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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科81巻3号

2009年03月発行

雑誌目次

特集 診療所で必要な救急処置

1.診療所におけるアナフィラキシーショックへの対応

著者: 大西正樹

ページ範囲:P.183 - P.190

Ⅰ.はじめに

 耳鼻咽喉科診療所がアナフィラキシーに遭遇する頻度はそれほど高くはないが,それに対処する準備は必要である。アナフィラキシーはショック状態に陥る以前の早期治療が重要でありその後4時間の観察,また場合によって病院などへの搬送も考慮する必要がある。アナフィラキシー発症後早期の対応にはアドレナリンの筋注が第一選択といわれており,表11)に示した点に留意する必要がある。アナフィラキシーの原因はさまざまであるが,最初に治療法,次にわれわれ耳鼻咽喉科実地医家がアレルギー性鼻炎の免疫療法で遭遇するアナフィラキシー,最後に学校医として2008年4月より施行された学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)の中のアナフィラキシーについて記述する。

2.診療所における出血への対応

著者: 片橋立秋

ページ範囲:P.191 - P.197

Ⅰ.はじめに

 耳鼻咽喉科が外科系診療科であるがゆえに日常の診療で出血を伴う疾患を取り扱う場面は少なくない。多くは軽度の出血であるが,時に大量出血や止血に難渋する場面に遭遇する。しかも,マンパワー,医療設備に制約のある診療所では,これら出血患者への対応に苦慮することも少なくない。筆者のこれまでの大学病院,がんセンター,市中病院の勤務の後,現在開業医である自らの経験より診療所での出血を伴う疾患への対応について述べる。

 耳鼻咽喉科診療所での出血への対応範囲は各診療所の医療設備および医師の技量に依存するところが大きく,画一的に決定することはできない。

 当院は,耳鼻咽喉科用単純X線装置,X線CTを有するが,血液・細菌検査は外部委託であり,自院において血算などの迅速検査はできない。日帰り手術用の手術室があり,自動血圧計,心電計,パルスオキシメーターの生体監視装置を有し,酸素吸入が可能であるが,全身麻酔器は所有してない。また,入院設備をもたない一般的無床診療所である。実際,日本における大多数の耳鼻咽喉科診療所は無床診療所であり,本稿では無床診療所における出血への対応を当院での経験を中心に述べる。

 診療所を受診する出血患者の大多数は軽・中等症症例であるが,稀に救急病院に耳鼻咽喉科専門医が不在であるなどの理由から,近隣の耳鼻咽喉科受診を指示されて思いがけない重症例が来院することがある。したがって,耳鼻咽喉科診療所の医師には,自院での対処可能な状態か否かを迅速かつ正確に把握して2次医療機関への転送時期を誤らないことが求められる。

3.診療所における気道閉塞への対応

著者: 佐藤公則

ページ範囲:P.199 - P.205

Ⅰ.はじめに

 耳鼻咽喉科診療所で気道閉塞への対応,すなわち気道確保が必要になる場合は以下の2つの状況がある。

1.気道を直接閉塞させる病態

 耳鼻咽喉科・頭頸部外科疾患あるいは手術に伴い上気道が閉塞したとき(炎症性浮腫,術後浮腫,外傷,腫瘍など)の気道確保である。

2.意識障害を引き起こす病態

 ショック,急性呼吸不全,急性循環不全(呼吸・心機能障害)などによる意識障害に伴う救急蘇生時の気道確保である。

 耳鼻咽喉科診療所の多くでは,耳鼻咽喉科医が1人で診療を行っており,関連したほかの診療科と連携が取りにくい。よって緊急時の気道確保は耳鼻咽喉科医1人と看護スタッフにより行わざるをえない。

 本稿では耳鼻咽喉科診療所で必要な救急処置のうち気道閉塞への対応を述べる。なお,誌面の都合上,気道確保の各方法の手技は割愛する。

4.心肺停止への対応

著者: 山元良 ,   堀進悟

ページ範囲:P.207 - P.212

Ⅰ.はじめに

 除細動(basic life support:BLS)やadvanced cardiac life support(ACLS)が普及している現在,心肺停止患者への対応は広くマニュアル化されている。診療所など小規模医療施設において,心肺停止患者に正確かつ迅速な対応を行うためには,BLSとACLSの内容を知ることが不可欠であり,さらに具体的処置の医学的根拠を知ることが高いレベルの心肺蘇生を可能にすると考えられる。そこで,ここではまずBLSとACLSの基本的な位置づけを説明し,BLSおよびACLSの具体的内容とその医学的根拠を示した後に,具体的事例を挙げながら実践的な心肺停止患者への対応を解説していきたい。

 なお,小児に対する一次救命処置であるpediatric basic life support(PBLS)を学ぶことで,小児の心肺停止患者への対応も可能になるが,ここでは省略させていただいた。

Current Article

副鼻腔炎病態の新展開

著者: 平川勝洋

ページ範囲:P.175 - P.182

Ⅰ はじめに

 慢性鼻副鼻腔炎は“古くて新しい疾患”であるといった表現が当てはまる疾患である。1980年代にかけて,診断技術として冠状断CT撮影装置の導入,保存的療法としてマクロライド少量長期投与の開発,手術療法として内視鏡下鼻内手術の提唱と普及,といった三本柱が確立されて本病態をめぐる諸問題はほぼ解決したものと思われるようになった。しかし本世紀に入って,それに対抗するような形で好酸球性炎症が優位な症例や気管支喘息を合併した難治例など,新たな難治性の病態が出現してきていることを考えると,まさに的を射た表現であるとの印象が強い。今後も耳鼻咽喉科疾患のなかで,慢性副鼻腔炎は重要な位置を占めることが予想される。

 本稿ではこのように変遷しつつある副鼻腔炎の病態について,①副鼻腔炎の非感染性な側面を主として反映している好酸球浸潤と鼻茸形成,さらには真菌の関与をめぐる諸問題,②気管支喘息を代表とする下気道病変との関連性などについて,その病態成立の鍵と治療への対応について当教室のデータを紹介しつつ,述べていきたい。

原著

マイクロデブリッダーが有用であった成人型多発性喉頭乳頭腫の1症例

著者: 鈴木正宣 ,   折舘伸彦 ,   本間明宏 ,   中丸裕爾 ,   畠山博充 ,   目須田康 ,   古田康 ,   福田諭

ページ範囲:P.219 - P.221

Ⅰ.はじめに

 喉頭乳頭腫は喉頭良性腫瘍のなかで最も頻度が高く1,2),そのなかに再発を繰り返す難治例が存在する3)。治療法として,わが国ではCO2レーザーを用いた手術療法が一般的であるが,欧米ではマイクロデブリッダーによる切除が導入されつつある4~7)。今回われわれは,成人型の多発性喉頭乳頭腫症例に対して,マイクロデブリッダーを用いた腫瘍切除を行い,良好な経過をえたので,喉頭乳頭腫治療におけるマイクロデブリッダーの有用性についての文献考察検討を加えて報告する。

いびき音が診断のきっかけとなった多系統萎縮症の声帯外転障害

著者: 那須隆 ,   小池修治 ,   野田大介 ,   石田晃弘 ,   青柳優 ,   川並透

ページ範囲:P.223 - P.227

Ⅰ.はじめに

 神経難病である多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)では,その経過のなかで,比較的高頻度に声帯外転障害が出現し,夜間の喘鳴を伴う睡眠時呼吸障害をきたすことが報告されている1)。この症候は疾患の予後にかかわる重要な因子となる2,3)とされることから,神経内科から喉頭所見を確認する依頼が増えている。われわれ耳鼻咽喉科医は,この病態を十分理解するとともに喉頭所見を評価し,適切に管理する必要がある。今回,いびき音を確認することにより夜間の声帯外転障害を推測し,睡眠時呼吸障害治療のきっかけができた症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

当科で経験した下口唇原発腺様囊胞癌の1症例

著者: 籠谷領二 ,   物部寛子 ,   戸島均

ページ範囲:P.229 - P.232

Ⅰ.はじめに

 腺様囊胞癌は頭頸部領域では唾液腺に好発する比較的稀な悪性腫瘍である。なかでも小唾液腺由来で口唇に発生することは特に少ないといわれている1,2)。局所での発育は緩慢であるが,長期経過後に遠隔転移をきたす頻度が高く,一次治療後,局所再発する頻度も高いため,一般的に悪性度が高い腫瘍と考えられている。

 今回われわれは,下口唇に生じた腺様囊胞癌を手術および放射線療法の併用にて治療し,2年6か月間,無病生存をえている症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

シリーズ 専門医試験への対応

―4.口腔咽頭喉頭疾患―1)舌癌

著者: 朝蔭孝宏

ページ範囲:P.233 - P.236

Ⅰ はじめに

 舌癌は頭頸部領域の癌のなかでは喉頭癌に次いで発生頻度の高い癌である。発症は20歳代から認められ,男性・女性の性差なくみられる。不良歯牙や義歯の慢性的物理的刺激が原因の1つとして挙げられているが,舌癌の患者でそのような機序によると思われるものはむしろ稀である。原因か結果か明らかではないが,口腔内の衛生状態が不良な患者は多い。またほかの頭頸部癌と同様に喫煙やアルコールの関与が疑われており,疫学的にはそのような報告がみられるものの発癌機序は明らかではない。舌は摂食や構音に重要な役割を果たしており,舌癌の治療後は程度の差こそあれこれらの機能障害が生じる。そのため機能障害を最小限にとどめる治療選択が重要となってくる。

―4.口腔咽頭喉頭疾患―2)上,中,下咽頭悪性腫瘍

著者: 河田了

ページ範囲:P.237 - P.242

Ⅰ はじめに

 咽頭癌は上,中,下咽頭癌に分類されているが,これは咽頭を単純に3つの部位に分けたのではない。それぞれが解剖学的および機能上の特徴を有していることだけでなく,そこに発生する癌の腫瘍特性が著しく異なることが知られている(表1)1)。そのため,機能的なこととともにそれぞれの腫瘍特性をよく理解したうえで治療に当たらなくてはならない。

鏡下囁語

頭頸部がん専門医の育成に思うこと

著者: 鎌田信悦

ページ範囲:P.215 - P.217

Ⅰ.頭頸部がん専門医制度発足の背景

 最近マスコミで取り上げられる医療問題の1つに『医師不足』と『がん医療水準の均てん化』がある。耳鼻咽喉科医は足りているのかどうかわからないが,外科系志望者の減少と同様,頭頸部外科志望者は減ってきているように感じられる。また,頭頸部がんにおけるがん医療水準の均てん化を頭頸部癌学会会員の国内分布からみると,地方と中央の格差を埋めることはきわめて難しい現状といわざるを得ない。がん対策基本法の施行により厚生労働省は,がん専門医の養成に前向きな姿勢をみせているものの,『がんプロフェッショナル養成プラン』の予算と内容をみても,あるいは『がん治療認定医』の資格がわずか2日間のセミナー出席で与えられるという低レベルであることをみても,国民に対するアリバイ作りとしかいいようがない。

 そのような時代背景のもとに,日本耳鼻咽喉科学会は頭頸部がん専門医制度を発足させることに決定した。厚生労働省の見せかけだけの姿勢ではなく,『頭頸部がん専門医』の資格が高い診療レベルを担保するものであり,医師自らもその称号に誇りをもてるような頭頸部がん専門医制度であることが望まれる。

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あとがき

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.248 - P.248

 耳鼻咽喉科における論文は症例報告,臨床統計,臨床研究,基礎研究などに大きく分けられ,当然のことですが,時代によりさまざまな変遷を経て現在に至っています。言語も日本語,英語のほか,海外誌にドイツ語で投稿されていた先生方もいました。日耳鼻機関誌であるANLにもドイツ語,仏語論文が掲載されていたときがあり,abstractは英語とドイツ語が必須の時期もありました。今の若手の先生には信じられないことと思います。本誌『耳鼻咽喉科・頭頸部外科』もかつては『耳鼻咽喉科』という名称でたくさんの貴重な症例報告,臨床統計の論文投稿がありました。私も若い頃に初めて書いた論文の掲載は,本誌だったと記憶しています。私は昭和53(1978)年の卒業ですが,その頃は英語の論文投稿の重要性はもちろんのことでしたが,まだそれほど多くはなく,日本語論文が優勢でした。その後,当然のことながら英文誌への投稿が増加し,impact factorの出現により飛躍的に英語論文の投稿にシフトしていきました。特に教授選におけるimpact factorの評価の占める割合が高くなり(特に基礎系),総合点は何点かということが多く語られました。しかし外科系では,またまたその反動が起こり,「impact factorの高過ぎる先生は逆に臨床は大丈夫なのか?」というような逆の評価がなされはじめ,現在はある程度のレベルに落ち着いてきた感があります。その間,本誌も少しずつではありますがversionを変えながら,また総説を掲載するライバル誌の出現に遭遇しながら,その存在感を十分に示してきたと思います。ただ,昨今の耳鼻咽喉科勤務医の減少にリンクして症例報告の投稿も若干減少傾向にあります。マンパワーの小さい施設では臨床の仕事に追われ,まとめる時間の確保が困難なこと,さらには基礎研究を行う余裕も減っています。しかしこういうときこそ若手の勤務医,開業医の先生方に貴重な症例の検証,報告をしてもらうことの意義は高いと考えますし,日本語でいくつか書き上げると,次は英語で書いてみようという意欲が出ると思います。Impact factorはすぐには期待できませんが,英語論文biginnerの若手医師のために,本誌も近い将来英文のcase reportを掲載するべく変遷していきたいと思っております。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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