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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科81巻7号

2009年06月発行

雑誌目次

特集 最近の頭頸部癌治療

1.化学療法

著者: 佃守 ,   石戸谷淳一 ,   三上康和 ,   松田秀樹 ,   堀内長一 ,   田口享秀 ,   西村剛志 ,   塩野理

ページ範囲:P.431 - P.439

Ⅰ.はじめに

 頭頸部の特徴は鼻・副鼻腔,口腔,咽頭,喉頭など多臓器を含む領域であり,感覚器であるとともに呼吸と嚥下機能をつかさどる。多臓器であることは化学療法の臨床研究ではさまざまな問題点を有する。一臓器のみを対象にすると,化学療法の有用性をみる臨床試験ではきわめて多くの施設で行わない限り,症例集積に長期間を要する。根治治療である手術内容も当然臓器によって異なる。また臓器によって頸部リンパ節転移の頻度,さらにはその進行度(N分類),頸部リンパ節転移部位にも相違がある。一般的には頭頸部癌の化学療法に対して原発腫瘍(T)のほうが,頸部リンパ節転移(N)より感受性が高い。そのため臨床研究で同じstage ⅣでもN3の症例(ⅣB)の頻度によって化学療法の奏効率が異なり,生存率も異なる(図1)1)

 頭頸部癌は病理組織学的に約90%を扁平上皮癌が占め,臓器によって分化度が異なるのも特徴である。未分化癌や低分化扁平上皮癌が多い上咽頭癌は,その解剖学的部位から根治治療は放射線治療である。最近の化学療法の効果を検討する研究では,その特異的な病理組織型,治療形態から上咽頭癌を除くことが多い。すなわち上咽頭癌のみを対象にした臨床研究が多い。上咽頭癌を除いた頭頸部扁平上皮癌でも本特集の他稿で記載される化学療法と放射線治療との同時併用療法(concurrentまたはconcomitant chemoradiotherapy:CCRT)を含めて,扁平上皮癌の分化度によって化学療法や放射線治療に対する感受性が異なり,その結果予後に影響するとの報告もある2)

 本稿では頭頸部扁平上皮癌(以後,頭頸部癌と略す)に対する化学療法のうちneoadjuvant(induction)chemotherapy(NACまたはIC)を中心に現状を述べる。

2.頭頸部癌放射線化学療法

著者: 中島寅彦

ページ範囲:P.441 - P.447

Ⅰ.はじめに

 癌の治療現場では治癒率,生存率の向上とともに治療後の臓器機能温存率の向上を目指すことが患者QOLの維持の観点から近年重視されてきている。扁平上皮癌が多い頭頸部癌に対する放射線化学療法が臓器温存率,生存率の向上に有効であり,それは放射線単独療法よりも勝る,とのエビデンスはすでに諸家の報告により確立している。1990年以降欧米においていくつかのmeta-analysis1,2)が行われ,その結果としてシスプラチン(CDDP)を含む化学療法との同時併用放射線療法が最も有効であり,さらに5-FUを併用したレジメンが有効であるとの報告が多い。最近ではドセタキセル(DOC)の併用も注目されている。しかしながら,有効なレジメンほど副作用も著明でありスタンダードなレジメンは確立されていない。併用抗癌剤の選択に当たっては,薬剤自体が強い抗腫瘍効果を有し,強い放射線増感作用があること,低い毒性をもつことが必要であり,さまざまな組み合わせにより臨床研究が行われている。頭頸部癌集学的治療における放射線化学療法の位置づけについても議論が多く,治療方針のなかで手術との振り分けをどのように行うかに関しても標準的な方針が決まっているとはいえない。

 本稿ではまず,頭頸部癌に対する放射線化学療法の現況を概説し,九州大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科(以下,同科と略す)における放射線化学療法の位置づけ,方法について紹介する。さらに効果予測のための分子マーカーなど,頭頸部癌に対する放射線化学療法の将来展望について述べる。

3.超選択的動注と放射線

著者: 林達哉

ページ範囲:P.449 - P.456

Ⅰ.はじめに

 1992年,Robbinsら1)が発表した放射線併用超選択的動注化学療法(以下,超選択的動注療法と略す)は抗癌剤を必要とする頭頸部局所に対して高濃度の抗癌剤投与を可能にすると同時に(→高い奏効率),中心静脈でシスプラチン(CDDP)を中和することにより全身には低濃度の抗癌剤しか循環しない状態(→副作用軽減)とを同時に実現した。副作用のために思うように抗癌剤の投与量を上げることができなかったという過去のジレンマを理論的に解消しているという点と実際に高い奏効率を示す報告により,わが国においても急速な普及をみた。

 現在,本治療に期待されるのは,これまで根治治療が困難であった切除不能癌の根治ばかりでなく喉頭に代表される重要臓器を温存した状態で癌を治癒させることである。

 当科では1999年から手術不能の頭頸部進行癌症例に対して超選択的動注療法を導入し,CRから長期生存に至る症例を経験した。この成績を踏まえ2003年からは手術可能な頭頸部癌に対しても,臓器温存,機能温存を目指して適応を拡大している。

 本稿では当科における治療の実際と成績を紹介し,本治療の現状と頭頸部癌治療全体のなかでの期待される役割について述べたい。

4.放射線治療機器の最近の進歩

著者: 三橋紀夫

ページ範囲:P.457 - P.466

Ⅰ.放射線治療の原則

 放射線の線量効果曲線には腫瘍の治癒線量曲線と正常組織の耐容線量曲線とに図1に示したごとく重なりがあるために,線量が多すぎると必ず有害事象を引き起こしてしまう。例えば,限局していれば30Gyで容易に制御できる悪性リンパ腫でも腫瘍が全身に広がれば,全身に30Gyの照射は不可能なので放射線治療で制御することはできない。一方,悪性黒色腫という放射線感受性のきわめて低い腫瘍であっても限局していれば,多くの線量を照射しても重篤な正常組織障害が発生しないので制御が十分期待できる。このように放射線治療による腫瘍の制御は,腫瘍の放射線感受性と正常組織の耐容線量とのバランスの上に成り立っている。最も治療上の利益の大きいのは,腫瘍の治癒線量曲線と正常組織の耐容線量曲線の差が最も大きくなる線量を選択することである。臨床では多くの場合,正常組織の障害を5%以下に押さえて,80%以上の局所制御率が期待できる線量が選択されている。集学的治療によって,2本の線量効果曲線のうち,腫瘍の治癒線量曲線を左方に,正常組織の耐容線量曲線を右方に移動させることができれば,あるいは正常組織の耐容線量曲線が左方に移動するよりも,腫瘍の治癒線量曲線をより左方に移動できれば治療成績の向上が期待できる1)

 今世紀に入り放射線物理学の発展とコンピュータ技術の進歩により,放射線治療機器・放射線治療周辺機器の開発が急ピッチに進み,周辺の正常臓器への照射線量を極力減少させる照射法が可能となってきた2)。また,小線源治療やアイソトープを用いた治療も進歩し,腫瘍への線量集中性が改善している。そこで,放射線治療機器の進歩を中心に新しい放射線治療方法について概説する。

Current Article

内リンパ水腫形成とその臨床像に関する研究

著者: 柿木章伸 ,   竹田泰三

ページ範囲:P.467 - P.472

Ⅰ はじめに

 メニエール病の病理組織学的特徴が内リンパ水腫であることを初めて報告したのは1938年,山川1)である。同年にHallpikeら2)も同様の報告を行っており,以来メニエール病の病態が内リンパ水腫であることは広く受け入れられている。この内リンパ水腫がどのように形成され内耳障害が発生するかに関して,これまでわれわれが行ってきた研究を中心に紹介する。

シリーズ 専門医試験への対応

―4.口腔咽頭喉頭疾患―5)深頸部膿瘍

著者: 平林秀樹

ページ範囲:P.473 - P.476

Ⅰ はじめに

 深頸部膿瘍は,現在も臨床で遭遇する機会は多く,時には重篤な転帰をたどる。特に縦隔膿瘍に発展した場合,重篤な病態に陥ることがあり,耳鼻咽喉科専門医として適切かつ迅速な治療を要求される。成人・小児ともに男性に多い傾向がある。

―4.口腔咽頭喉頭疾患―6)頸部悪性腫瘍

著者: 佐藤克郎

ページ範囲:P.477 - P.483

Ⅰ はじめに

 頸部腫瘤を主訴とする患者は,常に耳鼻咽喉科受診者のある程度の割合を占めている。頸部に発生する腫瘍性疾患には先天性頸部腫瘤,良性腫瘍,悪性腫瘍があり,悪性腫瘍は原発性と転移性に分類される。本稿では,まず頸部腫瘍の疫学について概説し,頸部悪性腫瘍の診断とその治療について解説する。

原著

耳下腺上皮性腫瘍手術症例の検討

著者: 酒主敦子 ,   中溝宗永 ,   横島一彦 ,   粉川隆行 ,   島田健一 ,   小津千佳 ,   稲井俊太 ,   陣内賢 ,   富山俊一 ,   八木聰明

ページ範囲:P.489 - P.495

Ⅰ.はじめに

 耳下腺腫瘍は頭頸部腫瘍の約4%1)であるが,近年増加傾向が指摘されている2)。われわれは以前に1987~1996年の耳下腺上皮性腫瘍手術138例の検討を行い,種々の問題点を指摘した3)。その後10年が経過し,同数以上の手術を行った。この間当科では治療に携わった医師が交替し,かつ国内外の手術術式や顔面神経の取り扱いに関する議論4~7)に従って,術式も若干変更した。そこで,以前の10年間の症例と合わせ,20年間に手術を実施した耳下腺腫瘍の検討を行い,その臨床像の変遷を明らかにしようと考えた。また,術式変更による術後顔面神経麻痺についても検討した。

鏡下囁語

学位とは何だろう?

著者: 石井哲夫

ページ範囲:P.485 - P.487

Ⅰ.切替教授

 まずは大学院の入試面接である。1961年3月,東京大学医学部本館の会議室で切替一郎教授の面接を受けた。20人くらいの教授がコの字型のテーブルに坐っていてその向いの椅子にインターンを終わったばかりの志望者が同時に多数が出席し,1対1で講座担当主任教授と会話をするのである。卒業証明書や成績表はあらかじめ提出してあり書類審査は終了している。試験とはいいながら形式的であり,本人の意志確認であろう。カードが作られており,これでよいかと示されたが現住所や本籍に間違いないかの意味であったろう。テーマ欄に『内耳の自律神経について』とあった。

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あとがき

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.504 - P.504

 本号では特集として『最近の頭頸部癌治療』を取り上げ,おのおのの立場からわかりやすく解説していただいています。化学療法,放射線化学療法,超選択的動注と放射線,さらに発展のめざましい放射線治療機器により,将来に向けて頭頸部癌の生存率,QOLの向上を期待させる内容となっています。シリーズ専門医試験への対応としては深頸部膿瘍,頸部悪性腫瘍のテーマで執筆していただきましたが,いずれも専門医試験でしばしば出題される内容でこれからも方向性を少し変えたとしても受験者に知識を問う内容です。特集の頭頸部癌治療も試験問題としては難しい内容が含まれていますが,実に血となり肉となる有用な情報を与えてくれています。ぜひ熟読していただければと思います。今年の専門医試験は臨床研修制度の関係から再チャレンジの先生方のみが受験者となりますが,本誌のこれまでの特集やシリーズを参考にしてぜひ合格されることを祈念しております。試験対策シリーズはこれからも続けて行きたいと考えています。

 Current Articleは高知大学の柿木先生にご執筆いただき,メニエール病の病態である内リンパ水腫における内リンパ囊とVP,そのレセプター,AQP2の関与についてこれまでの研究成果をまとめていただいています。内リンパ囊機能異常が主役であり,ストレスによるVPがその程度を修飾するという結論であり,前者の機能異常の要因やストレスとのかかわりや,腎との共通点と相違点など含めて今後のさらなる発展が望まれる研究であります。将来,研究成果が本誌に再度まとめて解説されることを望みます。

 あとがきを書いているこの時期の東京はまさに春らしく過ごしやすい陽気ですが,掲載される頃は暑さに耐えている時期かもしれません。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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