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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科82巻1号

2010年01月発行

雑誌目次

特集 急性感音難聴の取り扱い

1.急性感音難聴の鑑別診断

著者: 小川郁

ページ範囲:P.19 - P.24

Ⅰ.はじめに

 感音難聴は聴覚のセンサーとして機能する内耳(蝸牛)の有毛細胞から大脳聴覚野に至る聴覚伝導路の障害によって生じるが,日常臨床で遭遇するものとしては蝸牛または蝸牛神経の障害による感音難聴が多い。これら感音難聴の多くではいまだ有効な治療法は確立されていないが,発症早期の突発性難聴をはじめとする急性感音難聴は完治しうる感音難聴であり,耳鼻咽喉科の日常臨床の最前線ではその鑑別診断はきわめて重要である1~5)。急性感音難聴とはある日突然,または2~3日の間に生じる感音難聴の総称であり,その代表的疾患としては突発性難聴,メニエール病や急性低音障害型感音難聴,急性音響性難聴,外リンパ瘻などがある。これらの疾患では特に早期診断,治療が重要であるが,内耳病態の確定的な診断法がない現状では,急性感音難聴の鑑別診断は必ずしも容易ではなく,これらの疾患を常に念頭におき,おのおのの臨床像を十分に理解したうえで,その鑑別診断に臨む必要がある。特に最近では急性感音難聴の見逃しなどの初期診断に関する医療訴訟も生じており,その鑑別診断についてのインフォームド・コンセントにも十分な配慮が必要である。

2.急性感音難聴の診断と治療―幼児から小児

著者: 守本倫子

ページ範囲:P.25 - P.32

Ⅰ.はじめに

 小児急性感音難聴の診断で最も難しいことは,その難聴が急性なのか陳旧性か,それとも先天性にあったものなのか,はっきりしないことである。児がはっきり症状を言えるようになるのはおよそ5歳頃からであろう。しかし,その頃から心因性難聴を呈することもあるため,児の訴えた症状が信頼できるとは限らない。治療が必要な難聴を見逃さないことが大切である。

3.急性感音難聴の治療―高齢者のバリアント

著者: 暁清文 ,   勢井洋史

ページ範囲:P.33 - P.39

Ⅰ.はじめに

 急速な高齢化社会を迎え,高齢者の急性感音難聴を治療する機会が増えてきている。一般に高齢者は身体機能が低下しており予備能や再生力も弱いため,循環器や呼吸器などの慢性疾患や精神神経疾患を罹患していることが多い。そのため,①すでに多種類の薬剤投与を受けている,②生理機能低下のため薬剤の代謝・排泄が悪くover-doseとなりやすい,③免疫力・再生力低下のため薬効が得にくい,④服薬指導の内容を理解していない,などさまざまな問題に遭遇し,治療に難渋するケースが多々ある。高齢者の急性感音難聴の診療に当たっては,各疾患における加齢の影響や診断上の特徴,治療の要点を耳鼻咽喉科専門医として理解するだけでなく,老年医学領域を含めた医学全般の総合的な知識が必要となる。

 本稿は高齢者に起こりやすい急性感音難聴の種類,その治療上の問題点,高齢患者のバリアントについてその概要を述べる。

4.めまいを伴う急性感音難聴の予後因子

著者: 森望

ページ範囲:P.41 - P.44

Ⅰ.はじめに

 めまいを伴う急性感音難聴には原因不明である突発性難聴以外に,原因が既知でめまいを伴う急性感音難聴をきたすものがあり,表1に示すような各種疾患が存在する。

 本稿ではめまいを伴う突発性難聴を中心にその予後因子について述べる。

5.音響曝露による急性感音難聴の新知見

著者: 原晃

ページ範囲:P.45 - P.52

Ⅰ.はじめに

 音響曝露による急性感音難聴すなわち急性音響障害については,近年フリーラジカルがその障害発生メカニズムに深く関与していることが明らかとなり,治療法も含めて新たな知見が見いだされている。本項では,フリーラジカルならびにその関連物質について,急性音響障害モデルを用いた基礎的実験からの知見について詳述する。

Current Article

化学放射線同時併用療法後の救済手術の現状と課題―有害事象への対応をいかに行うか

著者: 河本勝之 ,   北野博也

ページ範囲:P.9 - P.17

Ⅰ はじめに

 化学放射線同時併用療法(concurrent chemoradiotherapy:CCRT)の普及とともに,以前は根治手術を行っていたような症例でもCCRTを行う場合が増えている。その背景には,臓器温存を希望する患者側と,根治手術に伴う問題を回避したいという医療者側の態度があるように思われる。

 しかし,CCRT後の残存や再発の対応に苦労する例は多い1~3)。さらにCCRT後の救済手術は合併症を起こしやすく,臓器温存ができても機能障害が残存しやすいこともわかってきた1~4)

 特に最近はMendenhallら5)が提唱したplanned neck dissection(PND)の概念が発端となり,CCRT後に手術を行う例も増えてきている。なお,PNDとは,CCRTによって頭頸部癌の原発巣の根治を目指し,頸部転移についてはCCRTの治療効果にかかわらず頸部郭清術を施行する方法である。CCRT前に手術を予定することからPNDと呼ばれる。

 当科では進行癌の割合が高いことから,初診時に手術の困難な進行癌においては,初期治療としてCCRTを行い,原発を制御し,残存した頸部転移に対して救済手術としての頸部郭清術を行うという事例が増えている1,2)。ただし,CCRT後の手術は簡単なものではなく,術後のトラブルと有害事象に悩む症例も多く経験している。今回,このCCRT後の救済手術としての頸部郭清術の現状と対策,特に致死的となる術後早期の有害事象と,長期の有害事象となる嚥下障害の対策を中心に解説する。

シリーズ 知っておきたい生理・病態の基礎

1.嗅覚

著者: 三輪高喜

ページ範囲:P.61 - P.66

Ⅰ はじめに

 ニオイ受容のメカニズムは,案外,最近まで知られておらず,その端緒となったのは,1970年代から80年代にかけての生理学研究の成果であった。パッチクランプ法の導入により,嗅細胞内にアデニル酸シクラーゼが存在し,嗅細胞のチャンネルがcAMP依存性に開くことから,嗅覚受容体がG蛋白質共役型受容体ファミリーであることが示唆された1~4)。続いて90年代の大きな発見は,PCR法を用いた分子生物学的研究によりもたらされた。1991年のRichard AxelとLinda Buckによる嗅覚受容体をコードする遺伝子クローニングの成功である5)。したがって,大半の耳鼻咽喉科医はニオイ受容のメカニズムについて,大学の授業で習っていないことになる。その後,ドラマチックにニオイ受容の仕組みが解明されるに至り,AxelとBuckの両名は2004年ノーベル医学生理学賞を受賞することとなった。一方,嗅覚障害の臨床に関しては,まだまだ遅れをとっているが,基礎的な研究成果により,一部の病態の理解も可能となっている。本稿では,ニオイ受容のメカニズムについて概説するとともに,嗅覚障害の病態について臨床的観点から述べる。

原著

反復性鼻出血に対する内視鏡下蝶口蓋動脈結紮術施行例の検討

著者: 鈴木正宣 ,   大谷文雄 ,   松村道哉 ,   蠣崎文彦 ,   森田真也 ,   佐藤宏紀 ,   中丸裕爾 ,   古田康

ページ範囲:P.67 - P.72

Ⅰ はじめに

 鼻出血は,耳鼻咽喉科の日常診療においてしばしばみられる疾患の1つである。入院を要する鼻出血には,鼻内ガーゼによるパッキングやバルーン留置などの保存的療法が施行されるが,その止血率は約301)~502)%と報告されており,確実な止血方法とはいえない。また,これらは疼痛や不快感を伴う処置であり,患者は鼻出血に対して大きな不安,恐怖を抱くこととなる。

 反復性難治性の鼻出血に対して,従来より,経上顎洞顎動脈結紮術3)や血管内カテーテルを用いた動脈塞栓術4)が行われてきた。しかし,経上顎洞顎動脈結紮術は,術後の腫れや頰部のしびれなど歯齦切開による合併症が生じうる5)。また血管内カテーテルによる動脈塞栓術は限られた施設でしか施行できず,さらに脳梗塞や血管内膜損傷などの重篤な合併症をきたしうる5)

 近年,内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)の発展に伴い,内視鏡下に蝶口蓋動脈にアプローチする方法が多く報告されている。当院は,北海道で唯一ドクターヘリを有する救命救急センターを併設しており,鼻出血で受診する患者が多い。鼻出血を反復する症例においては,積極的に内視鏡下蝶口蓋動脈結紮術を施行してきた。今回,当科における内視鏡下蝶口蓋動脈結紮術の手技と成績を検討した。

鼻副鼻腔領域に発生した癌肉腫の1例

著者: 清水紘平 ,   西嶌大宣 ,   渡邉政之 ,   高野真吾 ,   富永邦彦 ,   中村達也 ,   三谷浩樹 ,   壁谷雅之

ページ範囲:P.73 - P.78

Ⅰ はじめに

 癌肉腫は,上皮性悪性腫瘍である癌腫と非上皮性悪性腫瘍である肉腫が同一腫瘍内に存在する病態を示す。婦人科領域や食道に比較的好発するとされる1)が鼻副鼻腔領域での発生は稀である。今回われわれは,鼻副鼻腔領域に発生した癌肉腫症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

咽頭痛を主訴に初診したメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患の1例

著者: 亀倉隆太 ,   坪田大 ,   松宮弘 ,   郷充 ,   新谷朋子 ,   氷見徹夫

ページ範囲:P.79 - P.83

Ⅰ はじめに

 メトトレキサート(methotrexate:MTX)は慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)の治療や抗腫瘍薬として広く使用されている薬剤である。1991年にMTX投与中のRA患者にリンパ腫が発生することが報告1)されて以来,同様の報告が散見され,近年MTX関連リンパ増殖性疾患(methotrexate-associated lymphoproliferative disorders:MTX-LPD)として注目されている。

 今回われわれは急性扁桃炎様の所見を認め発症したMTX-LPDの1例を経験したので報告する。

鏡下囁語

専門分野を極めるとは

著者: 市村恵一

ページ範囲:P.57 - P.59

Ⅰ.プロと医学教育

 先の(2009年)8月13日,作家の海老沢泰久氏が59歳の若さで十二指腸癌のため逝去された。直木賞作家だが,スポーツ関係の小説やノンフィクションの作品が多く,文章のうまさには定評があった。ある人は『品のいい文章をわかりやすく簡潔に書く』と表現している。その特質にパソコンメーカーのNECが目をつけた。パソコンの解説書は技術者が書くためか,初心者には不親切で,わかりにくいものということが当たり前のようになっていたが(経験の浅い余裕のない医者が患者さんに専門用語を駆使して話すのと同じことなのだろう),それではいけないと思ったのだろう。氏の手による『これならわかるパソコンが動く』が1997年にできあがり,初めて誰にもわかる解説書ができたと当時評判になったものだ。その著書の代表作に辻 静雄さんの半生を扱った『美味礼讃』がある。辻さんは辻調理師学校の実質的な創業者である。新聞記者をしていたのに,奥さんの実家の料亭を継ぐことになって,それ以来フランス料理にのめり込み,最後は職業病ともいうべき肝硬変になって60歳でこの世を去られたのだが,本書では彼の生き様を見事な文で綴っていて,決して短くはないのに読後感は爽快である。『美味礼讃』文庫版のあとがきで,向井 敏は,『海老沢があまりにも素晴らしい伝記を書いたために神様は辻 静雄を妬んで,早くに天国に召してしまった』という解説を書いたほどである。

 その辻さんにもフランス料理に関する著作以外にいくつかのエッセイがあるが,その一つに遺稿集である『料理に“究極”なし』がある。彼はその中で,『ちゃんとした生活ができるようになるには大学を出て,以後順風満帆で行っても最低20年かかる。が,その程度でうまいものは食えない。』といっている。薄給の大学教員できた私にはこの言葉は今もってこたえている。次いで『みんな上りつめていって,生存競争に勝った人だけしかうまいものは食えないのだ。うまいものを食いたいと思ったら絶対に出世しなければいけない。安くてうまいものなど本人の独りよがりで,本当は世の中に存在しない。』と続く。また,『料理の技術というのは作る人間の切磋琢磨だけでは絶対にブラッシュアップできないということ。客にうるさいのがいてこそ,ということは,金持ちがいてこそ料理の技術は飛躍するのだ。金持ちが“おまえのところより向こうのほうがいいぞ”というから,こんちくしょうと思ってよくなるのだ。つまり,料理は都市文明の産物だということである。』とも述べている。

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あとがき

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.90 - P.90

 以前にも編集後記で書いたことがありますが,本誌の編集委員が以前は4人,比較的最近は3人ですが,いずれにせよおのおのの編集委員が順番に編集後記を担当すると,最初に1月を担当した小生が変わらずに1月を担当することになり,現在まで続いています。でも,ようやくその役割が終わろうとしています。小生が本誌の編集を初めて担当したのが1989年5月ですので,編集委員として既に20年以上が経過しました。おそらく,最長期間を務めた編集委員ではないかと思います。本年3月末で大学を定年退職することになり,ようやく本誌の編集委員を卒業することができます。長い間,本当にありがとう存じました。

 小生が本誌編集委員に加えていただいてから,多くの優秀な編集委員の方々と仕事をすることができました。故古内一郎先生,佐々木好久先生,坂井眞先生,高橋廣臣先生,故小田 恂先生,それに最近までご一緒だった竹中 洋先生です。また,この間に本誌の編集を担当された医学書院の方々にも深く感謝しています。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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