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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科80巻3号

2008年03月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

経上顎洞法で摘出した翼口蓋窩三叉神経鞘腫

著者: 千年俊一 ,   坂本菊男 ,   津田幸夫 ,   中島格

ページ範囲:P.196 - P.198

 患者:27歳,女性

 主訴:左頰部のしびれ

 既往歴:1998年,右尺骨神経鞘腫摘出術

 現病歴:2006年3月頃より左上口唇から左上歯肉にかけてしびれ感を自覚した。近医の歯科を受診し,左上齲歯を抜歯したが改善しなかった。その後,症状は徐々に増強するため,近医の内科でMRI検査を行ったところ左上顎洞付近の異常陰影を指摘された。精査と加療を目的に2006年10月中旬,当科を紹介され受診した。

 初診時現症:左三叉神経第2枝領域の顔面知覚低下以外は,耳鼻咽喉科領域に異常所見は認めなかった。

Current Article

耳鳴の中枢性発生機序と外科治療の開発

著者: 土井勝美

ページ範囲:P.199 - P.204

Ⅰ はじめに

 耳鳴とは外界からの音源なしに耳内もしくは脳内で聞こえる音の幻影知覚(auditory phantom phenomenon)と考えられる1)。総人口の10~15%が消えることのない耳鳴を認識するとされ,若年者から高齢者までどの年齢層にも起こり得るが,年齢が上がるにつれて慢性耳鳴を訴える割合は高くなる。総人口の1~5%では,耳鳴は不安,うつ状態,不眠,就労不能あるいは精神的苦痛といったQOL(quality of life)の低下を招くに十分な大きさとなる2)。感染(細菌,ウイルス),内耳毒性の薬剤(サリチル酸,アミノグリコシド系抗菌薬),騒音,加齢などの環境因子と遺伝的素因を病因とする感音難聴に伴って耳鳴は発生するが,高齢者では加齢が,若年者では騒音(職場,ミュージックプレイヤー,コンサート)が内耳障害の主因である。世界的にみて数百万人のヒトが耳鳴をQOLへの脅威と感じ,ある種の内科的・外科的治療が耳鳴への適応を促し,あるいは,耳鳴の性状を変化させ得ることが確認されてきた。しかしながら,耳鳴自体を消失させる根本的な治療法は現時点では確立されていない。

 最近,神経科学や脳機能画像診断学の進歩により,これまで十分には解明されてなかった耳鳴発生の脳内機構に関する新知見が相次いで報告されるようになった。感音難聴に伴う耳鳴の中枢性発生機序を知ることは,耳鳴の治療法や予防法の開発・確立に不可欠であり,同時に,音感覚の脳内認知機構を知るうえでも重要となる。

原著

当科における口腔・中咽頭小唾液腺腫瘍の検討

著者: 中村哲 ,   竹内万彦 ,   坂井田寛 ,   荻原仁美 ,   間島雄一

ページ範囲:P.205 - P.208

Ⅰ.はじめに

 小唾液腺とは頭頸部管腔臓器の粘膜に存在する粘液分泌腺のことであり,口腔・中咽頭に分布し,口唇腺,頰腺,口蓋腺,舌腺などがある。小唾液腺腫瘍は比較的少ないが,悪性腫瘍が多く1)注意が必要である。今回,1986~2005年までの20年間に当科で治療を行った小唾液腺腫瘍新鮮例について臨床的に検討したので報告する。

耳下腺深葉良性腫瘍手術後の顔面神経麻痺

著者: 横島一彦 ,   中溝宗永 ,   酒主敦子 ,   稲井俊太 ,   横山有希子 ,   杉崎一樹 ,   小町太郎 ,   八木聰明

ページ範囲:P.209 - P.212

Ⅰ.はじめに

 耳下腺腫瘍の術前評価のなかで,腫瘍の部位診断,特に浅葉腫瘍と深葉腫瘍の鑑別は重要である。腫瘍が深葉に存在すると,神経周囲の処理が多くなることで手術の難易度が高くなるうえ,顔面神経麻痺が高頻度に発症すると考えられるからである1~3)

 画像診断で耳下腺内の顔面神経を描出することは難しいため4,5),下顎後静脈,胸鎖乳突筋や顎二腹筋後腹との位置関係から顔面神経の仮想曲面を考えて,部位診断を行うのが一般的である6,7)。しかし,その方法にも限界があり,手術を施行してはじめて深葉腫瘍であることがわかることも少なくない。そのため,耳下腺腫瘍手術を行う場合には浅葉腫瘍への対応だけではなく,深葉腫瘍手術の手技に加え,インフォームド・コンセントに最もかかわる術後顔面神経麻痺についても十分に知っておく必要がある。

 そこで,われわれが最近3年間に行った耳下腺深葉良性腫瘍手術例を解析し,術後顔面神経麻痺発症の頻度,原因,回復状況について検討した。

頰間隙に生じた血管腫の1例

著者: 齊藤祐毅 ,   横西久幸 ,   北野睦三 ,   壁谷雅之

ページ範囲:P.213 - P.216

Ⅰ.はじめに

 頰筋と咬筋の間に存在する頰脂肪体(buccal fat pad)と呼ばれる脂肪組織を頰間隙(buccal space),または頰部隙と称する1)。この間隙に発生する腫瘍組織は比較的稀1~4)で,さらに唾液腺由来,血管組織由来,軟部組織由来と多様で診断に難渋することがある。今回われわれは頰間隙に発生して摘出標本で血管腫と確定診断された1例を経験した。診断するに当たりダイナミックMRIが有用であったので,若干の文献的考察を加えて報告する。

閉鎖性喉頭外傷後に遅発性声帯麻痺をきたした1例

著者: 溝上大輔 ,   栗岡隆臣 ,   磯田幸秀 ,   田部哲也 ,   塩谷彰浩

ページ範囲:P.217 - P.219

Ⅰ.はじめに

 閉鎖性喉頭外傷は外傷の所見が乏しいにもかかわらず,嗄声や呼吸困難をきたしうる注意すべき疾患である。今回われわれは,閉鎖性喉頭外傷後,いったん軽快したにもかかわらず,遅発性に声帯麻痺をきたしたきわめて稀な1例を経験したので報告する。

反復する顔面神経麻痺を呈した急性骨髄性白血病の1症例

著者: 高巻京子 ,   萩森伸一 ,   山口智子 ,   竹中洋 ,   久野友子 ,   玉井浩 ,   辻求

ページ範囲:P.221 - P.225

Ⅰ.はじめに

 白血病の経過中に難聴や耳鳴,顔面神経麻痺などの耳科学的症状が生ずるということはよく知られている1,2)。さらに近年の化学療法の進歩とともに白血病の長期生存症例も増加した結果,骨髄中に白血病細胞の存在しない完全寛解期に側頭骨内に再発を認めたという報告も散見される3)。今回,われわれは急性骨髄性白血病(以下,AMLと略す)の寛解期に顔面神経麻痺を反復し,乳突削開術による生検で白血病再発の確定診断を得ることができた症例を経験したので報告する。

原発性錐体骨コレステリン囊胞の1例

著者: 山本美紀 ,   假谷伸 ,   橋本香里 ,   冨永進 ,   西﨑和則

ページ範囲:P.227 - P.231

Ⅰ.はじめに

 乳突洞や鼓室内に発生するコレステリン囊胞は手術や外傷による出血や慢性炎症の既往を伴うことが多く,これらの既往のない原発性コレステリン囊胞は稀な疾患である1,2)。今回われわれは右変動性感音難聴と耳鳴,めまいを呈し,その原因が右錐体骨の骨破壊を伴った占拠性病変による右前半規管瘻孔および後半規管瘻孔と考えられ,精査目的に乳突洞削開を施行し,原発性錐体骨コレステリン囊胞との診断に至った症例を経験したので報告する。

術後肺血栓塞栓症の1例

著者: 和田昌興 ,   岡本牧人

ページ範囲:P.233 - P.236

Ⅰ.はじめに

 医療技術の進歩に伴い高齢者に対しても手術療法が選択されるようになり術前には予期せぬ術後合併症の発生をみることがある。そのなかでも肺血栓塞栓症は重篤な結果をもたらす術後合併症として近年注目されつつある。しかし,耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域での関心は必ずしも高いとはいえない。われわれは耳下腺腫瘍の摘出術施行後の翌日に急性肺血栓塞栓症を発症し,救命しえた症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

シリーズ DPCに対応したクリニカルパスの実際―悪性腫瘍

③口腔:舌部分切除術―舌癌T2症例の場合

著者: 宮崎眞和

ページ範囲:P.247 - P.254

Ⅰ はじめに

 クリニカルパス(以下,パスと略す)は,特定の疾患,手術や検査ごとにスケジュールをチャートとしてまとめたものである。医療上,標準的医療を適正かつ計画的に提供すること,経営上は在院日数の短縮や医療資源の節約,管理システムの適正化を図ること,看護面では診療に対する理解度の向上やチーム医療における協調性の向上が得られること,患者サイドからは治療の経時的な予定の理解による安心感や医療者への信頼性の向上といったメリットがあるとされる医療管理ツールであり,その使用は拡大している。頭頸部腫瘍領域でも症例数の多い疾患,手術についてはその作成の有用性が示唆されている1)

 また,DPC(diagnosis procedure combination:診断群分類別包括評価)方式とは,従来の出来高払い方式とは異なり,Yale大学で開発されたDRG(diagnosis related group)をもとに日本独自の調査でまとめられた診断群分類を用いて急性期入院医療に包括評価を行うものである。当センター中央病院を含めた全国82の特定機能病院で平成15(2003)年度から導入が始まり,2006年には360施設で導入されて,今後も導入を検討する施設が増えている。

 当院には,2004年の『国立がんセンターの今後のあり方検討会』での提言2)から臨床開発の役割が求められており,現時点ではDPCの導入は考えられていない。したがって,当院でのパスはDPCのためではなく,通常診療の効率化を図ることによって,癌治療における臨床開発により多くの医療資源を振り向けられるようにすることを目的としている。

③口腔:舌部分切除術

著者: 畠山博充 ,   福田諭

ページ範囲:P.255 - P.259

Ⅰ はじめに

 医療内容の標準化・効率化,質の向上を目的としたクリニカルパス(以下,パスと略す)の導入が各分野で進んでいる。頭頸部癌領域においてはそのバリアンスが多く,一般にパスの導入が困難と考えられていた。しかし,同一疾患・病期かつ症例数が比較的多いものについては積極的にパスが運用され,効率化が進んでいる1)

 早期舌癌は症例数も多く,また再建を必要としない舌部分切除術施行例は術後経過も安定しており,当科ではほぼ全例でパスを施行している。今回は頸部郭清の有無を問わず,pull-through法および再建術の適応とならない2)T1あるいはearly T2の舌部分切除症例に対するパスについて紹介する。

 早期舌癌で舌部分切除術目的に入院した場合において,DPC(diagnosis procedure combination)では頭頸部悪性腫瘍の手術あり(舌悪性腫瘍切除)と分類され,分層植皮術を伴う例では,入院期間Ⅰ未満(1日当たり2,485点)は最初の9日間,入院期間Ⅱ未満(1日当たり1,873点)は10~18日目,入院期間Ⅱ以上(1日当たり1,592点)は19~40日,入院41日以降は出来高払いとなる。分層植皮を伴わない例では短縮され,入院期間Ⅰ未満(1日当たり2,576点)は最初の8日間,入院期間Ⅱ未満(1日当たり1,946点)は9~16日目,入院期間Ⅱ以上(1日当たり1,592点)は17~32日,入院33日以降は出来高払いとなる3)

鏡下咡語

現在の医療環境下の鼻アレルギーの診療

著者: 奥田稔

ページ範囲:P.243 - P.246

 2007年春の日本アレルギー学会で『医療環境下のアレルギー診療』について特別講演を依頼され,医療社会学の視点から及ばずながら講演した2)。最近の医療を取り巻く環境の変化は激しく,疾病構造の変化,人口の高齢化,医療レベルの向上,医療技術の進歩,医療需要の高度化と増大,患者の知識,人権意識の高まり,健康観の変化,治療概念,医療経済など数えるに暇がない。日本の医療問題のなかから,かかりやすさ,医療の質,国民医療費を取り上げて論じた。本稿ではアレルギー疾患のうちアレルギー性鼻炎(allergic rhinitis:AR)を重点に記述する。

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あとがき

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.266 - P.266

 救急患者の“たらい回し”事件(この言葉はかならずしも適切ではない)に関するメディアの最近の論調は,以前であれば医師批判,病院批判に終始するところが医師不足,勤務医の過重労働,行政の問題とやや医療側に同情する面もみられる。確かに産婦人科,小児科の深刻さは周知のことだが,あまり話題にのらない耳鼻咽喉科を含むいくつかの科についても同様の状況である。

 新初期臨床研修制度の良い点として専門科を決める前に多くの科を体験すること,全身的な知識を深めることなど一見理想的な側面がある一方,かつては卒業時に直感的に自分の行きたい科,合っている科を選択していた(将来3Kの科,多忙な科であろうと意外とフィットさせて皆がんばった)のが,2年のゆっくりとした研修の間に余暇の多い科,9時~5時の科,収入の多い科などを比較検討して値踏みするという,理想とは逆の効果を生み出しているのも事実である。大学医局の集中入局を分散させる効果は達成されたが,関連施設には常勤医のいない科が多く存在している。学生6年,研修2年,その後専門科に入るというシステムを急にスタートさせたことで,専門医が仕上がるまでの期間の遅れがさらに人手不足に拍車をかけている。開業医の再診料を引き下げ,病院のそれを上げるとか,勤務医の開業に歯止めをかけるため,開業する前に僻地勤務を義務付けるなど,いかにも付け焼刃的な対応策がメディアをかけめぐっている。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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