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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科81巻12号

2009年11月発行

雑誌目次

特集 耳鼻咽喉科専門研修をはじめる医師へ―外来手技とインシデント・アクシデント

1.耳管通気・鼓膜切開

著者: 山本裕

ページ範囲:P.813 - P.819

Ⅰ.はじめに

 耳管通気が耳鼻咽喉科日常診療において行われる頻度は減少していると考えられるが,本手技が耳鼻咽喉科医にとって最も基本的な手技の1つであることに変わりはない。なぜならば本手技は外界と隔絶された中耳腔に,非侵襲的にアクセスする唯一の手段であるからである。

 抗菌薬の進歩により中耳炎の制御は比較的容易となったが,鼓膜切開の果たす役割は今なおきわめて大きい。また近年,薬剤耐性肺炎球菌などの出現により保存療法のみでは制御できない急性中耳炎が増加しており,鼓膜切開術の重要性が再認識されている。

 一方,耳管通気や鼓膜切開により稀ではあるが重篤な合併症が生じることがある。本稿では耳管通気,鼓膜切開を習得,施行する際に必要な局所解剖,安全な施行法,起こりうる合併症と防止法,対処法を概説する。

2.扁桃周囲膿瘍穿刺・切開

著者: 新谷朋子

ページ範囲:P.820 - P.826

Ⅰ.はじめに

 扁桃周囲膿瘍は急性扁桃炎に続発して生じ,耳鼻咽喉科の日常診療ではしばしば経験される疾患である。膿瘍の穿刺または切開は外来で施行可能で症状を直ちに軽減させることができるので耳鼻咽喉科医としての専門性が高く,有効な治療法であるが,一方でリスクの比較的高い手技であるため解剖学的な位置関係を理解したうえでの施行を要する。また適切な治療で多くは改善するが,炎症が周囲に波及すると副咽頭間隙,咽頭後間隙に進展し,さらに縦隔洞にまで及ぶと生命を脅かす危険性もあるので,その診断,治療の選択においては迅速かつ的確な対応が望まれる。

 医療におけるアクシデントは,『医療の全過程において発生するすべての事故のうち,患者に何らかの被害が及んだ事例』であり,インシデントは,『患者に被害を及ぼすことはなかったが,日常診療の現場で“ヒヤリ”としたり“ハッ”とした経験を有する事例』とされる。扁桃周囲膿瘍の診療のリスクマネジメントにおいては,診断,穿刺,切開術の手技と起こりうるアクシデント,インシデント,再発の可能性を含めて熟知し,事前に十分なインフォームド・コンセントを行うことが必要である。

3.穿刺吸引細胞診,頸部リンパ節生検

著者: 古川まどか ,   古川政樹

ページ範囲:P.827 - P.835

Ⅰ.はじめに

 頸部腫瘤性疾患の診断は,問診,触診,画像診断などの非観血的な方法から始める。内視鏡や超音波診断,PET-CTといった画像診断をはじめとするさまざまな診断技術の普及により,頭頸部領域の原発巣診断や,頸部腫瘤性疾患の診断推定は以前より容易となった。しかし,これら非観血的な方法で診断がつかない場合や推定される診断を最終的に確定するためには,診断時期を失しないように穿刺吸引細胞診の速やかな実施が必要になる1~3)。さらに,リンパ節疾患のうち,穿刺吸引細胞診でもどうしても確定診断に至らない例や,悪性リンパ腫のように,確定診断をつけるために免疫組織学的検査を含めた組織診断が必須の疾患が疑われる場合には頸部リンパ節生検が必要となる4)

 一方,穿刺吸引細胞診や頸部リンパ節生検は,インシデント・アクシデントの危険性を常に伴う侵襲的検査なので,いきなりこれらの手技を施行することは避けるべきで,適応は厳密にしなければならない。外来で穿刺吸引細胞診やリンパ節生検を施行する際は,患者が不安なく検査を受け安全に帰宅できること,可能な限り1回の検査で,確実な情報を得られるようにすることが求められる。

4.鼻出血止血(処置)

著者: 竹野幸夫 ,   中下陽介

ページ範囲:P.837 - P.844

Ⅰ.はじめに

 鼻出血は一般診療で耳鼻咽喉科医が頻繁に経験する疾患である。このうち原因として最も多いのは指先などの物理的刺激などによる特発性の鼻出血であり,最も頻度の高い出血部位は,キーゼルバッハ部位である。これらによるものが鼻出血全体の約70~90%を占めるとされている1)。本部位からの出血の場合,ほとんどは鼻翼を指で押えるなどといった局所の圧迫で対応すれば止血する場合が多い。一方で鼻腔後方からの出血の場合などでは,なかには止血に難渋する例を経験することもあり,その対応や処置法を熟知しておく必要がある。今回は鼻出血への対応や止血処置法につき,一般的手技や注意事項を中心に述べる。

5.異物摘出

著者: 片岡真吾

ページ範囲:P.845 - P.851

Ⅰ.はじめに

 耳鼻咽喉科領域で扱う主な異物症には,外耳道,鼻腔,口腔,咽頭,気道,食道異物などがある。一般的に外耳道異物や鼻内異物は生命予後に直結しないが,気道異物は,気道閉塞をきたし致命的な経過たどる例があり救急対応が必要である。また,咽頭や食道の魚骨異物などは対応が遅れると食道穿孔や深頸部感染症をきたし重篤な状態となることもあるため,迅速で的確な診断,治療が重要となる。異物の部位,種類,年齢(小児か成人か)や合併症の有無などにより,外来で対応可能か,全身麻酔による摘出術が必要か,あるいはより高度な医療機関への搬送が必要かを判断する必要がある。これらの点を踏まえ,外来で対応できることの多い耳鼻咽喉科領域の異物症(外耳道,鼻腔,口腔,咽頭異物)について述べる。

Current Article

急性めまいの考え方・取り扱い方

著者: 古屋信彦 ,   高橋克昌 ,   宮下元明 ,   高安幸弘

ページ範囲:P.803 - P.811

Ⅰ はじめに

 めまいは耳鼻咽喉科のみならず各科にまたがる共通した病気であり,特に急性めまいの取り扱いは各科で手をこまねいている領域でもある。受診するほうにおいても『めまいはどこで診てもらえるか?』について迷いがみられる。急性めまいの原因として,①脳梗塞などの脳循環障害,②不整脈,失神発作などの循環器障害,③パニック症候群などの精神症状,④前庭障害に起因する末しょう性めまいなどがみられる。①は脳神経外科,神経内科,②は内科(循環器),③は精神神経科,④は耳鼻咽喉科が主として関与する疾患である(図1)。

 これら複数領域に原因が関与する急性めまいは,患者がどの科を最初に訪れるかによってその取り扱われ方がさまざまである。多くの場合,脳神経外科・神経内科では脳MRI,CTを撮って脳障害の有無を,内科(循環器)では心疾患の有無について判断し,精神神経科では器質的疾患の有無を他科に依頼するなどを行い,自領域に関与しないことを判断して,患者には『頭は問題ありませんね―,心臓は関係していませんね―」と伝えてとりあえず点滴などの診療行為の後に退場してもらうことが多い(図2)。一方,患者は症状に対する恐怖と,原因は何であるかの不安感から他院の門をたたくことになり,『めまい難民』としてdoctor shoppingを繰り返すことになる(図3)。

 めまいの原因疾患は何があるかについてさまざまな報告があり,診療所,中核基幹病院,教育機関によって多少の分布は異なる。しかし,末しょう性めまいであるメニエール病,前庭神経炎,突発性難聴,良性発作性めまい症,Hunt症候群など,めまい症例全体に対する割合はほぼ70~75%になっている(図4)。めまい原因を占める末しょう性めまいを診断するには画像診断法以外に眼振の記録,聴力検査,前庭機能検査などが必要となり,これらの検査はどこの耳鼻咽喉科でも可能な診療行為である。すなわち最終的にめまい疾患全体を診断できる施設,技術をもっているのは耳鼻咽喉科であり,耳鼻咽喉科医が適切に対応しなければ『めまい難民』は増え続けることが予測される。

シリーズ 専門医試験への対応

―6.社会医学的諸問題―1)身体障害者認定

著者: 青柳優

ページ範囲:P.853 - P.858

Ⅰ はじめに

 身体障害者認定は『身体障害者福祉法』に基づいて行われる。身体障害者福祉法は,身体障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するため,身体障害者を援助し,身体障害者の福祉の増進を図ることを目的として1949(昭和24)年に制定され,1950(昭和25)年に施行されたものである。児童福祉法〔1947(昭和22)年〕,生活保護法〔1950(昭和25)年〕と合わせて『福祉三法』と呼ばれるが,少子高齢化社会に向け,従来の支援費制度に代わり,障害者に費用の原則1割負担を求め,障害者の福祉サービスを一元化し,『保護』から『自立に向けた支援』に切り替えるため,2006(平成18)年に『身体障害者自立支援法』が施行された。これにより医療費の自己負担比率は5%から10%に倍増し,従来は所得に応じて決められていた補聴器など補装具の自己負担分は,原則として一律1割の負担となった。見方にもよるが,これは福祉施策の後退ともいえる。

 身体障害者福祉法とは身体障害者の更生援護を目的とするが,『更生』とは必ずしも経済的,社会的独立を意味するものではなく,日常生活能力の回復を目的とするものである。福祉施策は公的なものであり,国民は平等にその恩恵を受ける権利を有する。これにかかわる医師は医学的判断を提供することによって福祉施策に参加しているわけであるから,日本耳鼻咽喉科学会(以下,日耳鼻と略す)認定の耳鼻咽喉科専門医たるものは『身体障害者診断書・意見書』や『補装具費支給意見書』の作成においては,身体障害者にとっての真の福利のために正確で公正な判定を心がけなければならない。司法の判断が下っていない現在では断定的なことはいえないが,札幌で起こった『身体障害者診断書・意見書』の虚偽記載事件などは言語道断であり,誠に遺憾といわざるを得ない。本稿では耳鼻咽喉科専門医が知っておくべき身体障害者認定に関する知識について概説する。

原著

耳下腺から副咽頭間隙にかけて発生し顔面神経麻痺をきたした海綿状血管腫の1例

著者: 西嶌大宣 ,   村田麻理 ,   北原伸郎

ページ範囲:P.859 - P.863

Ⅰ.はじめに

 耳下腺に発生する良性腫瘍は多形腺腫を中心とする上皮性腫瘍が多く,非上皮性腫瘍である血管腫は2~6%と稀である1~4)。また耳下腺の良性腫瘍が顔面神経麻痺をきたすことは少ない。

 一方,副咽頭間隙に発生する腫瘍では唾液腺由来の腫瘍や神経原生腫瘍が多く,血管腫は数例の症例報告を認めるのみである4~6)

 今回われわれは,耳下腺から副咽頭間隙にかけて発生し,顔面神経麻痺をきたした海綿状血管腫の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

蝸牛神経低形成が原因と考えられた小児感音難聴の1例

著者: 宇高毅 ,   平木信明 ,   因幡剛 ,   門川洋平 ,   大久保淳一 ,   掛田伸吾 ,   鈴木秀明

ページ範囲:P.865 - P.868

Ⅰ.はじめに

 感音難聴は,蝸牛から大脳の聴覚皮質に到る聴覚路のさまざまな障害によって発生する。特に小児の感音難聴では,聴覚路の先天的形態異常が認められることが少なくない。このうち蝸牛神経の形成不全は,以前より小児感音難聴の一因として認識されていたものの,診断がきわめて困難であったことなどから,近年まであまり注目されることはなかった。しかし,最近,高分解能MRIの普及によって聴覚中枢路の詳細な評価が可能となり,これらの病態が徐々に注目されてきている1~4)。今回われわれは,学校の定期健康診断(以下,学校健診と略す)で一側の難聴を指摘され,精査の結果,蝸牛神経低形成がその原因であることが判明した小児感音難聴症例を経験した。本症例の病態を報告するとともに,蝸牛神経形成障害の成因や診断方法について文献的考察を加えて検討を行ったので報告する。

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あとがき

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.878 - P.878

 編集顧問になられた竹中 洋先生の後任として,先月号から編集委員に加わりました。

 卒後2年目の私が研修先の病院で経験した急性化膿性甲状腺炎の症例をもとに初めて書いた症例報告を投稿したのが本誌『耳鼻咽喉科・頭頸部外科』でした。急性化膿性甲状腺炎が下咽頭梨状窩瘻によって起こることは,読者の皆様よくご存じのことと思いますが,大学病院から出たばかりの私はこの病態を全く知らず,的確な診断と治療を行うために幅広い知識が必要であることを強く印象づけられた症例でした。部長の市村恵一先生(現自治医科大学教授)に御指導いただき論文を作成したことが,つい先日のように思いだされます。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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