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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科79巻7号

2007年06月発行

雑誌目次

特集 新生児聴覚検診の役割

1.検診の実際とその結果―高度難聴・人工内耳・中等度難聴と言語性IQによる評価

著者: 加我君孝 ,   新正由紀子

ページ範囲:P.473 - P.480

Ⅰ.精密聴力検査機関としての東京大学病院に2000~2005年の間紹介された新生児聴覚スクリーニングを経た高度難聴児と発見の遅れた高度難聴児の比較

1.新生児聴覚スクリーニング後の受診の動向

 近年,難聴児の早期発見,早期教育,新生児聴覚スクリーニングの重要性が世界的に注目され,わが国においても新生児聴覚スクリーニングは徐々に普及し始めている1)。その一方で,新生児聴覚スクリーニングは,その意義や家族に与える心理的影響などについて議論が多い2,3)。東京大学附属病院は首都圏の中心にあり,背景人口が約1,200万人と膨大で,年間出生数は東京都だけでも約10万人,周辺の埼玉県,千葉県,神奈川県を合わせると約30万人にもなる。交通の便も良いため,スクリーニングで『要再検』となった例や人工内耳やsecond opinionを希望など,問題を抱えた症例が紹介されたり,インターネットで調べて受診したりする。

 厚生労働省の手上げ方式で2000年に始まった新生児聴覚スクリーニングを経た症例が受診するようになって6年が過ぎた。これまで当科のコミュニケーション外来を受診した新生児聴覚スクリーニング症例の動向について調査して報告する。対象は2000年1月~2005年12月の6年間に難聴の精査・治療目的で当科を受診した乳幼児のうち,前医で新生児聴覚スクリーニングを施行された69症例である。

2.地域での取り組み

著者: 福島邦博 ,   冨永進 ,   片岡祐子 ,   前田幸英 ,   西﨑和則

ページ範囲:P.481 - P.485

Ⅰ.はじめに

 1994年のposition statementでは,universal newborn hearing screening(難聴の全数スクリーニング)と呼ばれていた新生児スクリーニングが,2000年のposition statementで特にearly hearing detection and intervention(EHDI:難聴の早期発見と介入)といい表されるようになってすでに久しい。Position statementにおけるこの呼び方の変更は,難聴の場合には早期の『発見』だけではその対策が決して完結しないことを念頭に置いた表現であり,それと同じ重要性をもって『介入』について考える必要性を理念として改めて示したものである。

 地域における新生児聴覚スクリーニングに対する取り組み(district-based newborn hearing screening)を考える場合,こうした介入までを見越した対策を考えることが前提となるために,そもそも病院を基本単位としたスクリーニング(hospital-based newborn hearing screening)と比べればはるかに幅広い問題点を対象としてプランニングする必要がある。

 段階としてその問題を大別すると,①スクリーニング前の啓発,②スクリーニングそのもののシステムと効率性の検討,③スクリーニング後のサポート体制,④スクリーニング後の確定診断のシステム,⑤診断後の療育,⑥そしてそれぞれの部門のシームレスな連携,および⑦事業としての評価とそれを踏まえた『持続可能なサービス』を提供するシステムが必要であるといえる。

 岡山県では,全国に先駆けて地域レベルでの新生児聴覚スクリーニングを実現させてきた実績がある。すなわち,岡山県では,県と契約を結んだ47の産科医療施設が,それぞれに自動ABRによる聴覚のスクリーニングを行っている。これでは,入院中に必ず2回以上のスクリーニング検査を行い,そのうえで繰り返しリファーの結果となったものを『要精密検査』として,精密聴力検査機関へと紹介するシステムになっている1)。この後,この情報は同時に岡山県に連絡され,さらに保健師に連絡されて,『要精密検査』の段階で保健師の訪問指導が行われる形になっている(図1)。なお,こうした情報を県および匿名化したうえで2次的に使用することについては,スクリーニングの同意取得時に文書で同意を得ている。

 本稿では,これまでの経験を含めて地域における新生児聴覚スクリーニングシステム確立のために必要なポイントについて,特に行政面でのサービスとサポートの体制作りについて整理してみたい。

3.検診でreferになった児の取り扱い

著者: 中澤操

ページ範囲:P.487 - P.493

Ⅰ.はじめに

 聴覚障碍児の早期発見は長い間の夢であった。大脳の言語習得適期を考慮すると,聴覚障碍が新生児期に抽出され,かつ速やかに療育軌道に乗ることは理想である。平成12(2000)年度から厚生班研究が,2001年からは岡山県,秋田県,神奈川県(その後終了)で公的検診が,同時期から産科現場にスクリーニング機器が販売され多くの私的検診も開始された。2006年末現在,全国の出産現場の約6割にスクリーニング機器が導入されているといわれる。しかし期待されていた効果のみならず,実際には検診を取り巻くシステム作りの遅れに起因する多くの問題が噴出することとなった。その実態や背景も徐々に解明されてきたが,開始から5年以上経過した現在,これらの問題の解決は各地域の努力にゆだねられている。本稿では,検診システムの根幹ともいえる,referとなった児の取り扱いに焦点を当てつつ,システム作りの本質的な課題にも触れたいと思う。

4.難聴が確定した場合の対処 1)補聴器

著者: 神田幸彦

ページ範囲:P.494 - P.500

Ⅰ.はじめに

 新生児聴覚スクリーニングでreferとなり,精密聴力検査機関において精密聴力検査の結果,最終的に難聴の診断が確定した場合,まずは補聴器を装用することになる。補聴器も難聴の病態・聴力・聴覚のダイナミックレンジ・患者の要望・家族の状態により選択はさまざまでありケースバイケースのことが多いが,当施設で行っている方法などを提示する。

4.難聴が確定した場合の対処 2)人工内耳

著者: 井脇貴子 ,   多田麻佐美 ,   久保武

ページ範囲:P.501 - P.506

Ⅰ.はじめに

 小児への人工内耳は早期手術の効果が認められ,適応も拡大されるに伴って,近年急速に普及してきている。先天聾や言語習得前失聴の小児では,低音部に残聴をもつが,中-高音部では音に対する反応が全くないことが多い。このような場合,母音は聴取できても子音の聴取が困難で,言葉の聞き取り,発語に関しても満足される結果は得がたい。一方,人工内耳では周波数の弁別は劣るものの高音部まで十分な音を中枢聴覚系に与えることができる利点を有している。

目でみる耳鼻咽喉科

MRIが診断に有用であった結節性筋膜炎の1例

著者: 山﨑一春 ,   大塚尚志 ,   佐藤宏昭 ,   中里龍彦 ,   及川浩樹

ページ範囲:P.460 - P.462

Ⅰ.はじめに

 結節性筋膜炎は線維芽細胞の増殖性病変である。上肢に好発することが多く頸部に発生することは稀だが,急速に発育するので悪性腫瘍との鑑別が必要な疾患である。今回われわれは側頸部に発生した結節性筋膜炎を経験したので報告する。

Current Article

頭蓋底疾患に対する経鼻的アプローチについて

著者: 春名眞一

ページ範囲:P.463 - P.471

Ⅰ はじめに

 頭蓋底疾患の経鼻的アプローチとは,主に鼻副鼻腔隣接の前頭蓋底に対して頭部からのアプローチに代わって内視鏡下に鼻副鼻腔を経由するアプローチ法であり,低侵襲な手術が可能となる。耳鼻咽喉科領域では頭蓋底に及ぶ副鼻腔腫瘍や鼻性髄液漏,脳神経外科領域の疾患として下垂体腫瘍をはじめ,種々の頭蓋底腫瘍,外傷が対象疾患となる。本アプローチ法はこれまで耳鼻咽喉科において開発されてきた内視鏡下鼻内副鼻腔手術の延長であり,耳鼻咽喉科医の役割は大きいと考えられる。すなわち耳鼻咽喉科と脳神経外科とが協力し合って可能となる手術術式である。しかしながら,脳神経外科医からの多くの報告は認められるが,耳鼻咽喉科医の論文は多くない。本稿では,これまでの種々の疾患での経鼻的アプローチ法を紹介し,耳鼻咽喉科医の存在性をアピールしたい。

原著

自殺企図による頸部切創の4症例

著者: 山崎宗治 ,   舘田勝 ,   工藤貴之 ,   宮崎真紀子 ,   長谷川純 ,   嵯峨井俊 ,   中目亜矢子 ,   片桐克則 ,   古川宗 ,   東和明 ,   小山敦 ,   小林俊光

ページ範囲:P.509 - P.513

Ⅰ.はじめに

 頸部外傷は救急の現場において遭遇する可能性のある疾患の1つである。われわれ耳鼻咽喉科医は頸部の構造を熟知しその対応については日頃より準備をしておく必要がある。頸部は気道,血管,神経,頸椎,食道など多くの重要臓器を有しており,創の状態によっては喉頭気管損傷による気道閉塞,血管損傷による出血性ショックなどを生じやすく致命的となる可能性がある。さらに救命救急センターを有する施設では頸部外傷のみならず他部位の損傷も合併することが多く,見逃さないよう注意を払う必要がある。また時には全身管理の必要もあるため局所所見にとどまらず全身状態を的確に把握することも必要である。われわれは2004 ~ 2006年までに自殺企図による頸部切創を4例経験した。ショック状態の症例や頸部以外の損傷も3例に認めたので若干の文献的考察を加えて報告する。

シリーズ DPCに対応したクリニカルパスの実際

⑯頸部良性腫瘍・囊胞摘出術

著者: 片田彰博 ,   原渕保明

ページ範囲:P.519 - P.526

Ⅰ はじめに

 わが国では,2003年から特定機能病院の入院診療においてDPC(diagnosis procedure combination)による包括医療が導入された。当院でも2003年6月よりDPCが導入されているが,こうした包括医療においては,支払い方式が出来高ではなく,疾患別に診療報酬が固定されており,在院期間が長くなると1日当たりの診療報酬は段階的に減少する。よって,DPCに基づく包括医療では在院日数を適正に保ち,過剰もしくは不必要な検査,投薬,処置などを行わないことが病院の経済的利益を増大させることになる。したがってDPCが導入されているなかで,医療の質やサービスを低下させることなく在院日数を短縮して医療経済効果の向上させるためには,適正なクリニカルパス(以下,パスと略)を作成し,スケジュールにそった医療行為がすすめられることが重要であるといえる。

 本稿では頸部良性腫瘍・囊胞摘出術に対して当科で用いているパスを紹介し,その特徴と有用性について解説する。

⑯頸部良性腫瘍・囊胞摘出術

著者: 森貴稔 ,   藤村武之 ,   塩盛輝夫 ,   上田成久 ,   鈴木秀明

ページ範囲:P.527 - P.532

Ⅰ はじめに

 米国でのクリニカルパス(以下,パスと略す)導入は1983年にdiagnosis related groups/prospective payment system(DRG/PPS)が入院医療費に導入されたことがきっかけとなっている。それまで出来高払いであったものが定額払いに変わったことにより平均在院日数を短縮し,病床回転率を上げる必要性に迫られた。そのため平均在院日数を短縮させる目的でパスが導入された1)。一方,わが国では2003年からdiagnosis procedure combination(DPC)による包括的診療報酬制度が開始され,DPC対象病院数は増加しており,パスを用いることによる適切な医療提供のためのコスト管理,分析が必要になってきている。また,患者の満足度をいかに高めるかという観点から,informed consent(IC)の充実を図る目的でも,今後パスを導入する病院数は増加するものと思われる2)。今回われわれは当科で使用しているパスのうち頸部良性腫瘍・囊胞摘出術のパスを紹介し,その有用性と問題点について検討を行った。

鏡下咡語

パクス・ヤポニカでは女社会の台頭か

著者: 松永喬

ページ範囲:P.515 - P.518

Ⅰ.パクス・ヤポニカ

 パクス(Pax)とはラテン語で『平和の女神』という意味だそうだ。パクス・ヤポニカは日本の平和,日本における平和と訳せる。山折哲雄氏1)がパクス・ヤポニカ論を展開し,川勝平太氏2)も詳しく述べている。塩野七生氏の『ローマ人の物語』のなかのパクス・ロマーナ3)(ローマによる平和)が有名な言葉でもある。

 縄文時代から現在までの約1万年の日本の歴史のなかで戦争がなかった平和な時代(パクス・ヤポニカ)が3回ある。平安時代後期,江戸時代後期と現代である。これらの時代にはいずれも人口の定常化の傾向がみられることから,社会学者はこの間に何らかの女性の社会的意思の向上があったのではないかと考えている。つまりパクス・ヤポニカには人口問題が絡んできている。そこで本稿は日本の人口問題からはじめる。

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あとがき

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.538 - P.538

 地方の中核をなす病院の院長からうかがう話は,医師不足と地域医療の崩壊という悲観的なものが圧倒的に多い反面,さまざまなアイデアやHP,宣伝の努力などから医師の確保に成功している病院もみられます。しかし,病院の努力はもちろん大切な要件ですが,もともと僻地や生活条件の悪い地域に努力やアイデアという言葉では解決できない問題も存在しているように思います。ひとつの策として今後,開業するためには僻地といわれる病院で一定期間働くことを義務化するという意見や,逆にそのように職場の自由度をなくすことはある意味では憲法違反という意見,さらに議論自体に不安を感じる若い医師が制度化を恐れ,その前に駆け込み開業をするのではという心配意見 など,医師偏在に対する明確な答えは出ていません。

 新臨床研修制度の2年の研修を終え,いわゆるマイナー科に入局してきた医師の全身を診る態度,内科的疾患への理解は従来より向上しているように感じられます。しかし,2年の研修期間中,9時~5時の就労規定を盾に外科処置中に権利を主張してぴったり5時に帰った者が出現したこと,義務でいやいや回った外科系研修の途中で登校拒否ならぬ脱落医師が何人も出たことは,1病院だけの問題かもしれませんが驚きです。最近,私立のある総合病院の院長と話していた際,やはり昔とはずいぶん違ってしまったなということがありました。その病院で内科の当直医確保のためにアルバイトを募集すると,常に複数の開業医が申し込んでくるとのこと,逆に常勤医を募集したら応募した何人かの医師の最大条件は当直したくないということだったそうです。開業も経営がきびしく,他院で当直料を稼がねばならない時代になったのかもしれません。また当教室の医師が中・高校の耳鼻科の学校検診に行った際,元婦人科医という検診アルバイト専門の医師が同時に来ており,額帯鏡は付けているものの光は当たっておらず,耳鼻科医としては首をかしげざるを得なかったとのこと,確かにフリーター医師は今に始まったことではありませんがやはり違和感をもちます。その他,世の中のジェネリック薬品礼讃など今後,次世代の医師が直面する医療がどのような形になっていくのか,私たち中・高年医師の責任も重いと感じています。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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