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文献詳細

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科80巻11号

2008年10月発行

鏡下咡語

湾頭のライオン―翻訳・誤訳談義

著者: 廣瀬肇1

所属機関: 1東京大学

ページ範囲:P.813 - P.815

文献概要

 つい先日,近刊の音声訓練の本を日本語に訳そうとしている若い人から,“ここは大胆な型で書いておいて後から解説する”というところがどうもよくわからない,と相談があった。そこで,原文をみると“bold type”となっており,要するに“太字”で記載しておいて,その部分を後で解説するということであった。そのときには,パソコンでワードのツールバーに,太字変換に使うBというマークがあるだろうと説明して納得させたが,見慣れない表現や単語をいきなり辞書で引くと,こういうことも起こると思われる。

 ありふれた単語でも思い違いでひどい目にあうことがある。この手の話で有名なのは,明治時代の原抱一庵の誤訳である。彼は翻訳者として当時かなり名声があったが,あるとき“lion at bay”を“湾頭に咆哮するライオン”と訳した。しかし,後になってこれが“bay”の意味の取り違えで,“追い詰められたライオン”とすべきであったと指摘されておおいに恥じ,遂に自殺したという。こうなると翻訳も命がけである(図1)。

参考文献

1)中原道喜:誤訳の構造.聖文新社,東京,2003
2)中村保男:名訳と誤訳.講談社現代新書,講談社,東京,1989
3)グロータースWA,柴田 武(訳):誤訳.三省堂選書65,三省堂,東京,1979
4)別宮貞徳:誤訳 迷訳 欠陥翻訳.ちくま学芸文庫,筑摩書房,東京,1996
5)Arnold GE:Physiology and pathology of the cricothyroid muscle. Laryngoscope 71:687-694, 1961
6)鳥飼玖美子:歴史をかえた誤訳.新潮文庫,新潮社,東京,2004

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1316

印刷版ISSN:0914-3491

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