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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科79巻2号

2007年02月発行

雑誌目次

特集 抗菌薬のファースト・チョイス

1.急性扁桃炎に対する抗菌薬治療

著者: 保富宗城 ,   山中昇

ページ範囲:P.113 - P.118

Ⅰ.はじめに

 急性咽頭・扁桃炎は,日常臨床において最も頻回に遭遇する上気道感染症である。原因は,ウイルス感染あるいは細菌感染とされるが,一次的に細菌感染で発症する例は少なく,ほとんどはウイルス感染に続発する。細菌感染としては,A群β溶血性連鎖球菌が最も重要視されている。急性咽頭・扁桃炎の臨床像は,咽頭粘膜の発赤のみを認める軽症から,強度の粘膜腫脹とリンパ節腫脹を認める重症例までさまざまであるが,臨床経過は比較的良好であり,多くは抗菌薬と非ステロイド性鎮痛薬の投与により数日~1週間程度で治癒する。そのため,急性咽頭・扁桃炎に対する治療選択においては,(1)A群β溶血性連鎖球菌であるかウイルス性であるかを判断し,(2)その重症度に応じた治療選択を行うことが重要となる。

 本稿では,急性扁桃炎の起炎菌,臨床重症度分類について述べるとともに,急性咽頭・扁桃炎に対する抗菌薬治療について解説する。

2.急性中耳炎(小児)

著者: 泰地秀信

ページ範囲:P.119 - P.123

Ⅰ.はじめに

 急性中耳炎は乳幼児に好発する耳鼻咽喉科領域の代表的な感染症であるが,薬剤耐性菌の増加による難治化および反復が問題になっている。本症に抗菌薬を投与する場合の選択と使い方について,ガイドラインをもとに論述する。

3.急性中耳炎(成人)

著者: 佐藤克郎

ページ範囲:P.125 - P.131

Ⅰ.はじめに

 急性中耳炎は上咽頭から耳管を経由して中耳腔に細菌が侵入して感染を生じる上気道炎の一形態と考えられる1)。一般的に急性中耳炎は小児が罹患する疾患であり,成人での症例数は小児に比べると圧倒的に少ない。そのため成人の本疾患に関する統計学的なデータは入手しづらいのが現状であるが,かといって成人と小児の急性中耳炎の病態生理が全く異なるとは考えにくい。しかし,急性中耳炎の疫学において小児と成人に差異がある以上,成人の本疾患においては細菌学的や免疫学的な条件,中耳局所の病態や後遺症など小児とは何らかの異なる点もあると思われる。本稿では急性中耳炎の局所病態とその治療の目的について概説した後,成人の急性中耳炎の特徴を考察したうえでファースト・チョイスとなる抗菌薬の選択につい考察してみたい。

4.急性副鼻腔炎

著者: 平川勝洋 ,   立川隆治

ページ範囲:P.133 - P.141

Ⅰ.はじめに

 急性副鼻腔炎は症状の持続が3週間以内の副鼻腔炎とされており,3か月以上症状が持続するものは慢性副鼻腔炎,3週間~3か月のものを亜急性副鼻腔炎と定義されている。

 急性副鼻腔炎の多くは細菌性であり,それらは細菌の鼻粘膜感染にはじまり副鼻腔粘膜に及ぶものが主であるが,鼻入口部,口腔,歯槽部からの炎症が波及し生ずることもある。

 いずれの場合も細菌感染は二次的に起こると考えられており,鼻粘膜感染より起こる場合には,通常,ウイルス性の上気道感染やアレルギー性炎症が先行した後に副鼻腔炎症状が増悪する。ウイルスが原因で生じる場合には二次性に細菌感染を起こさなければ自然治癒するが,細菌が原因で生じる場合や二次性に細菌感染を起こした場合には起炎菌に応じた抗菌剤の投与が必要となる。

5.先天性囊胞性疾患の感染症

著者: 原田保

ページ範囲:P.143 - P.148

Ⅰ.はじめに

 耳鼻咽喉科領域における先天性囊胞性疾患はそれほど多くないが,年に何人かは外来を訪れる。先天性囊胞性疾患は頸部領域に多く,甲状舌管囊胞(正中頸囊胞)や鰓囊胞(側頸囊胞,耳下腺内鰓囊胞,舌根部鰓囊胞)などを挙げることができる。本稿では甲状舌管囊胞と側頸囊胞を中心に記載させていただく。これらの疾患は特徴的な症状や経過より診断は比較的容易であるが,悪性腫瘍との鑑別が重要になることもある。的確な診断や治療が行われず繰り返し炎症が起こればそのつど抗菌薬が処方され,やがて耐性菌が出現する。また切開・排膿がしばしば行われたり,自壊したりすると炎症が周囲組織に波及し,難治性になる。的確な診断を行いまず抗菌薬を中心とした治療を行うことにより治癒せしめる可能性がある。本稿では本疾患に対する適切な抗菌薬の使用法に関して述べる。

目でみる耳鼻咽喉科

顎下腺組織にIgG4陽性形質細胞浸潤を認め,自己免疫性膵炎を合併したミクリッツ病

著者: 山本元久 ,   鈴木知佐子 ,   苗代康可 ,   高橋裕樹 ,   篠村恭久 ,   金泉悦子 ,   氷見徹夫

ページ範囲:P.102 - P.104

 ミクリッツ病は両側の涙腺,唾液腺が持続性に腫脹する原因不明の疾患である。今回,顎下腺組織中に著明なIgG4陽性形質細胞浸潤を認め,自己免疫性膵炎を合併したミクリッツ病を経験したので報告する。

Current Article

中耳真珠腫の再発防止に対する乳突腔充塡術の有用性―真珠腫の再形成症例に対する施行経験

著者: 池田稔 ,   鴫原俊太郎 ,   野村泰之

ページ範囲:P.105 - P.112

Ⅰ 中耳真珠腫に対する術式

 われわれは中耳真珠腫の再発を防止する術式として乳突腔充塡術を行っており,その有用性について述べる。

 中耳真珠腫に対する鼓室形成術の術式には表1に示すように,いくつかのものがある1)。乳突洞の開放が必要となる例では,外耳道後壁の処理法により,『外耳道後壁保存型鼓室形成術(canal wall up tympanoplasty)』と『外耳道後壁削除型鼓室形成術(canal wall down tympanoplasty)』があり,それらの術式にはそれぞれ利点と欠点がある。

原著

鼻内法で施行した小児線状型眼窩底骨折症例

著者: 山口宗一 ,   末野康平 ,   山口威 ,   岸博行

ページ範囲:P.153 - P.157

Ⅰ.はじめに

 眼窩底骨折は耳鼻咽喉科の日常診療でしばし遭遇する疾患であり,従来歯齦切開による経上顎洞法での治療が行われることが多かった1)。一方で各病院の診療体制によっては眼科や形成外科で治療が行われ,そこでは経下眼瞼法による報告が多い1~5)。最近は内視鏡下の鼻内法で施行されるようになり,前述の方法に比べて侵襲が小さく,眼窩内側壁骨折の症例では第一選択となっている6)。眼窩下壁の骨折端に絞厄された下直筋の解除を要する線状型眼窩底骨折症例は,鼻内法では難しいとも述べられ7),われわれが渉猟した限り,わが国での症例報告はなかった。

 6歳児の線状型眼窩底の骨折に対して当初,経上顎洞法と鼻内法の併用で手術を予定したが,結果的に鼻内法のみで治療し得た症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

舌の骨性分離腫を合併した茎状突起過長症の1症例

著者: 青山猛 ,   岡香澄 ,   木下澄仁 ,   湯本英二

ページ範囲:P.159 - P.163

Ⅰ.はじめに

 茎状突起過長症とは,茎状突起の過長により咽喉頭および頭頸部などにさまざまな症状を呈する疾患である1)。また,骨性分離腫とは,骨組織がもともと存在しない場所に発生した骨性腫瘍で,口腔内軟組織に多く発生する10~12)。今回われわれは,舌有郭乳頭部の骨性分離腫を合併した茎状突起過長症の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

シリーズ DPCに対応したクリニカルパスの実際

⑫鼻中隔矯正術

著者: 春名眞一 ,   飯村慈朗

ページ範囲:P.165 - P.175

Ⅰ はじめに

 クリニカルパス(以下,パスと略す)は『医療の質の向上』を目的とした『医療の介入内容を計画化,書式化し,医療の評価と改善を行うためのシステム』であり,メリットとして,

 (1)医療の標準化,至適化

 (2)医療資源と時間の効率化,患者の時間,経済的負担の適正化

 (3)標準を呈示することによる異常に対する早期発見と対処

 (4)医療スタッフの教育

 (5)ミス,漏れや事故の防止

 (6)チーム医療,スタッフの主体性発揚

 (7)患者への説明,インフォームド・コンセント

 (8)医療管理(在院日数,コスト管理,原価計算)

 (9)医療内容の継続的改善のシステム化

(10)最善の医療を求めた研究応用

などが挙げられる1)

 本稿では,鼻中隔彎曲症に対する鼻中隔矯正術のパスについて,当院で実際に使用しているパスを呈示しながら説明する。

 鼻中隔矯正術は鼻中隔彎曲症に対して鼻腔形態を改善させ,鼻腔の開存性・通気性を改善させる手術であるが,凹側で下鼻甲介の代償性肥大を伴っていることが多いため,下鼻甲介粘膜切除術を併用することが多い。さらにアレルギー性鼻炎を合併するものも少なくないため,後鼻神経切断術を併用して行う場合もある。しかし,すべての手術を施行しても手術時間はほぼ1時間で終わり手術自体のリスクも低い。基本的には局所麻酔下に施行することが可能だが,近年では全身麻酔下に施行する症例も増加している。

 外科系疾患に対するさまざまな手術にパス導入を検討する際,対象としやすいのは,

 (1)症例数が多く

 (2)術式が標準術式として定着しており

 (3)術後合併症の発生が少なく手術自体のリスクが低く

 (4)術後の入院期間が短く,バリアンスも少ない手術

 となっている2)

 この点において鼻中隔矯正術は,(1)~(4)のすべての項目を満たしパスの良い適応と考えられる。

⑫鼻中隔矯正術

著者: 綿貫浩一 ,   山下裕司

ページ範囲:P.177 - P.181

Ⅰ はじめに

 医療の質を維持しつつ医療費を効率的に使用するため,さまざまな分野でクリニカルパス(以下,パスと略)の導入が図られている1,2)。耳鼻咽喉科領域でも標準的な治療が疾患ごとにある程度は決まっており,そのなかでも鼻科手術は典型的な経過を辿ることが多く,当科でも最初にパスを導入した疾患群の1つである。

 鼻中隔矯正術は鼻中隔彎曲症による鼻閉を改善させるために行われることが多いが,ほかの副鼻腔手術の前段階として鼻副鼻腔全般の形態改善を目的とすることもある。また肥厚性鼻炎を伴っていることが多く,当科ではほとんどの例で下鼻甲介切除術も同時に行っている。原則として全身麻酔下に施行することが多いが,症例により局所麻酔で行うこともある。どちらを選択してもパスとして大きな違いはない。

 ほかの鼻科手術に比べて手術侵襲は小さいと思われるが,形態維持のためタンポンをやや長く留置しており,そのために合併症を生じやすくなる一面がある。そのためにパスから逸脱させないように,感染徴候には特に注意が必要である。

 また当科は地方の大学病院のために術後処置の一部を担わざるをえず,そのため市中病院のパスと比べるとやや入院期間は長くなっているものと思われる。

鏡下咡語

ヨットとの出会い,そして海上のドラマ

著者: 市川銀一郎

ページ範囲:P.149 - P.151

Ⅰ.はじめに

 セーリングボート(以下ヨット)との出会い,そして長い付き合いは,私のこれまでの人生で最も楽しい思い出である。主にスナイプ級,後に470級など6~7mの大きさであり,2枚のセールをクルーとスキッパーの2人で操る。追い風のときには色鮮やかなスピネイカーを上げる(図1)。

 当然,風を利用して帆走する。風はこちらの都合の良いように吹いてくれるとは限らない。時に,目的とする方向から吹いている逆風,向かおうとする方向に吹いている順風,さらには巻いている風などのエネルギーを効率よく利用しながら進む。時には,海上でピタリと風が凪いでしまう。思わぬ波のうねりに合うこともある。

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あとがき

著者: 竹中洋

ページ範囲:P.186 - P.186

 今年はことのほか暖冬とのこと,季節のめりはりがなくなってきています。京都では昨年は梅便りがずいぶん遅く,北野の梅と八坂の桜がほとんど同時であったように記憶しています。一方,温暖化の影響でこのままでは日本列島の亜熱帯化に手が届くといわれています。最大の変化は植生で,リンゴ産地は北海道へ移り,京都で温州みかんが採れるかも知れません。

 気候と医学あるいは医療を考えても,伝染病の種類が変わるでしょうし,水際作戦が問題なのではなく,国内に持ち込まれる病原微生物やその媒介を務める動物の管理が大変になります。耳鼻咽喉科領域では冬がなくなることで,温度センサーと日射量センサーで管理されているスギの開花なども大きな変化が予想されます。北海道にスギやヒノキを植林するような馬鹿げたことは起こらないでしょうが,短い春が集中的な花粉飛散を呼ぶのではないでしょうか。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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