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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科80巻4号

2008年04月発行

雑誌目次

特集 女性と耳鼻咽喉科疾患

1.心因性難聴

著者: 工藤典代

ページ範囲:P.287 - P.291

Ⅰ.はじめに

 この20年来,発症の増加が指摘されている小児心因性難聴は学校保健の面からも検討がなされ,2000年には耳鼻咽喉科学校医のための対応指針が出されている1)。報告の多くが小児例であるために,心因性難聴は小児特有のものと考えられがちである。しかし,以前は心因性難聴が『ヒステリー性難聴』と呼ばれていたように,小児の発症は稀で成人女性が心因反応を生じて発症するとみられていた。このように小児も含め,一般に周知されるようになってからも発症は女性に多いことが明らかになっている。

 医学でいう『ヒステリー』は神経症の1型であり,器質性疾患はなく非器質性疾患である。語源は女性に特有と考えられていたことから『子宮』を意味する古代ギリシア語から名づけられている。心因症状である『ヒステリー』は現在では解離性障害と転換性障害の2つに分けられている。心因性難聴は転換性障害に当たり,心理的なストレスを身体症状として出現したものである。ここでは心因性難聴の症例を呈示し,その診療について述べる。

2.めまいと女性

著者: 石川和夫 ,   殷敏 ,   ナカリンアグンスィー

ページ範囲:P.293 - P.298

Ⅰ.はじめに

 めまいは臨床的に訴えられる症状として日常遭遇することが多く,耳鼻咽喉科外来患者の10%強を占める。従来めまい患者はやや女性に多いとされてきたが,その理由や疾患別の頻度における性差などに関して総合的に検討した報告は少ない。

 めまいは身体の平衡維持機構に何らかの障害が生じて発症するもので,原因疾患の病態そのものに男女差はなく共通するのであるが,性差に基づく生体の恒常性維持の機構の違いが,特定のめまい原因疾患の病態を修飾したり,女性特有のめまいの病態を形成したり,発症頻度の差として認められることがある。自験例を中心にこの辺の問題について検討を加えてみる。

 われわれのめまい患者2,052例の臨床統計によれば図1に示すように,小児と超高齢者を除いて,全年齢層を通じてめまい患者は女性にやや多い。これは,男女の人口差を超える開きがあるのと他のめまい患者の臨床統計をみても同じ結果である1)。発症ピークは60歳代で一峰性である。

 さて,女性の一生は,妊娠の可否とかかわって大きくホルモンのバランスが変化する(図2)2)。この妊娠可能年齢に伴う女性体内の変化が女性のめまいの特徴を形成すると考えられる。

 そこで,われわれの最近の症例を含む女性めまい患者を,表1に示すように生殖期(月経周期の規則的な45歳まで:ここでは,エストロゲン量の一定になる20歳以降に絞った),更年期(生殖期から生殖不能期への移行期で月経が不規則になって閉経になる55歳まで),更年期以降に分けて,トータル1,343名の女性めまい患者を対象に統計をとって検討してみた。

3.鼻アレルギー・花粉症

著者: 大塚博邦

ページ範囲:P.299 - P.305

Ⅰ.はじめに

 女性と鼻アレルギー・花粉症とのかかわりについてのトピックといえば,花粉症患者は20~30歳の女性に多いこと,鼻アレルギーまたは花粉症状が妊娠により悪化すること,そして妊婦に対する治療の際,胎児への影響について注意を払うことが挙げられる。このなかで妊娠時の悪化は今までうっ血によるものと説明されてきたが,最近の研究から妊娠により増加する女性ホルモンは鼻粘膜内のリセプターに対する直接的関与や,アレルギー担当細胞に対して活性化することが明らかになり,うっ血だけで説明できるものではないことが明らかとなってきた。

 文献を検索していくと,花粉症患者の20~30歳の女性に多い謎もこの性ホルモンによるものと推測された。

 女性ホルモンの鼻粘膜の機能,免疫応答に及ぼす影響が大であることが次々と報告されていることから,われわれ耳鼻咽喉科医を標榜するものにとって,今後,思春期,妊娠,産後,更年期といったホルモンの変化によって鼻粘膜も影響を受けることを念頭に入れる必要があるとの印象をもった。ここでこれら詳細について文献を紹介しながら述べる(図1)。

4.頭頸部癌

著者: 瓜生英興 ,   冨田吉信

ページ範囲:P.307 - P.312

Ⅰ.はじめに

 頭頸部に発生する悪性腫瘍の組織型は扁平上皮癌が多く,主要な治療として手術や放射線,化学療法がある。治療方法は男女の区別はなく,頭頸部臓器の特性も脂肪や筋肉量などを別にすれば,特段違いがあるわけではない。

 一般的に女性より男性のほうが喫煙率や飲酒率が高いことを反映して,頭頸部癌の多くは男性の発症率が高いことが知られている。

 また治療方針は基本的に男女の区別はないが,妊娠可能な女性では治療中や治療後に妊娠,出産を経る可能性があり,そのことについての患者への配慮や説明が必要となる。さらに頭頸部癌の治療では機能の温存や整容性も求められる。このことは男女の区別なく大切なことではあるが,実際の臨床現場では女性患者のほうが整容性について注意を払う場合が多い。

 本稿では頭頸部癌における疫学的背景,診察・検査上の注意について述べる。次に,治療の総論的な内容を述べたうえで,手術・麻酔,化学療法の各論について述べる。また治療によって卵巣機能が喪失することが予想される場合の対応策について述べる。

 頭頸部癌のなかでは甲状腺癌は治療法,甲状腺ホルモン量の監視などで特有の疾患と考え,独立した項のなかで述べる。

5.女性にみられる不定愁訴

著者: 小林一女

ページ範囲:P.313 - P.318

Ⅰ.はじめに

 女性には妊娠,出産という役割があり,それに伴い月経,閉経という内分泌環境,性ホルモンが大きく変動する時期がある。このときの女性は身体的,精神的に多彩な症状を示し,うつ病の発症も多い。今回女性にみられる不定愁訴について,性ホルモンの変動時期に沿って解説する。

目でみる耳鼻咽喉科

視力障害をきたした蝶形骨洞真菌症の1例

著者: 村下秀和 ,   打田健介 ,   加藤修 ,   米納昌恵 ,   原晃

ページ範囲:P.276 - P.277

 蝶形骨洞真菌症ではその解剖学的位置により他の副鼻腔真菌症より視力障害を起こしやすい1)。またその視力障害の予後は術前の視力の程度と発症から手術までの期間によると考えられている2)。今回われわれは高度の視力障害で,発症2か月後に手術を行い視力の改善を認めた1例を経験したので報告する。

Current Article

疾患の違いによる好酸球の形態的特徴

著者: 渡辺建介

ページ範囲:P.279 - P.286

Ⅰ はじめに

 好酸球が主役を演ずると考えられる疾患はいくつかある。大きく分けるとアレルギー性疾患,寄生虫や真菌感染,そしてそのどちらにも属さず好酸球性炎症を引き起こす疾患群である。これらの異なった疾患群での好酸球の役割は異なっているのであろうか。それとも好酸球そのものは同じような働きをしているのであろうか興味のあるところである。

 人類の歩んだ苦難の歴史を振り返ると,人類は外来生物との戦いの連続であったことは確かである。生物群はウイルスや細菌のような顕微鏡レベルの微小なものと,寄生虫や真菌のような大型の生物群に分けられるであろう。生体防御のために外来から侵入した有害な異物の貪食作用を好中球がもっていることは広く知られている。しかし,好酸球にも貪食作用があることは知られているが,主要な役割が好中球と同様であるとは思えない。好酸球は寄生虫や真菌のような大生物が侵入したときに増加することを考えれば,好中球と好酸球では侵入生物の大きさで役割分担がなされていたに違いない。問題はアレルギー局所に好酸球が集まる理由について抗原貪食の観点からは明確な答えが出せないことであろう。

 そこで,各疾患で局所に集まる好酸球の形態学的特徴に差異があるのかを電子顕微鏡レベルで検討してみることにした。

シリーズ DPCに対応したクリニカルパスの実際―悪性腫瘍

④喉頭亜全摘術

著者: 清野由輩 ,   中山明仁 ,   岡本牧人

ページ範囲:P.319 - P.329

Ⅰ はじめに

 クリニカルパス(以下,パスと略す)は医療の標準化,チーム医療の推進,患者満足度の向上,医療精度の向上,医療経済的効果などのメリットがあり,近年,耳鼻咽喉科の臨床でも普及が進んでいる1)。当科での喉頭癌T3症例の治療方針は喉頭亜全摘術(以下,SCL-CHEPと略す)あるいは放射線化学併用療法であり2),このうちすでにパスを導入して運用している3)のはSCL-CHEPのみである。本術式のような新しい医療を導入,展開する際にパスを使用することはさまざまな点で有用であったので,当科におけるSCL-CHEPパスの導入と運用および改訂について報告する。

原著

舌扁平上皮癌T2症例の検討

著者: 塚原清彰 ,   吉田知之 ,   渡嘉敷亮二 ,   伊藤博之 ,   清水顕 ,   平松宏之 ,   清水重敬 ,   岡本伊作 ,   鈴木衞

ページ範囲:P.335 - P.337

Ⅰ.はじめに

 舌癌T2は最大径が2cmを超えるが4cm以下の腫瘍と定義されている。そのため腫瘍が表層のみに存在するものから,深部浸潤するものまで多岐にわたる。また施設により治療方針も異なるのが現状である。今回,1993~1998年の間に当科で行った舌癌T2の治療結果について文献と比較して検討する。

頸部食道に発生した巨大な脂肪腫の1例

著者: 小泉弘樹 ,   北村拓朗 ,   大淵豊明 ,   上田成久 ,   永谷群司 ,   若杉哲郎 ,   鈴木秀明

ページ範囲:P.339 - P.342

Ⅰ.はじめに

 食道腫瘍は他の消化管と比べて良性腫瘍の頻度が低い1)。食道良性腫瘍の大部分は平滑筋腫であり,これに対して食道脂肪腫は稀な疾患でわが国での報告例も少ない2)。治療は,発生部位,腫瘍の大きさ,茎の太さなどにより選択される。一般的には内視鏡的切除が治療の第1選択であるが,それが困難な場合は,外切開による摘出術が行われることもある。今回われわれは,硬性食道直達鏡下に摘出しえた巨大な頸部食道脂肪腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

鏡下咡語

古医学書と古書を求める楽しみ

著者: 加我君孝

ページ範囲:P.332 - P.334

 小中学校の頃から東京に行くことができたら行ってみたいところが2つあった。神田古本屋街と秋葉原の電気街である。私は北海道空知郡の美唄市で生れ育った。私の育った三菱炭鉱地区は当時は函館本線の美唄駅から支線でSLで30分の山の中にあった。月刊誌の『少年雑誌』や『子供の科学』を読んでは想像を膨らませた。神田神保町の古本屋街は古本屋ばかりと紹介されているが,なぜ競合してやっていけるのであろうか。雑誌『子供の科学』の後の色ページに載っているカタログにラジオのパーツや天体望遠鏡や各種模型キットを通信販売している秋葉原のラジオ街とはどんな所であろうか。運よく東京の大学に合格して上京するや否やまず訪れたのはこの隣どうしの2つの地区であった。現在でもよく訪れるが,神田神保町の古本屋街は建物が新しくなり美しくなったが中味は変わらない。一方,秋葉原は見かけも中味も大きく変わった。昔ながらの家庭電器製品の安売と電気部品を売る小さい店ばかりあったところに巨大な量販店が登場したことと,パソコンを売るIT街への変貌である。しかし小さな店の密集したラジオ街は健在である。

 折に触れ神田古本屋街を訪れるのが楽しみであることは今も変わらないが,夕方は6時30分には店を閉じ,日曜は閉店なのが残念である。昨年の8月末の神田古書祭りでは,古書会館で展示即売される本の目録が届いた。初めて作成したという。カラーページとリストがあった。これは趣味の本を探すのに便利である。カラーページには美麗で高価な本が並んでいる。

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あとがき

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.348 - P.348

 本年も4月を迎えます。本来,新しい入局者を迎え,華やいだ季節になるはずですが,新医師臨床研修制度の導入以来,蓋を開けるのが怖い季節に変貌しました。むろん,それまでの間に入局数のある程度の予測はできるのですが,4月にならないと最終決定にならないからです。編集子の教室でも,新システムが始まってから何人を予定してよいのか(ゼロの年もありました)わからないで困っています。

 耳鼻咽喉科・頭頸部外科の質を維持して発展させるためには,現状ではマンパワーが足りません。日本全国で,昨年と一昨年に日耳鼻に新耳鼻咽喉科医として登録された数は200名を切っています。この数は,新システムが開始される前の人数の6割に満たない数です。それまでは,その年に医師になった人数の約4 %が耳鼻咽喉科医になっていましたが,現在は2.5 %へ減少しています。このことは,耳鼻咽喉科医の希少性という点ではメリットかも知れませんが,一方で,マンパワーという面からはおおいに問題になります。耳鼻咽喉科医数は,2003年までは毎年少しずつ増加して10,779人になっています。しかし,新医師臨床研修制度開始から減少し,2005年には10,451名となり,その後は横ばいになっています。耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の医療水準を担保していくためには,今後の耳鼻咽喉科医志向者の増加が望まれます。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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