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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科81巻8号

2009年07月発行

雑誌目次

Current Article

耳鼻咽喉科領域におけるマクロライド療法を再検証する

著者: 飯野ゆき子

ページ範囲:P.513 - P.520

Ⅰ はじめに

 1984年,工藤ら1)によって14員環マクロライド薬の少量長期療法(マクロライド療法)のびまん性汎気管支炎に対する有効性が初めて報告された。引き続いて1990年に洲崎ら2)はびまん性汎気管支炎に合併した慢性副鼻腔炎にもマクロライド療法が有効であることを報告し,その後下気道病変の合併のない慢性副鼻腔炎に対して有効であるとする報告が相次いだ3~5)。1993年,筆者らは滲出性中耳炎に対してもマクロライド療法が有効であることを報告した6)。現在ではマクロライド療法は耳鼻咽喉科診療において確立した治療法の1つとしての地位を築いている。

 このマクロライド療法が耳鼻咽喉科疾患に対して施行されるようになってから20年近く経過しようとしている現在,マクロライド耐性を含む種々の薬剤耐性菌の出現が問題になってきている。また好酸球性副鼻腔炎や好酸球性中耳炎といったあらたな疾患概念も明らかとなり,副鼻腔炎や滲出性中耳炎疾患そのものの多因性も指摘されている。一方,マクロライド薬の抗菌薬以外の細菌に対する作用や宿主側に対する新たな薬理作用も次々と報告されているのが現況である。

 このような流れから,この耳鼻咽喉科領域におけるマクロライド療法を改めて検証する必要が生じてきた。本稿では最新のマクロライド療法の臨床効果およびマクロライド薬の新作用に関しての文献を紹介するとともに,このマクロライド療法を慢性副鼻腔炎および滲出性中耳炎にどのように適応するかを述べてみたい。

原著

MRI拡散強調像が有用であった中耳真珠腫症例

著者: 菅原一真 ,   下郡博明 ,   橋本誠 ,   御厨剛史 ,   山下裕司

ページ範囲:P.521 - P.525

Ⅰ.はじめに

 中耳真珠腫を診断する際,画像診断として分解能に優れたCT検査は,病変の部位の同定,骨破壊の程度を評価するのに有用であり,必須の検査である。しかし,CT検査は骨以外のほとんどの病変(真珠腫,肉芽,貯留液)が軟部陰影として描出されるので,病変の質的診断には限界があった1)。症例によっては中耳手術の適応を決める際に判断に苦慮する場合があるが,質的診断を行うために,これまでにもさまざまな方法が試みられてきた2,3)。今回われわれは中耳真珠腫の画像診断の1つとしてMRI拡散強調像を用い,診療のうえで有用であった症例を経験したので報告する。

鼻腔に発生した血管平滑筋腫の2例

著者: 大河内喜久 ,   佐伯忠彦 ,   松本宗一 ,   平野博嗣

ページ範囲:P.527 - P.530

Ⅰ.はじめに

 血管平滑筋腫は四肢に好発する平滑筋由来の良性腫瘍であり女性に多いとされている1)。しかし,頭頸部領域に発生することは比較的稀である2)。今回われわれは,鼻腔に発生した血管平滑筋腫の2例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

鼻中隔原発の多形腺腫の1例

著者: 馬場優 ,   渡部佳弘 ,   滝内優子 ,   佐々木俊一 ,   清水和彦 ,   小川郁

ページ範囲:P.531 - P.533

Ⅰ.はじめに

 多形腺腫は上皮性腫瘍であり,筋上皮細胞の存在する腺組織に発生する。全身に発生するが,発生頻度は部位により著しい差がみられる1)。頭頸部領域では,主として大唾液腺,特に耳下腺や顎下腺に好発し,また小唾液腺の分布する口蓋,口唇などにもみられる。そのほか,鼻腔,咽頭,喉頭,涙腺などにも発生するが,頻度は低い。

 今回われわれは,鼻中隔から発生した多形腺腫の症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

上顎洞に進展した歯原性粘液腫の1例

著者: 田村敦 ,   山下拓 ,   塩谷彰浩

ページ範囲:P.535 - P.538

Ⅰ.はじめに

 口腔領域に発生する粘液腫は,比較的稀な疾患で,大部分が顎骨中心性に発生するとされている1)。今回われわれは,左側上顎洞に広範囲に進展した歯原性粘液腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

喉頭神経鞘腫の1例

著者: 道場隆博 ,   赤埴詩朗 ,   木村淑美 ,   端山昌樹 ,   曺弘規 ,   音在信治

ページ範囲:P.539 - P.542

Ⅰ.はじめに

 神経鞘腫は髄鞘を構成するシュワン細胞から発生する良性腫瘍で全身の皮下,筋肉など軟部組織に好発する1)。しかし,喉頭原発のものは比較的稀である1)。今回われわれは披裂部正中部の粘膜下に発生した神経鞘腫の1例を経験したので報告する。

当科を受診したアミロイドーシス3症例

著者: 南修司郎 ,   小澤宏之 ,   加藤高志 ,   行木一郎太 ,   松延毅 ,   川崎泰士 ,   伊藤文展 ,   行木英生

ページ範囲:P.543 - P.547

Ⅰ.はじめに

 アミロイドーシスは線維構造をもつ特異な蛋白であるアミロイド物質が,全身諸臓器の細胞外に沈着することによって機能障害を引き起こす一連の疾患群である1)。アミロイドーシスは臓器障害の広がりにより全身性と限局性に大別される。両者の病因論の基本的考え方は,全身性アミロイドーシスでは必ず血中にアミロイド前駆蛋白が存在する,体内におけるこのアミロイド前駆蛋白の産生を阻止すればアミロイドーシスの進展を防ぐことができる,の2点である1)。限局性アミロイドーシスではその前駆蛋白は病変が出現する局所で産生されており,血液中には出現してこない。実際に患者の生命予後に関係するのは全身性アミロイドーシスである。今回当科を受診した全身性アミロイドーシス3症例を呈示し,この全身性疾患に対する耳鼻咽喉科医の役割について考察を行った。

茵蔯五苓散®が有効であった真性唾液分泌過多症

著者: 山口智 ,   三枝英人 ,   中村毅 ,   小町太郎 ,   粉川隆行 ,   愛野威一郎

ページ範囲:P.549 - P.552

Ⅰ.はじめに

 唾液分泌過多症は唾液分泌の絶対量が多い真性のものと,嚥下障害や上部消化管の占拠性病変による通過障害に伴い唾液が貯留した仮性のものとに分類される1,2)。真性唾液分泌過多症の原因には,薬物性のものや消化器疾患に伴うもの,脳血管障害,パーキンソン病に伴うものなどが報告されており,治療の原則はおのおのの原因に応じたものが中心となる1,2)。一方,原疾患の制御が困難である場合や,特発性の真性唾液分泌過多症の場合には,治療に難渋することが多い2)。今回,われわれは,種々の治療に抵抗性であった特発性の真性唾液分泌過多症に対して,漢方製剤である茵蔯五苓散®が著効した1例を経験したので報告する。

診断に苦慮した嚥下障害の1例

著者: 境修平 ,   待木健司 ,   丸森健司 ,   柴垣泰郎

ページ範囲:P.553 - P.556

Ⅰ.はじめに

 嚥下障害は日常診療において比較的よく遭遇する症候である。嚥下障害には器質的疾患によるものと,機能的疾患によるものがある。Wallenberg症候群は一側の顔面と対側上下肢,体幹の温痛覚障害に嚥下障害,平衡障害を伴う複雑な病態を呈する。今回われわれは当初,下咽頭癌,頸部食道癌が疑われ,輪状咽頭部の通過障害のみを呈したWallenberg症候群の症例を経験したので報告する。

顎下腺に発生したoncocytic carcinoma症例

著者: 中原はるか ,   前田恵理 ,   坂田阿希 ,   室伏利久

ページ範囲:P.557 - P.560

Ⅰ.はじめに

 Oncocyteは顆粒に富んだ,主に腺組織にみられる好酸性の上皮細胞である。Oncocyteに由来するoncocytomaは比較的稀な新生物ですべての唾液腺腫瘍の1%以下を占めるにすぎない1,2)。Oncocytic carcinomaはさらに稀で,すべてのoncocyteの唾液腺新生物の11%,すべての上皮性唾液腺悪性腫瘍の0.5%で,すべての上皮性唾液腺腫瘍の0.18%を占める3)。唾液腺のoncocytic carcinomaは,今までに42症例が報告されている4,5)。ほとんどのoncocytic carcinoma症例は,耳下腺原発であるが,時に顎下腺や口蓋の小唾液腺にも認められる6~11)。今回,右の顎下腺部に存在し,手術前には確定診断に至らなかったoncocytic carcinoma症例を報告する。

頸部膿瘍で発症した小児自己免疫性好中球減少症例

著者: 石岡孝二郎 ,   犬飼賢也 ,   髙橋姿

ページ範囲:P.561 - P.564

Ⅰ.はじめに

 小児自己免疫性好中球減少症(autoimmune neutropenia of infant:ANI)は比較的稀な疾患で,その頻度は約1/10万人と報告されている1~3)。またANIは,軽微な細菌感染を反復し,重症化するものは少ないと考えられている1~3)

 今回われわれは,頸部膿瘍で発症したANIの1例を経験したので報告する。

シリーズ 専門医試験への対応

―4.口腔咽頭喉頭疾患―7)唾液腺腫瘍

著者: 高橋光明

ページ範囲:P.567 - P.576

Ⅰ はじめに

 唾液腺は大唾液腺(耳下腺,顎下腺,舌下腺)と小唾液腺から成る。これらの腺組織から発生する唾液腺腫瘍は1972年に組織分類がWHOから呈示され,世界共通の基準として広く用いられてきた。この分類は2005年に第3回目の改訂が行われた(表1)1)。この分類からわかるように唾液腺腫瘍の最も大きな特徴は多種多様な腫瘍がみられることである。このうち,良性の腫瘍では多形腺腫とワルチン腫瘍の頻度が高く,悪性の腫瘍では低悪性度癌と高悪性度癌があり,それぞれに腫瘍特性がみられる。

 唾液腺腫瘍の頻度は10万当たり0.4~6.5人であり2),頭頸部腫瘍全体の3%を占めるにすぎない3)。これを腺別にみると耳下腺腫瘍が約70~80%を占め,顎下腺が5~10%,舌下腺が1%前後で,小唾液腺は10~15%の頻度である4)

 唾液腺腫瘍には発生母体となる腺によりいくつかの特徴がある5)。その1つは,悪性腫瘍の頻度である。従来より,『腺の容積が小さくなるほど悪性腫瘍の発生率が高くなる』といわれている。すなわち,その割合は耳下腺で20~30%,顎下腺で40~50%,舌下腺では70~80%となっている。また,小唾液腺では50~70%が悪性腫瘍である。第2に,各腺特有の組織型の腫瘍の発生がみられることである。例えば,ワルチン腫瘍はほとんどが耳下腺に発生する。第3には治療に当たり各腺特有の解剖学的,臨床学的問題を有することである。

 以上のことより,唾液腺腫瘍の個々の腫瘍特性を縦軸とし,各腺の固有の問題を横軸にして唾液腺腫瘍の取り扱いを理解すべきである。

 本稿では,主に唾液腺腫瘍の9割以上を占める上皮性腫瘍の特徴,診断,治療法について概説する。

書評

―わかる!画像診断の要点シリーズ―3.わかる!頭頸部 画像診断の要点

著者: 市村恵一

ページ範囲:P.548 - P.548

 この本は,Georg ThiemeからDx-Directとして画像診断シリーズとして出ているポケット本の1つである 『Direct Diagnosis in Radiology:Head and Neck 』の翻訳本である。原版はドイツ放射線科医の共著である。本書の訳者に,頭頸部画像診断で日本を代表する1人の尾尻先生を迎えたことは喜ばしい限りである。ご自身も『頭頸部の臨床画像診断学』(南江堂)を著されており,筆者も愛用させてもらっているが,今回はそれとは少し異なる切り口の本書の翻訳で存在感を示されている。

 本書は頭頸部領域を頭蓋底,錐体骨,眼窩,鼻副鼻腔,咽頭,喉頭,口腔,唾液腺,頸部軟部組織,リンパ節の10章に分け,それぞれ5~12,全部で90の代表的疾患・病態(一部に正常所見も)を扱っている。その各項目では,2~3ページのなかに,概要,画像所見,臨床事項,鑑別診断,診断のポイントとピットフォールについて,きわめて簡潔明快に述べられている。よくここまで絞り込んだと感心する。示されている画像は臨床の現状を反映して,ほとんどがCTやMRIの画像であるが,きれいにまとめられている。参考文献リストとして各項目に3~5件ぐらいついているのは,参照にはちょうどよい数のようだ。原版でのそうした特徴を損ねず,明快に訳し出した訳者の力量に感服する。また,本書は訳者の配慮で,原版では小さかったり初心者にはわかりにくい部分を拡大したり,矢印をつけてくれているので,理解に役立つし,ところどころに訳注もある。

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あとがき

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.584 - P.584

 来週(6月1週目)『第19回世界耳鼻咽喉科学会』がブラジルのサンパウロで開催されます。小生は,学会でのパネルの発表と,学会中に行われる『IFOS(国際耳鼻咽喉科学連合)』の理事会と総会に出席するため,今週末(5月29日)にサンパウロに出発することにしています。今回の学会では,日本からもある程度の人が参加する予定だったようですが,新型(ブタ)インフルエンザの影響で,大学などから海外出張を規制されたりしているようで,予定をキャンセルした方も多いと聞いています。

 新型インフルエンザに対する日本政府の対応は,行き過ぎの感を拭えません。国民には冷静に対応するようにと発言している何処かの厚生労働大臣のほうがよほど冷静さを欠いているようにしかみえません。どの国のテレビニュースをみても,日本ほどマスクをしている国はないでしょう。世界の多くの国は陸続きですので,日本が取ったような行動は考えもつかないと思います。この対応をみていて,日本はやはり島国で,いまだに,いざとなれば鎖国をすればよいという観念を捨てきれないでいるのではないかと思ってしまいます。諸外国との行き来の多くが,航空機によって行われているにもかかわらず,『水際作戦』というような言葉が堂々とまかり通っているのもその裏付けかも知れません。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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