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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科80巻5号

2008年04月発行

雑誌目次

特集 オフィスサージャリー・ショートステイサージャリー

序文

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.5 - P.5

 本年の増刊号として『オフィスサージャリー・ショートステイサージャリー』を企画しました。耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の疾患で手術が最良の治療法であることが決定された場合,患者側のニーズが安全で確実な手術,早期に元の生活に復帰できる手術となるのは当然のことだと思います。これは,患者側だけでなく,社会全体のニーズでもあります。長期の入院は,患者だけでなく社会の損失にもつながるからです。われわれ耳鼻咽喉科・頭頸部外科医は,その患者あるいは社会的ニーズに正面から取り組み,応えなければなりません。手術手技の向上,手術器具の開発,外来・入院を含めたシステム全体の構築などが求められます。多くの医療施設ではこれらへの対応が進んでいますが,まだすべての点で対応ができ上がっているわけではありません。今後も,一層の努力が必要だと思います。一方で,これらの社会的ニーズがすべて適切かどうかは,また別の事項として考えなければなりません。同じ疾患であっても,その患者個人個人によって病態や合併症を含めた全身状態が異なるからです。すなわち,この疾患ならすべてオフィスサージャリーあるいはショートステイサージャリーの対象になるというものでないことも事実です。同一疾患であっても,人によっては少し長めの入院が必要な場合もあるからです。オフィスサージャリー・ショートステイサージャリーの適応に関する判断は,医師側にその責任があります。手術に際しては,医師の十分な説明と患者の同意が必要なことは論を待ちません。

1.耳介血腫穿刺・固定

著者: 下郡博明

ページ範囲:P.7 - P.10

Ⅰ はじめに

 耳介血腫は耳介の特異的な外傷であり,日常臨床で比較的よく遭遇する。耳鼻咽喉科医により,過去にその対応法について,多くの報告がなされている1~15)。多くはスポーツ,なかでもコンタクトスポーツと呼ばれるものが外傷の原因となることが多く,柔道,相撲,ラグビー,レスリングなどが挙げられる。そのため,スポーツ医学を扱う雑誌を含めた耳鼻咽喉科専門誌以外の雑誌にも,耳鼻咽喉科医による解説が多くなされている16~20)。また,時として原因のはっきりしない特発性のものもある1,5)。ここでは耳介血腫について簡単に概説を行うとともに,過去の報告でどのような治療法が紹介されているのか,報告者がどのような点をポイントとして強調しているのかを含めて述べる。また,筆者が行っている簡便法を紹介する。

2.耳介周囲の粉瘤手術

著者: 藤倉輝道

ページ範囲:P.11 - P.18

Ⅰ はじめに

 粉瘤(アテローム)はしばしば日常臨床で遭遇する疾患である。粉瘤はその内容物の性状に伴い,臨床の場で用いられている俗称である。Atheromaは粥状を意味し,動脈硬化病変の記載に用いられることが多い。欧米ではあまり粉瘤をatheromaと表記することはない。病理組織学的には有毛部に生じるepidermal cyst(類表皮囊胞,表皮囊腫もしくは囊胞)とtrichilemmal cyst,pilar cyst(外毛根鞘囊腫),さらに外傷などにより無毛部に生じるepidermal inclusion cyst,wen(表皮陥入囊胞)が含まれる。これと類似しているが皮様囊胞(dermoid cyst)は先天異常などで表皮が迷入したもので,真皮や皮膚付属器をもつものをいう。文字通り皮膚のような囊胞の意味である。側頭部や前額部に見られる稀な囊胞である。これに対し,epidermal cystは皮膚ではなく,その表皮の部分(dermis)に類似した(類表皮の)囊胞の意味である1,2)。402例の粉瘤の病理組織学的検討では,外毛根鞘囊腫は2.7%でほかは表皮囊腫(epidermal cyst)であったとの報告がある3)。表皮囊腫は毛囊漏斗上部(follicular infundibulum)もしくは被覆表皮(epidermis)に由来し,病態的に多くは毛囊,毛髪のターンオーバーの過程で皮脂腺管の閉塞に伴い生じた貯留囊胞である。以下,表皮囊腫を中心に述べるが,本稿では時に簡略化のため一部においてepidermal cystを単に『囊胞』と表記する。

 癒着を起こし閉塞した皮脂腺の排泄口が黒色面疱として観察されるが(図1),これが明確には認められない症例もある。角化の著明な重層扁平上皮で包まれた囊胞で内腔側にはケラチンと落屑角化物が充満している。皮膚科,形成外科,一般外科の外来でもしばしば見受けられる疾患である。男女比は約2対1で男性に多く,部位的には顔面,頸部,背部に多いと報告されている4)。耳鼻咽喉科では耳介周囲の病変としてしばしば治療に当たることになる。感染を合併して医療機関を受診することが多い。

3.先天性耳瘻孔摘出術

著者: 鈴鹿有子 ,   川上重彦

ページ範囲:P.19 - P.25

Ⅰ はじめに

 先天性耳瘻孔は胎生期の発生異常による先天性疾患で,耳介周辺に瘻孔が生じる体表の奇形である。耳瘻孔摘出術は耳鼻科のオフィスサージャリーの適応としては代表的な疾患の1つである。しかし無症状で治療の必要でないものも多いし,再発して数回の追加手術を余儀なくされる症例もある。オフィスサージャリーで根治を目的とするためには手術適応症例の選択が必要である。顔面につながるところでもあり,術後創もきれいになるよう,細心の心配りが必要である。

4.鼓膜切開術

著者: 廣瀬由紀 ,   欠畑誠治

ページ範囲:P.27 - P.38

Ⅰ はじめに

 鼓膜切開術は局所麻酔下で外来において施行可能なことから,耳鼻咽喉科において最も多く行われている『手術』の1つである。急性中耳炎・滲出性中耳炎などにおいて中耳貯留液をドレナージすることで,痛み・難聴といった症状を『即座に』改善させることができる。この『速効性』は薬剤では決して得られず,患者のQOLにとって非常に有効な手段である。しかし,中耳内には重要な器官が集約されており,安易に切開を行うと思わぬ合併症・副損傷を起こす可能性がある。鼓膜切開は,施行前に患者へそのメリット・デメリットを十分に説明し同意を得たうえで,細心の注意を払って行うべき『手術』である。

5.鼓膜チューブ留置術

著者: 岩崎聡

ページ範囲:P.41 - P.47

Ⅰ はじめに

 鼓膜チューブ留置術は,薬物治療や耳管通気に対しても治癒が困難な難治性の滲出性中耳炎や反復性中耳炎などに行う外科的治療方法である。Armstrong1)が1954年にポリエチレンの換気チューブを鼓膜に留置したのが始めである。一般的には外来にて,局所麻酔下で施行され,幼少児など特別な場合は全身麻酔による短期入院となる。術直後から自覚症状が改善される有効な手術療法で,日常診療でよく行われているが,今回は本治療法の再確認のために役立ててもらえればと考える。

6.鼓膜形成術(接着法)

著者: 須納瀬弘

ページ範囲:P.49 - P.58

Ⅰ はじめに

 慢性中耳炎は鼓膜に穿孔をきたして耳漏を反復する疾患である。穿孔を放置して炎症を反復すると,中耳では鼓室硬化症や耳小骨の破壊などの伝音障害が進行し,時に真珠腫の原因となる。また,内耳が障害されるとめまいや骨導閾値の上昇が起こる。穿孔を閉鎖して炎症を止めることが望ましいが,施設によっては手術に際して長期の入院を強いられたため,治療に対する敷居が高く,外来で耳洗浄のみを行う患者も少なくなかった。

 接着法は小さな皮膚切開しか要さず,低侵襲なため,外来での日帰り手術や1泊程度の手術が可能であり,手術をためらっていた多くの患者に大きな朗報をもたらした。開発した湯浅ら1)の報告からほぼ20年を経過した現在では,多くの成書に術式の解説がなされ,多数の施設で採用されている。外耳道が広い症例で,緊張部の小穿孔を閉鎖することは容易であり,中耳マイクロサージャリーの初学者がまず行う手術として位置づけることもできる。しかし,繊細な中耳を扱っていることを忘れてはならない。適応の判断と手術法を誤ると,穿孔が閉鎖しないばかりでなく,医原性の合併症を引き起こす可能性もある。本稿では,特に初学者を対象として,われわれが行っている接着法についてポイントとコツを記載したい。

7.鼻骨骨折整復術

著者: 大木幹文

ページ範囲:P.59 - P.64

Ⅰ はじめに

 オフィスサージャリーの適応については,2005年の日本耳鼻咽喉科学会総会でシンポジウムが開催された1)。そのなかで医療機関の条件と患者の条件としていくつかの項目が提案されている。医療機関の条件としては専門的技術に習熟した耳鼻咽喉科医の必要性,帰宅後のフォローアップの体制の確保が求められている。一方,患者と医師との信頼関係についても言及されている。したがって,オフィスサージャリーにおいては術後に入院管理が必要な場合を想定して施行する必要がある。

 このシンポジウムで佐藤1)は,鼻骨骨折整復術もオフィスサージャリーの一般的な適応術式として挙げている。鼻骨骨折は顔面の骨折のうち最も頻度が高い2)。外鼻への圧力の加わり方で骨の粉砕程度や変形はさまざまである。多くは当初,鼻出血で医療機関を訪れることが多い。さらに顔面の変形を本人の自覚あるいは第3者の指摘で顔面の骨折が疑われる。オフィスサージャリーで対応できる症例は鼻骨に限定した骨折であること。また,全身状態が良好であるものである。

 一方,鼻骨骨折に対するショートステイサージャリーを考慮する場合は,全身麻酔が必要であると考えられる場合であろう。ほかの顔面骨骨折を合併している症例では,止血タンポンガーゼ(後述)を抜去するまで入院を余儀なくされると考えられ,適応外と考える。したがって本稿では,比較的単純な鼻骨骨折について述べる。

8.鼻中隔矯正術

著者: 山田武千代

ページ範囲:P.65 - P.68

Ⅰ はじめに

 鼻中隔彎曲のほとんどは,身長が伸びるときに鼻中隔を構成する骨と軟骨にずれが生じて直線でなくなることに起因する。その他,外傷や口腔外科手術後に骨と軟骨にずれが生じ同様の彎曲が起こることもある。軽度異常の彎曲を含めると8~9割の外来患者に彎曲を認める。軽度の彎曲では症状がなく問題とならないが,副鼻腔炎,鼻茸,アレルギー性鼻炎,肥厚性鼻炎を合併すると,軽度の彎曲でも矯正することによって病態をより改善することが可能となる。鼻中隔矯正術は,鼻中隔変形に起因した鼻腔通気障害や嗅裂・中鼻道の狭窄と閉塞を解除して機能を正常化するために行う。

9.下鼻甲介手術

著者: 岡野光博

ページ範囲:P.69 - P.78

Ⅰ はじめに

 下鼻甲介手術の適応疾患としては,下鼻甲介の非可逆性の肥厚により鼻閉を生じる疾患,すなわちアレルギー性鼻炎や肥厚性鼻炎などが対象となる。下鼻甲介手術は大きく,①鼻粘膜を変性させることにより鼻粘膜の縮小と変調を目的とした手術と,②下鼻甲介組織の部分的な切除による鼻腔整復術に分けることができる。それぞれに長期的な有効性を向上させ,かつ出血や疼痛などの負担を軽減せしめる低侵襲な術式やデバイスが考案されており,下鼻甲介手術は原則的にオフィスサージャリー・ショートステイサージャリーが可能である。さらに下鼻甲介内を走行する後鼻神経末しょう枝も同定できるようになり,本神経を切断・焼灼などにて処理することにより,下鼻甲介手術は鼻漏や鼻過敏性の改善も期待できるようになった。本稿では代表的な下甲介手術の適応や安全性,成績などについて概説する。

10.鼻茸切除術(デブリッダー)

著者: 内藤健晴

ページ範囲:P.79 - P.84

Ⅰ はじめに

 耳鼻咽喉科手術の中で最も進歩した技術の1つに硬性鼻内視鏡と鼻内手術機器が挙げられる。従来,鼻内手術は額帯鏡下の照明によって前鼻鏡で広げられた鼻内を直視し,旧来の手術器具を駆使して個人の高い医療技術で局所麻酔下に行われてきた。しかし,術中の操作は術者しかみ見ることができず,その高い手術技量の継承には困難さと時間を要した。最近普及してきた内視鏡によって得られた画像所見は術者だけでなく手術助手,手洗い看護師,外回り看護師,学生も同時にみることができ,解剖学的位置,手術操作を同時に確認することができる。しかも,角度のある内視鏡による所見は,額帯鏡下では直視できなかった部分も明視下に置くことができる1)

 一方,鼻内手術器具としては,鼻茸絞断器,煎刃,鋭匙鉗子,麦粒鉗子,截除鉗子,骨彫刻刃,鋭匙など比較的出血を伴いやすい難しい器具を駆使して今までは鼻科手術を行ってきた。術中に吸引器で血液を取り除いたときにみえていた所見も,鉗子操作をしようとするときにはすでに新たな出血で覆われており,次の手術操作に入れず,また吸引をしなければならないという経験も少なくない。これは,内視鏡操作であっても同じで,先端を何度も清拭しなければならないことがある。この対策としては,出血を伴わない手術機器の使用,例えば,レーザーやアルゴンプラズマを用いることである2)。もう1つは,止血操作と手術操作が同時に行える手術器具,例えば,デブリッダーや吸引パンチを用いることである。また,術後出血対策として種々の素材が進歩し,後出血の心配が軽減されてきた3)

 このようなことから,手術操作が容易となり,手術時間が短縮され,後出血対策が整い,鼻科手術の入院期間は飛躍的に短縮した。こうした現状から,デブリッダーによる鼻茸摘出がショートステイサージャリーやオフィスサージャリーとして比較的頻繁に行われるようになってきた1)

 今回は,オフィスサージャリー,デイ・サージャリーで行うデブリッダーによる鼻茸切除に関して,機器,適応,施行上の注意などについて紹介することにする。

11.内視鏡下鼻内副鼻腔手術

著者: 春名眞一

ページ範囲:P.87 - P.95

Ⅰ はじめに

 慢性副鼻腔炎の病態の軽症化と内視鏡を中心とした光学機械の発展に伴って,内視鏡下鼻内副鼻腔手術(endoscopic endonasal sinus surgery:ESS)は世界的な標準術式になっている。その目的は,中鼻道自然口ルート(ostiomeatal complex)を開放して各副鼻腔自然口を可及的に開大し,換気と排泄機能を促し,洞内の粘膜を正常化させることにある1~3)。一方,社会情勢の変化とともに患者は入院期間の短縮を希望し,手術は両側の副鼻腔を1回の手術で済ますことが多くなった。しかしながら,入院期間の短縮は,手術内容の制限や術後の合併症発症の危険性が高くなると予想される。ショートスティサージャリーでのESSは,患者側の希望のみで決定すべきでなく,副鼻腔炎の病態,術後管理の仕方,合併症対策や患者の背景などを総合的に考えて選択すべきである。

12.喉頭蓋囊胞摘出術

著者: 讃岐徹治

ページ範囲:P.97 - P.102

Ⅰ はじめに

 喉頭蓋囊胞は日常よくみかける疾患であるが,自覚症状に乏しく,また機能的障害もきたしにくく,さらに視診上良性所見を呈することがほとんどであり,臨床的に注目されることはあまり多くはない。しかし囊胞が大きくなると咽喉頭異常感や嚥下障害をきたし,さらに大きくなると呼吸障害などの重篤な症状を惹起する疾患である。

 摘出に際しては,内容物や出血により気道閉塞の危険を考慮し,厳重な気道管理のもとでの手術を選択すべきであり,本稿では成人の喉頭蓋囊胞に対する直達喉頭鏡下手術を中心に述べる。

13.声帯ポリープ切除術

著者: 児嶋久剛

ページ範囲:P.103 - P.111

Ⅰ はじめに

 声帯ポリープは炎症や声の酷使,喫煙などが誘因となり,比較的急に発症する。発生部位としては声帯振動の激しい声帯膜様部中央付近に多く発生することから声帯の高速振動との何らかのかかわりが推測されている。声帯を病理学的にみると,表面から粘膜上皮,粘膜固有層浅層,声帯靭帯(粘膜固有層中間層,深層),声帯筋が層構造を形成している。なかでも粘膜上皮から粘膜固有層浅層に至る組織は声帯振動に不可欠とされている。声帯ポリープでは粘膜固有層浅層に出血やフィブリン析出,毛細血管の拡張,浮腫などの血管系の病変がみられる。以上のことから声帯ポリープの成因は声帯の高速振動という機械的刺激で引き起こされた粘膜固有層浅層の限局性出血と考えられている1)

 したがって,声帯ポリープの切除に当たっては主病変である粘膜固有層浅層の病変のみを切除し,他の組織はできるだけ温存することが望ましい。不用意な手術操作によってこの層構造を破綻させると声帯は硬く瘢痕化し,二度と正常な振動をもたらすことはない。声帯ポリープ切除手術に対する心得として,粘膜上皮と固有層浅層の組織切除は必要最小限にとどめること,声帯靭帯に及ぶ侵襲は差し控えることが大切である2)。つまり,手術に当たっては声帯粘膜が本来もつ物性をできるだけ損なわないように,かつきわめて正確に病変を切除する必要がある。この目的のために,当初局所麻酔下で行われていた声帯ポリープ切除術は次第に全身麻酔下の喉頭微細手術(ラリンゴマイクロサージャリー)へと置き換わり,これが確立された方法として広く行われるようになった。

 ところが近年,日帰り手術という考え方が生まれてくると,ラリンゴマイクロサージャリーには全身麻酔に伴う術前・術後の管理3)が必要であるという欠点が持ち上がり,これがオフィスサージャリーとして普及しない大きな理由となった。日帰り手術という観点から再び局所麻酔下の喉頭手術に注目が集まったのである。問題は局所麻酔下であっても病変をいかに正確に切除するかにあるが,これには近年の医療機器の発達がおおいに貢献した。すなわち,ファイバースコープの利用によってラリンゴマイクロサージャリーでの顕微鏡下に観察するのと同様,病変の範囲を正確に知ることが可能になり,安定した手術野が確保できるようになったことである4,5)

 近年,デイサージャリーユニットが発達し,全身麻酔の必要な手術も日帰り,あるいは,ショートステイで行うことも可能になっているので全身麻酔による欠点は幾分緩和されているものの,そういった施設をもつところでもラリンゴマイクロサージャリーに替わって局所麻酔下の喉頭手術の役割は増加している6~8)。その理由は挿管チューブがないので手術創,特に後部声門部が見やすいこと,手術中に患者の声をモニターできること,ストロボ光源を利用して声帯振動の状態を観察できること,そしてなにより,全身麻酔に比べて手軽なことが挙げられる。ただ,症例によっては局所麻酔下に手術野を確保することが困難な症例もあるので,現時点ではその適応をよく考えて局所麻酔下喉頭手術にするのか,全身麻酔下ラリンゴマイクロサージャリーにするのかを吟味する必要がある。

14.声帯囊胞手術

著者: 梅野博仁

ページ範囲:P.113 - P.121

Ⅰ はじめに

 声帯囊胞は声帯粘膜に生じる囊胞であり,嗄声の原因となる疾患である。声帯囊胞の手術はラリンゴマイクロサージャリーによる完全摘出が望ましいことは周知の事実である。しかしながら,薄い囊胞壁を損傷せずに周囲組織から剝離し,囊胞のみを完全摘出するには多少の技術を要する。また,症例によっては外来での内視鏡下手術を行っている施設もある。本稿では,最初に声帯囊胞の臨床における診断方法,声帯囊胞の分類について解説する。次に,声帯囊胞の手術について過去に報告された方法を紹介した後に,筆者が現在行っている手術方法を実際の症例を挙げて解説する。また,声帯囊胞摘出後と声帯囊胞を声帯上皮ごとに鉗除あるいは切除した後との異なる術式後の音声比較について,論文を引用して紹介する。最後に声帯囊胞に関連する稀な疾患として筆者らが過去に報告した声帯mucosal bridge症例を紹介する。

15.反回神経麻痺に対する手術

著者: 塩谷彰浩 ,   大久保啓介

ページ範囲:P.123 - P.128

Ⅰ はじめに

 一側性反回神経麻痺に対する代表的手術として,甲状軟骨形成術や披裂軟骨内転術,声帯内注入術が挙げられる。これら三者はそれぞれの特徴があるが,声帯内注入術は他の二者と比べ,頸部皮膚切開が不要で侵襲が小さく,オフィスサージャリー,デイサージャリーに適した手術といえる。

 声帯内注入術は声帯の外側に何らかの物質を注入して声帯を内方に移動させる術式であり,さまざまな注入物質が用いられているが,基本的概念は共通している。注入物質は古くはわが国ではシリコンが用いられ普及していたが,豊胸術などで起きた異物性の問題が指摘され,生産が中止されてしまった。その後新しい注入物質を模索する時代が続いたが,最近になり注入物質がやっと出揃ってきた感がある。現在用いられている注入物質の代表的なものとしては,アテロコラーゲン1),自家脂肪2),リン酸カルシウム骨ペースト(BIOPEX®3~5)がある。

 本稿では,筆者らが積極的に施行している声帯内BIOPEX®注入術を中心に述べる。

16.リンパ管腫など囊胞性疾患のOK-432注入

著者: 渡邊健一

ページ範囲:P.131 - P.138

Ⅰ はじめに

 耳鼻咽喉科・頭頸部領域における囊胞性疾患には,リンパ管腫,がま腫,正中頸囊胞,側頸囊胞などさまざまな病態が挙げられる。根治的には手術的摘出が推奨されてきたが,囊胞の性状によっては完全摘出が困難である症例が存在する。

 硬化療法は,治療後の囊胞が硬結として触知されることから名付けられ1),当初,小児囊胞状リンパ管腫の治療に用いられた。囊胞状リンパ管腫は,幼小児の側頸部に好発し,その多くは無症状に経過するが,時に巨大な腫瘤となり,呼吸困難,嚥下困難,顔貌変形を呈し,治療が必要となる。手術的摘出は,腫瘤が限局性で周辺組織に浸潤のない場合,全摘可能である。しかし,腫瘤の壁が薄く,周辺の神経,血管などから剝離することは必ずしも容易ではなく,顔面神経,舌下神経,反回神経などの神経障害,創感染,リンパ液漏出などの合併症の可能性がある。また,顔面,頸部に好発することから,創傷による美容上の問題も無視できない。こうした欠点を克服する目的で,硬化療法が開発された。

 1976年,由良ら2)が,bleomycinによる小児囊胞状リンパ管腫の硬化療法を初めて試みた。しかし,bleomycinは薬剤の性質上,肺線維症などの重篤な副作用の可能性があり3),幼小児に使用することに抵抗があることは否めない。そこで,荻田により,リンパ管腫が感染をきっかけに自然治癒し,OK-432(商品名Picibanil®)の皮内投与が局所に炎症を惹起するが損傷を残さないことに着目し,リンパ管腫の治療にOK-432を用いたと報告されている4)。Picibanil®の名称は開発略号がPC-B-45だったことから,ピ(P)シ(C)バ(B)ニールと命名され,OK-432は,治験番号がそのまま略号として使用されている。

 その後,リンパ管腫に対するOK-432を用いた硬化療法が有用であることが明らかになり,さまざまな囊胞性疾患に応用されるようになった4~9)

 本稿ではOK-432局所注入による囊胞性疾患の硬化療法をオフィスサージャリー・ショートステイサージャリーで行う場合の実際と有効性,さらに問題点について触れていきたい。

17.扁桃周囲膿瘍

著者: 坪田大

ページ範囲:P.139 - P.143

Ⅰ 扁桃周囲膿瘍の成因と病態

 扁桃周囲膿瘍は主として急性扁桃炎に続発して生じ,扁桃周囲間隙に炎症が波及して起こる。扁桃周囲間隙とは,側方を上咽頭収縮筋,前方を口蓋咽頭筋,上方を軟口蓋,下方を咽頭収縮筋から梨状窩に向かう粗な結合織で囲まれた部位で,正常な状態ではCT画像などにより同定することは困難な潜在性の間隙である1)。扁桃被膜は上2/3では明瞭で筋層との結合も緩やかであるが,下方1/3では筋層との結合が強く,被膜構造は不明瞭となる2)。そのため扁桃周囲膿瘍は上極側に生じやすい。炎症が扁桃から周囲に至る経路としては,扁桃炎が扁桃陰窩を超えて被膜外に及び,扁桃周囲炎から膿瘍形成に至ると考えられる。そして,さらに咽頭収縮筋を超えて炎症が広がると咽後間隙や副咽頭間隙に膿瘍を形成する。ただ,小児では扁桃被膜が成人に比べて強固であり,炎症が周囲に波及することは稀である(図1)。

 起炎菌はさまざまであるが,化膿性レンサ球菌,黄色ブドウ球菌,インフルエンザ菌などの好気性菌のほか,嫌気性菌が重要である3~5)。バクテロイデス属,ペプトストレプトコッカス属などの検出率が高い。例えば,第3回感染症サーベイランスの結果では扁桃周囲膿瘍を穿刺して得られた膿汁からは好気性が約4割検出され,うちレンサ球菌属の検出率30%,ヘモフィールス属が6%であるのに対し,嫌気性菌の検出率は約6割で,ペプトストレプトコッカス属が21%,プレボテラ属が20%,フソバクテリウム属が14%の順であったと報告されている6)。また西元ら7)は彼らの施設で扁桃周囲膿瘍の即時扁桃摘出術を行った94例中39例から嫌気性菌が検出され,内訳はバクテロイデス属,ペプトストレプトコッカス属,プレボテラ属,フソベクテリウム属などであったと報告している。

18.舌良性腫瘍の手術

著者: 片岡真吾

ページ範囲:P.145 - P.150

Ⅰ はじめに

 舌に病変を認めた場合,炎症性のものか,腫瘍性のものかを判断し,腫瘍性であれば,悪性腫瘍が疑われ治療を急ぐものか,良性腫瘍として治療を行うものかを判断する必要がある。良性腫瘍が疑われれば,病変の部位,深さ,大きさなどから局所麻酔下にオフィスサージャリーとして外来手術を予定するか,入院のうえ,ショートステイサージャリーとして治療を計画するかを決定しなければならない。外来で局所麻酔下に手術を行い帰宅させるオフィスサージャリーの要件としては,術創が小さく,短時間の手術で出血が少なく,術後のケアが不要であり,術後に浮腫や腫脹などにより呼吸障害をきたす可能性が非常に低いことなどが挙げられる1)。また帰宅先が,出血など術後合併症が生じた場合など,すぐに受診できるような場所にあることなども必要であるが,遠方であるならば,帰宅先の近くの病院と連携を取っておくことが必要であろう。血管腫などのように術中や術後に出血が予想される疾患や術創が比較的大きく,術後に浮腫などにより舌の腫脹をきたしたり,疼痛のため,摂食障害や構音障害,呼吸障害などをきたす可能性がある場合は,入院のうえ,ショートステイサージャリーとして対処すべきである。小児や恐怖心が強く十分な安静が得られないなどの理由で全身麻酔下に手術を行う場合,通常の施設では入院の上手術を施行し術後管理をする必要があると考える。

19.口唇囊胞摘出術

著者: 石島健

ページ範囲:P.151 - P.153

Ⅰ はじめに

 口唇粘膜に発生する囊胞は,日常の臨床においてしばしば遭遇する疾患であり,下口唇が好発部位である(図1)。通常はその性状から視診,触診にて容易に診断が可能であるが,自分で咬みつぶしたり,穿刺などの操作で修飾を受けると診断が難しくなることがある。自然消退は稀であるため,一般的には外科的治療が必要であり,比較的簡単に摘出可能である。

20.口内法による唾石摘出術

著者: 林達哉

ページ範囲:P.155 - P.158

Ⅰ はじめに

 唾石の多くは顎下腺およびその導管内に発生し,通常特徴的な症状と所見から診断は容易である。石の存在部位により,顎下腺内に石が存在する腺内唾石,顎下腺の排出管であるワルトン管内に存在する管内唾石,腺内でワルトン管に移行する部分に存在する移行部唾石に分類される。このうち,管内唾石と移行部唾石の一部がオフィスサージャリーあるいはショートステイサージャリーのよい適応となる。

21.いびきの手術

著者: 中田誠一 ,   宮崎総一郎

ページ範囲:P.161 - P.166

Ⅰ はじめに

 いびきに悩む成人はかなりの数にのぼると思われる。近年では,睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)の一症状や前段階とみなされ,家庭内での騒音問題からいびきを発する人自身への問題へと様相が変わってきた。この身近にあるいびきについて,日帰り可能な手術治療を中心に解説する。

22.小唾液腺生検

著者: 小池修治 ,   石田晃弘

ページ範囲:P.168 - P.175

Ⅰ はじめに

 唾液腺は,通常,大唾液腺と小唾液腺に分けられる。大唾液腺は,耳下腺,顎下腺,舌下腺からなる。小唾液腺は,口腔粘膜下に存在し,口唇腺,頰腺,臼歯腺,口蓋腺,舌腺に分類される。

 日常臨床においては,唾液腺腫瘍の90%以上は大唾液腺由来であり,小唾液腺由来の腫瘍の生検を行う機会は稀である。また小唾液腺腫瘍の大半は悪性腫瘍であることから,安易な生検は慎むべきである。したがって,通常にわれわれが外来で行う頻度が高いのは,口唇小唾液腺生検である。通常,口唇小唾液腺生検はシェーグレン症候群や原因不明の唾液分泌低下症の補助診断として行われる場合が多い。

 シェーグレン症候群は,涙腺,唾液腺におけるリンパ球浸潤により外分泌腺が破壊され,唾液分泌低下による口腔乾燥,涙液分泌低下による眼乾燥を主徴とする臓器時的自己免疫疾患である。また同時に他種類の自己抗体産生と全身性の臓器障害を伴い,リンパ増殖疾患を発症するユニークな全身性の自己免疫疾患でもある1~3)

 シェーグレン症候群での大唾液腺の主な病理組織変化は,①間質におけるリンパ球浸潤,②それに伴う腺房の萎縮と消失,③導管上皮と筋上皮細胞の増殖による筋上皮島の形成である。まずリンパ球の浸潤が唾液腺小葉内の導管周囲から始まり,次第にリンパ球浸潤が唾液腺全体にびまん性に広がり,腺房細胞が破壊されていく。また導管上皮は増殖し,導管内腔の狭窄や拡張をを生じて,典型例では筋上皮島が形成される4~6)。免疫染色では浸潤リンパ球の多くはCD4αβT細胞である7,8)。小唾液腺でも大唾液腺と同様の病理組織変化をきたすことが,シェーグレン症候群の剖検例での検討で明らかにされている1,9)

 シェーグレン症候群の診断については,これまでわが国あるいは欧米で種々の診断基準が存在するが9,11),いずれも小唾液腺組織における小葉内導管周囲の単核細胞の浸潤程度を診断の最も重要な指標としている。そのため侵襲の低さと簡便さから,小唾液腺である口唇腺の生検が行われる。本邦においては,厚生省改訂診断基準(1999年)10)に基づいて診断されている(表1)。

 本稿では,口唇小唾液腺生検を行ううえでの,知っておかなければならない解剖と手技について述べる,

23.頸部リンパ節生検

著者: 河田了

ページ範囲:P.177 - P.183

Ⅰ はじめに

 オフィスサージャリー,日帰り手術,ショートステイサージャリーを比較した場合,この順番に侵襲が大きな手術ということができる1)。オフィスサージャリーは一般に,診療所レベルで施行できる,原則として局所麻酔の手術と考えられる。日帰り手術は病院やサージセンターで行われ,主に全身麻酔で施行され,24時間以内に帰宅する手術と理解される。一方,ショートステイサージャリーは,1泊2日かせいぜい2泊3日の手術で,オフィスサージャリー,日帰り手術と比較するとやや侵襲のあるケースと思われる。短期入院や日帰り手術は時代の要請でもあり,今後ますます盛んになるものと考えられる。一方,病院(診療所)に滞在する時間の短縮は,術後の管理の面では不利であり,そのためにも確実で安定した手術準備,手技が要求される

 頸部リンパ節生検は摘出する部位にもよるが,オフィスサージャリーより日帰り手術やショートステイサージャリーに属すると考えられる。その理由として,頸部には狭い範囲に重要な神経や血管が走行すること,全身麻酔で施行するほうが安全であること,生検術を行う者(施設)とその後の治療を行う者(施設)が同一であるほうがよいこと,などが挙げられる。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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