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文献詳細

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科82巻11号

2010年10月発行

文献概要

特集 表在癌の新しい対応

4.中下咽頭表在癌の治療―上部消化管用内視鏡を用いて

著者: 佐藤靖夫1 大森泰2 川久保博文2

所属機関: 1川崎市立川崎病院耳鼻いんこう科 2川崎市立川崎病院外科

ページ範囲:P.770 - P.776

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Ⅰ.はじめに

 中下咽頭癌は喉頭癌と比較して自覚症状に乏しいため進行癌として発見されることが多く,リンパ節転移も高率に認められるため,これまで予後不良な癌とされてきた。一方,食道癌においては以前からヨード染色による早期診断が行われ,上部消化管用内視鏡(GIF)を用いた内視鏡的手術が行われてきた1,2)。さらに近年,GIFの飛躍的な高機能化,すわなち,拡大機能やNBI,ハイビジョン画質などの搭載によって,食道表在癌の発見がさらに容易となった。井上ら3)や有馬ら4)は,食道表在癌における上皮内の毛細血管異常に注目し,毛細血管の異型度を分類することによって癌の進展状況を示す『壁深達度』を予測しうることを報告し,井上分類,有馬分類として提唱している。そして,発見された食道表在癌は,これらの分類を用いた壁深達度予測によって,内視鏡的粘膜切除術(EMRC)や内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)などの内視鏡的手術の適応が判断されている。

 食道表在癌では壁深達度がM1~SM3まで細かく定義されている5)。中下咽頭の粘膜には粘膜筋板がないため食道表在癌の壁深達度をそのまま流用することはできないが,2008年の第2回表在癌研究会で,中下咽頭の表在癌については『癌腫が上皮下層までにとどまるもので,リンパ節転移の有無は問わないもの』との定義が提案された。

 大森ら6)は壁深達度を上皮内癌;EP,上皮下層に進展したもの;SEP,筋層や軟骨に浸潤したもの;MPと分類し,2000年2月に下咽頭表在癌のEMRCを施行して以来,EP・SEPの中下咽頭表在癌に対してGIFを用いた内視鏡治療を行ってきた。そして2010年2月までにわれわれは329病変(195例)の中下咽頭表在癌を経験し,そのうち234病変(151例)をGIFを用いた内視鏡手術で切除した。2004年に後述するELPSを開発した後は,広範囲の病変も短時間で一括切除をすることが可能になった7)。本稿では,ELPSを中心に当院で行っている内視鏡手術手技と治療成績を概説する。なお,本稿における中下咽頭表在癌の肉眼型は,食道表在癌の肉眼型分類に準じた。

参考文献

1)Inoue H, et al:A new simplified technique of endoscopic esophageal mucosal resection using a cap-fitted panendoscope(EMRC). Surg Endosc 6:264-265, 1992
2)幕内博康・他:食道表在癌に対するEndoscopic surgery.手術 46:603-609,1993
3)井上晴洋・他:食道M3・SM癌の最新の進歩―内視鏡診断の立場から.胃と腸 41:1374-1384,2006
4)有馬美和子・他:消化管癌の微小血管診断学とは.表在食道癌の微細血管像による深達度診断.消化器内視鏡 17:2076-2083,2005
5)日本食道学会(編):食道癌取扱い規約第10版補訂版.金原出版,東京,2008
6)大森 泰・他:中・下咽頭表在癌の内視鏡診断と治療.気食 53:167,2002
7)佐藤靖夫・他:下咽頭表在癌の手術治療―内視鏡的咽喉頭手術(ELPS)の経験.日耳鼻 109:581-586,2006
8)佐藤靖夫・他:中・下咽頭表在癌および咽喉頭表在癌における診断と治療―耳鼻咽喉科の立場から.消化器内視鏡 18:1407-1416,2006
9)佐藤靖夫・他:中・下咽頭表在癌に対する内視鏡的咽喉頭手術(ELPS).JOHNS 25:212-217,2009
10)川久保博文・他:中・下咽頭表在癌の長期予後.胃と腸 45:265-281,2010
11)川久保博文・他:中・下咽頭,下咽頭食道接合部表在癌に対する内視鏡治療.気食 61:146-152,2010
12)佐藤靖夫・他:耳鼻咽喉科領域の新しい診療機器―彎曲型咽喉頭直達鏡とELPS用の手術器材.JOHNS 26:891-896,2010
13)川久保博文・他:見落とさない中下咽頭観察法―コツと対策.消化器内視鏡 22:915-923,2010

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1316

印刷版ISSN:0914-3491

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