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文献詳細

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科81巻6号

2009年05月発行

文献概要

特集 リスクマネジメント

1.リスクマネジメント総論―ヘルスケアリスクマネジメントの整理,そして,さらなる医療安全に向けての検討

著者: 鮎澤純子1

所属機関: 1九州大学大学院医学研究院 医療経営・管理学講座

ページ範囲:P.341 - P.355

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Ⅰ.はじめに

 本特集のタイトルは『リスクマネジメント』である。では『リスクマネジメント』としてここで論じられようとしているものは何か。

 欧米における医療現場のリスクマネジメント,すなわちヘルスケアリスクマネジメント(HRM)は,医療機関におけるさまざまなリスク,なかでも主として『patient safety』『(紛争・訴訟対応としての)claims administration』『risk financing』といった領域を対象としてきた経営管理の手法の1つである。日本の医療現場では,1990年代,特に1999年の『患者取り違え事故(横浜市立大学附属病院)』や『薬剤取り違え事故(都立広尾病院)』といった医療事故を契機に本格化した近年の事故防止・安全管理の取り組みの初期の段階で,欧米,特にアメリカの医療現場における取り組みの1つとして注目されるようになった。当時はリスクマネジメントのなかでも特に事故防止・安全管理に関連する取り組みに焦点が当てられたこともあり,『リスクマネジメントマニュアル』『リスクマネジメント委員会』『リスクマネジャー』といった用語とともに,当初は事故防止・安全管理の同義語のように使われながら日本の医療現場にも急速に浸透することとなった。

 時を経て,本来のHRMに関する理解も進みつつあるが,いまも『リスクマネジメント』を事故防止・安全管理とするものから紛争・訴訟対応とするものまでその理解はさまざまであるし,それぞれの医療機関における『リスクマネジメント』に関連する用語の使い方もさまざまである。本特集でも,おそらく各項を担当される執筆者はそれぞれの『リスクマネジメント』を整理して論じていかれることになるはずである。『総論』を担当する本稿ではまずその『リスクマネジメント』を整理し,そのうえで,いまなお重要な課題である『patient safety』,すなわち『医療安全』に焦点を当てて論じることとする。

参考文献

1)American Society for Healthcare Risk Management:Cerebrating 25 Years, A Brief History of the American Society for Healthcare Risk Management, 1980~2005, 2005
2)ASHRM:http://www.ashrm.org
3)Institute of medicine:To Err is Human;Building a Safer Health System, 1999
4)ASHRM:Risk Management Handbook for Healthcare Organizations, Fifth Edition, Volume 3:Business Risk:Legal, Regulatory and Technology Issues, ASHRM, 2006
5)社団法人日本内科学会モデル事業中央事務局:http://www.med-model.jo/
6)社団法人日本内科学会モデル事業中央事務局:診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業報告書,2008年4月
7)Youngberg JB, et al:Post-Litigation Stress Management. The Risk Manager's Desk Reference, Aspen Publishers Inc, Maryland, 1994
8)厚生労働省医療安全対策検討会議:厚生労働省医療安全対策検討会議報告書.医療安全推進総合対策―今後の医療安全対策について,2005年6月
9)改正医療法医療安全関連医政局長通知,2007年3月
10)Agency for Healthcare Research and Quality:Making Health Care Safer:A Critical Analysis of Patient Safety Practices, AHRQ Publication01-e058, 2001, http://www.ahrq.gov
11)Institute of Medicine:To Err is Human, p53, National Academy Press, Washington, D. C., 2000
12)ジェームズ・リーズン:組織事故.日科技連出版社,東京,1991,pp11-16
13)ジェームズ・リーズン:組織事故.日科技連出版社,東京,1991,p12
14)ジェームズ・リーズン:組織事故.日科技連出版社,東京,1991,pp271-314
15)JCAHO:National Patient Safety Goals:http://www.jcaho.org
16)WHO:World Alliance for Patient Safety, The Second Global Patient Safety Challenge, Safe Surgery Saves Lives, 2008
17)Haynes AB, et al:A surgical safety checklist to reduce morbidity and mortality in a global population. N Engl J Med 360:491-499, 2009
18)米国医療の質委員会/医学研究所:人は誰でも間違える―より安全な医療システムを目指して.日本評論社,東京,2000,pp201-234
19)JCAHO:Speak Up:http://www.jcaho.org
20)Institute of Healthcare Improvement:http://www.ihi.org
21)(注1)ただし,同キャンペーンではデータ測定にかかる病院の負担を減らすことを優先して最小データ(入院死亡数)の報告にとどめたことから,リスク補正の精度と数字の正確さには疑問の余地があるとされている。
22)医療安全全国共同行動:http://www.kyodokodo.jp
23)JCAHO:http://www.jcaho.org
24)New York State Department of Health:http://www.health.state.ny.us/professionals/office-based_surgery
25)モデル・コア・カリキュラム改訂に関する連絡調整委員会/モデル・コア・カリキュラム改正に関する専門研究委員会:医学教育モデル・コア・カリキュラム―教育内容ガイドライン―平成10年度改訂版,2007年12月
26)The Health Research and Education Trust, the Institute for Safe Medication Practices, the Medical Group Management Association:Patient Safety Tools for Physicians Practices, Physician Practice Patient Safety Assessment 2006, http://www. mgma. com
27)The Health Research and Education Trust, the Institute for Safe Medication Practices, the Medical Group Management Association:Patient Safety Tools for Physicians Practices, Pathway for Patient Safety, 2009, http://www.mgma.com.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1316

印刷版ISSN:0914-3491

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