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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科80巻10号

2008年09月発行

雑誌目次

特集 耳鼻咽喉科専門研修をはじめる医師へ―疾患とその処方例

1.抗アレルギー薬の処方例

著者: 榎本雅夫 ,   竹内裕美

ページ範囲:P.683 - P.689

Ⅰ.はじめに

 鼻アレルギー診療ガイドライン1)によれば,発作性反復性のくしゃみ,水性鼻汁,鼻閉を3主徴とするアレルギー性鼻炎の有病率は,通年性アレルギー性鼻炎18.7%,スギ花粉症16.2%,スギ以外の花粉症10.9%とされ,頻度の高い疾患である。本疾患の増加は著しく,特にスギ花粉症では顕著であり,耳鼻咽喉科の日常の診療に際し,頻回に遭遇する疾患である。アレルギー性鼻炎は原因抗原,好発時期などから分類されるが,通年性アレルギー性鼻炎と季節性アレルギー性鼻炎に大別される。後者で花粉を抗原とする場合を特に花粉症という。この分類は,診断,治療においても重要である。

2.抗菌薬の処方例

著者: 星野志織 ,   飯野ゆき子

ページ範囲:P.691 - P.698

Ⅰ.はじめに

 耳鼻咽喉科は感染症に直面する頻度の高い診療科の1つであり,各感染症について症状と所見を把握し,重症度を判断して的確な治療を行うことが治療に際して必要不可欠である。また近年の耐性菌出現の問題や小児患者数の増加と重症化,反復傾向などを考えても感染症に対する適正な抗菌薬治療の徹底が望まれている。本稿では耳鼻咽喉科の臨床上,比較的高頻度に遭遇する主な感染症の抗菌薬治療について解説する。

3.抗癌薬の処方例

著者: 藤井正人

ページ範囲:P.701 - P.708

Ⅰ.はじめに

 頭頸部癌の治療は手術が中心に行われているが,進行した場合には放射線治療や化学療法を組み合わせた集学的治療が行われる。さらに近年では喉頭や咽頭を温存して発声や嚥下機能をできるだけ温存する試みが積極的に行われ,進行癌に対する化学療法の重要性が増している1)

 頭頸部癌に対する化学療法は従来からシスプラチン(CDDP)を中心にさまざまな併用療法が行われている。なかでもCDDPと5-FUの併用療法はKishら2)の報告以来,現在では最も多く用いられている。また,1980年頃より頭頸部癌に対して,すべての治療に先立って化学療法を行うネオアジュバント化学療法(neoadjuvant chemotherapy:NAC)が注目されてさまざまな報告がなされてきた3)。NACとしてのCDDP+5-FUの奏効率は70~80%との報告が多く,未治療例に対する化学療法として高い奏効率が注目された。そこで,NACの有用性を証明するために欧米においてさまざまな大規模な比較試験が行われた。しかし良好な奏効率にもかかわらず,NACを施行することによって生存率の向上や遠隔転移の抑制は得られなかった4)。そのためNACに対しては否定的な意見が多くを占めるようになり,現在では化学療法は放射線療法との同時併用において行われるようになっている。

 しかし一方では,進行した頭頸部癌に対してNACが奏効した症例は予後が良いことが知られている。特にNACによって臨床的に完全奏効(complete response:CR)が得られた症例の予後は良好であり,そのような症例は放射線療法を追加することによって拡大手術を回避でき,その結果,喉頭などの臓器が温存されることが注目されるようになってきた5)。現在ではそのような考えから,NACを行ってその効果から臓器機能温存治療が可能か否かを判断するプロトコールが考えられ,特に喉頭の機能温存に対する大規模な比較試験が行われている。一方ではNACで使用する奏効率の高い多剤併用療法の開発が求められており,特にCR率の向上が重要と考えられている。CDDPと5-FUの併用療法は奏効率,すなわちCRとpartial response(PR)を合わせた割合は高いが,CR率は10~20%の報告が多く必ずしも良好とは考えられない6)

 一方,近年,タキサン系抗癌薬の頭頸部癌に対する効果が注目されている。タキサン系抗癌薬として現在,タキソールとドセタキセル(DOC)があるが,わが国ではタキソールはいまだ頭頸部癌に対して保険適用外である。

 DOCはわが国で2000年より頭頸部癌に保険適用が認められ,頭頸部癌に高い効果を示し,特にCDDPとの併用効果が認められている。さらにDOCとCDDP,5-FUの3剤併用は高い奏効率を示し,CR率も従来のCDDPと5-FUの2剤併用と比較して高いことがColevasら7)によって報告され,注目されるようになった。しかしCDDPと5-FUにDOCを加えることにより副作用も増加すると考えられる。

 頭頸部癌の化学療法は対象疾患や病期によりさまざまな目的があり,施行基準と除外基準をふまえ有効かつ安全に施行すべきである(表1,2)。

4.耳鼻咽喉科疾患の漢方治療

著者: 丹波さ織 ,   佐藤弘

ページ範囲:P.709 - P.718

Ⅰ.緒言

 漢方薬が保険適用となり各科領域で漢方が頻用されつつある。耳鼻咽喉科でも手術や近代医学的治療で治癒し得ない多くの疾患で,漢方が使われるようになった。経験に基づく処方だけではなく,多くの漢方薬で薬効のエビデンスが証明されている1)。本稿では耳鼻咽喉科領域での漢方治療について述べる。

目でみる耳鼻咽喉科

巨大な扁桃結石の1例

著者: 李佳奈 ,   武木田誠一 ,   牧野邦彦

ページ範囲:P.670 - P.671

Ⅰ.はじめに

 扁桃結石は摘出口蓋扁桃の2.2~8%に認められる1,2)といわれているが,そのほとんどが微小な結石である。今回われわれは巨大な扁桃結石の症例を経験したのでここに報告する。

Current Article

小児中耳炎からみた抗菌薬の適正使用と課題

著者: 林達哉

ページ範囲:P.673 - P.681

Ⅰ はじめに

 20年ほど前には,小児急性中耳炎はどんな抗菌薬を処方しても治癒する疾患であった。当然のことながら,この疾患に対する学問的な関心も低く,特別な合併症を引き起こさない限り学会発表に取り上げられることも稀であった。しかし,1990年代の半ば以降,入院を要するような難治性の急性中耳炎患者が増加し,それとともに学会においても重要なテーマの1つとして取り上げられる機会が増加した。この傾向は現在に至るまで続いている。

 小児急性中耳炎の難治化にかかわる最も大きな因子は,中耳炎起炎菌の薬剤耐性化とこの耐性菌の急速な拡散である1,2)。中耳はその解剖学的特徴により抗菌薬を内服しても十分な組織内濃度が得られにくい。これが,他の市中感染症に先駆けて耐性菌の蔓延が疾患の難治化につながった原因と考えられる。3歳までに70%の子どもが罹患するといわれる急性中耳炎を通して,耐性菌時代の抗菌薬の適正使用と課題に関して考えてみたい。

原著

頭頸部癌に対するcetuximabの使用経験

著者: 小柏靖直 ,   山内宏一 ,   丸山毅 ,   松田雄大 ,   永藤裕 ,   大山和一郎 ,   廣島屋孝 ,   甲能直幸

ページ範囲:P.725 - P.728

Ⅰ.はじめに

 近年,乳癌に対するtrastuzumabや悪性リンパ腫に対するrituximabなどの分子標的治療が抗癌薬治療の標準治療として取り入れられるようになり,その予後が著しく改善している1,2)。頭頸部領域においても海外ではEGF-receptor阻害剤であるcetuximabの臨床試験が盛んに行われており,放射線との併用においてはevidence level Ⅰbに該当するrandomized controlled studyが行われ3)るなど進行癌に対する効果が広く認められている。一方,国内では大腸癌に対する治験は既に行われている4)ものの頭頸部癌に対してはこれから開始されようとしている段階である。今回われわれは,わが国で初めて頭頸部癌の進行再発例に対して本剤を個人輸入して使用したので,その使用経験について報告する。

咽後膿瘍を疑わせた川崎病の1例

著者: 深谷和正 ,   池上奈歩 ,   上牧務 ,   美甘真史

ページ範囲:P.729 - P.732

Ⅰ.はじめに

 川崎病は4歳以下の乳幼児に好発する原因不明の血管炎であり,血管炎に起因すると思われるさまざまな臨床症状および所見を呈することが知られている1)。最も重要な合併症として知られる冠動脈瘤の形成は予後にかかわるため,迅速な診断および治療を必要とする。

 今回,われわれは疼痛を伴った左頸部腫脹を主訴とした咽後蜂窩織炎を合併した川崎病の1例を経験した。咽後膿瘍との鑑別が画像上困難であり,診断・治療に苦慮した症例であったため,若干の文献的考察を加えて報告する。

声帯に発生した悪性線維性組織球腫の1例

著者: 川上美由紀 ,   佐伯忠彦 ,   谷口昌史 ,   平野博嗣

ページ範囲:P.733 - P.736

Ⅰ.はじめに

 悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histiocytoma:以下,MFHと略す)は軟部組織の悪性腫瘍であるが,頭頸部領域での発生は3~10%と少ない1,2)。しかもそのなかでは副鼻腔例が最も多く約30%を占め,喉頭に原発するものは10~15%と報告されている2)。今回われわれは右声帯に発生したMFHの1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

耳下腺,眼瞼,喉頭蓋に病変を生じた木村病の1症例

著者: 神谷透 ,   瀧正勝 ,   松井雅裕 ,   吉本公一郎 ,   池淵嘉一郎 ,   中野宏 ,   島田剛敏 ,   中井茂 ,   久育男

ページ範囲:P.737 - P.741

Ⅰ.はじめに

 木村病は青年男性の耳下腺をはじめとする頸部に好発し,無痛性の腫瘤を形成する軟部組織肉芽腫で,血中好酸球増加,血清IgE増加を特徴とする1)。病理学的にはリンパ濾胞様構造の増生と好酸球浸潤が認められ,何らかのアレルギーの関与が考えられている1)。今回われわれは耳下腺と眼瞼に加え,喉頭蓋にも病変を認めたきわめて稀な木村病の1例を経験したので報告する。

鏡下咡語

平衡リハビリテーション講演会を開催して

著者: 関谷透

ページ範囲:P.721 - P.723

 ノーベル賞を受賞されたRobert Barany教授を顕彰し,結成されたBarany Society(Sweden)(現会長,Matti Anniko教授)の第25回学術集会が今年,京都大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科学,伊藤寿一教授を学会会長として,京都国際会議場で開催された。

 日本でのBarany学会の開催に先立ち,今回は特にTeaching Sessionが設定された(目的は前庭研究の基礎,ならびに臨床応用のための基本的知識を若い科学者,臨床医に提供することである)。

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あとがき

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.748 - P.748

 『耳鼻咽喉科専門研修を始める医師へ』の特集がスタートして,少しずつ数も増えてきました。本号では疾患とその処方例として,耳鼻咽喉科医が投与する代表的な内容を4人の先生にお願いしました。耳鼻咽喉科医になったばかりの先生だけでなく,ベテランの先生方にとりましても知識の整理と同時に有用なものとなることを期待しています。今後も役に立つテーマを選択して,新耳鼻咽喉科医の先生方の血となり肉となるような特集にしたいと思います。

 最近のテレビのニュースや特集をみていますと,地方の病院の医師不足の現状に関するものや,病院閉鎖の実態が多く報道されています。この7月には,千葉の銚子市立病院が入院患者のいるまま9月閉鎖を発表したことがニュースとなっていました。医師が続けて辞めたことから,市自体がつぶれるほどの累積赤字となったためとしていました。同様のことは全国にあり,今後の医療崩壊を食い止める方策が模索されていますが,かなり深刻な状態は続いています。患者,医師,医療従事者の協力で改善してきた病院も紹介され,番組の最後には希望をもたせる形で締めくくっていますが,全病院に期待するのも酷な話でした。売り手市場の研修医の勧誘のため各病院,各科の接待費は以前に比べて跳ね上がっており,疑問に思うと感じる先生も多いことでしょう。医学部の定員を増やすとする話も上がっていますが,入学して6年+2年+専門科入局とすると,医師として活躍できるまでには10年以上かかり間に合わない気もします。私自身が大学病院に席を置いているからかもしれませんが,大学のいわゆる医局(医局と呼ばない大学もありますが)に入局して,その後,大学に残るか,あるいは病院勤めや開業するということを決める形態は,現在のバラバラになりつつある状態に比較してむしろ問題はなかったように思えます。このような状態に厚生労働省はどのような手を打ってくるのでしょうか? さらに学校におけるモンスターペアレントと同様に,病院にはモンスターペイシャントの増加があり問題は山積しています。医師である私の後輩が最近執拗に言い掛かりをつけたモンスターペイシャントを逆に訴え,見事勝利したことに思わず拍手を送りました。

 将来に対する不透明な部分も多くありますが,勉強しておくこと,患者さんやコメディカルとは良好な関係を築いておくこと,各診療所,病院と連絡を密にしていくことが重要であることに変わりはなく,あくまでも前向きにいることが大切でないかと考えています。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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