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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科80巻11号

2008年10月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

中咽頭カポジ肉腫の1例

著者: 二村吉継 ,   川上理郎 ,   長谷川恵子 ,   伊藤加奈子 ,   矢嶋敬史郎 ,   白阪琢磨 ,   竹中洋

ページ範囲:P.758 - P.760

Ⅰ.はじめに

 カポジ肉腫(Kaposi's sarcoma)は後天性免疫不全症候群(AIDS)患者に合併する代表的な疾患で,多彩な皮膚病変や粘膜病変を呈する。今回われわれは,口腔内の病変よりカポジ肉腫と診断され,HIV感染が判明した症例を経験したので報告する。

Current Article

聴性定常反応―臨床応用の現状と将来

著者: 青柳優

ページ範囲:P.763 - P.773

Ⅰ はじめに

 聴性定常反応(auditory steady-state response:ASSR)は,繰り返し頻度の高い刺激に対する聴性誘発反応である。誘発反応では,反応波形の出現する時間より長い間隔で刺激を呈示するのが普通であるが,反応波形の主たる成分の周波数に一致する頻度で刺激音を呈示すると,各反応波形が干渉し合って一定振幅の正弦波状の反応波形となる(図1b)。臨床的には,Galambosら1)が40Hz event related potential(40Hz ERP)として報告した(ERPという用語は感覚刺激に伴う心理過程や精神的負荷により惹起される非常に長い潜時を有する誘発電位に対して用いられることから,ASSRと呼ぶのが正しい)のが嚆矢である。

 近年,新生児聴覚スクリーニングが広く行われるようになり,その後の精密聴力検査において聴性脳幹反応(ABR)とともにASSRの用いられる機会が増えている。ASSRの他覚的聴力検査法としての特徴は,反応を自動判定できること,周波数ごとの聴力レベルを推定できること,特に低音域の聴力レベルを比較的正確に推定できることであるが,現在,市販されているASSRの測定機器では,反応波形そのものは表示されないので,基本的な知識なしに使用した場合,思わぬ落とし穴にはまることもあるものと危惧される。本稿では,ASSRの臨床応用の現状と使用上の注意点,さらには将来臨床応用が期待される検査技法について述べる。

原著

めまい患者の動向―2,281例の経験から

著者: 野末道彦

ページ範囲:P.775 - P.779

Ⅰ.はじめに

 めまいを訴える患者は複雑な社会情勢を反映して,診療所,病院を問わず増える傾向にある。そのため,めまい患者の統計的観察という論文1~3)は数多くみられる。その背景には第1に高齢者が多くなったこと,第2にメディアによる健康・病気・長寿などに関する報道が増え,めまいについても重大な病気を心配して不眠やストレスを訴える患者が多くなったこと,第3に画像診断をはじめとする医療機器の長足の進歩があり,患者も詳細な検査を希望する傾向が強くなったことなどが挙げられる。したがって,めまい患者についても,広く心身医学的面から考える全人的医療が重要になってきている。このような意味から筆者が開業医として経験しためまい患者の動向についてまとめたので報告する。

錐体部MRSA感染へのテトラサイクリンコーンの効果

著者: 牛来茂樹 ,   工藤貴之 ,   八幡湖 ,   鈴木淳 ,   渡邉幸二郎 ,   千葉敏彦 ,   矢野寿一 ,   川瀬哲明 ,   小林俊光

ページ範囲:P.781 - P.784

Ⅰ.はじめに

 真珠腫性中耳炎は耳鼻咽喉科の日常診療でしばしば遭遇する病態であり,その一部は錐体部に進展する場合がある。今回,術前から耳漏培養でMRSAが認められた錐体部真珠腫術後耳に対して,塩酸オキシテトラサイクリン歯科用製剤を用いた治療を行い,良好な結果を得たので報告する。

異なる囊胞成分が検出された多発性・多房性術後性上顎囊胞の1例

著者: 金川英寿 ,   菅原一真 ,   綿貫浩一 ,   橋本誠 ,   御厨剛史 ,   山下裕司

ページ範囲:P.785 - P.787

Ⅰ.はじめに

 われわれは今回,異なる囊胞の性状を示した多発性・多房性術後性上顎囊胞の1例を経験した。術前CT・MRIで明らかに異なる囊胞成分や囊胞の数が予想され,実際の手術所見も術前画像診断と矛盾するものではなかった。本症例について囊胞と真菌症の画像診断的な考察を加えて報告する。

急速に増大して治療を要した乳児喉頭囊胞の1症例

著者: 金谷佳織 ,   二藤隆春 ,   牛尾宗貴 ,   横山正人

ページ範囲:P.789 - P.792

Ⅰ.はじめに

 成人の喉頭囊胞は耳鼻咽喉科外来診療においてしばしば目にする疾患であり,無症状で経過する場合が多いため,臨床的にあまり注目されていない。一方,新生児ならびに乳児における喉頭囊胞は頻度としては稀であるが1),時に呼吸困難や嚥下障害をきたし,死に至る可能性もある。これは,成人と比較して新生児,乳児では気道が狭いこと,喉頭組織が脆弱であり2),囊胞により圧排されやすいことなどが原因であると考えられる。Suehsら3)は過去の報告例のうち約半数は窒息死後の剖検によって診断されたと述べており,喉頭囊胞は乳幼児の突然死の原因としても看過できない疾患である。

 今回われわれは喉頭脆弱症に急激な増大をきたす喉頭囊胞を合併した生後2か月の症例の喉頭囊胞摘出術を経験したので,特に手術適応および手術時期の決定に関して考察を加えて報告する。

嚥下障害および呼吸苦をきたしたForestier病の1例

著者: 深谷和正 ,   佐藤靖夫 ,   荒木康智 ,   本村朋子

ページ範囲:P.793 - P.796

Ⅰ.はじめに

 Forestier病(強直性脊椎骨増殖症)は椎体前縁の異常骨化により椎体の強直,変形をきたす疾患であり,整形外科領域では比較的よく知られている疾患である1)。Forestier病の一般的な症状は脊柱の可動制限,背部痛などであるが,稀に骨増殖が進み,多彩な症状が出現する場合がある。今回,われわれは嚥下障害,呼吸苦を呈したForestier病の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

耳下腺唾石症に対して体外衝撃波結石破砕術が奏効した1症例

著者: 前田恵理 ,   中原はるか ,   坂田阿希 ,   能勢頼人 ,   竹島雄太 ,   田島惇 ,   室伏利久

ページ範囲:P.797 - P.800

Ⅰ.はじめに

 耳下腺唾石の治療は,マッサージによる唾液分泌促進などの保存的治療や,場合によっては外切開による手術治療が行われている。しかし,良性疾患であるため,顔面神経損傷や唾液瘻,Frey症候群などの合併症の可能性を考慮すると,外切開による手術に踏み切るのが困難な場合もある。

 今回われわれは,若年女性の耳下腺唾石症に対し,比較的新しい手技である体外衝撃波結石破砕術(extracorporeal shock wave lithotripsy:ESWL)を施行し,良好な結果を得たので,文献的考察とともに報告する。

胸鎖乳突筋に発生した増殖性筋炎の1例

著者: 松本宗一 ,   佐伯忠彦 ,   大河内喜久 ,   榊優 ,   平野博嗣

ページ範囲:P.801 - P.804

Ⅰ.はじめに

 増殖性筋炎は横紋筋内に生じる良性の線維性増殖性疾患であるが,頭頸部領域での発生は比較的稀である1,2)。臨床経過上では比較的急速に腫瘤を形成するため,悪性腫瘍との鑑別が重要となる。今回われわれは左胸鎖乳突筋に発生した増殖性筋炎の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

当科における副咽頭間隙腫瘍の検討

著者: 三井泰 ,   竹内万彦 ,   中村哲 ,   大津和弥 ,   有馬忍 ,   湯田厚司 ,   間島雄一

ページ範囲:P.805 - P.808

Ⅰ.はじめに

 副咽頭間隙腫瘍は頭頸部腫瘍の0.5%と稀であり,摘出が容易でなく,術後合併症をきたすことがあるとされている1)。今回,過去14年間に当科で経験した副咽頭間隙腫瘍について臨床的に検討したので報告する。

手術・手技

副鼻腔粘液囊胞に対する涙道内視鏡を用いた手術治療

著者: 姜洪仁 ,   峯田周幸 ,   嘉鳥信忠

ページ範囲:P.809 - P.811

Ⅰ.はじめに

 副鼻腔粘液囊胞は一般的に耳鼻咽喉科医による治療の対象となる疾患であるが,眼窩内に及んだ場合,その部位によっては涙道閉塞症状や眼球偏位,眼球運動障害などの症状をきたし,眼科的治療の対象ともなる。特に篩骨洞に発症した粘液囊胞の場合,その存在部位によっては,手術の際に鼻涙管を損傷する危険があり,合併症として術後に涙道閉塞による流涙などの症状をきたすことがある。今回われわれは副鼻腔粘液囊胞のうち,涙道閉塞症状を主訴に眼科を受診した症例に対して,涙道内視鏡を用いて鼻涙管の位置を確認しながら手術を行い,良好な結果を得たので報告する。

鏡下咡語

湾頭のライオン―翻訳・誤訳談義

著者: 廣瀬肇

ページ範囲:P.813 - P.815

 つい先日,近刊の音声訓練の本を日本語に訳そうとしている若い人から,“ここは大胆な型で書いておいて後から解説する”というところがどうもよくわからない,と相談があった。そこで,原文をみると“bold type”となっており,要するに“太字”で記載しておいて,その部分を後で解説するということであった。そのときには,パソコンでワードのツールバーに,太字変換に使うBというマークがあるだろうと説明して納得させたが,見慣れない表現や単語をいきなり辞書で引くと,こういうことも起こると思われる。

 ありふれた単語でも思い違いでひどい目にあうことがある。この手の話で有名なのは,明治時代の原抱一庵の誤訳である。彼は翻訳者として当時かなり名声があったが,あるとき“lion at bay”を“湾頭に咆哮するライオン”と訳した。しかし,後になってこれが“bay”の意味の取り違えで,“追い詰められたライオン”とすべきであったと指摘されておおいに恥じ,遂に自殺したという。こうなると翻訳も命がけである(図1)。

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あとがき

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.822 - P.822

 8月の最後の週に中国へ行ってきました。今まで学会などで誘いはあったのですが,何となく足を踏み入れることはありませんでした。今回は,上海とそこから約200キロ離れた杭州を訪問しました。上海は2,000万人の人口を抱えているとのことで,中心部に100階建ての森ビルがそびえて立っていました。ソウルと異なり,看板などが漢字で書かれているので,最近の略字を除けば意味がわかり,初めての都市であるにもかかわらず,違和感はむしろありませんでした。杭州の人口も850万人の大都市だそうで,ここも上海と同じく新しい建物があちらこちらで建っていました。大変な勢いを感じました。上海も杭州も成田から3時間弱の飛行で行ける距離で,言葉は違っても,顔も字もそれほど違いがないので,つい日本人と同じような感覚で話をしてしまいます(もちろん通訳を介してですが)。ちなみに,杭州市にはいわゆる富裕層が多く住んでいるそうです。しかし,実際には日本人と中国人では,その思考の基になる背景は全く異なることに注意を払わなくてはなりません。われわれが外国人と話をするときには,それぞれの背景を考慮しながら話をするわけですが,その程度の考慮ではなく,もっと慎重な考慮が必要であることを感じました。

 杭州の病院を案内してもらったとき,外来の壁には○○主任医師(教授など)は○○元,○○副主任医師は○○元,というように診察料が明示されています。それなりの医師に診てもらいたいなら,それなりのお金を出しなさいというわけです。たとえれば前述のような背景が常識である人と,日本のような環境で育った人が話をすることになるわけですから,当然のこととして,話にも食い違いが出てくるでしょう。そこで,話が食い違っているという認識があれば問題ないのですが,その認識がない場合にはとんでもないことになるのは想像に難くないと思います。

 本誌では,そのような食い違いのある論文はみられません。しかし,稀に思考の背景が編集子とは異なるのではないかと思われるような投稿論文を査読することがあります。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医同士ですので,そのようなことがないような論文の投稿をよろしくお願いします。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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