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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科79巻13号

2007年12月発行

雑誌目次

特集 耳鼻咽喉科専門研修をはじめる医師へ―外来処置,手術のコツ,注意点

1.外耳道

著者: 武市紀人 ,   福田諭

ページ範囲:P.991 - P.997

Ⅰ.はじめに

 外耳道は耳鼻咽喉科医が日常臨床において最も頻繁に接する器官であるとともに,外気に開放され鼓膜により盲端となっているため,幅広い年齢層にわたりさまざまな疾患が発生する部位でもある。発生学上,複雑な形態を取り個体差が大きいため,診察のうえでは解剖・生理の理解とともに,器具の選択を含めた工夫が必要である。以下,詳細について述べる。

2.鼓膜切開

著者: 和田匡史 ,   山本裕 ,   髙橋姿

ページ範囲:P.999 - P.1004

Ⅰ.はじめに

 鼓膜切開は耳鼻咽喉科外来や夜間の救急外来にて行う機会が多く,単純ながら確実に実施しなければならない手技である。急性中耳炎,滲出性中耳炎が主な適応となるが,乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層の患者に行う機会がある1,2)。また近年ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)などの耐性菌の増加により,中耳炎の遷延化が問題となっている3,4)。その治療において切開排膿の重要性が再認識され,われわれ耳鼻咽喉科医にとってますます重要な手術手技となってきている。一方,手技自体は比較的簡便であるが,適切に行わないと内耳障害5)や出血,永久鼓膜穿孔などの副損傷,後遺症を引き起こす。

 本稿では,これから耳鼻咽喉科を研修される医師が鼓膜切開を適切かつ安全にできるように,実際に則した準備,手技,注意点を中心に解説する。

3.鼻アレルギー処置・手術

著者: 窪田市世

ページ範囲:P.1005 - P.1012

Ⅰ.はじめに

 日本のアレルギー性鼻炎の有病率は鼻アレルギー診療ガイドライン2005年版1)によると通年性が10~20%,季節性が10~15%と推定されている。また2004年10月の厚生統計患者調査における傷病別通院者率では,アレルギー性鼻炎として,人口1,000人に対して15.7人(高血圧症,腰痛,ムシ歯,糖尿病,肩こり,高脂血症,白内障,歯周病,関節痛,前立腺肥大に次いで11位)で,男女差はなく,年齢別では5~14歳が1,000対36.4とピークを示していた2)。このようにアレルギー性鼻炎は,耳鼻咽喉科疾患のなかでも患者数の多い疾患で,低年齢化が目立ってきている。

 抗アレルギー薬の効果が国民に浸透したことから,待ち時間の長い耳鼻咽喉科よりも最寄りの内科系診療科で投薬を受ける症例が増えている。そのため,耳鼻咽喉科には難治例,重症例,診断の不適切な症例,薬物が制限される症例などが集まる傾向にあり,われわれ耳鼻咽喉科医には,より専門性を発揮した治療が望まれているといえる。アレルギー性鼻炎に関し,適切な患者指導,外来処置,症例に応じた薬物治療,また難治症例に対しては手術療法も提案できることが専門医には必要である。

 本稿では,これらの耳鼻咽喉科治療のなかで,外来で行う処置および手術のコツ・注意点に関し,実際的な視点から述べることにする。

4.鼻処置:中鼻道自然口開大処置,ネブライザー,上顎洞穿刺術

著者: 井門謙太郎 ,   平川勝洋

ページ範囲:P.1013 - P.1019

Ⅰ.はじめに

 耳鼻咽喉科領域のうち,鼻副鼻腔の感染症は骨に囲まれた粘膜病変である。これらの部位は直視下に操作や薬剤投与が可能であり,薬物治療と局所の処置を適切に併用することで,より治療効果を高めうる領域の1つである。わが国では昭和30年代から鼻処置,鼻洗浄,ネブライザーという一連の処置治療が,鼻副鼻腔炎の保存的治療として広く行われてきた。鼻処置は鼻吸引,鼻洗浄などを含んだ処置であり,総鼻道を中心とした鼻粘膜の処置と鼻汁,鼻漏の吸引を行うこととされている。これに対して副鼻腔自然口開大処置は,鼻処置に加え鼻腔側壁に存在する狭小な副鼻腔自然口部と周囲の粘膜腫脹を処置し,副鼻腔内に存在する貯留液の吸引を行うことであり,2000年4月より新たに保険請求が可能となった処置である。これらの鼻腔への局所処置は耳鼻咽喉科医としてまず初めに習熟すべき基本的手技の1つである。

 また,上顎洞穿刺・洗浄術は,抗菌薬などの薬物療法や画像診断の進歩に伴い,今日における副鼻腔炎保存的治療全体に占める役割は減少した。しかし,膿汁が貯留するタイプの上顎洞炎,すなわち急性や歯性のものには現在でも有効な治療である。

 本稿では,耳鼻咽喉科専門研修を始める医師に対して中鼻道自然口開大処置,ネブライザー,上顎洞穿刺術について,施行時のコツと注意点についてわれわれが実際に行っている方法を呈示しながら解説する。

5.口腔・咽頭・喉頭の異物

著者: 友田幸一 ,   酒井あや

ページ範囲:P.1020 - P.1025

Ⅰ.はじめに

 異物は耳鼻咽喉科診療においてしばしば経験する疾患であり,比較的簡単に摘出できるものから,非常に困難なものまで病態はさまざまである。また,異物の存在部位によって生命が大きくかかわり,救急処置が必要となるケースもある。異物の種類や部位は年齢によって異なることがあるが,食生活や環境によっても差がみられる。本稿では,口腔,咽頭,喉頭における異物の基本的な摘出法,器具などについて紹介する。

6.耳管通気,処置について

著者: 高崎賢治

ページ範囲:P.1027 - P.1031

Ⅰ.はじめに

 耳管通気は耳鼻咽喉科専門医にとって最も重要で特殊な手技であり,日常診療で以前より頻繁に行われている息の長い処置法である。対象疾患は,外来診療での耳管機能不全を含め,中耳疾患の検査,治療の全般にわたり1),また患者の病状によっては原因不明の感音難聴による耳閉感,耳鳴に対しても行われていることがある2)。その方法は,カテーテル耳管通気,ポリッツェル球耳管通気,また特殊な例としてゴム風船を用いた方法などがあるが3),現在の保険診療で認められている,成人に対するカテーテル耳管通気法,小児に対するポリッツェル球耳管通気法について,筆者が行っている方法を中心に述べる。

目でみる耳鼻咽喉科

NBI観察が有用であった下咽頭癌症例

著者: 西村泰彦 ,   出島健司 ,   牛嶋千久 ,   内田真哉 ,   足立直子 ,   上田モオセ ,   安田健治朗

ページ範囲:P.978 - P.979

Ⅰ.はじめに

 下咽頭癌はしばしば進行癌で発見され,予後不良例も少なくない。仮に救命し得ても侵襲の大きな治療となりQOLが低下するため,早期発見が望まれる。狭帯域フィルター内視鏡(narrowband imaging:通称NBI)は,消化管内視鏡の分野で開発された技術であるが,癌組織で特徴的なIPCL(intraepithelial papillary capillary loop)を視認することで,高い確率で癌と診断できることが明らかになった。今回われわれは通常の咽喉頭内視鏡では異常を指摘できず,NBI観察で初めて認識できた下咽頭癌症例を経験したので報告する(NBI観察は消化管用の内視鏡を使用して消化器科の医師が行ったものである)。

Current Article

外鼻と通気性

著者: 加瀬康弘

ページ範囲:P.981 - P.990

Ⅰ.はじめに

 従来よりわが国の鼻科学における関心の中心は鼻腔,副鼻腔にあって,一般に外鼻自体が臨床上,興味を向けられることは少なかったように思う。外鼻はむしろ美容形成外科的な診療対象として,形成外科が主体的に対処している施設も少なくないのではないか。

 しかし外鼻に対するrhinoplastyの目的は美容形成的な目的のみでなく,鼻腔通気性の改善とも強く関連しており,鼻科学の専門科である耳鼻咽喉科医はこの分野にもっと強い関心を向けるべきである。本稿では外鼻が鼻腔通気性に及ぼす役割とその評価方法について述べ,治療法についても触れる。

原著

耳下腺に発生した悪性線維性組織球腫の1例

著者: 川上美由紀 ,   佐伯忠彦 ,   谷口昌史

ページ範囲:P.1037 - P.1040

Ⅰ.はじめに

 耳下腺に発生する悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histiocytoma:以下,MFHと略す)は稀な疾患であり,渉猟し得た限りではこれまでにわが国では3例の報告1~3)をみるのみであった。今回われわれは耳下腺に発生したMFHの1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

小児に発生した咬筋内神経鞘腫の1例

著者: 山口聡子 ,   小澤宏之 ,   坂本耕二 ,   冨田俊樹 ,   小川郁 ,   森泰昌

ページ範囲:P.1041 - P.1045

Ⅰ.はじめに

 神経鞘腫は頭頸部領域では比較的多くみられる腫瘍で,神経鞘腫のうち約42%は頭頸部に発生するといわれている1)。頭頸部での好発部位には側頸部,耳下腺,頰部,舌,咽頭などがある。神経鞘腫は筋肉内に発生することがあるが,咬筋内の神経鞘腫の発生は非常に稀である。われわれの渉猟し得た範囲では,日本では過去7例の報告があり,小児例は海外を含め1例の報告があるのみである1~4)

 今回われわれは右咬筋内に発生し,鑑別に苦慮した小児の神経鞘腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

鏡下咡語

卒前・卒後の医学教育を考える

著者: 野末道彦

ページ範囲:P.1033 - P.1035

Ⅰ.はじめに

 卒前・卒後の医学教育の改善を求めた論議がはじまって久しい。しかしながらいまだに『欧米に比べて医学教育のレベルが低い』(日野原重明氏),『間違いだらけの日本の大学医療教育』(黒川清氏)などと指摘されるように改革が進まない。また,今年の日本医学教育学会のメインテーマも『卒前・卒後の地域医療教育を考える』であった。結論的にいえば,どんな地域においても患者の求める良質の医療を提供できる医師をいかに育てるかということにつきる。

 このような意味で私の経験から,その1『日本の医学教育学会で学んだこと』,その2『新医師臨床研修制度と医師不足』というテーマで私の考えをまとめてみた。

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あとがき

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.1052 - P.1052

 本号が発刊されるころには,平成20(2008)年に各大学耳鼻咽喉科に入局する医師の数がほぼ決まっていることと思います。臨床研修医2年生は従来どおりすでに夏ころから入局科を明らかにしている人から,どの科を回っても執拗な勧誘の嵐のためか口を硬く閉ざし,締め切りまではっきりと入局科を言わない人が多いのも今年度の当院の特徴です。この時期入局の少ない科では接待はもちろん,医局長が研修医の自宅まで電話,メールをして勧誘につとめています(結構,逆効果のことも多い)。かつての学生時代の勧誘とは異なり,より売り手市場となり,やや不健全な感じは否めません。東京のど真ん中のしかも比較的名の通った,患者数も多い臨床病院ですら科によっては同様の入局減少がみられ,都市部と地方の格差という単純な形でもありません。一見理想的にみえる新臨床研修制度も実際はまだまだ問題点があることは,実際の医療の現場に携わっている先生方は周知のことです。地域病院はというと大学病院の人出不足のため関連病院からの引き上げのほか,勤務医の労働条件などさまざまな理由から大学にもどる前にすでに開業というケースも多く,ある県では内科医全員退職で内科病棟閉鎖という総合病院まで出現しています。またモデルケースとして比較的成功している病院も散見されますが,全国のすべての病院が理想的な形になるまで日本の地域医療がもつのかという危惧も抱きます。将来の耳鼻咽喉科を考えた場合,臨床も研究もマンパワーが基本であることはいうまでもなく,幅広い領域をカバーしていかなければならないこと,無床診療所から入院・加療の必要な患者の紹介先である中・小病院耳鼻咽喉科の保全,がんセンター,大学病院の医師の確保が大切です。全医師数の割に多くの科が枯渇した感じがするのは,医師の都市部偏在化のほかに病院での常勤・当直業務までは希望しない(パートタイマー),あるいは家庭の事情でそこまではできない(女性医師に多い),9時~5時の勤務をしたい(かつては考えられないQOLを優先する価値観)などの理由も結構多く,地域病院の常勤医師数減少の一因になっています。開業,いわゆるパートタイマーの医師,病院各施設の医師数のバランスと良好な連携が切望されます。またマスコミが伝える人手不足の科は産婦人科,小児科だけでないことをもう少し理解してもらう必要があるかもしれません。

 現在の学生,研修医は教育者の評価もしますし,ていねいに教育されることに慣れていますので,耳鼻咽喉科に入局後も同様な期待をもっていることが考えられます。『耳鼻咽喉科専門研修をはじめる医師へ』として特集を組み始めたのもその理由からです。これまで特集として執筆していただいた項目をいずれまとめられる機会があればと思っています。少ないスタッフでやりくりしている施設が多いと思いますが,新しく耳鼻咽喉科に入局した若手医師の教育に役立てていただければ幸いです。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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