22.小唾液腺生検
著者:
小池修治
,
石田晃弘
ページ範囲:P.168 - P.175
Ⅰ はじめに
唾液腺は,通常,大唾液腺と小唾液腺に分けられる。大唾液腺は,耳下腺,顎下腺,舌下腺からなる。小唾液腺は,口腔粘膜下に存在し,口唇腺,頰腺,臼歯腺,口蓋腺,舌腺に分類される。
日常臨床においては,唾液腺腫瘍の90%以上は大唾液腺由来であり,小唾液腺由来の腫瘍の生検を行う機会は稀である。また小唾液腺腫瘍の大半は悪性腫瘍であることから,安易な生検は慎むべきである。したがって,通常にわれわれが外来で行う頻度が高いのは,口唇小唾液腺生検である。通常,口唇小唾液腺生検はシェーグレン症候群や原因不明の唾液分泌低下症の補助診断として行われる場合が多い。
シェーグレン症候群は,涙腺,唾液腺におけるリンパ球浸潤により外分泌腺が破壊され,唾液分泌低下による口腔乾燥,涙液分泌低下による眼乾燥を主徴とする臓器時的自己免疫疾患である。また同時に他種類の自己抗体産生と全身性の臓器障害を伴い,リンパ増殖疾患を発症するユニークな全身性の自己免疫疾患でもある1~3)。
シェーグレン症候群での大唾液腺の主な病理組織変化は,①間質におけるリンパ球浸潤,②それに伴う腺房の萎縮と消失,③導管上皮と筋上皮細胞の増殖による筋上皮島の形成である。まずリンパ球の浸潤が唾液腺小葉内の導管周囲から始まり,次第にリンパ球浸潤が唾液腺全体にびまん性に広がり,腺房細胞が破壊されていく。また導管上皮は増殖し,導管内腔の狭窄や拡張をを生じて,典型例では筋上皮島が形成される4~6)。免疫染色では浸潤リンパ球の多くはCD4αβT細胞である7,8)。小唾液腺でも大唾液腺と同様の病理組織変化をきたすことが,シェーグレン症候群の剖検例での検討で明らかにされている1,9)。
シェーグレン症候群の診断については,これまでわが国あるいは欧米で種々の診断基準が存在するが9,11),いずれも小唾液腺組織における小葉内導管周囲の単核細胞の浸潤程度を診断の最も重要な指標としている。そのため侵襲の低さと簡便さから,小唾液腺である口唇腺の生検が行われる。本邦においては,厚生省改訂診断基準(1999年)10)に基づいて診断されている(表1)。
本稿では,口唇小唾液腺生検を行ううえでの,知っておかなければならない解剖と手技について述べる,