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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科79巻4号

2007年04月発行

雑誌目次

特集 耳鼻咽喉科領域の真菌感染の治療

1.外耳道真菌症の治療

著者: 陣内自治 ,   武田憲昭

ページ範囲:P.301 - P.306

Ⅰ.はじめに

 近年,感染症が遷延化・難治化している理由として,薬剤耐性菌の増加だけでなく,副腎皮質ホルモン,免疫抑制剤,抗悪性腫瘍化学療法剤の使用増加による免疫機能の低下,患者の高齢化,糖尿病罹患率の増加などが挙げられる。細菌に対する抗菌薬の抗菌スペクトルが強力になるにつれて,菌交代現象としての真菌感染症が増加しており,抗真菌薬が多数開発されている。

 耳鼻咽喉科領域の真菌症では,耳真菌症が最も頻度が高い。耳真菌症には中耳真菌症と外耳真菌症がある。外耳真菌症では外耳道真菌症が多く,耳介真菌症は少ない。また中耳真菌症は外耳道,鼓膜穿孔から真菌が中耳へ感染して発症することが多い。外耳道真菌症は,主に骨部外耳道から鼓膜にかけて真菌が寄生増殖して起こる浅在性真菌感染症である。しかし,外耳道の侵襲性アスペルギルス症が中耳,側頭骨に及ぶと不幸な転帰をとる場合もあるため,外耳道の段階での真菌感染のコントロールは非常に重要である。本稿では外耳道真菌症の病態,原因,治療の解説と最近の動向について述べる。

2.中耳腔

著者: 海江田哲 ,   高橋晴雄

ページ範囲:P.307 - P.310

Ⅰ.はじめに

 耳鼻咽喉科領域は外耳道真菌症や副鼻腔真菌症などの真菌感染症を取り扱う機会が比較的多い。その理由として,これらの器官が外界に向けて門戸を開いていること,またその湿潤な環境が真菌の発育に適していることが挙げられる。しかしながら中耳腔は,鼓膜および通常閉鎖状態にある耳管により外界とは隔絶されているため本来無菌状態にある空間で,他の耳鼻咽喉科領域とは異なり真菌が常在している場所ではない。確かに鼓膜に穿孔を有する慢性中耳炎などの耳漏から真菌が検出されることがあるが,中耳腔における感染性炎症に真菌がどのように関与しているか不明な点が多い。ここでは中耳炎症性疾患と真菌とのかかわりについて当院における過去2年間の状況を含めて文献的に概説し,さらに耳漏から真菌が検出された際の対処法について述べてみたい。

3.鼻副鼻腔真菌症の臨床

著者: 川内秀之

ページ範囲:P.311 - P.316

Ⅰ.成因

 真菌が鼻副鼻腔に侵入して定着・増殖することによって真菌感染を引き起こすが,菌体側の病原性が強いことと同時に,宿主の感染抵抗性が減弱していることが発症の要因と考えられている。真菌の菌種としてはAspergillusが最も多く,次いでMucor,Candidaといわれている。AspergillusCandidaによる副鼻腔真菌症は健常者に発生することが多い。Aspergillusは嫌気状態で病原性を発揮することから,副鼻腔の酸素濃度の低下が原因となることが示唆されている1)。一方で,Mucorによる真菌症は糖尿病に合併して発生する場合が多い。本症の原因として知られているクモノスカビは糖を多く有しており,酸性条件下で存在しやすいことと,ケトアシドーシスにより宿主側の食細胞の機能が低下していることが関係していると考えられている。また,抗菌薬,副腎皮質ステロイド薬の長期連用は,真菌症の誘因となることが示唆されている。

4.口腔真菌症

著者: 本田耕平 ,   石川和夫

ページ範囲:P.317 - P.320

Ⅰ.はじめに

 口腔・咽頭における真菌感染症は,カンジダ(Candida albicans)が最も頻度が高く代表的である。カンジダはヒト口腔内に常在する真菌であり,宿主の免疫低下によって発症する日和見感染が多い。本症の背景として,抗菌薬やステロイド薬の長期連用による菌交代現象,糖尿病,癌末期悪液質,免疫不全症候群などが挙げられる1)

5.致死的感染

著者: 片田彰博 ,   原渕保明

ページ範囲:P.321 - P.330

Ⅰ.致死的感染症である深在性真菌症

 近年,真菌感染症(真菌症)は増加傾向にあり,特に大学病院や特定機能病院では,感染症のなかで真菌症の占める割合が増加している1)。真菌症は,その病巣の形成部位に基づいて表在性真菌症,深部皮膚真菌症,深在性真菌症の3つに大別される。なかでも重篤な病態を呈し,時に致死的感染症となりうる深在性真菌症の発生率は増加傾向にあり,わが国における集計でも内臓真菌症の剖検数は明らかに増加している2)

 深在性真菌症を引き起こす起因菌を表1に示した3)。これらの起因菌は通常の生活環境や生体内に常在し,もっぱら院内感染として感染抵抗力の低下した患者に日和見感染型の真菌症を引き起こす。起因菌別にみた最多疾患はカンジダ症,次いでアスペルギルス症であり,以下発生率は非常に低くなるがクリプトコッカス症,接合菌症(ムコール症)が続いている。古くからこの4種が4大真菌症とされてきたが,最近では新種の起因菌としてトリコスポロンやニューモシスチスが出現するようになった。カリニ肺炎の病原体として知られるPneumocystis cariniiは,以前には原虫の一種と考えられていたが,その細胞学的および分子生物学的特性に真菌との共通性がみられることから,現在では真菌として分類されている。

目でみる耳鼻咽喉科

心肺停止状態で搬送された両側頸部自傷の1症例

著者: 高浪太郎 ,   渡辺健太 ,   藤城芳徳 ,   蝦原康宏 ,   中尾一成 ,   朝蔭孝宏 ,   加我君孝 ,   矢作直樹

ページ範囲:P.288 - P.290

Ⅰ.はじめに

 頸部には喉頭,気管,食道,頸動脈,頸静脈など生命維持に重要な解剖学的構造物が存在する。頸部外傷による出血は治療に緊急性があり,適切な処置が遅れると重症度が高くなる危険性がある。今回,われわれは両側頸部自傷行為によって心肺停止状態で救急外来に搬送されたにもかかわらず,蘇生し得た1症例を経験したので報告する。

Current Article

内視鏡の臨床応用―観察・記録法の進歩と頭蓋底手術への応用

著者: 角田篤信

ページ範囲:P.291 - P.299

Ⅰ はじめに

 内視鏡の導入は耳鼻咽喉科医にとって大きな革命であり,診断と治療の質の著しい向上をもたらしたが,近年その可能性と応用範囲がさらに広がりをみせている1)。本稿では内視鏡の臨床応用について,観察記録面というみる面での進歩と手術応用という使う面での進歩についてわれわれの経験に即して紹介し,今後の展望について論じてみたい。

原著

甲状腺腫瘍として加療され15年後に確定診断された右側下咽頭梨状窩瘻の1例

著者: 佐藤克郎 ,   野村智幸 ,   花澤秀行 ,   富田雅彦 ,   渡辺順 ,   松山洋 ,   高橋姿

ページ範囲:P.339 - P.342

Ⅰ.はじめに

 下咽頭梨状窩瘻は,頸部の下咽頭梨状窩下部すなわち甲状腺付近に反復性の感染を生じて発見される先天性疾患であるが,1970年代後半に初めて報告された比較的新しい疾患概念である1)。そのため,本疾患の知識が普及する以前では下咽頭梨状窩瘻の症例は反復性化膿性甲状腺炎として取り扱われることが多かったと考えられ,甲状腺疾患として加療されていた可能性がある。また本疾患は,発生学的な機序から大多数が左側の梨状窩に生ずる。

 今回われわれは,他院にて甲状腺腫瘍として加療された15年後に,右側に発生した下咽頭梨状窩瘻と確定診断して根治手術を行った1例を経験したので報告する。

シリーズ DPCに対応したクリニカルパスの実際

⑭睡眠時無呼吸

著者: 原田保

ページ範囲:P.343 - P.349

Ⅰ はじめに

 医療行為は安全に的確に行い,患者に満足していただくことが非常に重要である。現在の医療環境においてこのような『医療の質の向上』『事故の防止』はもちろんであるが,教育および経済面などの『効率』も考えなければならない。大学付属病院などでは診断群分類に基づく包括医療制度(diagnosis procedure combination:DPC)1,2)や新研修医制度が導入され医療の標準化が必要となり,クリニカルパス(以下,パスと略す)が重要視されている。パスの利点として松島ら3)は『医療の標準化』『医療資源および時間の効率化』『患者の時間および経済負担の適正化』『異常の早期発見と対処』『事故の防止』『患者への説明,インフォームド・コンセント』『医療管理』などを挙げている。耳鼻咽喉科領域の疾患は多種あり,バリアンスが多く,パス化しにくいものもある。本疾患の外科的治療は,(1)アデノイド切除術,(2)口蓋扁桃摘出術,(3)口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP),(4)鼻手術を挙げることができる。

 症例により多少異なるが,上述した口蓋扁桃摘出術や口蓋垂軟口蓋咽頭形成術を中心に単独あるいは組み合わせて行い,手術手技や入院期間などがほぼ一定でありパス化しやすい。当院では医療の質を標準化し,入退院をスムーズに行い入院期間の短縮とともに患者の満足度を向上させる目的でパスを作成して運用している。当科での睡眠時無呼吸における手術時のパスについて記載させていただく。

⑭睡眠時無呼吸

著者: 駒田一朗 ,   清水猛史

ページ範囲:P.351 - P.359

Ⅰ はじめに

 当院では現在オーダリング導入作業中であり,DPCは導入申請を行っており準備中である。当科では8疾患22種類のクリニカルパス(以下,パスと略す)を運用中である。睡眠時無呼吸においてはポリソムノグラフィ検査入院のパスが6種類(睡眠時無呼吸の診断,CPAPの効果判定,経過観察,口腔内装置の効果判定,手術の効果判定),手術治療の2種類(軟口蓋形成術,軟口蓋形成術と鼻中隔矯正術)がある。DPCにおいて睡眠時無呼吸の手術は,

 (1)K377 口蓋扁桃手術

 (2)K407-2 軟口蓋形成手術

 (3)K426-1 口唇裂形成手術(軟口蓋形成術は2006年4月に新設され,それまではいびきに対する軟口蓋手術は唇裂形成手術で請求することとなっていた。)

 (4)K-443 上顎骨形成手術

 (5)K-444 下顎骨形成手術

 (6)その他のKコード

が挙げられている1)。睡眠時無呼吸症候群と診断した際にはCPAP,口腔内装置,口蓋扁桃手術,軟口蓋形成手術,下顎骨・上顎骨形成手術などの選択肢を紹介し治療を開始しているが,下顎骨・上顎骨形成手術の経験はなく,実際に行っている治療はCPAP,口腔内装置,口蓋扁桃手術,軟口蓋形成手術である。睡眠時無呼吸に対するUPPP手術は軟口蓋形成手術(7,800点)に相当する。当科の入院症例の約6割が睡眠時無呼吸およびそのほかの睡眠障害で,手術症例の約4割が睡眠時無呼吸に関連した手術で占められている。

 鼻呼吸が障害されると睡眠が障害されるだけでなく,鼻閉によりCPAPおよびその他の治療において治療継続に支障をきたすため鼻呼吸の改善は重要である2)。鼻中隔矯正術や下鼻甲介手術は睡眠時無呼吸の治療に伴いよく行われる重要な手術である。軟口蓋形成手術は全身麻酔下に行い16日間の入院パスを用いていたが,入院期間13日間のパスと鼻中隔矯正術を術後7日目に行うパスを追加し運用している。ここでは入院期間13日の軟口蓋形成手術のパスを紹介する(図1,2)。

鏡下咡語

よい耳つくりの夢

著者: 本庄巖

ページ範囲:P.335 - P.337

Ⅰ.はじめに

 よい耳をつくることは難聴に悩む人に接する私たち耳鼻科医にとって,いわば最終的な夢ともいえる。残念ながらまだかなわぬ夢であるが,では一体よい耳とはどんなものなのか,あるいは進化の途上でよい耳つくりに失敗したのはなぜか,さらには理想的な耳をつくるにはどうすればよいかなど,原点にかえって考え,私なりによい耳つくりの夢物語を述べてみたい。

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あとがき

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.364 - P.364

 本誌は,優れた症例報告が多く掲載されていることで広く認知されています。一方,英文誌の多くは,いわゆるoriginal paperを主として扱っているものが多く,case reportは雑誌の後のほうに掲載されるのが一般的です。むろん,このような欧文誌の編集方法に異論を唱えるものではありませんが,症例報告を重視した雑誌があっても不思議はないとも思います。良い症例報告は日常臨床に役立つ,あるいは手助けになるばかりでなく,将来進むべき道筋や研究に関するアイデアや指針を与えてくれます。フランスの神経学は伝統的に臨床の場を大切にしており,多くの優れた研究や新しい知見が症例報告から得られていることは歴史が示しているところです。

 本邦では,優れた症例報告が本誌をはじめ,他の耳鼻咽喉科関係雑誌に掲載されています。しかし,これらは残念ながら日本の主として耳鼻咽喉科医のみが知るところであり,諸外国では全く認知されていません。もちろん,すべての症例報告を英文雑誌に発表する必要はありませんが,世界に発信してよい内容の症例報告も少なくないと思います。そこで,これらの優れた症例報告を,本誌の英語版というべき雑誌を新たに刊行し,世界に発信したらどうかというアイデアがあります。わざわざ,そのような面倒なことはせずに,既存の英文誌,例えば,Acta Oto-laryngologicaやLaryngoscope,あるいはAnnals of Otology Rhinology & Laryngologyなどに投稿すればよいのではないかという意見もあると思います。しかし,しばしばこれらの雑誌では,当然のことかも知れませんが,その受領(掲載)は公平とは言いながら,自国あるいは関係国からの投稿論文には甘く,外国からの投稿には辛いのが一般的です。特に,英語を母国語としない日本人にはなかなかハードルが高いのが現状です。また,同時にその投稿先を外国雑誌にのみ頼っているのは,文明国,科学大国の日本としては寂しい限りです。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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