icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科81巻1号

2009年01月発行

雑誌目次

特集 耳鼻咽喉科とチーム医療の実践(2)糖尿病合併者のステロイド療法

1.糖尿病患者のステロイド療法―当院における糖尿病合併患者のステロイド療法の検討

著者: 鬼頭良輔 ,   宇佐美真一

ページ範囲:P.19 - P.25

Ⅰ.糖尿病について

 近年わが国の糖尿病患者数は著しく増加し,40~74歳の中高年男性の32.2%,同年代の女性の31.5%が糖尿病有病者か予備群と推定されている〔平成17(2005)年度,厚生労働省『国民健康・栄養調査』〕。このような状況のなかで,耳鼻咽喉科疾患の治療に際して糖尿病あるいはその予備群の患者をみる機会は決して少なくないと思われる。

 糖尿病患者でステロイド薬使用が禁忌となることは基本的にはないとされているが,糖尿病性ケトアシドーシス,耐性菌による活動性炎症のある症例,重症血栓症や活動性消化性潰瘍のある患者では最大限慎重に投与すべきと考えられる。

2.糖尿病合併者のステロイド療法

著者: 肥塚泉

ページ範囲:P.27 - P.32

Ⅰ.はじめに

 日本人全体の97%がなんらかの病気を原因として死亡し,その97%のうちの約70%がいわゆる『日本人の三大死因』と呼ばれる癌,心臓病,脳卒中で占められている。糖尿病は,高血圧,肥満,高脂血症とともに『メタボリックシンドローム』と呼ばれ,これら『三大死因』のリスクファクターであることが知られている。なかでも糖尿病,高血圧,高脂血症の3つは,自覚症状が出にくいためサイレントキラー(沈黙の殺人者)とも呼ばれ,放置されることが多く,耳鼻咽喉科に受診あるいは入院した際に初めて,これらに罹患していることが明らかになることも多い。耳鼻咽喉科医が診断ならびに治療対象としている領域には,数多くの感覚受容器が存在する。これら感覚受容器が急激に障害を受けると患者のQOLに多大な障害をきたす可能性がある。突発性難聴や前庭神経炎などがその代表である。また喉頭や喉頭蓋の急性炎症は,上気道の急激な狭窄や閉塞をきたすことがあり,患者を死に至らしめることもある。

 これらに対しては,比較的高用量のステロイド(グルココルチコイド)が治療に用いられる。ステロイドが有す強力な抗炎症作用,免疫抑制作用による著明な改善効果が期待できるからである。反面,ステロイドは糖代謝への影響をはじめ,さまざまな副作用を有していることが知られている。本稿では,治療に際して比較的高用量のステロイドが使用されることが多い,突発性難聴や顔面神経麻痺を例に,糖尿病が合併した場合の具体的な対応法について述べる。

3.糖尿病合併者のステロイド療法―糖尿病患者の行動変容を目ざして

著者: 金子富美恵 ,   吉原俊雄

ページ範囲:P.33 - P.40

Ⅰ.はじめに

 合成グルココルチコイドは,臨床的にはステロイドと称されている。主に抗炎症・免疫抑制効果が薬理作用として重要であり,耳鼻咽喉科領域においても例外ではない。経口・経静脈・外用などさまざまな経路からの投与が可能であり,いわばトランプのJokerとでもいうべき薬剤である。副作用も多岐で深刻なものが多く,特に糖尿病患者への全身投与においてはほぼ必発で,血糖コントロールの悪化をきたす。しかし,糖尿病にかかわる他科の医師,看護師,管理栄養士などに適切なコンサルテーションを行って協力を得ることにより,非糖尿病患者と同様のステロイド治療を行うことは可能である。加えて,重篤化するまで自覚症状に乏しい糖尿病患者にとって,血糖コントロールの重要性を理解して行動できるようになる,いわゆる『行動変容』の良い機会ともなりえる。本稿では実際にステロイドを投与した糖尿病患者の症例を通して,コンサルテーションの手順と血糖コントロールの実際,患者への有効な情報提供について述べる。

目でみる耳鼻咽喉科

両側視力障害をきたした蝶形骨洞囊胞の1例

著者: 小町太郎 ,   後藤穣 ,   馬場俊吉 ,   八木聰明

ページ範囲:P.6 - P.8

Ⅰ.はじめに

 副鼻腔囊胞のなかで比較的稀とされている蝶形骨洞囊胞は,視力障害などの眼症状が主訴で気づかれることが多い。その視力障害のほとんどは一側性であり,両側に生じた報告は散見されるのみである。今回われわれは,蝶形骨洞囊胞により両側視力障害をきたした1例を経験したので報告する。

Current Article

好酸球性副鼻腔炎の病態と診断に関する問題点

著者: 松根彰志 ,   大堀純一郎 ,   吉福孝介 ,   黒野祐一

ページ範囲:P.11 - P.17

Ⅰ はじめに

 好酸球性副鼻腔炎は,『鼻茸や副鼻腔粘膜に著明な好酸球浸潤を認める難治性,易再発性の副鼻腔炎で,アスピリン喘息を含む非アトピー型喘息を高頻度に伴う』という理解が一般的と思われる1,2)。これに対する治療法として,現時点では,内視鏡下手術による可及的鼻茸の減量とステロイドの内服が2本柱である(表1)。

 ところで,好酸球性副鼻腔炎は,英語で直訳するとeosinophilic sinusitisとなるが,少なくとも最近まで欧米の専門誌ではこうした記載はみられなかった。2008年になって,上気道領域での2大好酸球性炎症である好酸球性中耳炎と好酸球性副鼻腔炎に関する,現時点でのわが国での臨床的な理解に基づく論文がそれぞれ国際誌に掲載された。そこでは,eosinophilic otitis mediaあるいは,eosinophilic chronic rhinosinusistisの病名で記述されている3,4)。とはいうものの,最近の欧米のガイドラインで,好酸球性副鼻腔炎は独立した疾患概念あるいは診断名としてはまだ扱われていない。わが国の『副鼻腔炎診療の手引き』(日本鼻科学会/編,2007年)でも,好酸球性副鼻腔炎という名称は記述されているものの明確な診断基準は示されていない5)

 本稿では,病態と診断について明確でない部分も多い好酸球性副鼻腔炎について,最近の報告や当科での症例検討などを交えていくつかの問題点などを論じることとする。

シリーズ 専門医試験への対応

―2.めまい・平衡障害を主訴とする疾患―2)ENGの読み方

著者: 岡田智幸

ページ範囲:P.45 - P.59

Ⅰ はじめに

 最近,めまい・平衡障害の診断には,さも画像診断が優先されるという感がある。しかしながら,現実問題として大脳灰白質の慢性虚血性変化は,めまいの発現に影響しないという報告1)がある。一方,急性めまいの代表である脳梗塞巣の完成には,3~6時間を要することが定説となっており,ENGを代表とする神経耳科学的検査が,その早期診断に有用である旨の報告が多数存在する2)

 めまい・平衡障害の診断の最終ゴールは,中枢性か末しょう性か否か,障害側が左右のいずれかあるいは両側性か,そして局在診断である。画像診断の適応は,中枢性めまいには,第Ⅷ脳神経症状以外の症状があるというように,詳細な神経学・神経耳科学的所見をとって,病巣局在の可能性があってはじめて成立すると思われる1)

原著

舌に発生した類上皮型血管内皮腫の1例

著者: 佐伯忠彦 ,   大河内喜久 ,   松本宗一 ,   榊優 ,   平野博嗣

ページ範囲:P.61 - P.64

Ⅰ.はじめに

 類上皮型血管内皮腫(epithelioid hemangioendothelioma:EH)は良性と悪性の中間に位置づけられる腫瘍であるが,舌に発生することは稀である。われわれが渉猟し得た限りではこれまでにEHと診断された報告は国内外で10例のみであった1~6)。今回われわれは舌に発生した類上皮型血管内皮腫の1例を経験したので報告する。

当科で経験した頸部交感神経鞘腫の3例

著者: 菅谷明子 ,   折田頼尚 ,   三木健太郎 ,   中井貴世子 ,   平井美紗都 ,   園部紀子

ページ範囲:P.65 - P.70

Ⅰ.はじめに

 頸部交感神経由来の神経鞘腫は比較的稀であり,わが国での報告は60例余りである1)。術前に神経脱落症状を呈することは珍しく,また画像所見で由来神経を確定するのは困難である。しかし,術後のホルネル徴候の出現により患者のQOLが低下するため,由来神経を予想したうえでの慎重な手術操作が必要となる。

 今回われわれは術前に神経鞘腫と予想された症例に,被膜間摘出術を施行し,術中・術後の経過より交感神経由来と考えられた3例を経験したので報告する。

悪性腫瘍が疑われた上顎洞血瘤腫の2症例

著者: 関根大喜 ,   吉田晋也 ,   岸博行 ,   緒方謙太郎 ,   上野万里

ページ範囲:P.71 - P.75

Ⅰ.はじめに

 血瘤腫は1917年に田所1)によって最初に報告された鼻副鼻腔の易出血性良性腫瘍の総称である。比較的稀な疾患であるが,臨床所見,画像所見から悪性腫瘍との鑑別が困難なことがある。今回われわれは,上顎洞の骨破壊を伴った腫瘤性病変に対し,当初,悪性腫瘍を疑い上顎洞根本術を施行したが,上顎洞血瘤腫であった2症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

--------------------

あとがき

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.82 - P.82

 昨年は財団法人日本高等教育評価機構の仕事で,ある大学の評価を行いました。作業は,大学からの自己評価報告書の提出を受け,書類上の評価に始まり,最終的には現地調査を含めて評価する,それなりに大事業になります。小生は,既に他の大学の評価を行った経験があるため5人の評価員の責任者(同機構では団長といっています)にならされました。大変な責任です。

 現代社会は,いろいろな面で評価社会ともいわれます。新聞などのメディアでは,評論家なる人が幅を利かせています。評論は責任を伴わないことが多く,間違っても謝りもしなければ前言を修正することもしないことが多いのが常のようです。例えば,数か月前に原油価格が1バレル100ドルを遥かに超えたとき,その道の経済評論家は今後1バレル100ドルを下回ることは決してないと明言していました。しかし,現在は1バレル50ドルという価格であることはご存知の通りです。しかし,これらの評論家は先を読んだ結果ということで,間違ったとはいわず,またすぐ100ドルになるという解説をしています。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

95巻13号(2023年12月発行)

特集 めざせ! 一歩進んだ周術期管理

95巻12号(2023年11月発行)

特集 嚥下障害の手術を極める! プロに学ぶコツとトラブルシューティング〔特別付録Web動画〕

95巻11号(2023年10月発行)

特集 必見! エキスパートの頸部郭清術〔特別付録Web動画〕

95巻10号(2023年9月発行)

特集 達人にきく! 厄介なめまいへの対応法

95巻9号(2023年8月発行)

特集 小児の耳鼻咽喉・頭頸部手術—保護者への説明のコツから術中・術後の注意点まで〔特別付録Web動画〕

95巻8号(2023年7月発行)

特集 真菌症—知っておきたい診療のポイント

95巻7号(2023年6月発行)

特集 最新版 見てわかる! 喉頭・咽頭に対する経口手術〔特別付録Web動画〕

95巻6号(2023年5月発行)

特集 神経の扱い方をマスターする—術中の確実な温存と再建

95巻5号(2023年4月発行)

増刊号 豊富な処方例でポイント解説! 耳鼻咽喉科・頭頸部外科処方マニュアル

95巻4号(2023年4月発行)

特集 睡眠時無呼吸症候群の診療エッセンシャル

95巻3号(2023年3月発行)

特集 内視鏡所見カラーアトラス—見極めポイントはここだ!

95巻2号(2023年2月発行)

特集 アレルギー疾患を広く深く診る

95巻1号(2023年1月発行)

特集 どこまで読める? MRI典型所見アトラス

94巻13号(2022年12月発行)

特集 見逃すな!緊急手術症例—いつ・どのように手術適応を見極めるか

94巻12号(2022年11月発行)

特集 この1冊でわかる遺伝学的検査—基礎知識と臨床応用

94巻11号(2022年10月発行)

特集 ここが変わった! 頭頸部癌診療ガイドライン2022

94巻10号(2022年9月発行)

特集 真珠腫まるわかり! あなたの疑問にお答えします

94巻9号(2022年8月発行)

特集 帰しちゃいけない! 外来診療のピットフォール

94巻8号(2022年7月発行)

特集 ウイルス感染症に強くなる!—予防・診断・治療のポイント

94巻7号(2022年6月発行)

特集 この1冊ですべてがわかる 頭頸部がんの支持療法と緩和ケア

94巻6号(2022年5月発行)

特集 外来診療のテクニック—匠に学ぶプロのコツ

94巻5号(2022年4月発行)

増刊号 結果の読み方がよくわかる! 耳鼻咽喉科検査ガイド

94巻4号(2022年4月発行)

特集 CT典型所見アトラス—まずはここを診る!

94巻3号(2022年3月発行)

特集 中耳・側頭骨手術のスキルアップ—耳科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻2号(2022年2月発行)

特集 鼻副鼻腔・頭蓋底手術のスキルアップ—鼻科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻1号(2022年1月発行)

特集 新たに薬事承認・保険収載された薬剤・医療資材・治療法ガイド

icon up
あなたは医療従事者ですか?