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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科81巻11号

2009年10月発行

雑誌目次

特集 聴覚障害を生じる薬物

1.点耳洗浄

著者: 萩森伸一

ページ範囲:P.747 - P.752

Ⅰ.はじめに

 点耳・耳内洗浄は外耳および中耳の炎症性疾患治療として頻用される。鼻疾患に対するネブライザー療法と同様,高濃度の薬剤が直接病変に到達することで速やかな消炎が期待でき,文献的にも穿孔を有する中耳炎1),鼓膜換気チューブ留置中の耳漏を伴う急性中耳炎2~7),慢性化膿性中耳炎1,8)における局所点耳の有用性が報告されている。反面,外耳道皮膚や鼓膜,中耳粘膜に対する薬物の影響も大きく,局所刺激による疼痛や炎症の増悪に注意する必要がある。また解剖学的に中耳は正円窓および卵円窓を介して内耳と接しており,特に正円窓膜は薬剤透過性を有することから,点耳・洗浄時には薬剤の内耳毒性についても留意しなければならない。

 本稿では点耳・耳内洗浄に使用されている代表的な薬剤について,聴器毒性を中心とした副作用について述べる。

2.抗菌薬(アミノグリコシドを除く)

著者: 織田潔 ,   小林俊光

ページ範囲:P.753 - P.758

Ⅰ.マクロライド系抗菌薬

 エリスロマイシン(商品名エリスロマイシン)は初めてのマクロライド系抗菌薬であり,1950年代早期より肺炎球菌性肺炎,レジオネラ肺炎,マイコプラズマ肺炎などの市中肺炎に対して広く使用されている。成人に対してはエリスロマイシンとして1日800~1,200mg(力価)を4~6回に分割経口投与する。また,より最近では,びまん性汎細気管支炎,慢性副鼻腔炎,滲出性中耳炎などに対する低用量投与も行われている。

 1991年と1992年に米国食品医薬品局がクラリスロマイシン(商品名クラリス)とアジスロマイシン(商品名ジスロマック)を認可した。導入以来これらの新しいマクロライド系抗菌薬は呼吸器感染症,性感染症,ヘリコバクターやマイコバクテリア感染に対して用いられてきた1)。クラリスロマイシンはエリスロマイシンの修飾によって生まれた半合成マクロライドである。静菌的で時間依存性の抗菌薬であり,成人での1日量は400mg/日である。アジスロマイシンは1日1回500mgを3日間投与,効果は7日間持続する。尿道炎,子宮頸管炎に対しては1回1,000mgを投与し,有効な組織内濃度が約10日間持続する。アジスロマイシン600mgは後天性免疫不全症候群(エイズ)に伴う播種性マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)症の発症抑制および治療が適応症である。現在,耳鼻咽喉科での日常診療で使用されているマクロライド系抗菌薬は,クラリスロマイシンが主流である。

3.薬剤と遺伝子

著者: 宇佐美真一

ページ範囲:P.759 - P.767

Ⅰ.ゲノムと薬剤

 個人によって薬剤の効果が異なること,あるいは副作用の出方が異なることは以前から経験上よく知られていた。近年ヒトゲノムの解明が進み,このような薬物応答性の違いの要因の1つに遺伝的素因(種々の遺伝子の多型)があることが次第に明らかになってきた。医薬品の有効性をゲノムの面から研究する分野,すなわち遺伝子情報に基づいて医薬品の選択と投与量設定などを行おうというのがファーマコジェノミクス(pharmacogenomics,薬理ゲノム学)と呼ばれる研究分野で個別化の医療として注目されている。一方,薬剤の副作用が生じる原因を遺伝子レベルで調べる研究はトキシコゲノミクス(toxicogenomics)と呼ばれ,遺伝子レベルでの毒性予測が可能であることから同様に医療の個別化に関連して注目されている。薬剤に対してあらかじめ有効性の高い患者を前もって選別し,副作用を回避することができれば,無駄のないより効率的でより安全な薬物治療が可能となる。すでに抗癌剤を中心に臨床でも遺伝子情報を投薬につなげるファーマコジェノミクスの実用化拡大が進んでいる。肺癌の治療薬であるゲフィニチブ(商品名:イレッサ)の有効性を調べる検査としてすでにEGFR(上皮細胞成長因子受容体)遺伝子検査が実用化されている。また大腸癌の第一選択薬となっているイリノテカン(商品名:カンプト注,トポテシン)については解毒酵素UGT1A1遺伝子のプロモータに存在する繰り返し配列の多型をもった患者は代謝速度が遅いため,投薬量を低減しないと副作用が強く出ることが明らかになっており遺伝子型を判別して副作用の回避目的に利用が開始されている。将来的には種々の薬剤に関してこのような薬物治療の個別化が一般的になっていくことが期待されている。

4.白金製剤,ループ利尿剤,サリチル酸剤,その他

著者: 山本裕 ,   髙橋姿

ページ範囲:P.769 - P.772

Ⅰ.はじめに

 聴覚障害をきたし得る全身投与薬剤としてはアミノ配糖体が最も有名であるが,そのほかにも多くの薬剤で聴覚障害の可能性が指摘されている。そのなかで比較的臨床像が明らかになっている白金製剤,ループ利尿剤,サリチル酸剤などに関して,薬剤の概要と聴覚障害の臨床像,病態,対応法を概説する。

Current Article

片頭痛性めまい―その病態の解明にむけて

著者: 室伏利久

ページ範囲:P.737 - P.745

Ⅰ はじめに

 『めまい』はさまざまな疾患において生じる症状であり,その病巣・病態とも多岐にわたる。メニエール病や良性発作性頭位めまい症のように病態の解明が比較的進んでいる疾患も少なくないが,一方で,その頻度が高いにもかかわらず,依然,病巣や病態が不明である疾患もある。『片頭痛性めまい(migraineous vertigo:MV)』もその1つではなかろうか。わが国の耳鼻咽喉科医のなかでは,そうした疾患概念があること自体あまり認知されていないというのが実情であり,最近の文献を除くと,報告は少数にとどまる1)。潜在的には多くの症例が存在すると考えられる『片頭痛性めまい』について,われわれの行った臨床研究を含め,これまでの知見について紹介し,その病巣や病態について考察する。

原著

外耳道に発生した黄色肉芽腫の1例

著者: 井口広義 ,   春田友佳 ,   山根英雄 ,   若狭研一

ページ範囲:P.775 - P.778

Ⅰ.はじめに

 黄色肉芽腫(xanthogranuloma)は,主として乳幼児の頭部や顔面に好発するという特徴から,一般的に若年性黄色肉芽腫としてよく知られている1)。しかし,同様の組織学的所見を示す成人発生例が1963年に報告されて以来2),成人発症の黄色肉芽腫症例が多数報告されている3)。黄色肉芽腫は頭部や顔面に好発するとされるものの,これまでの報告上,外耳に発生することは稀で,わが国では皮膚科から3例の報告があるものの2,4,5),外耳道発生例の報告はない。今回,われわれは成人男性の外耳道に発生した黄色肉芽腫症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

シリーズ 専門医試験への対応

―5.横断的問題―3)耳鼻咽喉科領域主要感染症

著者: 鈴木賢二

ページ範囲:P.780 - P.785

Ⅰ はじめに

 耳鼻咽喉科領域は,呼吸器の最前線に位置しており,特に鼻・咽頭・喉頭は上気道と呼ばれ,侵入する病原微生物・アレルゲンなどと生体が初めて接する部位であり,感染症の好発部位となっている1)

 本稿では,耳鼻咽喉科領域の代表的感染症である急性中耳炎,急性副鼻腔炎,急性扁桃炎,扁桃周囲炎(扁桃周囲膿瘍)を取り上げ,それぞれの疾患において耳鼻咽喉科専門医として必要とされている知識・技術や鑑別診断につき概要を述べる。

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あとがき

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.794 - P.794

 衆議院議員選挙は,民主党の圧倒的勝利という結果で幕を閉じました。長く続いて,多くのほころびが露呈した自由民主党の政治に,国民がノーといい,新しい方向性を選択した結果と解釈するのが最も素直な見方でしょう。国民の多くは将来を睨んで前向きに考えたからこのような投票行動を行ったのでしょうが,いわゆる3大新聞やテレビをはじめとする多くのメディア関係者は,どうも後ろ向き思考が好きなようです。過去の自由民主党の政治をある程度批判しながらも,同列に今後の民主党の政治の不安ばかりを指摘していて,これを機会に新たに日本の未来を創造しようというような論説は全くありません。ついこの間行われた高校野球でもそうですが,何かが終わると反省会をするというのが日本人の特性かもしれません。反省はよいのですが,それはあくまでも次のステップに生かすためのものでなくてはなりません。つまり,振り返ってみることは重要ですが,それに続く前向き思考がなければ振り返りは何の役にも立ちません。

 論文を書くこともそれに似ていると感じています。例えば,症例報告をするのは,その症例を通して新たに学んだことなどをまとめることによって,著者が将来同じような例に遭遇した場合に,より的確な診断や治療を行うことにつながるはずです。また同時に,そのような例に遭遇していないであろう多くの読者に,論文を通して自分と同じ経験をしてもらうためにも重要な意味をもっています。すなわち,症例報告や統計的な症例検討は,決して後ろ向きの作業ではなく,きわめて前向きな作業であるということです。

 そのような意味でも,多くの優れた症例報告や臨床統計の論文の投稿を期待しています。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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