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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科80巻12号

2008年11月発行

雑誌目次

特集 耳鼻咽喉科とチーム医療の実践(1)小児難聴児への対応

1.小児難聴児への対応―岡山県における連携の実際

著者: 片岡祐子 ,   西﨑和則

ページ範囲:P.839 - P.843

Ⅰ.はじめに

 わが国で新生児聴覚スクリーニング検査がモデル事業として開始されて,8年が経過しようとしている。スクリーニングの普及により,難聴児の早期発見が次第に浸透しつつあり,厚生労働省の班研究では,既に難聴幼児通園施設や聾学校に通う子どもたちの約半数が新生児聴覚スクリーニングで発見されていると報告されている。しかしながら,スクリーニング以後のロードマップが不十分であるがために,確定診断や療育への移行が早期に行われないケースもみられ,わが国における小児難聴児への対応は地域差が非常に大きいのが現状である。

 本稿では,岡山県で行っている新生児聴覚スクリーニング検査から確定診断における地域との連携,また療育開始後の療育・教育機関と医療の連携を中心に概説したい。

2.小児難聴児への対応―小児人工内耳におけるチーム医療

著者: 赤松裕介 ,   尾形エリカ ,   坂井有紀 ,   樫尾明憲 ,   伊藤健 ,   鈴木光也 ,   山岨達也

ページ範囲:P.845 - P.849

Ⅰ.はじめに

 現在,新生児聴覚スクリーニング(newborn hearing screening:NHS)を受ける児は全国で6割程度と考えられる1)。NHSの効果や,難聴の早期発見後の療育方法などについては,常に種々の議論があるものと思われる。しかし,スクリーニング機器が現実に稼動している今日において,難聴の診断を早期に,適切に行い,医学的介入や療育の要否を判断することが日々の臨床に求められていることに異論はないであろう。スクリーニング以外の現場で難聴が疑われ,来院する児に関しても同様である。精密検査機関では,聴覚障害の重症度とそれがもたらす困難を適切に診断するために,複数の職種がそれぞれの専門性を発揮しながら緊密な連携をとっていくことが望まれる。

 本稿では,当院で日常的に行われている診療のうち小児難聴,特に小児人工内耳に対するチーム医療について述べる。

3.小児難聴児への対応―難聴遺伝子診療外来,人工内耳センター,難聴児支援センターにおけるチーム医療

著者: 宇佐美真一

ページ範囲:P.851 - P.858

Ⅰ.はじめに

 難聴,特に内耳が障害される感音難聴は従来原因不明で治療法もなかったが,最近の医学の飛躍的な進歩により,遺伝子レベルで原因が次第に明らかになるとともに,聴覚検査機器の進歩により幼小児期から詳細な聴力の評価ができるようになってきている。また治療面では人工内耳の登場によって高度難聴児にも聴覚活用の道が開け,難聴治療の大きなブレイクスルーになっている。さらにデジタル補聴器をはじめとする補聴器の進歩にも目を見張るものがある。

 それらの診断,治療の進歩を難聴児に還元するためには『病院内』の医療チーム作り(耳鼻咽喉科医,小児科医,臨床遺伝専門医,看護師,言語聴覚士,臨床検査技師など)が重要である。また小児難聴は医療機関内の診断および治療(介入)だけでは完結しないところに大きな特徴と問題点がある。補聴器,人工内耳により得られた聴覚を有効に活用して言語の発達を促すためにはハビリテーション,教育環境,またそれらを支える福祉行政が重要になる。医療,教育,行政は,従来ほとんど独立しており,あまり連携が取られていなかったが,難聴児を取り巻く医療が劇的に変わってきている現在,新しい医療に対応した『病院外』のチーム作り(行政担当者,ろう学校教師,県医師会,保健師など)も重要になってきている。われわれは新生児聴覚スクリーニング,診断から治療,その後の(リ)ハビリテーションまでを一連のシステムとして考え,難聴児を取り巻く環境整備に努めている(図1)。本稿ではそれら一連の流れにおける信州大学医学部附属病院および長野県のチーム作りの取り組みに関して紹介する。

4.小児難聴児への対応―小学校難聴児の実態と支援

著者: 牛迫泰明 ,   東野哲也

ページ範囲:P.859 - P.863

Ⅰ.はじめに

 難聴児支援の目的は,難聴による言語,コミュニケーション,社会性の発達の遅れを最小限にすることであるが,個々に公平に一貫して支援が行われるのは難しい。障害や環境の違いもあるが,いまだに医療や療育・教育機関において地域および施設の間で格差があるからである。この点では地方のほうが恵まれていることもある。施設数が少ないために,難聴児が分散せず,結果的に一元的支援が行いやすいからである。宮崎県では難聴精査と支援を兼ね備えた施設は大学病院耳鼻咽喉科だけであり,しかも県下の国立,県立病院はすべて大学の関連病院なので紹介ルートが確立しており,したがって難聴児のほとんどが大学病院を受診する。このような環境下で,われわれは県下のほとんどの難聴児にかかわれる施設の役割として,すべての難聴児に対して,乳幼児期から社会人として自立するまで連続的に公平に支援できるシステム作りを目標に難聴児への対応を行ってきた。

 現在までのところ,難聴児支援システムの一環として難聴児ファイリングシステムが完成し,過去17年間に当科を受診した難聴児の全聴覚検査データが電子カルテと連動して随時希望する条件で検索できるようになっている。

 本稿では,本システムを用いて作成した宮崎県における小学校在籍難聴児の在籍状況と難聴の実態を示し,乳幼児期に比して遅れている就学後の難聴児への対応の現況と展望について述べる。

目でみる耳鼻咽喉科

口蓋垂裏面に生じた扁平上皮癌の1例

著者: 横島一彦 ,   山口智 ,   滝沢竜太 ,   杉崎一樹 ,   稲井俊太 ,   酒主敦子 ,   中溝宗永 ,   八木聰明

ページ範囲:P.828 - P.830

Ⅰ.はじめに

 中咽頭癌の多くは側壁,前壁由来であり,口蓋垂や軟口蓋正中部に発生する癌は稀である。今回われわれの経験を供覧し,同部に生じた小さな腫瘍への対応を考えてみたい。

Current Article

自己血清点耳液を用いた鼓膜穿孔閉鎖術

著者: 欠畑誠治 ,   廣瀬由紀 ,   新川秀一

ページ範囲:P.832 - P.837

Ⅰ はじめに

 鼓膜穿孔の閉鎖は組織再生の過程である。近年,病気や損傷を受けた組織や器官を修復するための組織工学はめざましい進歩を遂げている。組織や器官の再生のためには細胞,足場,そして増殖因子の三要素の操作が必要である。さらに,三要素に加えて血流の供給があれば組織再生は得られるとされている。鼓膜穿孔の閉鎖過程は,失った組織を体の中の『その場所で』再生させるin situ tissue engineeringの過程といえる。

 これまで行われてきた鼓膜形成術は,ピックなどで穿孔縁を新鮮化することにより細胞を供給できる状態とし,側頭筋膜や軟骨膜などの移植片を足場として用いてきたが,通常外因性の増殖因子は用いられなかった1)。これに対して,外来で行われてきた鼓膜穿孔閉鎖法は,穿孔縁を化学的に刺激した後に,紙,綿花やプラスチックのパッチを足場として用いてきた。この方法は主に急性・亜急性の外傷性鼓膜穿孔に対して行われてきた。一方,非外傷性鼓膜穿孔に対するペーパーパッチを用いた方法の穿孔閉鎖率は,30%以下の報告が多い2,3)

 近年,眼科領域でdry eyeや角膜上皮欠損の治療に自己血清点眼療法(autologous serum ear drops therapy:ASET)が行われており,良好な成績が報告されている4,5)。血清にはfibronectin,transforming growth factor-β(TGF-β),epithelial growth factor(EGF)などの細胞増殖因子が含まれており,これらはin vitroin vivoで種々の組織の増殖を調節し,創傷治癒効果を引き起こすことが知られている6,7)。また,自己血清はnon-allergicで安全である。抗菌薬の点耳薬と混合したり,小分けにして冷凍保存する使用法が試みられている。

 当科では,外科的介入が不要で簡便な処置により治療が可能な鼓膜穿孔閉鎖法である,自己血清とキチン膜を併用したASETを行っている8)。ASETは穿孔縁の十分な化学的処置により細胞を供給し,足場としてキチン膜を穿孔縁上に留置し,自己血清点耳により持続的に細胞増殖因子が供給をはかる,in situ tissue engineeringの概念に基づいた方法である(図1)。

 本稿では,ASETの方法,適応について述べる。

シリーズ 専門医試験への対応

―1.難聴を主訴とする疾患―1)先天性真珠腫(難聴と顔面神経麻痺)

著者: 小島博己

ページ範囲:P.865 - P.869

Ⅰ はじめに

 先天性真珠腫は3~5歳頃に発見されることが多いが,最近の光学器械や画像診断の進歩により1~2歳で診断される例も増えてきている。

 本稿ではその特徴や治療上の注意点などを中心に述べる。

原著

神経線維腫症1型に合併した内頸静脈拡張病変の1例

著者: 桂弘和 ,   小笠原寛

ページ範囲:P.875 - P.878

Ⅰ.はじめに

 神経線維腫症1型(NF1)は皮膚をはじめ,神経系,眼,骨などのさまざまな病変を生ずる常染色体優性遺伝疾患であるが,血管病変など中胚葉系の異常を合併することもある1,2)。今回われわれは,内頸静脈に発生した静脈拡張病変に対して手術・加療を行った1例を経験したので報告する。

Maxillary swing approachにより摘出した上咽頭粘表皮癌の1例

著者: 小津千佳 ,   横島一彦 ,   稲井俊太 ,   酒主敦子 ,   中溝宗永

ページ範囲:P.879 - P.883

Ⅰ.はじめに

 上咽頭癌では大多数の症例の組織型が放射線感受性の高い扁平上皮癌であるため,治療の主体は放射線療法で,近年は化学療法も併用される1,2)。一方,腺系癌は上咽頭癌のうち0.6%程度で少ない3)。組織型としては小唾液腺由来の癌が主で,一般に放射線感受性が低いと考えられるものの,手術が行われることは少なかった4,5)。しかし,画像診断や手術手技の進歩によって,1980年代から切除術が優先されるようになってきた5~7)

 上咽頭癌手術のアプローチでは,経口蓋法,経上顎洞法,側方到達法の3つが知られている4,7,8)。経上顎洞法の1つであるmaxillary swing approach(MSA)9)は,上咽頭癌に対する低侵襲な外科療法として知られているが,わが国の報告はまだ少なく10~12),主に放射線治療後の再発例や良性腫瘍に用いられている。

 今回,放射線感受性が低いと考えられる上咽頭粘表皮癌に対して,MSAで摘出した症例を経験したので報告する。

伝染性単核球症を疑った成人Still病

著者: 松尾美央子 ,   井手康介 ,   岡村精一 ,   末松栄一

ページ範囲:P.885 - P.888

Ⅰ.はじめに

 成人Still病は発熱,皮疹,関節炎を3主徴とする病気である1)。特異的な検査所見が少なく診断が難しく,不明熱を示す代表的疾患で,通常,内科で診断・治療されるため,耳鼻咽喉科医が遭遇する機会は少ない。今回われわれは,咽頭痛で発症した成人Still病の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

鏡下咡語

耳鼻咽喉科と嚥下障害

著者: 金子敏郎

ページ範囲:P.871 - P.873

Ⅰ.はじめに

 最近,嚥下障害の医療およびリハビリテーションのあり方をめぐり,耳鼻咽喉科と他科の間にきしみを生じている。

 良質な医療を提供するためには疾患によりチーム医療が適切に実施されるべきであるが,対象臓器の特性からみて最も適合する担当診療科があることも忘れてはならない。

 ここでは耳鼻咽喉科・頭頸部外科が嚥下障害の研究や医療にいかに対応してきたかという点について,国内外の学術的歩みから,また専門医教育の面から振り返り,嚥下医療に関しては耳鼻咽喉科・頭頸部外科医が主導的立場に立つべきことを再確認してみたい。

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あとがき

著者: 竹中洋

ページ範囲:P.896 - P.896

 今年の夏はことのほか暑く,寝苦しい毎日が続いていました。夏休みを楽しみにしていたのですが,8月第1週の週末は専門医試験,第2週は外保連のWG,第3週はお盆と重なりとれず。第4週も日本耳鼻咽喉学会の会議と結局,夏休みは高値の花でした。しかし,異常気象にはずいぶんたたられました。そのなかで公益法人の説明会が文部科学省で開かれ,日本アレルギー学会を代表して出席を予定していた8月25日(月)のことが忘れられません。

 初診日ですので,外来を飛ばしに飛ばして後を頼み,11時前に京都駅着,さて新幹線はとみると,改札口がなにやら混雑しています。滑り込みセーフのはずが5分遅れとのこと,『大雨で遅れています』とのコールが響いています。中国地方と中部地方を聞き間違えました。よく聞くと,小田原~熱海間で朝から遅れが出ているとのよしです。こちらは慌てていますから,上りがどれほど遅れているのかしか興味はありません。実はそのとき,下りは4時間遅れていたようです。簡単にいえば,下りが朝からどんどん遅れて,Uターンの上りが遅れ出したときだったようです。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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