まれているところである。

 5-FU,CDDPなど,ある種の抗癌剤の併用によって放射線治療効果が高められることはよく知られている。また,頭頸部癌に対する放射線と化学療法の同時併用が機能温存および生存率向上に有効1,2)であるということも一定のコンセンサスが得られていると思われる。ただし,強力な多剤併用化学療法は一般に副作用も強く出ることが多く,放射線との同時併用ではさらにこれら副作用が増強されるため,治療の中断を余儀なくされることも稀ではない。また,当施設の方針のように,引き続き手術を念頭に治療を進めていく場合,あまりに強い副作用のために後の手術に支障をきたすような影響は避けなければならない。

 このような要求を満たす治療法の1つとして,Komiyamaら3)によって提唱されたフルオロウラシル,ビタミンA併用放射線療法(FAR療法)が挙げられる。われわれの施設でも1988年以降,下咽頭癌を対象にFAR療法を行ってきた4)。この治療経験を生かし,さらなる治療成績の改善を目指して,5-FU製剤をテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(TS-1)に替えてTAR療法として臨床応用を開始した5)。TS-1は,近年,日本で開発されたピリミジン代謝拮抗剤であり,従来の同系統の薬剤に比べ,単剤として飛躍的に高い奏効率を有するとの評価が定まりつつある。われわれと同様の併用療法の取り組みは,FAR療法についても先駆的に取り組んでこられた九州大学のグループからの報告6)がみられるが,まだ,多くの施設で応用される段階には至っていない。本稿ではわれわれの限られた経験と理論的な背景について概説する。

原著

陳旧性外傷性中耳髄液漏

著者: 藤村武之 ,   北村拓朗 ,   宇高毅 ,   大淵豊明 ,   浦崎永一郎 ,   鈴木秀明

ページ範囲:P.61 - P.65

Ⅰ.はじめに

 耳性髄液漏は,何らかの原因により,くも膜下腔と鼓室,乳突蜂巣との間に交通が生じて脳脊髄液が中耳に貯留したり,外耳から漏出する現象である1)。今回われわれは交通事故による側頭骨骨折が原因となり,一過性顔面神経麻痺と伝音難聴をきたした小児の陳旧性外傷性中耳髄液漏の症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

舌腫脹を契機に発見された多発性骨髄腫

著者: 福家智仁 ,   山田弘之 ,   石田良治 ,   中村哲 ,   富岡利文

ページ範囲:P.67 - P.71

Ⅰ.はじめに

 多発性骨髄腫は骨髄で形質細胞が腫瘍化する疾患である。臨床症状は多様で,骨痛,貧血,易感染性,腎障害,消化管症状,全身性アミロイドーシスなどが挙げられる。頭頸部外科医が本疾患に携わる機会は少ないが,その診断過程において関与することもある。今回われわれは,舌腫大,呼吸困難を契機に多発性骨髄腫の診断に至った症例を経験したので報告する。

シリーズ DPCに対応したクリニカルパスの実際

⑪鼓室形成術

著者: 君付隆 ,   小宗静男

ページ範囲:P.73 - P.79

Ⅰ はじめに

 クリニカルパス(以下,パスと略す)は,米国にてDRG/PPS(diagnosis related group/prospective payment system:診断群別見込み支払い方法)が導入されたことを契機に開発され,定義として『DRGが決めている入院期間内に標準的な結果を得るために,患者に対して最もかかわる医師,看護師が行うべき手順と時間のリスト』とされている1)。わが国では,2003年から特定機能病院の入院診療においてDPC(diagnosis procedure combination)による包括医療が導入され,その後,一部の病院にも広がりつつある。こうした包括医療においては,支払い方式が出来高ではなく,疾患別に診療報酬が固定されており,入院期間においても期間の長いほど診療点数が低くなる2)。一方,パスは質の高い医療の実施と医療の標準化,チーム医療の促進,医療教育の向上などを目標としているが,費用対効果の面からも,在院期間の短縮とコストの削減を目標としてDPC導入後のパスの意義は大きいと考えられる。また患者サイドにおいても,入院中の診療内容を経時的に理解しやすいこと,治療の目標が明確にされること,主体的に診療に参加できることなどの利点が多く,医療サービスの向上の手段としてもパスの意義は大きい。

 本稿では,当科で用いている鼓室形成術のパスについて紹介し,その特徴と有用性について解説する。

⑪鼓室形成術

著者: 馬場俊吉 ,   新藤晋

ページ範囲:P.81 - P.90

Ⅰ はじめに

 クリニカルパス(以下,パスと略す)は,医師,看護師やコメディカルが参加してチーム医療を行うための治療計画表である。1つの疾患に対し,検査から入院・退院,退院後指導までをスケジュールにまとめて運用する。ある疾患に対して1つの定められた治療法を選択し,その治療法に沿って患者への説明,検査,処置,服薬,看護などさまざまな医療行為が,パスによって遺漏なく進められる1,2)

 耳鼻咽喉科手術は入院して手術から退院まで一定の経過をたどるものが多い。なかでも鼓室形成術は日本耳科学会で術型も統一されており,副損傷や感染もほとんどなくパス作成にはうってつけの術式である。適応疾患は鼓膜穿孔をはじめ慢性化膿性中耳炎,真珠腫性中耳炎などで,新鮮例ばかりではなく再手術例と多くの症例が適応となる3)

鏡下咡語

中間法人

著者: 馬場廣太郎

ページ範囲:P.57 - P.60

 2006年3月31日をもって長年勤務した大学を定年で退職致しました。“有限責任中間法人 関記念会獨協メディカル倶楽部”それが現在の所属です。医療機関ではありませんので学会などの所属欄には書きにくい思いがしておりますし,この原稿についても同様であります。獨協医科大学創立時の関湊理事長という人物を顕彰し,獨協医科大学を外部から支援することを目的として設立した組織でありますが,どうも妙なところに顔を突っ込んでしまったものだと今更ながら思っております。このような組織を作るに当たって,中間法人とするのがよいというアドバイスをいただき,自分自身はよくわからないままに何人かの方に相談をしたり多少は調べてみたりしたのですが,確信がもてないうちに事が進んで設立が認可されることになりました。2006年7月19日のことです。その後いくつかの学会や医会が中間法人を名乗っていることを知りました。しかし,日本耳鼻咽喉科学会は社団法人でありますし,日本アレルギー学会も同様に最近,社団法人になりました。すると法人の種類によって,できることできないこと,しなければならないことなどが違っていそうだということになります。また,法人格をもたない学会も沢山ありますから,それぞれの学会がその規模と運営に有利な形態を選択しているのであろうことが想像できます。こんなことを始めてしまった以上,いくらかの義務感をもって法人ってなんなのかについて調べてみました。

 まず,法人という言葉についてです。インターネットのフリー百科事典によりますと,“法人(ほうじん,独:juristische person,英:juridical person/legal entity)とは,法律の規定により『人』としての権利能力を付与された団体(社団又は財団)をいう。生物学的にヒトである自然人の対概念である。”とあります。何だかわかったようなわからないような説明です。要するに団体として,権利と義務が発生するということらしいのです。

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あとがき

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.96 - P.96

 平成19年(2007年)が始まりました。今年は亥年ですが,前進あるのみと行きたいところです。

 さて,新しい年を迎えるたびに時間がたつのの速いことに驚かされます。後になって考えると,小学校,中学校のころには,時間は無限にあるかのように感じていました。しかし,年齢のせいなのか,仕事量の増加によるものなのか,年々時間が短くなるような気がします。したがって,その短い時間をいかに有効に使うか,言い換えるならenjoyするか,あるいは楽しむか,が重要だと思いますが読者諸兄はどのようにお考えでしょうか。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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