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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科80巻13号

2008年12月発行

雑誌目次

特集 聴神経腫瘍の治療:症例呈示と治療原則

1.聴神経腫瘍の治療―名古屋市立大学の取り組み

著者: 村上信五 ,   渡邊暢浩 ,   高橋真理子 ,   稲垣彰 ,   相原徳孝

ページ範囲:P.915 - P.923

Ⅰ.はじめに

 聴神経腫瘍が発見された場合には,①wait and scan(MRIと聴力検査による経過観察),②手術治療,③放射線治療の3つの選択肢がある。いずれにも利点と欠点があり,年齢や全身状態,腫瘍の大きさ,増大速度,聴力,患者の希望などを考慮して選択する。名古屋市立大学では耳鼻咽喉科医と脳神経外科医,放射線科医が協力してチーム医療を行っているので紹介する。

2.聴神経腫瘍の治療指針

著者: 高田雄介 ,   小林俊光

ページ範囲:P.924 - P.928

Ⅰ.はじめに

 聴神経腫瘍の治療は手術,ガンマナイフなどの放射線,経過観察の3つに大きく分けられる。良性腫瘍である本疾患は,手術により完全に摘出することが理想だが,顔面神経麻痺などの合併症のリスクや,腫瘍径,残存聴力,年齢,全身状態などを考慮して治療方針を立てる必要がある。

 手術治療を選択する際,有効な残存聴力のある小ないし中型腫瘍は,聴力温存を検討するが,聴力喪失の症例や聴力は良好であっても大腫瘍の症例の場合,顔面神経の温存と全摘を優先する。その目的のためには,脳の牽引が少なく良好かつ広範な視野確保が図れる経迷路法(拡大経迷路法)が有用性の高い術式であると筆者らは考えている1)

3.聴神経腫瘍の治療:症例呈示と治療原則

著者: 小宗静男

ページ範囲:P.929 - P.934

Ⅰ.はじめに

 聴神経腫瘍に対して耳鼻咽喉科医が行う内耳道へのアプローチ法は中頭蓋窩法と経迷路法である。前者に関しては基本的な手術適応としては道内限局で実用聴力が残存している症例に限られるが,適応条件については腫瘍自体の成長速度の個人差などから経過をみる症例が増え,実際の症例数は多くないのが現状である。ここでは特異な病状および経過を示した4症例を呈示して,各症例に対する治療上の注意点と対策について述べることとする。

4.聴神経腫瘍の治療:症例呈示と治療原則

著者: 土井勝美

ページ範囲:P.935 - P.942

Ⅰ.はじめに

 1999年4月~2008年9月までに,聴神経腫瘍の診断名で筆者の外来を受診した122症例のうち,耳鼻咽喉科で外科治療を行った症例が42例,脳神経外科へ治療を依頼した症例が6例,6か月~1年ごとのMRI検査を含む外来経過観察中(いわゆるwait & scan)の症例が38例,放射線治療(CyberKnife:CK)を依頼した症例が10例,現在は未受診(他施設で治療もしくは経過観察中と思われる)の症例が26例である(図1)。

 本稿では,症例数は少ないものの,筆者がこれまでに経験した聴神経腫瘍の外科治療および放射線治療の成績を紹介し,興味あるいくつかの症例を呈示すると同時に,治療経験がいまだ十分とはいえない耳鼻咽喉科医の筆者が現時点で想定する治療原則について述べてみたい。

目でみる耳鼻咽喉科

舌癌切除後の再建皮弁に生じた尋常性疣贅の1例

著者: 中溝宗永 ,   横島一彦 ,   稲井俊太 ,   酒主敦子 ,   川本雅司

ページ範囲:P.902 - P.903

Ⅰ.はじめに

 進行期頭頸部癌切除後の再建では,遊離組織移植術が頻繁に行われ,再建組織として皮弁が用いられる機会は多い。再建皮弁に新たな癌が発生した報告は散見される1~3)が,疣贅が発生した報告は少ない。今回はわれわれの経験を報告する。

Current Article

中耳における細菌感染症の局所病態

著者: 佐藤克郎

ページ範囲:P.905 - P.913

Ⅰ はじめに

 急性中耳炎は耳鼻咽喉科の日常診療においてしばしば遭遇する細菌感染症であり,病原菌としては肺炎球菌,インフルエンザ菌,モラクセラ・カタラーリスの頻度が高く,急性中耳炎の3大起因菌といわれている1)。細菌感染症は,現代医学が発達するはるか以前から人類を脅かしてきた古典的な疾患群であるが,細菌感染症の局所で何が起こっているかについては,いまだに解明されていないことも多い。また,抗菌薬の発達が細菌感染症の治療を激変させて予後を著しく改善させた一方で,近年では耐性菌の出現などの新しい問題が生じているのも現実である。すなわち,細菌感染症の局所病態の解明は現在でも基礎医学の重要な一分野であり続けている。

 細菌感染症の基礎研究にはさまざまな動物実験モデルが使用されてきたが,中耳炎モデルは敗血症モデルで致死率を求めるような短期的な研究には不向きである一方,致命的になりにくいため,感染後の炎症反応の経時的な観察に適している2)。当科では,1980年代より中耳における細菌感染症の局所病態に注目し,新潟大学で行った実験と留学先の米国ミネソタ大学Otitis Media Research Centerでの実験の成果を統合する形で研究を進めてきた。ミネソタ大学では,筆者の留学当時Otitis Media Research CenterのdirectorであったGiebink教授が開発したチンチラ中耳炎モデルを用いて,肺炎球菌の病原性の本態を明らかにするとともに同菌が惹起する中耳炎の局所病態を観察した。新潟大学においては,新しい動物実験モデルとしてモルモット中耳炎モデルを開発し,インフルエンザ菌とモラクセラ・カタラーリスで中耳炎を惹起して中耳腔内の局所病態を観察した。両施設での実験を合わせると,急性中耳炎の3大起因菌である肺炎球菌,インフルエンザ菌,モラクセラ・カタラーリスのすべてについて中耳炎モデルで研究したことになる。

 筆者らの一連の研究においては,まず細菌の構成成分の何が中耳において病原性をもつかを証明し,一方,中耳腔内では宿主の反応で生じるどのような機序で炎症が発現されるかを解明することを目標としてきた。1990年代後半からは,それまでに行った実験手技と成果を応用して,急性中耳炎や滲出性中耳炎の臨床症例で注目されてきた炎症性サイトカインの作用動態を動物実験の中耳炎モデルにより解析した。さらに,基礎研究で得られた成果をもとに細菌感染症の治療における工夫について考察してきた。

 本稿では,中耳における細菌感染症の局所病態について,筆者らがミネソタ大学と新潟大学で行った研究の成果を中心に概説する。

原著

耳鼻咽喉科が初診であった脊髄小脳変性症症例

著者: 井上亜希 ,   尾関英徳 ,   室伏利久

ページ範囲:P.949 - P.953

Ⅰ.はじめに

 めまい・平衡障害を主訴に耳鼻咽喉科を受診する疾患は多彩であるが,耳鼻咽喉科を初診とする症例は末しょう性めまいが多数を占め,中枢性障害については診断がついたあとの神経耳科的検査の依頼で受診することが多い。しかし,中枢性疾患のなかにも一般神経学的症状に乏しく,診断未確定状態で耳鼻咽喉科を初診することがあり,診断には注意を要する。

 脊髄小脳変性症は,小脳性または脊髄性の運動性失調を主症候とし,小脳や脊髄の神経核に病変の主座をもつ原因不明の疾患の総称である1)。本疾患の患者が耳鼻咽喉科を初診する例は比較的稀であるが,病初期にはふらつきなどの平衡障害が先行することがあり,ほかの鑑別診断の対象として留意しておく必要がある。

 われわれは歩行時の不安定感を主訴に当科を初診し,最終的に脊髄小脳変性症と診断された症例を2例経験した。これら症例について考察を加えて報告する。

上顎洞異物の2症例

著者: 佐藤賢太郎 ,   八尾和雄 ,   栗原里佳 ,   臼井大祐

ページ範囲:P.955 - P.958

Ⅰ.はじめに

 上顎洞異物は耳鼻咽喉科関連の異物のなかで比較的珍しい疾患である。近年その原因が外傷性から医原性に移行しており,医原性では特に歯科治療と関係していることが多い1)。今回われわれは,CT値から異物と診断した歯科治療の際に用いられた根管充塡用セメントが原因と考えられた上顎洞異物の2症例を経験したので報告する。

シリーズ 専門医試験への対応

―1.難聴を主訴とする疾患―2)外リンパ瘻

著者: 國弘幸伸

ページ範囲:P.959 - P.962

Ⅰ はじめに

 外リンパ瘻は,外リンパ腔と中耳との間に生じた異常な交通路から外リンパが漏出し,難聴,耳鳴,めまい,平衡障害などの蝸牛前庭症状を呈する疾患である。本稿では筆者の経験を交えながら外リンパ瘻の診断と治療を中心に概略を述べる。

―2.めまい・平衡障害を主訴とする疾患―1)メニエール病

著者: 工穣

ページ範囲:P.963 - P.968

Ⅰ はじめに

 日常診療においてめまいを主訴とする患者の母集団は少なくないが,救急外来や一般内科などで対症的に加療されている症例が多いと思われる。事実,その後に耳鼻咽喉科へ紹介されて精査を行っても原因がはっきりしない場合もあり,めまい診療の難しさがそこにある。

 しかしながら,メニエール病,良性発作性頭位めまい症,前庭神経炎,椎骨脳底動脈循環不全症,聴神経腫瘍,末しょう前庭障害など,耳鼻咽喉科専門医として見逃さず的確に治療を行わなければならない疾患も確実に存在するため,めまい診療のポイントを押さえることが重要と考える。

鏡下咡語

科学研究の落とし穴―脚気の研究にまつわる物語

著者: 青柳優

ページ範囲:P.945 - P.948

 今年のNHK大河ドラマは『篤姫』である。薩摩藩主島津斉彬の養女で,第13代将軍徳川家定の継室であり,第14代将軍徳川家茂の継母である天璋院篤姫が主人公の幕末ドラマである。NHK大河ドラマの常であるが,篤姫の故郷,鹿児島への観光熱は高まっているに違いない。しかし,私は『家定』,『家茂』という名を聞くと,2人の死因となった脚気衝心とビタミンB1の発見に関連する脚気の研究にまつわる物語に思いを巡らせないではいられない。

 家定,家茂ともに甘党だったようである。一説によると家定はカステラなどの菓子作りが趣味であったという。よく煮豆やふかし芋などを作り家臣たちに振舞ったりしており,松平春嶽などは陰で『イモ公方』と呼んでいた。また,家茂は30本もの虫歯があったという。ビタミンB1の需要量は,食事中のエネルギー量に比例する。糖質の摂取量が過剰であると需要量は増大するので,相対的にビタミンB1欠乏症に陥ることもある。したがって,2人とも脚気に罹患する素地は十分にあったわけである。

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あとがき

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.974 - P.974

 以前のあとがき(80巻10号)で銚子の病院が閉鎖するとしてテレビで話題になっていることを書きましたが,3か月後の今回のあとがきを書く時期に,そのなかで指摘した問題が現実のものとなってしまいました。都立墨東病院産婦人科と東京の名だたる大学や大病院を巻き込んだ事件が今週の大ニュースとなり,厚生労働大臣と都知事のやりとりも話題になっています。これまで都会と地方の医師の偏在が問題だとする論調があり,今後都市部の研修医の定員を減らすという意見も出ていましたが,都会でも似た状況があることを示したことになります。地方の医師不足は医学部入学者の多くが都市部受験校出身だからという乱暴な意見もありますが,それは今に始まったことではなく,かつてはむしろ卒後その地域の医局に残った人が多かったはずです。臨床研修制度の余波についてはこれまでも述べてきましたが,この制度前後で医師数にあまり変化のない科,増加した科,減少した科という分類のなかで耳鼻咽喉科は減少した科に入り,残念ながら最も減少した科でした。どこに原因があるか検証する必要がありますが,唯みな漠然とわかっているのではないでしょうか。産婦人科,小児科の不足が叫ばれるなか,これらの科の待遇改善も取りざたされています。

 一方,耳鼻咽喉科勤務医の不足については一般メディアであまり話題になりませんし,声高に言うべきことか迷うところです。メディアも詳細な事情を知らずに勝手なことをいう人気キャスターに踊らされている感があります。

 臨床研修制度を擁護する意見としては,まず研修医自身が大学医局のしばりがなく自由にマッチングで病院を選べること,給与は大学のスタッフ並みかそれ以上の施設もあること,確かに多くの科で充実した研修が受けられることなどがあります。しかし,彼ら自身は以前の制度のことを知らないので,何が問題なのか理解できないともいえます。この制度も徐々に改変せざるをえず,各施設で内容を変え始めているのも事実です。ここしばらくは大学の各教室を一度も経ないで病院を転々とする若い医師が増えることも予想されますが,実は大学の教室(医局)生活も捨てたものではないと言いたい心境です。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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