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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科79巻8号

2007年07月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

内視鏡下副鼻腔手術における鼻涙管開口部の同定

著者: 太田康

ページ範囲:P.548 - P.550

 鼻内内視鏡の普及に伴い,鼻内法副鼻腔手術時における鼻腔側壁の操作には,より精密性が要求されるようになってきている。術後性上顎囊胞の開放1)または難治性の上顎洞病変の操作において,下鼻道を経由しての操作が必要になる。下鼻道には鼻涙管が開口しており,不用意な操作は鼻涙管の損傷を引き起こす可能性がある。鼻涙管開口部の損傷を防ぐためには,内視鏡下副鼻腔手術時に鼻涙管開口部を同定することが望ましい。鼻涙管開口部の同定法としては,①涙囊・鼻涙管造影の鼻・副鼻腔CT撮影,②手術時に涙点から注入した色素の鼻涙管開口部での内視鏡観察,の2つの方法が考えられる。

Current Article

内耳障害に対する新しい治療法(蛋白治療)―細胞死抑制活性強化因子を用いたアミノ配糖体抗菌薬による耳毒性の抑制

著者: 樫尾明憲 ,   山岨達也 ,   麻生定光 ,   太田成男

ページ範囲:P.551 - P.560

Ⅰ はじめに

 1973年にKerrら1)が細胞死に関する形態学的研究を行い,細胞死をnecrosisとapoptosisに分類した。Necrosisは細胞膜の破綻・細胞内成分の細胞外漏出を特徴とした細胞死で広範囲での炎症反応を伴う。一方apoptosisは,細胞の縮小・分断化を特徴とし,周囲の細胞に貪食されるため炎症の波及は起こらない。細胞内シグナルにより厳密に制御される,いわば『プログラムされた細胞死』である。それゆえ1990年代後半になるまで,apoptosisは器官形成や新陳代謝など生理的細胞死に関与し,病的な細胞死にはnecrosisが中心的な役割を果たすと考えられており,apoptosisが病的細胞死においても重要な役割を果たすという認識はなかった。しかしながら近年,虚血病変や悪性腫瘍などでの細胞死にapoptosisが関与することが示され,生理的な細胞死のみならず,病的な細胞死においても重要な役割を果たすことが注目されるようになってきた2,3)

 内耳においては,1985年にForge4)がアミノ配糖体抗菌薬により障害を受けた外有毛細胞が形態学的にapoptosisをきたしていることを初めて示した。Forgeのグループは1995年にもモルモットにゲンタマイシン全身投与を行った結果,前庭有毛細胞がapoptosisとして特徴的な形態変化を示すことを報告した5)。これ以降,内耳におけるapoptosisの存在が注目されるようになり,アミノ配糖体抗菌薬,白金製剤,そして強大音響曝などの刺激に伴う蝸牛有毛細胞の障害はapoptosisと密接な関与があることが次々に解明されてきている6~12)。現在は活性化酸素(ROS),c-Jun N-terminal kinase(JNK),cytochrome c,Bcl-2 family蛋白,caspase-9,caspase-3などのapoptosis経路の解明に伴い,apoptosisの制御が蝸牛有毛細胞の障害予防に有効ではないかと期待されている。

 われわれは,Bcl-2 family蛋白の1つであるapoptosis抑制蛋白Bcl-xLに着目した。遺伝子工学的技術を用いてBcl-xL蛋白の活性を強化した蛋白FNKを作製した。このFNKをprotein transduction domain(PTD)であるHIVのtat蛋白の一部,PTD蛋白と結合させて細胞内に導入できるようにした。この融合蛋白をあらかじめ投与すると,アミノ配糖体抗菌薬による有毛細胞のapoptosisをin vivoにおいて抑制させることができた。本稿ではアミノ配糖体抗菌薬による蝸牛有毛細胞のapoptosisについて概説し,PTD蛋白による内耳への蛋白導入方法,アミノ配糖体抗菌薬の耳毒性に対するPTD-FNKの障害予防効果について述べる。

原著

伝音難聴の原因となった外耳道神経線維腫症Ⅰ型症例

著者: 菅原一真 ,   下郡博明 ,   奥田剛 ,   橋本誠 ,   竹本剛 ,   広瀬敬信 ,   山下裕司

ページ範囲:P.561 - P.564

Ⅰ.はじめに

 神経線維腫は単発性のものと多発性のものに分類される。また,多発性のものは,神経線維腫症(von Recklinghausen病)として発症することが知られている1)。耳鼻咽喉科領域では,神経線維腫症Ⅱ型が聴神経腫瘍として難聴をきたすことがよく知られている。しかしながら,神経線維腫症Ⅰ型であっても,腫瘤が外耳道に出現すれば難聴をきたしうる。今回われわれは,伝音難聴をきたした神経線維腫症Ⅰ型に対して,外科的手術を行って良好な結果を得たので報告する。

側頭部に発生したデスモイド腫瘍症例

著者: 菅原一真 ,   下郡博明 ,   橋本誠 ,   竹本剛 ,   山下裕司

ページ範囲:P.565 - P.568

Ⅰ.はじめに

 デスモイド腫瘍は10~20歳代の若年層に好発し,女性にやや多い筋膜・筋腱膜より発生する線維性軟部腫瘍である。密に増生した膠原線維と線維芽細胞の集簇像よりなり,異形や異常分裂像は観察されない良性腫瘍である。組織学的に悪性所見は認めないが,周囲の筋線維の長軸方向に浸潤性の発育を示すことから,局所再発が多く治療に難渋する例が多いことで知られる1,2)。今回われわれは,側頭部に発生したデスモイド腫瘍の1症例を経験したので報告する。

内視鏡下に摘出した鼻中隔神経鞘腫の1症例

著者: 足立直子 ,   足立有希 ,   大嶋章裕 ,   牛嶋千久 ,   内田真哉 ,   出島健司 ,   山本敏也

ページ範囲:P.569 - P.572

Ⅰ.はじめに

 鼻副鼻腔腫瘍のなかでも,鼻中隔原発腫瘍は稀である1)。過去に報告された鼻中隔腫瘍の病理診断では良性腫瘍・悪性腫瘍を併せて40種類を越える多様な組織型が報告されており,その鑑別診断は多岐にわたる1)。そのなかで神経鞘腫は比較的稀な組織型で過去に国内7例,海外13例の報告をみるのみである2~8)。今回われわれは偶然発見された鼻中隔神経鞘腫の1例に対し,鼻内内視鏡手術を行う機会を得たので,その臨床経過を若干の文献的考察を加えて報告する。

内視鏡下に摘出した鼻腔神経鞘腫の1症例

著者: 長谷川純 ,   舘田勝 ,   嵯峨井俊 ,   片桐克則 ,   石田英一 ,   浅野重之

ページ範囲:P.573 - P.577

Ⅰ.はじめに

 鼻・副鼻腔には良性・悪性を含めさまざまな腫瘍が発生し,ときには診断や治療に苦慮することがある。そのなかで神経鞘腫は良性腫瘍ではあるが,病理組織診断でも確定診断がつかず複数回の生検が行われることがある。また,摘出術を行う際にも審美的な面や機能障害を防ぐうえで,慎重に術式を選択する必要がある。今回,われわれは生検で鼻ポリープと診断し,内視鏡下で摘出術を施行した後に,摘出標本の病理検査にて神経鞘腫との確定診断を得た症例を経験した。本症例の手術術式および方針について,文献的考察を加えて報告する。

口腔底原発類基底細胞癌の1例

著者: 平位知久 ,   福島典之 ,   小野邦彦 ,   呉奎真 ,   羽嶋正明

ページ範囲:P.579 - P.581

Ⅰ.はじめに

 類基底細胞癌(basaloid squamous cell carcinoma:以下,BSCCと略す)は,基底細胞様の異型細胞の存在を特徴とする扁平上皮癌の稀な亜型である1)。今回,われわれは口腔底に原発した口腔底原発BSCCの1例を経験したので,文献的検討を加えその概要を報告する。

遺伝性甲状腺髄様癌MEN2Bの1例

著者: 井上博之 ,   丹生健一 ,   宮内昭

ページ範囲:P.583 - P.587

Ⅰ.はじめに

 甲状腺髄様癌はC細胞由来の癌であり,カルシトニンとCEAを産生する。この腫瘍は全甲状腺悪性腫瘍の約1.5%と少ない1)が,その約1/3は多発性内分泌腫瘍症(multiple endocrine neoplasia:MEN)2A型や2B型あるいは家族性甲状腺髄様癌の常染色体優性遺伝を有する遺伝性腫瘍であり,その診断や治療には注意を要する1)

 MEN2型として一般によく知られているMEN2Aは甲状腺髄様癌,副腎褐色細胞腫および副甲状腺腺腫や過形成を合併するものである。一方,MEN2Bは甲状腺髄様癌,褐色細胞腫および粘膜神経腫(mucosal neuromatosis)を合併するものであり稀な疾患である。MEN2Bの患者は粘膜神経腫のため口唇や舌が肥厚し,またMarfan様の骨格異常を伴うことが知られており,特徴的な体型と顔貌を呈する2)。粘膜神経腫は生直後ないしは幼少期に口唇,舌縁部,口腔内,眼瞼などに生じることが知られている3)

 今回われわれはMEN2Bで喉頭に粘膜神経腫および喉頭肉芽腫を生じていた症例を経験したので報告する。

頭頸部放射線治療後晩期に発症した進行性嚥下障害に対して桂枝人参湯®が有効であった1例

著者: 三枝英人 ,   中村毅 ,   愛野威一郎 ,   中溝宗永 ,   小町太郎 ,   粉川隆行 ,   松岡智治

ページ範囲:P.589 - P.593

Ⅰ.はじめに

 放射線治療技術の進歩により悪性腫瘍治療後の長期生存例が増加してきている。しかし,一方で放射線治療晩期合併症の報告例も増えてきている。頭頸部領域における放射線治療晩期合併症には,甲状軟骨壊死などの組織壊死1),進行性感音難聴2~4),舌下神経麻痺などの末しょう神経障害2,5,6),放射線誘発癌などの報告がなされている。放射線誘発癌以外は,放射線による末しょう細動脈の破綻が不可逆性に慢性進行することが原因であり,一般に放射線治療後数年,多くは10年前後から発症し,難治性であるとされている6,7)。今回,われわれは頭頸部放射線治療後晩期に発症した進行性嚥下障害に対して漢方製剤である桂枝人参湯®を処方し,嚥下が改善して患者のQOLに貢献できた1例を経験したので報告する。

シリーズ DPCに対応したクリニカルパスの実際

⑰甲状腺良性腫瘍摘出術

著者: 福島啓文 ,   杉谷巌 ,   川端一嘉

ページ範囲:P.599 - P.605

Ⅰ はじめに

 クリニカルパス(以下,パスと略す)とは,平均的な経過をたどる疾患に対し,医師や看護師,薬剤師,栄養士などすべての医療関係者がチーム医療を行うための治療計画表である。パスをもとに検査から入院,退院指導までの治療手順を標準化することにより,漏れのない安全性を重視したチーム医療を行うことが可能となる1,2)

 当科では2000年より甲状腺疾患にパスを導入し,診療を行ってきた。2005年3月の新病院への移転とともに電子カルテが導入され,現在,甲状腺良性腫瘍摘出術に限らず,すべての頭頸部疾患を電子カルテクリニカルパス(以下,電子パスと略す)で運用している。当院で行っている電子パスの運用について解説する。

⑰甲状腺良性腫瘍摘出術

著者: 北野博也 ,   花本美和子

ページ範囲:P.607 - P.612

Ⅰ はじめに

 クリニカルパス(以下,パスと略す)はアメリカにおいてDRG/PPS(diagnosis related group/prospective payment system:診断群別見込み支払い方法)を背景とし,医療の効率化,標準化を目標に開発されたマネージメントツールであるが,その有効性からわが国でも近年多くの医療機関でさまざまな疾患に対して導入が進んでいる。特に2003年から特定機能病院の入院診療においてDPC(diagnosis procedure combination:診断群分類構築)に基づく定額支払い制が導入され,ますます医療の効率化が求められるようになったことが大きく影響している。大学病院などの多病床をもつ医療機関では比較的若い医療従事者が多く,組織が大きく複雑であることからパス導入の利点として,若手医療従事者の教育効果,中堅医師の再教育効果,医療経営改善効果,病院システム改善効果などが期待できる1)一方で,若手医療従事者がマニュアル的となって自分自身で考えなくなってしまう危険性もはらんでおり,指導医の注意・指導が重要である。

 本稿では当科での甲状腺良性腫瘍手術におけるパスを紹介する。

鏡下咡語

島育ちの医療・保健と心―離島医療30年をふりかえって

著者: 大山勝

ページ範囲:P.595 - P.598

Ⅰ.はじめに

 鹿児島で離島医療に携わって30年弱となる。最初の20年間は,鹿児島大学に着任し,教室として地域医療にかかわった時代であり,後の10年弱は大学を定年退官後,大島郡医師会病院を中心に奄美諸島で自ら実地臨床に従事した経験である。大学や都会の病院勤務(都市医療)では味わえない人と自然の出合いや,診療をめぐる貴重な体験を積むことができた。これまでの奄美諸島における実地臨床のなかから,心に残る2,3の体験を振り返り離島過疎地医療の問題点を述べる。

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あとがき

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.618 - P.618

 今年の4月号のあとがきに,耳喉頭頸の英文誌を発行する夢について述べました。そこで英文誌として引用したものは,Acta Oto-laryngologica,Laryngoscope,およびAnnals of Otology Rhinology & Laryngologyでした。そうしたところ,日本にも立派な耳鼻咽喉科の英文誌があるではないかとのご指摘を受けました。確かに,Auris Nasus Larynx(ANL)があります。この雑誌は,当初は国際耳鼻咽喉科振興会(SPIO)が発行していましたが,その後,日本耳鼻咽喉科学会が論文の審査・編集などを行い,Elsevier社から出版されています。編集子もANL誌には相当数の論文を投稿し,掲載されており,この学術誌を無視したものではありません。文章の流れのうえから,ここでは海外の雑誌を引用するのがよいと判断したために,あえてANLを引用しませんでした。このANLも,担当の方々の大変な努力のおかげで,数年前からimpact factor(IF)が与えられました。現在のところ,IFはまだ0.45程度ですが,今後上昇することが期待されています。IFを得るために,編集者は種々の努力をしています。その1つが,original論文とcase reportのページ数を含めた数のバランスです。したがって,4月号で述べたような,症例報告を主体とした耳喉頭頸の英文誌を発行するという編集子の希望は,ANL誌でもかなえられません。むしろ,原著論文主体の雑誌へ向かうことが,この雑誌の本来の姿だと思われます。

 耳喉頭頸の発行元である(株)医学書院は,この5月に新本社ビルに移転しました。それを期に,いくつかの場所に分かれていた部署もそこに集結することになったようです。この本社ビルの新築と移転という機会は,雑誌の新たな展開をスタートさせるには,きわめてよい時期であると思っております。4月号の繰り返しになりますが,新たな英文誌を刊行するために越えなければならないであろう幾多のハードルを乗り越えて,一刻も早く耳喉頭頸の英文誌発刊を実現したいものです。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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