icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科80巻2号

2008年02月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

甲状腺硝子化索状腺腫の1例

著者: ウォンウェンホウ ,   石川和夫

ページ範囲:P.110 - P.112

Ⅰ.はじめに

 甲状腺に生じた硝子化索状腺腫(hyalinizing trabecular adenoma:HTA)は1987年にCarneyら1)によってはじめて報告された。良性腫瘍であるが,乳頭癌や髄様癌に類似しており,組織病理学的な特徴を有しているため,臨床上慎重な鑑別が必要である2)。今回,甲状腺に発症した硝子化索状腺腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加え呈示する。

Current Article

声帯溝症の治療―声帯内自家側頭筋筋膜移植術

著者: 角田晃一

ページ範囲:P.113 - P.126

Ⅰ はじめに―音声言語コミュニケーションにおける感覚器in-putとout-put

1.感覚器のout-put機能

 感覚器医学という言葉を聴き,あるいは視て,多くの人々は視・聴覚や嗅覚・味覚・知覚などの知覚を連想するであろう。しかしながら,これらはあくまで感覚器受容体としてのin-put処理機構である。

 われわれ人間の特徴である『ことば(音声言語)』は聴覚を介し,さらにしぐさ・表情など視覚情報として修復されin-put情報として脳に入力,統合・分析される。次いで脳から指令となって感覚器のout-putである音声言語器官に伝達され,発声として表現されて,円滑な音声言語コミュニケーションが成立する。

2.加齢と感覚器out-put

 聴覚における難聴や視覚における白内障など感覚器in-put受容器と同様に,感覚器out-putも生理的加齢による機能障害をきたす。加齢による声帯の変化はその筋肉,結合組織,粘膜のすべてに萎縮が起こる。このうち,筋肉と粘膜の間にある結合組織であるラインケスペースの萎縮・瘢痕の治療が最も苦慮されている。病名でいうところの声帯溝症や声帯瘢痕がこれに当たる。この病態では水道におけるゴムパッキングの劣化と同様の萎縮,つまり声門閉鎖不全が起こり加齢による音声のout-put障害である音声障害,嚥下障害,さらに息こらえができずに身体能力の低下をきたす。これまでの研究成果により,声帯の隆起性病変に対する治療法は確立されたが,この声帯の萎縮性病変の治療法はこれまで確立をみていなかった。

3.加齢による感覚器のout-putの問題点と対策

 われわれは感覚器out-putとしての音声言語医学研究の重要性を鑑み,これまでの先達の研究と自身の基礎・臨床研究を生かし,声帯溝症や声帯瘢痕に対する新しい治療法を試みている。

 本稿では感覚器out-putの生理的加齢変化の代表的疾患モデルである声帯の『瘢痕病変』と『声帯溝症』に対し,1997年に開発して1)その後,世界的に広く追試され声帯の再生術式として評価を得,2003年には北里大学の申請で高度先進医療にも認定された『声帯内自家側頭筋筋膜移植術』(autologous transplantation of fascia into the vocal fold:ATFV)の開発の経緯,実際,長期成績,組織学的検討を,世界の音声外科の歴史・現況とともに紹介し,その応用や声帯の再生医療としての今後の研究・臨床の発展性を含めてここに発表する。本稿が耳鼻咽喉科臨床家諸氏に広く理解とさらなる普及をせしめ,高齢化社会日本における国民生活のQOL向上に役立たせんことを祈るものである。

原著

聴力像に左右差のない聴神経腫瘍4症例

著者: 松吉秀武 ,   蓑田涼生 ,   湯本英二

ページ範囲:P.127 - P.132

Ⅰ.はじめに

 聴神経腫瘍(以下,ATと略す)患者では8割以上が蝸牛症状を主訴に医療機関を受診すると報告1)されている。このような症例に対して耳鼻咽喉科医がまず行う検査として純音聴力検査が挙げられる。本検査にて左右差のないAT症例が,近年の画像診断の進歩に伴い報告されるようになってきた2~4)。今回われわれは2002年4月からの4年間に純音聴力検査にて左右差のないAT 4症例を経験した。聴力検査に左右差がない症例をみた場合に,どのようにすればATの見落しをなくすことができるかを,文献的考察を加えて報告する。

鼻前庭に発生したsolitary fibrous tumorの1例

著者: 北野睦三 ,   弓削忠 ,   田中好太郎 ,   熊谷譲 ,   福岡久代 ,   斉藤澄 ,   田山二朗

ページ範囲:P.133 - P.136

Ⅰ.はじめに

 Solitary fibrous tumor(以下,SFTと略す)とは1931年にKlempererら1)によってはじめて報告された腫瘍である。SFTは胸膜好発で中皮細胞起源とされていたが,現在は全身にわたって広く分布するCD34陽性の線維芽細胞様間葉細胞ないし,樹状間質細胞がSFTの細胞起源として想定されている2)。今回,われわれは比較的稀な胸膜外のSFTを鼻前庭で経験したので,文献的考察を加えて報告する。

喉頭内転術2年後にシリコンプレートが脱落した1例

著者: 土屋松実 ,   峯田周幸 ,   渡邊高弘 ,   細川誠二 ,   大和谷崇 ,   岡村純 ,   石川竜司 ,   神田和可子 ,   野田和洋 ,   安原智洋

ページ範囲:P.137 - P.139

Ⅰ.はじめに

 甲状軟骨形成術Ⅰ型は片側の声帯麻痺などによる声門閉鎖不全で生じる嗄声の改善手術としてIsshikiら1)が発表した,喉頭内転術(声帯内方移動術)の1つである。この方法は声帯のレベルで甲状軟骨を開窓して,そこから形をトリミングした軟骨やシリコンプレートを挿入して声帯を内方に移動させるもの2)である。効果が確実なことや手術が比較的容易なことなどから広く普及している。手術法も原法と少しずつ異なった方法が行われており,それに伴い何らかの合併症も生じてくることが考えられる。今回われわれは喉頭内転術後にシリコンプレートが喉頭内に脱落した1例を経験したので報告する。

喉頭浮腫で気管切開を要した上大静脈症候群の1例

著者: 牛来茂樹 ,   渡邊健一 ,   工藤貴之 ,   大平美佳 ,   石塚静江 ,   大島猛史 ,   川瀬哲明 ,   小林俊光

ページ範囲:P.141 - P.144

Ⅰ.はじめに

 喉頭浮腫は耳鼻咽喉科の日常診療でしばしば遭遇する病態であり,その原因は多岐にわたる。喉頭浮腫に対しては,緊急気管切開を要する場合と,経過観察し保存的に治療する場合とがあり,その判断が重要となる。今回,上大静脈症候群(superior vena cava syndrome:以下,SVCS略す)により両頸部および顔面の腫脹,そして喉頭浮腫をきたして緊急気管切開術を施行した症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

小児副咽頭間隙膿瘍の1例

著者: 細川誠二 ,   林理佐子 ,   岡村純 ,   峯田周幸

ページ範囲:P.145 - P.148

Ⅰ.はじめに

 小児の副咽頭間隙膿瘍は非常に稀である。Brianら1)は93例の小児頸部膿瘍を報告しているが,副咽頭間隙膿瘍は3.4%,3例のみであった。それと同時にこれらの感染症はときに急激な増悪をきたし,浮腫や腫脹による上気道閉塞や縦隔へ膿瘍が進展して重篤な病態を引き起こすことがある。そのため,治療に当たっては迅速かつ的確な診断に基づいた適切な外科的治療が重要となる。今回われわれは4歳・男児の副咽頭間隙膿瘍症例を経験し,頸部外切開により治療し得たのでこれを報告する。

当科における魚骨異物症例の検討

著者: 楢村哲生 ,   竹村考史 ,   佐生秀幸

ページ範囲:P.149 - P.152

Ⅰ.はじめに

 耳鼻咽喉科の日常診療において咽頭異物はしばしば遭遇する疾患であり,その大部分は魚骨である。熊本県天草地方では魚食の機会が多く,魚骨異物の症例は多い。今回,当科における魚骨異物症例について統計的観察を行ったので,若干の文献的考察を加えて報告する。

原発巣と頸部転移巣の進展度で比較した喉頭癌Stage Ⅳ症例の予後

著者: 島田健一 ,   中溝宗永 ,   横島一彦 ,   八木聰明

ページ範囲:P.153 - P.157

Ⅰ.はじめに

 喉頭癌は早期癌に分類されるStage Ⅰ,Ⅱ症例が多く,頭頸部癌のなかでは比較的予後良好な疾患である1~4)。しかし,進行例,特にStage Ⅳ症例では他の頭頸部進行癌と同様に不幸な転帰を辿ることが少なくない1,4~6)

 近年頭頸部進行癌では手術以外に化学放射線療法,動注化学放射線療法あるいは多分割照射法など,治療の選択肢が拡がっており7~10),標準的治療法の確立のため,今後の検討が待たれるところである。その際,種々の治療法のなかから適切な方針を決定するには,病期に加え,原発巣と頸部転移巣の病状が極力合致した症例で検討することが重要である。しかし,TNM分類(第6版)では喉頭癌Ⅳ期,特にⅣA期は原発巣,転移巣のいずれかまたは双方が進展した症例を同じ病期として扱うことになっている11)。つまり,さまざまな病状の症例をⅣA期として一括して解析することになり,適切な治療方針決定には不合理と思われる。

 そこで,このStage Ⅳ期に包括される症例の多様性とその予後を検討するため,当科で根治治療を行った喉頭扁平上皮癌Stage Ⅳ症例の再発様式および治療成績を,原発巣と転移巣の進展度別に分類してretrospectiveな評価を行った。

シリーズ DPCに対応したクリニカルパスの実際―悪性腫瘍

②中咽頭:側壁T2症例

著者: 安藤瑞生 ,   浅井昌大

ページ範囲:P.169 - P.180

Ⅰ はじめに

 国立がんセンター中央病院頭頸科では2003年よりクリニカルパス(以下,パスと略す)の導入を始めた。当初は舌部分切除術や甲状腺手術,頸部郭清術単独などのシンプルな術式に限って運用し,対象を順次拡大してきた。現在では,遊離皮弁による再建手術を含む多くの術式においてパスを運用している。

 パス運用の要点はアウトカムの設定およびバリアンスの分析・対応であり,パスの導入に当たっては,バリアンス分析を可能にする症例数の蓄積が見込めることがまず必要である。症例数の割に術式が多い頭頸部癌手術においては,細かな疾患・術式単位のパスを作成してしまうと,多忙な病棟業務のなかで簡便な指示セットとしてのみ使用され,パス本来の目的を見失いかねない。現在,当科では中咽頭側壁T2の手術症例(遊離皮弁による再建なし)を単独のパスとしてではなく,『口腔咽頭手術』というパスの対象疾患のひとつとして運用している。

鏡下咡語

心が通うこと,心を通わせること―私たちのボランティア活動の報告

著者: 曽田豊二

ページ範囲:P.165 - P.168

Ⅰ.はじめに

 『鏡下咡語』に一文を寄せるように依頼を受けて心から感謝いたしました。この『鏡下咡語』には私のよく識っている方々が随想に,医史学的な考察に,医人の伝記に,またさまざまな意匠のもとで興味深い想いをこめて書いています。しかもそれらはすべて科学者の立場で書かれ,また科学的な精神に貫かれていますので,その素晴らしさには感心させられています。私の感謝はその仲間に加えていただける喜びでありますが,今回の小論がそれに堪えられるか心配をしています。

--------------------

あとがき

著者: 竹中洋

ページ範囲:P.186 - P.186

 スキーをしていたのはもう30年も前のことになります。硬式テニスに没頭していた小生にとって,スキーは冬の体力作りに最適でした。また,当時の医学生にとって春休みほど自由時間が堪能できた休暇はありません。学業は2月初めの大学入試で終了,進級試験にさえ通っていれば2か月の休みです。おまけにクラブ活動は自主トレが中心で,3月中旬の合宿まで暇で暇での毎日でした。毎年,野沢温泉や八方尾根に出かけていました。たいして上手なスキーではなかったのに,なぜか楽しかった2月が目の前に浮かびます。鄙びた蕎麦屋で飲んだ熱燗のうまさは忘れられません。その少し前の2月は憂鬱でした。大学受験の苦い経験や学園紛争で肩の力が抜けきっていなかったのでしょう。昭和はやや遠くなってしまいました。

 昨今の2月は特に楽しい想い出はありません。個人的には入試にからんでやたら教授会が多いこと,教授選考で教授会が長引くことが憂鬱です。そうでなくとも新職導入や大学の意思決定が名実共に理事会主導になってから,教授会は正直退屈です。最高の知識人が高踏的に物事を論じることが教授会であったはずです。あえて経営を論じる場合でも,本音と建前が明確に区別できていたはずなのに,なぜ,教授会が金銭出納器のような直截的な場になってしまったのでしょうか?小生の奉職している大学だけとはとても思えません。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

95巻13号(2023年12月発行)

特集 めざせ! 一歩進んだ周術期管理

95巻12号(2023年11月発行)

特集 嚥下障害の手術を極める! プロに学ぶコツとトラブルシューティング〔特別付録Web動画〕

95巻11号(2023年10月発行)

特集 必見! エキスパートの頸部郭清術〔特別付録Web動画〕

95巻10号(2023年9月発行)

特集 達人にきく! 厄介なめまいへの対応法

95巻9号(2023年8月発行)

特集 小児の耳鼻咽喉・頭頸部手術—保護者への説明のコツから術中・術後の注意点まで〔特別付録Web動画〕

95巻8号(2023年7月発行)

特集 真菌症—知っておきたい診療のポイント

95巻7号(2023年6月発行)

特集 最新版 見てわかる! 喉頭・咽頭に対する経口手術〔特別付録Web動画〕

95巻6号(2023年5月発行)

特集 神経の扱い方をマスターする—術中の確実な温存と再建

95巻5号(2023年4月発行)

増刊号 豊富な処方例でポイント解説! 耳鼻咽喉科・頭頸部外科処方マニュアル

95巻4号(2023年4月発行)

特集 睡眠時無呼吸症候群の診療エッセンシャル

95巻3号(2023年3月発行)

特集 内視鏡所見カラーアトラス—見極めポイントはここだ!

95巻2号(2023年2月発行)

特集 アレルギー疾患を広く深く診る

95巻1号(2023年1月発行)

特集 どこまで読める? MRI典型所見アトラス

94巻13号(2022年12月発行)

特集 見逃すな!緊急手術症例—いつ・どのように手術適応を見極めるか

94巻12号(2022年11月発行)

特集 この1冊でわかる遺伝学的検査—基礎知識と臨床応用

94巻11号(2022年10月発行)

特集 ここが変わった! 頭頸部癌診療ガイドライン2022

94巻10号(2022年9月発行)

特集 真珠腫まるわかり! あなたの疑問にお答えします

94巻9号(2022年8月発行)

特集 帰しちゃいけない! 外来診療のピットフォール

94巻8号(2022年7月発行)

特集 ウイルス感染症に強くなる!—予防・診断・治療のポイント

94巻7号(2022年6月発行)

特集 この1冊ですべてがわかる 頭頸部がんの支持療法と緩和ケア

94巻6号(2022年5月発行)

特集 外来診療のテクニック—匠に学ぶプロのコツ

94巻5号(2022年4月発行)

増刊号 結果の読み方がよくわかる! 耳鼻咽喉科検査ガイド

94巻4号(2022年4月発行)

特集 CT典型所見アトラス—まずはここを診る!

94巻3号(2022年3月発行)

特集 中耳・側頭骨手術のスキルアップ—耳科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻2号(2022年2月発行)

特集 鼻副鼻腔・頭蓋底手術のスキルアップ—鼻科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻1号(2022年1月発行)

特集 新たに薬事承認・保険収載された薬剤・医療資材・治療法ガイド

icon up
あなたは医療従事者ですか?