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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科80巻7号

2008年06月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

非機能性副甲状腺囊胞の1症例

著者: 重冨征爾 ,   山下大介 ,   和多田有紀子 ,   小形章

ページ範囲:P.428 - P.430

Ⅰ.はじめに

 非機能性副甲状腺囊胞は比較的稀な疾患で,無症候性前頸部腫瘤として見つかることが多い1)。今回われわれは非機能性副甲状腺囊胞の1症例を経験したので報告する。

Current Article

病態に対応しためまいの治療―特に難治症例への対応を中心に

著者: 渡辺行雄

ページ範囲:P.431 - P.442

Ⅰ はじめに

 めまい症例では,同一の疾患であっても病期,重症度,治療に対する反応などの病態は大きく異なっている。めまいの治療に当たっては,その病態に合わせるのは当然であり,そのためには,治療の選択肢をできるだけ広く確保する必要がある。本稿ではこのような観点から,耳鼻咽喉科で遭遇する急性期めまい,代表的な末しょう性前庭疾患である良性発作性頭位めまい症とメニエール病,治療に困難な事例が多い慢性・持続性めまい症例について,その病態に応じた治療,特に難治症例への対応を中心に概説する。

原著

耳下腺腫瘍手術症例の臨床統計

著者: 高野賢一 ,   吉岡巌 ,   小澤貴行

ページ範囲:P.445 - P.448

Ⅰ.はじめに

 耳下腺腫瘍は唾液腺腫瘍の約8割を占め1),耳鼻咽喉科の日常診療においてもしばしば遭遇する。しかし耳下腺腫瘍は多彩な組織型を呈し,解剖学的にも顔面神経との位置関係により,診断・治療に際してさまざまな問題が生じる。今回,われわれは当科で経験した過去の耳下腺腫瘍手術症例を対象に,診断や治療における問題点を検証し,若干の文献的考察を加え報告する。

Auditory nerve disease 3症例の前庭機能の検討

著者: 中村雅子 ,   加我君孝

ページ範囲:P.449 - P.455

Ⅰ.はじめに

 Auditory nerve disease(auditory neuropathy:以下,ANと略す)は,純音聴力に比べ,語音聴力が著しく低下するいわゆる後迷路性難聴の特徴を示す感音難聴である。両側性に生じ,ABR(auditory brainstem response)は無反応,OAE(otoacoustic emissions)は正常に保たれている。したがって,正常な内耳機能を保持し,障害は感覚細胞と蝸牛神経のシナプスあるいは蝸牛神経そのものにあると推測されている1,2)。この疾患の危険因子として,内有毛細胞と末しょう神経機能にとって重要な遺伝子(OTOF,PMP22,MP2,NDRGI)の異常,伝染性の疾患(耳下腺炎,髄膜炎)や周産期異常(無酸素脳症,ビリルビン血症)などが挙げられている3,4)

 現在まで聴覚障害に比べ,前庭障害についての報告は少ない。今回われわれはANと診断された3症例の神経耳科学的所見について聴覚障害と平衡障害に分けて検討したので報告する。

動眼神経麻痺を呈した副鼻腔炎の2症例

著者: 籠谷領二 ,   中屋宗雄 ,   鈴川佳吾 ,   金谷佳織 ,   渡辺健太 ,   山田智佳子 ,   石尾健一郎

ページ範囲:P.457 - P.462

Ⅰ.はじめに

 蝶形骨洞は種々の脳神経が通過する海綿静脈洞や視神経と隣接しており,蝶形骨洞に病変を有する副鼻腔疾患では視神経,外転神経,動眼神経などの脳神経症状をきたすことがある1,2)。そのため,副鼻腔真菌症や細菌性副鼻腔炎などの炎症性副鼻腔疾患では蝶形骨洞を経て海綿静脈洞に炎症が波及し,脳神経障害を呈することがあり,診断や治療の遅れから,症状の改善が得られない場合もある3)。副鼻腔疾患によって生じる動眼神経麻痺は,通常,視神経障害に伴って起こることが多く3),副鼻腔疾患による動眼神経単独の麻痺は稀である4,5)。今回,われわれの施設で副鼻腔炎による一側の動眼神経麻痺のみを呈した症例に対して内視鏡下鼻内手術(ESS)を行い,症状の改善を認めた2例を経験したので報告する。

下甲介血管平滑筋腫の1例

著者: 馬場優 ,   渡部高久 ,   田代昌継 ,   齋藤秀行 ,   小川郁

ページ範囲:P.463 - P.465

Ⅰ.はじめに

 血管平滑筋腫は四肢に好発する平滑筋由来の良性腫瘍であるが,鼻副鼻腔で比較的頻度が低く,下鼻甲介に発生した報告はわが国でこれまで11例のみである1~10)。今回われわれは下鼻甲介より発生した血管平滑筋腫症例で,血性唾液を主訴とした1例を経験したので報告する。

鼻腔に発生したdermoid cystの1例

著者: 行木一郎太 ,   加藤高志 ,   今西順久 ,   真栄田裕行 ,   富藤雅之 ,   重冨征爾 ,   行木英生

ページ範囲:P.467 - P.470

Ⅰ.はじめに

 鼻科領域にみられるdermoid cystは顔面正中線上に発生するものが大部分であり,鼻腔外側壁に発生するものは稀である1)。5歳女児の鼻腔外側壁に発見された,白髪を伴うdermoid cystの1例について報告する。

悪性リンパ腫と鑑別を要したEBウイルス感染症の2例

著者: 栗原里佳 ,   八尾和雄 ,   佐藤賢太郎 ,   臼井大祐 ,   中山明仁 ,   岡本牧人

ページ範囲:P.471 - P.475

Ⅰ.はじめに

 Epstein Barr(EB)ウイルス感染症の急性期は,細胞の異型性が強く,病理組織学的に悪性リンパ腫との鑑別診断が困難な場合があるとされている1)。特にEBウイルス感染の病巣になりやすい扁桃病変の鑑別診断には慎重を要する。われわれは他院の生検にて悪性リンパ腫と診断され,当院の臨床経過や検査により伝染性単核球症と診断した症例と,臨床経過から悪性リンパ腫を強く疑ったが病理組織診断にてEBウイルスの関与する炎症と診断した症例を経験したで,若干の文献的考察を加えて報告する。

機能温存ができた頸部迷走神経鞘腫の1例

著者: 馬場優 ,   渡部高久 ,   田代昌継 ,   齋藤秀行 ,   小川郁

ページ範囲:P.477 - P.480

Ⅰ.はじめに

 機能温存が重要視されるようになってきた今日,頸部神経鞘腫の手術では腫瘍の摘出に加えて最少の合併症,機能温存という要求を満たす必要がある。神経原性腫瘍で全摘出を行えば,術後の該当神経の脱落症状は必発である。神経の吻合や移植を行えば筋緊張は保たれるものの,神経機能が完全に回復することは決して多くない。腫瘍再発は避けねばならないが,QOLの面から神経原性腫瘍について神経機能は温存したい。

 今回,われわれは完全摘出をし,なおかつ神経機能温存が可能であった,頸部迷走神経鞘腫の1例を経験したので,報告する。

顔面,頸部ガス壊疽が生じた透析患者の1症例

著者: 渡辺麗子 ,   相馬啓子 ,   伊藤まり

ページ範囲:P.481 - P.485

Ⅰ.はじめに

 ガス壊疽とはガス産生を伴う壊疽性の軟部組織感染症のことであり,起炎菌により嫌気性グラム陽性桿菌であるクロストリジウム性とそれ以外の非クロストリジウム性に分けられる1,2)。今回われわれは透析中という易感染性の状態を背景に,顔面と頸部にガス産生を伴う皮膚の進行性壊死をきたした非クロストリジウム性ガス壊疽を経験した。非クロストリジウム性ガス壊疽の頭頸部領域における発生率は低いものの致死率は比較的高く2,3),早期の診断と早急な治療が重要である。自験例における治療経験を若干の文献的考察を加えて報告する。

シリーズ DPCに対応したクリニカルパスの実際―悪性腫瘍

⑥頸部郭清術

著者: 池田篤彦 ,   寺田聡広 ,   花井信広 ,   兵藤伊久夫 ,   長谷川泰久

ページ範囲:P.491 - P.497

Ⅰ はじめに

 クリニカルパス(以下,パスと略す)は医療管理ツールの1つとして,現在では全国の医療施設で幅広く浸透している。DPC(diagnosis procedure combination)が導入される病院が多くなっている現在において,パスを用いて在院日数を短縮する対応がなされているのも実状である。

 パスは1985年頃,アメリカMassachusetts州New England Medical Centerの看護師Zander1)によって考案された。治療の流れ,術後の注意事項などを患者・医療スタッフ間で共有することができる。このことから,今までよりもより良い治療を行うことができるようになった。また,患者の疾患治療に対する理解の深まりとともに自身の診療に積極的にかかわるようになることから,医療スタッフと共通の治療目標に向き合える利点があると考えられる。さらにパスを利用してインフォームド・コンセントの一助とすることもできる。頭頸部癌は原発部位が多岐にわたり,それぞれの症例数が多くはないうえに,同一疾患であっても病期や合併症の有無などにより治療方針が症例ごとに異なる場合が多い。そのため原発部位別にパスを作成するのは困難と考えられてきた。

 しかし頸部郭清術においては,大きな合併症が起こる場合は少なく,術後経過も比較的一定しておりパスの運用は十分可能である2)。郭清範囲により多彩な術後合併症の可能性はバリアンスの原因となり得るが,パスを使用する過程でバリアンスの発生は不可避であり,またそのバリアンスの分析は,医療の質の向上に重要な役割をもつと考えられる。

鏡下咡語

食料・エネルギー危機

著者: 森田守

ページ範囲:P.487 - P.489

 わが国の食料自給率が熱量ベースで39%,穀物重量ベースで27%に低下したことで話題になっているが,熱量自給率は10年前既に40%に低下しており,50%を切ったのが20年前なので,今更の感がなくもない。また発表されている数値に異論もある。熱量自給率の計算方法は,[(国民1人1日当たりの国産熱量996kcal)÷(国民1人1日当たりに供給されている熱量2,548kcal)]×100=39.1%から算出されているが,飽食状態で高率に残したり廃棄したりしている食糧も分母に入っているので,必要とされるカロリー数のみで算出すべきだというわけである。さらに現在国内で生産されている食料には,耕作機械,化学肥料,農薬,ハウス栽培など,多くの機材・資材が使われており,ほとんどといってよいほど石油製品を必要としていることも考慮すべきである。原子力を除いたエネルギー自給率が4%になってしまったわが国にとって,原油価格の暴騰は食料以上に深刻な問題かも知れない。これらの点を考慮すると,熱量ベースで20%,穀物重量で14%前後になってしまうという。

 自給率が低下する一方の日本と,一時は日本より低かった自給率を着々と改善し,現在では100%を超えている欧州諸国との差は際だっている。国内からだけでなく,国外からも将来が危ぶまれている状態はただ事ではない。社会から厄介者扱いされている後期高齢者の仲間入り目前のものには,長くてもあと10年の寿命なので,余計なお世話かもしれないが,それでも10年,20年後のわが国の食料・エネルギー事情はおおいに気にかかる。

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あとがき

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.504 - P.504

 本号(80巻7号)には興味ある症例報告が多数掲載されています。ベテランの先生にとっては過去に目にされたことのある論文タイトルですが,若手の先生にとってはとても有益な内容です。ベテランの先生でも改めて知識を整理したり,経験した疾患でも新しい文献的考察に触れることができると思います。従来から大学に入局した若手の先生は地方部会での口頭発表,次いで全国区の学会発表を行い,さらには国際学会発表なども経ていき,論文執筆としては症例報告,臨床統計,基礎的研究を邦文,英文いずれかで投稿するという流れがありました。これらすべてのことは臨床の現場でも何らかの形で役に立ってきたといえます。

 私が医師になったころはまだ論文のimpact factor(IF)やcitation indexなどの概念はなく,学位論文もほとんど日本語という時代でしたが,その後のglobal化に伴い論文は英文でという傾向にシフトしていった経緯があります。最近のように医師研修制度の変化により大学医局に入局しない先生が増えていくとすれば,発表,論文執筆という経験を経ず,従来と医師の教育の形態が変わってしまう可能性があります。本誌のような親しみやすい雑誌すら目にしない先生も増えるのではないでしょうか。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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