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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科81巻10号

2009年09月発行

雑誌目次

特集 放射線治療における有害事象

1.口腔・咽頭粘膜病変

著者: 師田まどか ,   伊丹純

ページ範囲:P.673 - P.676

Ⅰ.はじめに

 口腔・咽頭粘膜炎は,頭頸部癌の放射線治療における最も重要な有害事象の1つである。口腔・咽頭の粘膜炎により,疼痛や嚥下困難を引き起こし,照射中の患者のQOLを低下させる。また,照射終了後も遅発性の潰瘍形成などにより,経口摂取の低下が持続する要因の1つとなっている。近年では,手術や化学療法との組み合わせによる集学的治療により,治療成績が向上することが報告されているが,同時に粘膜炎などの有害事象の頻度も高くなることが懸念される。

 本章では,放射線治療における最も重要な有害事象である粘膜炎について,その頻度や病理学的特徴,その対策について中心に述べる。

2.唾液分泌機能低下

著者: 岩井大

ページ範囲:P.677 - P.682

Ⅰ.はじめに

 放射線治療における有害事象のなかで,唾液腺障害は悪性腫瘍を治療するという目的が優先されることもあり,第二義的に捉えられる傾向にある。しかし,唾液腺機能低下は唾液分泌低下を引き起こし,口腔乾燥・粘膜炎・感染症・歯牙腐蝕・味覚障害,さらに咀嚼・嚥下・構音・睡眠障害などの原因になり,患者のquality of life(QOL)を長期にわたり低下させることも稀ではない。

 本稿では,放射線照射による唾液腺分泌機能低下の機序・症状および対策について述べる。

3.上・下顎骨骨髄炎・壊死

著者: 飯田善幸 ,   鬼塚哲郎 ,   大田洋二郎

ページ範囲:P.683 - P.687

Ⅰ.はじめに

 放射線障害の最も重要なものとして放射線性顎骨骨髄炎・壊死(以下,放射線性顎骨障害とする)がある。ひとたび放射線性顎骨障害が生じると患者は長期間にわたって疼痛や悪臭などに悩まされ,骨折・瘻孔形成に至るケースも少なくない。咬合・咀嚼・構音・開口にも障害をきたし,QOLに与える影響は甚大である。いったん放射線性顎骨障害をきたすと,その治療は容易ではなく,頭頸部癌治療にかかわる医療従事者の十分な理解が必要である。

4.滲出性中耳炎

著者: 小川武則 ,   志賀清人 ,   小林俊光

ページ範囲:P.688 - P.692

Ⅰ.はじめに

 頭頸部癌診療において,放射線治療は重要な地位を占め,早期癌のみならず,進行癌においても効果的な治療とされている。部位としては特に上咽頭癌1)に有効性が高く,切除不能癌2)に対する治療の主体として,あるいは喉頭温存3)や,術後補助療法4)を目的に行われることが多い。

 しかし,放射線療法の有害事象として,照射野に側頭骨が含まれる場合に外耳炎・中耳炎・感音難聴,側頭骨壊死などを呈する症例もしばしば経験し,その1つとして滲出性中耳炎(OME)が知られている。放射性OMEの代表的な写真を図1,2に示す。

 本稿では,放射性聴器障害の1つであるOMEについて,上咽頭癌放射線治療例における発生頻度,臨床経過について述べる。

目でみる耳鼻咽喉科

外耳道に寄生したシュルツェマダニの1例

著者: 小柏靖直 ,   茂呂順久 ,   松尾智英 ,   甲能直幸

ページ範囲:P.670 - P.672

Ⅰ.はじめに

 シュルツェマダニはライム病の原因であるBorrelia burgdorferiを媒介することで知られ,体幹,頭部などへの寄生例はみられるが,外耳道に寄生することはきわめて稀である。今回われわれはシュルツェマダニが小児の外耳道に咬着した1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

シリーズ 専門医試験への対応

―5.横断的問題―2)外傷(顔面)

著者: 春名眞一

ページ範囲:P.695 - P.699

Ⅰ はじめに

 顔面外傷の受傷原因は,成人例では暴力,交通事故,スポーツが全体の2/3を占める1)。一方,小児においては,交通事故,スポーツが多く,喧嘩によるものが少ないのが特徴である。最近の成人例では鼻副鼻腔骨の気泡化の発育が良好で,スポーツや喧嘩による骨折,特に眼窩吹き抜け骨折の割合が増加している。一方,交通事故の増加などによる顔面の複雑骨折では,受傷部位が頭蓋,眼窩,歯に及ぶことが多く,緊急性を要す。特に,気道狭窄,ショック,頭蓋内合併症があれば,当然,それらの処置を優先する。その後に顔面の骨折による機能障害に対して診断および治療となる。鼻骨骨折,鼻中隔血腫,鼻中隔骨折,眼窩吹き抜け骨折,頰骨・上顎骨骨折,前頭骨骨折(Le FortⅠ~Ⅲ)が挙げられる。

原著

外科的治療を行った咽頭食道憩室症例

著者: 山本英永 ,   清水隆 ,   中山昇 ,   片岡佳樹 ,   寺谷直樹 ,   岩井輝 ,   本間博臣 ,   岡坂健司

ページ範囲:P.701 - P.704

Ⅰ.はじめに

 咽頭食道憩室はわが国では比較的稀な疾患である。その発生頻度は全消化管憩室の中で約1%と報告されている1)

 今回われわれは,輪上咽頭筋切断術・食道縦走筋切断術を行った結果,良好な術後経過が得られた咽頭食道憩室の症例を経験したので,若干の文献的考察を含めて報告する。

TPF療法が奏効した耳下腺原発と考えられる扁平上皮癌全身転移の1例

著者: 南和彦 ,   深谷卓

ページ範囲:P.705 - P.711

Ⅰ.はじめに

 耳下腺癌は症例が少なく,確立した治療方針はない1~4)。このため,施設ごとに治療方針が異なっている可能性がある。また,耳下腺癌は病理組織型が多彩であり5),それぞれの組織型が特徴的な腫瘍活性をもち,組織型と悪性度が予後因子の1つとなっている6,7)

 今回われわれは,耳下腺原発と考えられる扁平上皮癌,全身転移症例に対し,TPF療法(またはDCF療法,DOC 70mg/m2+CDDP 80mg/m2+5-FU 800mg/m2)を施行し,原発巣,リンパ節転移巣および遠隔転移巣の一時的ではあるが腫瘍が消失した症例を経験したので報告する。

鼻中隔より発生した悪性神経鞘腫の1例

著者: 櫟原崇宏 ,   荒木倫利 ,   森京子 ,   乾崇樹 ,   吉村勝弘 ,   萩森伸一 ,   東川雅彦 ,   竹中洋

ページ範囲:P.713 - P.717

Ⅰ.はじめに

 悪性神経鞘腫(malignant peripheral nerve sheath tumor:MPNST)は末しょう神経のSchwann細胞由来の肉腫であり,再発や遠隔転移が多く,一般的に予後不良である。特に一次性に比べ,von Recklinghausen病(以下,vR病と略す)に伴う二次性のものは予後がきわめて不良な疾患である1,2)。四肢や体幹部に多く発生し,頭頸部領域では比較的稀な疾患である3)。今回われわれは鼻中隔に発生した悪性神経鞘腫の1症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

迷路気腫を伴った外傷性外リンパ瘻の1例

著者: 中村高志 ,   豊田健一郎

ページ範囲:P.719 - P.721

Ⅰ.はじめに

 外リンパ瘻の確定診断を得るには,鼓室開放術もしくは内視鏡を用いて外リンパ液の漏出を確認する必要があり,術者の主観に委ねる側面もあって,診断率は報告するものによって大きく異なっている。今回,われわれは画像所見から外リンパ瘻を術前に確定診断できた迷路気腫を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

書評

口腔咽頭の臨床 第2版

著者: 髙坂知節

ページ範囲:P.694 - P.694

現時点で入手できる最高水準のテキスト

 この度,医学書院から第2版が刊行された『口腔咽頭の臨床』を手にして直感的に思ったことは,B5判からA4判に紙面が拡大するのにあわせて,内容が『小結クラス』から『大関クラス』へとレベルアップしたということであった。

 初版から10年を経過して,口腔咽頭科学を取り巻く社会的状況が大きく変化したことにも細心の注意を払いつつ,『いびきと睡眠時無呼吸症候群』,『摂食嚥下障害』,『構音障害』,『腫瘍』のテーマについて新しい章立てを行って十分に解説したことは,誠に的を射た編集方針であった。

プロメテウス解剖学アトラス 頭部/神経解剖

著者: 仲嶋一範

ページ範囲:P.723 - P.723

人体探検の素晴らしい案内人

 書評を書くに当たり,まずは解剖学実習を終えたばかりの現役の医学生たち数名に率直な感想を聞いてみた。いずれもとても高い評価であり,『こういう本を読みながら実習を進めれば,自分の解剖学の勉強もより効率的で奥深いものになっていたに違いない』という感想であった。そろってそのような感想が出てくるに足るユニークな特徴を,この本は有している。

 古典的で著名な複数のアトラスを含め,解剖学のアトラスは数多く出版されているが,本書は,単なる『地図帳』的なアトラスというよりは『図鑑』的であり,子どもの頃に夢中になって読んだ図鑑のように,いつの間にか引き込まれていろいろなページをめくり,熱中してしまうような面白さがある。医学生にとって必要かつ重要な情報が,コンピュータグラフィックスによる洗練されたわかりやすい画像情報に乗って快適に展開される。情報量は大量であるにもかかわらず,楽しみながら読み進めるうちに知らず知らずのうちにさまざまな知識が身についていくものと思う。

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あとがき

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.730 - P.730

 私が『耳鼻咽喉科・頭頸部外科』誌にかかわった時期は1982年(昭和57年)に『上顎に発生したspindle cell squamous carcinomaの1例』という症例報告をはじめて書いたことに始まります。当時は『耳鼻咽喉科』という雑誌名で多くの論文投稿がみられ,日本耳鼻咽喉科学会会報が研究論文(学位論文が多くを占める)を中心とする一方,本誌が臨床論文の雑誌として広く親しまれ,今日まで脈々とその伝統は引き継がれています。これまで自著,医局員との共著を調べたところ50編前後,本誌にお世話になっております。

 久保猪之吉先生創刊(1928年)の本誌ですが,1962年以降に編集に携わられた先生方は同欄右側に掲載しております大和田健次郎先生,佐々木好久先生,曽田豊二先生,坂井 真先生,故小田 恂先生,八木聰明先生,竹中 洋先生,そして私と現在まで深くかかわらせていただいています。竹中先生は学長職に就任され編集委員を勇退されて編集顧問になられますが,これまでの企画のアイデアなど目を見張るものがありました。心より感謝申し上げます。竹中先生の後任として新しく丹生健一先生が編集委員を担当されます。さらに内容の充実した雑誌になると確信しております。今後は興味ある企画とともに,やはり原著論文投稿,特に臨床医にとって貴重な症例報告を大切に考えて編集していくことになります。可能であれば,オンラインや何らかの形で英文の症例報告も受理していくことができればと思います。若い先生方の英文投稿のトレーニングにもなるはずです。この『あとがき』を書いております本日は,専門医試験(初日)が行われている真っ最中です。本誌の企画にあります『シリーズ 専門医試験への対応』が少しでもお役に立てば幸いです。また,もう1つ,特集として何回かテーマを変えて掲載させていただいております『耳鼻咽喉科専門研修を始める医師へ』も臨床の現場で若手の先生に役立つようベテランの先生方に執筆していただいています。入局後に本誌を活用いただくことにより専門性を高めるにあたり先生方の血となり肉となることを期待しています。また多くの先生方の投稿をお待ちしております。よろしくお願いいたします。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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