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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科80巻8号

2008年07月発行

雑誌目次

特集 嚥下障害手術のコツ

1.嚥下障害手術の適応

著者: 馬場均 ,   久育男

ページ範囲:P.519 - P.523

Ⅰ.はじめに

 手術は,嚥下障害の治療における重要な選択肢の1つである。嚥下障害の治療においては多くの診療科,職種が協力すべきであるが,手術は耳鼻咽喉科・頭頸部外科医の専門領域であり,また他科・職種から専門性を発揮することが期待されている。

 嚥下障害に対する手術治療は,誤嚥の防止を主目的とし,喉頭を形態的,機能的に犠牲にすることをいとわない誤嚥防止手術と,形態的,機能的に喉頭を温存したうえでの実用的な経口摂取を目的に行われる嚥下機能改善手術とに分類される。

 以下,誤嚥防止手術と嚥下機能改善手術の手術適応について論述し,嚥下障害治療においてしばしば問題となる気管切開術についても触れることとする。

 嚥下障害の治療は医療面以外の社会的な因子への配慮も重要であり,嚥下機能改善手術,誤嚥防止手術について手術適応の標準的な基準を定めることは現実には難しい。

2.神経変性疾患

著者: 兵頭政光 ,   西窪加緒里

ページ範囲:P.525 - P.530

Ⅰ.はじめに

 嚥下障害はさまざまな疾患により起こるが,神経変性疾患も主要な原因の1つである。神経変性疾患による嚥下障害は小児から高齢者まで広い年齢層にわたること,進行性であること,嚥下障害のみならず他の身体運動機能の障害を伴うことなどの特徴があり,おのずと脳血管障害や頭頸部癌による嚥下障害とは対応が異なることになる。外科的治療に関しても適応や術式の選択がしばしば問題となるが,適切に対応すれば患者のQOLや生命予後の改善につなげることができる。本稿では,神経変性疾患による嚥下障害に対する外科的治療の適応や手術のコツについて述べる。

3.脳血管障害

著者: 大前由紀雄

ページ範囲:P.531 - P.538

Ⅰ.はじめに

 脳血管障害に伴って発症する嚥下障害は,栄養障害や嚥下性肺炎の発症など生命予後に直結する。また,嚥下障害に伴う経口摂食の制限は,その後のQOLにも大きく影響する。近年,QOLの向上が求められるなか,嚥下障害に対する認識も高まり経口摂食の確立に向けたリハビリテーションが実施されている。しかしながら,保存的アプローチ法を駆使しても十分な経口摂食の確立や誤嚥の予防ができない症例に直面する場合もある。こうした症例では,手術の選択が治療への大きな糸口になる。

 本稿では,脳血管障害に伴う嚥下障害の病態を解説し,主として外科的治療の位置づけやその適応,代表的な術式のコツを解説する。

4.頭頸部癌術後

著者: 藤本保志

ページ範囲:P.539 - P.546

Ⅰ.はじめに

 頭頸部癌の手術治療における嚥下障害対策の第一は未然に防ぐことである。経口摂取獲得できるか否かについてはある程度予測可能であり1),癌の治癒の見込みとともに術後機能の予測に基づいた治療法選択が重視されるべきである。しかし本稿ではすでに起きてしまった術後嚥下障害への手術治療について述べる。つまり,手術を施行した施設以外での治療を念頭におく。

 “嚥下障害手術のコツ”を手術の効果を最大限に得ること,失敗しないことを目的と考えると,①症例の選択,②手術技能の双方が重要である。障害に対するリハビリテーションの一環として手術を位置づける必要があり,手術前後の訓練方法やゴール設定などについても十分吟味しておく。

5.嚥下障害の管理と手術時期

著者: 津田豪太

ページ範囲:P.547 - P.551

Ⅰ.嚥下障害の管理1)

 われわれ耳鼻咽喉科医は咽喉頭や頸部などの局所を観察・評価し,治療につなげることが得意であるが,その反面,患者全体の病状を掌握するのは比較的苦手である。嚥下障害はそれ自体が病名ではなくさまざまな疾患の1病態として現れるため,その管理のみならず観察・評価する際にも,やはりその原疾患やその他の合併症などを十分に理解する必要がある。局所のみをみてしまうと,喉頭麻痺であったり,咽喉頭の知覚低下による喉頭蓋谷や梨状陥凹への唾液貯留であったり,喉頭の挙上制限などが観察されたとしても,それはあくまでも現症であり,それが今後のどのように変化(改善も増悪も)していくのか,それとも現状のまま固定してしまうのかなどがわからないと,診察が治療方針の立案につながらず自己満足なものとなってしまう。

 そこで,管理の面から大切なことは治療対象となっている嚥下障害という病態が,今後,一般的にどのような経過をたどるのかという予後予測である。嚥下障害をきたす原疾患には多種多様であるが大きく分けてみると,原疾患自体が進行性で嚥下障害も増悪傾向になるもの,原疾患も嚥下障害も固定性のもの,原疾患自体は固定性で嚥下障害はある程度の治療期間を経て改善が望めるもの,原疾患が不安定で予想が立てられないものの4つになる。

目でみる耳鼻咽喉科

迷路内神経鞘腫の1手術例

著者: 松田圭二 ,   河野浩万 ,   長井慎成 ,   鳥原康治 ,   原由起代 ,   東野哲也

ページ範囲:P.510 - P.512

Ⅰ.はじめに

 迷路内神経鞘腫は,前庭腔,蝸牛,三半規管のいずれか,あるいは複数にまたがる稀な腫瘍である。今回,前庭腔内に限局した神経鞘腫の1手術例を報告する。

Current Article

鼻閉による睡眠呼吸障害とQOL低下

著者: 鈴木秀明 ,   宇高毅 ,   平木信明 ,   森貴稔 ,   橋田光一 ,   寳地信介 ,   北村拓朗

ページ範囲:P.513 - P.518

Ⅰ はじめに

 鼻閉は非常に頻度の高い上気道症状であり,急性鼻副鼻腔炎,アレルギー性・非アレルギー性鼻副鼻腔炎,鼻中隔彎曲症,鼻茸,肥厚性鼻炎,鼻・副鼻腔腫瘍など種々の疾患によってもたらされる。鼻閉は,頭痛,疲労感,睡眠障害,日中の眠気,注意力の低下,ひいてはQOLの低下など,鼻症状以外の症状をしばしば引き起こすことが知られている1,2)。こうした症状は日常活動や社会活動を低下させる原因となる。近年,アレルギー性鼻副鼻腔炎は,特に若年~青年~壮年期において増加の一途にあり,直接的な医療経済上のコスト増がもたらされるとともに,学業や就労における効率の低下が大きな社会経済的損失につながることが懸念される3)。本稿では,鼻閉によりもたらされる睡眠呼吸障害とQOLの低下について概説する。

原著

喉頭に発生した異所性唾液腺の1例

著者: 山口智 ,   三枝英人 ,   愛野威一郎 ,   中村毅 ,   小町太郎 ,   松岡智治 ,   角田晃一 ,   横山宗伯

ページ範囲:P.553 - P.556

Ⅰ.はじめに

 異所性唾液腺とは,通常の大唾液腺,小唾液腺の存在する部位以外の部位に唾液腺組織が存在するものをいう1)。異所性唾液腺は頭頸部領域に発症することが多く,特に外耳道から鎖骨内側縁を結ぶ仮想線上に発生することが多いと報告されている1)。しかし,喉頭へ異所性唾液腺が発生したとの報告はわれわれの渉猟し得た範囲ではわずか3例であった(表1)2,3)

 今回,われわれは喉頭に発症した異所性唾液腺の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

反回神経麻痺を生じた腺腫様甲状腺腫の1例

著者: 本橋玲 ,   荒木進 ,   飯村陽一 ,   塚原清彰 ,   鈴木衞

ページ範囲:P.557 - P.560

Ⅰ.はじめに

 甲状腺良性腫瘍において反回神経麻痺をきたすことは比較的稀である1,2)。今回われわれは,術前から腺腫様甲状腺腫によって反回神経麻痺をきたした症例を経験したので報告する。

シリーズ DPCに対応したクリニカルパスの実際―悪性腫瘍

⑦甲状腺:papillary carcinomaの症例

著者: 小澤泰次郎 ,   長谷川泰久

ページ範囲:P.565 - P.570

Ⅰ はじめに

 医療の標準化,医療の質的向上と効率化を追求する効果的な手段として,クリニカルパス(以下,パスと略す)を導入する施設が増加している。パスの定義としてSpath1)の示した『医療チームが共同で開発した,患者の最良のマネジメントと信じた仮説』がある。つまりパスの導入により,医療従事者全体のチームによるリスク管理対策,標準的医療の提供,術前術後管理のシステム化,医療資源の節約など質の高い医療を提供できることになり,それが最終的に患者のための最適な医療を提供できることとなると考えられている。甲状腺癌は症例数も多く,術後経過も安定しているためパスを導入している施設が多い。当科においても1999年12月から導入している。

 DPCとはdiagnosis procedure combinationの略で,従来の出来高払い方式とは異なり,診断群分類別包括支払い方式のことである。単に支払方式の改革だけではなく,良質な医療,効率的・効果的な医療,医療の透明化などを図るために実施されるもので,2003年より全国82の特定機能病院で導入が始まり,年々導入する施設が増加しており,当センターでも2008年4月より導入された。甲状腺癌で手術目的に入院した場合,DPCでは甲状腺悪性腫瘍手術ありと分類され,入院期間Ⅰ未満(1日当たり2,729点)は最初の5日間,入院期間Ⅱ未満(1日当たり2,017点)は6~10日,入院期間Ⅱ以上(1日当たり1,714点)は11~17日,18日以降は出来高払いとなっている。

⑦甲状腺:papillary carcinomaの症例

著者: 河田了 ,   吉村勝弘 ,   李昊哲 ,   竹中洋

ページ範囲:P.571 - P.580

Ⅰ はじめに

 クリニカルパス(critical pathway=clinical pathway:以下,パスと略す)は元来経営工学上の名称で,1950年代にアメリカで製造業における作業の円滑化,効率化,生産性の向上を目ざして作成されたものである。多数の工程に分割された作業を管理してコーディネートするための手法として考案されたのがその原型である。1980年代に入り,アメリカ,ニューイングランド医療センターのZander1)によって,効率の良い医療を目ざして,医療の世界に導入された。1983年に医療費抑制の切り札としてアメリカでは,DRG/PPS(diagnosis related group/prospective payment system)が導入されるに至り,パスは各病院で広く用いられるようになった。1990年代に入ってヨーロッパに広まり,わが国では1990年後半からパスを作成する病院が現れた。2003年から特定機能病院の入院診療において,DPC(diagnosis procedure combination)が導入され,その後そのほかの病院にも広げられ,今後ますますDPCは広がっていくと予想される。さらに最近の電子カルテ化の波を受け,新しいパスの作成の必要に迫られている。

鏡下咡語

耳鼻咽喉科の学校保健の変遷と歴史

著者: 神田敬

ページ範囲:P.561 - P.563

Ⅰ.はじめに

 学校保健に永年かかわってきた関係上,『鏡下咡語』に執筆依頼を受けたこの機会に学校保健のなかでの耳鼻咽喉科の変遷を書き残すことにした。戦後のベビーブーム時代の就学児童生徒数の多人数に対して耳鼻咽喉科医の数も少なくその対応に苦労された先達がいろいろと批判もあったが,『重点的健診』の案を企画され,対応してきた。学校保健の抱える問題点は複雑多岐で少子高齢化社会,都市化,核家族化,情報社会化などの社会環境やライフサイクルの変化が著しく,子どもたちの心身への影響は大きく,山積している現況である。

 耳鼻咽喉科学校医も各地で定期健診ばかりでなく健康教育,学校保健委員会活動で日頃活躍しており,平成19年度の日本耳鼻咽喉科学会の調査でも耳鼻科の健診率が約80%まで向上していることがわかり,よろこばしい限りである。

 なお,日本医師会では新しい学校医活動のなかに健康教育に力点をおいた学校医のあり方に方向性を示すことになり,日本耳鼻咽喉科学会学校保健委員会に助成金が給付され,『耳鼻咽喉科の健康教育マニュアル』を作成し好評を得ていることと,『学校保健のQ and A』を日本耳鼻咽喉学会HPに載せており,広く利用されていることを書きそえる。

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あとがき

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.588 - P.588

 新年度から多少時間がたち,読者諸兄もようやく人や体制が新しくなったことに適応できた頃だと思います。編集子の所属する大学でも,昨年度まで一緒に仕事をしていた2人の教授が定年を迎え,新しい教授が就任しました。自分の診療所などをもたないわれわれのような者にとって,定年は避けられない定めです。好むと好まざるとにかかわらず,定年はやってきます。編集子もあと2年弱で定年を迎えます。定年は人生の1つの区切りを強制的につけられるというシステムで,ある意味ではよいシステムだと思います。そのまま,一生その職務を続けることを思うと,むしろある年齢から後向きの思考になる可能性が大だと思われます。定年は,このような観点からすると,これを次への新しい出発点への区切りとして,新たなことを始めるきっかけを作ってくれるものかも知れません。これは,定年を前向きに考えれば,大きなメリットだと考えられます。したがって,決まった定年のない方々は,どのようにして1つの区切りをつけるのか,恐らくなかなか難しい判断になるのではないかと想像されます。一方,欧米にみられるように,定年を迎えてもアクティビティの高い人は,そのポジションにとどまって仕事を続けるシステムも考えてみてもよいかも知れません。この場合は,そのポジションにとどまるために,次の人のポジションを塞がないための工夫を明確にしておくことが必須条件になります。特に,基礎医学の研究者では,その個人が競争的研究補助金を獲得できるような実力と熱意があるのであれば,その人の研究場所を提供するようなシステムを日本でも早急に考えるべきでしょう。

 しかし,医学の勉強に定年はありません。本誌が,そのための手段の1つになれば幸いです。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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